勇者に付き合いきれなくなったので、パーティーを抜けて魔王を倒したい。

シグマ

文字の大きさ
12 / 80
第1章 冒険者生活を始める。

#12 ギルド登録と商会の噂

しおりを挟む

 紆余曲折があったがビートと契約を結び一夜が明けた。
 ビートを奴隷扱いするつもりはなく普通に仲間として扱うつもりであるし、期を見て奴隷契約を解除するつもりでもいる。
 なので床で寝ると言うビートに対しても、そんな必要はないからとベッドを用意した。
 だがまだお互いに信じれない所もあるので、信用できるまでは一緒にいる利点を活かした相互関係でいようと話して、俺はビートに戦い方を教えて鍛え、逆にビートは影武者として表に立ってもらうことを了承して貰った。
 その第一歩として今日はまずビートをギルドに登録するために、早速ギルドへ向かい、ビートを連れてギルド[クリフォート]に入ると、直ぐにこちらに気付いたルインが駆け寄ってくる。

「あっ! アヴラムさんおはようございます! ギルド長が首を長くして待っていますので、奥の部屋に早く来て下さい!」

 ルインがそう言う理由は間違いなく[ゴブリンの生角]の登録のことだろう。
 最初は仮契約ということもあり変な目で見られていたが、今ではお出迎えをしてくれ態度の変わり様が極端だ。
 そしてルインは近くまでやってくると、ようやく後ろにいる存在に気付いた様で、目を輝かせて質問をしてきた。

「もしかして……その子が君の奴隷かな?」

「そうだ、俺の奴隷というか仲間だな。名前はビートだ。ほら挨拶しな」

「ビートです。ヨロしくおネガいします」

「きゃー! 何この子のこの喋り方、見た目も相まって可愛くないですか? こちらこそ宜しくだよー」

 ルインはビートの手を握って、ブンブンと握手をしている。
 獣人族は喋り方に特徴があって人によって独特のイントネーションがあるのだが、ルインはビートの喋り方と見た目をずいぶんと気に入ったようだ。
 聞けば兎人属を含む、犬や猫など、獣人属の中でも小型種と呼ばれる彼らは、その可愛さから愛玩シリーズとして、多くのファンがいるらしい。それゆえに人拐いに狙われやすいのだが……
 それはさておき、早速ビートをギルドに登録して貰う。

「お待たせしました。こちらがビート君のギルドカードです」

――――――――――――――――――――
名前:[ビート]
ランク:[G]
称号:[初心者冒険者]
所属:[クリフォート]
――――――――――――――――――――

――――――――――――――――――――
ステータス
状態:[異常無し]
能力:[体力C][魔力E]
スキル:[獣化EX][脱兎C][気配察知E][聞き耳E][二段飛びE][剣圧F][隠匿E]
――――――――――――――――――――

 いずれは冒険者ギルドの方に行くつもりなので、このギルドに所属まで登録するつもりはなかったのだが、新素材の登録でギルドが恩恵を受けるためには、そこまでしていなければいけないそうだ。
 それにしても[獣化EX]というユニークスキルがどんなものなのか気になるので、今度訓練を始めたら見せて貰おう。

「ありがとう、これで新素材の登録でうちに恩恵があるよ! 急いで登録してくるから、後はルイン君に任せた!」

 ギルド長のデミスは勢い良く俺とビートと握手をし、足早に部屋を出ていった。
 そんなにあの[ゴブリンの生角]が価値があるのか分からないが、あの喜びようだからきっと想像以上の価値があるのだろう。
 それにしてもあれだけ急ぐのであれば、昨日のうちに報告しに来て上げた方が良かったかもしれない。

「それでは依頼の残りの素材を買ってきたので、確認して貰えますか?」

 普通の[ゴブリンの角]をルインに渡す。
 ルインは『分かりました。直ぐに確認してもらいますね!』と直ぐに外に出ていったのだが、僅か数分で戻ってくる。
 ルインに『これはタダなので食べてください!』と出されたお菓子を食べる間もなかったぐらいだ。

「ちょっ! 早くないですか?」

「いえいえ、そんなことは無いですよ! アヴラムさんとビート君はこのギルドの客員扱いですからね。鑑定の順番を割り込ませて貰っただけですから気にしないで下さい。」

 誉めてくださいと言わんばかりに、[えっへん]というポーズをとっているが、サラッと他の冒険者から不平を訴えられそうなことを言われたのだから、どう考えても気になるだろう。

 ……まぁ、他の冒険者と仲良くするつもりはないから別にいいけど。

「それではこちらが依頼の報酬になります」

 ルインからゴブリンの角を納入した報酬を貰い、渡された袋はかなりの重量であるので銀貨が多いのかもしれない。
 依頼のランクはEで内容は簡単だった。それに[ゴブリンの角]を買う費用は、一本あたり銀貨2枚だ。
 単純に計算しても20本買う費用として銀貨40枚が経費として掛かるが、労力はそんなに掛かっていないので銀貨5枚ぐらいをプラスで貰えれば良いぐらいだろう。
 今回は実際にゴブリンを倒したが、ただ商会に行って買ってくれば良いだけなら、早ければ一時間と掛からずに済む。
 労力に対する報酬は銀貨5枚あれば十分で、多く見積もったとしても銀貨50枚だろう。
 それにしても金貨に換金してくれれば、枚数が金貨5枚とかなり少なくなるのに不親切なものだ。
 もしかしたら普通の冒険者が使うお金は銀貨で、銀貨払いが当たり前なのであれば文句も無いのだが、ギルドでお金を預かってくれるはずだから金貨も有るはずなのだがこれでは二度手間だ。
 ビートをギルドへ正式に登録したので、ビートの名義でお金を預かってくれるはずではあるが、後でお金を預けて換金してもらうにしても枚数を数えなければということで、おもむろに袋をひっくり返す。

 出てきたのは銀貨だけでなく金貨も大量に含まれていたので、ビートと共に目を見開き驚く。しかしビートの感想は俺とは違った。

「キンカイッパイ……おマエ、ワルいことでもしたのか?」

「いやいや、なんでそうなる! 普通に依頼を達成しただけだ! それとそろそろお前呼ばわりは止めない?」

「ならごシュジンサマ?」

「……ったく、極端なヤツだなー。アヴラムと呼び捨てで良いよ、オレもビートと呼ぶから」

「ワかった。でアヴラムはナンでこんなにキンカイッパイ?」

「そうだった。ちょっとルインさん? この額はおかしくないですか?」

 銀貨だけだと思っていたら、ざっと見ただけで金貨が大半で銀貨がちょっと混ざっている。合計すると40枚ぐらいだろうか。
 思っていたより枚数は少ないが、額は遥かに高い。

「いえこれが普通ですよ? 確かにお礼もしなければとは思っていましたが、これは本当に報酬だけです」

「いやでも、仕入値が一本で銀貨2枚だったんだぞ? ただ買い物してきただけでこんなに貰えるのは流石におかしいだろう?」

「な!? 1本、銀貨2枚? それは本当ですか!?」

「ええ、そのはずです」

「普通、一本買うのに銀貨だと最低10枚はいりますよ! 間違って払ったんじゃありませんか?」

 ここまで言われると流石に不安になり、自分の記憶を疑う。
 ……あれ? 俺が払った金額、違ったかな?

 懐に入っている残りのお金を確かめるも、[ゴブリンの角]を買うのに払ったのは銀貨20枚で間違いなかった。ということは商会に払った金額が間違ってたのか考える。
 ……いやいや、お金のプロである商会がそんなことをするはずがない。
 商人は銅貨1枚の損益でも嫌う人種で、知り合いに商人もいるので、どれほど商魂が逞しいのかを知っている。だからこそ銅貨1枚の重みを嫌というほど知っている彼らがそんか間違いを犯すはずがない。
 ……だがルインがそこまで言うのであれば一度は商会に行って確認するしかないな。

「やっぱりおマエワルいことした?」

「違う……はず」

 ビートが疑念の表情でこちらを見てくるので、早く誤解を解かないといけない。
 ……はぁ、なんでこんなことに。

 銀貨10枚はいるのなら2枚で済んでいるのは確かにおかしい話で半額どころか1/5だ。
 しかし記憶が正しければ、その価格を提示してきたのは向こうだ。
 それならば間違ってると普通は思わないだろう。
 だがビートの目線が痛いので、誤解を解く為に早く商会に行くことにする。

「スミマセン。ではちょっと商会に確認してくるので、デミスさんが戻ってきたら直ぐに戻ると伝えといて貰えますか?」

 今、デミスは新素材の登録に行っていて、その登録場所は聖都市にあるギルド本部だ。
 主要都市間は飛竜船で結ばれており、ここから飛竜船で行けば10分もかからない距離で、馬車で行っていても2時間ぐらいだろうか。
 でもあの焦り方だとそんなに時間をかけないだろうから、直ぐに行って帰って来るはずだ。

「分かりました。ところでゴブリンの角を購入した商会ってどこなんですか? もしウチのギルドと懇意にしているところなら、許してもらえるように私から頼んで見ますよ?」

「えっと確か[トロイメア商会]だったと思います」

「なっなっなっ。もう一度聞いていいですか?聞き間違えたと思うので」

 ガタッ! とルインさんが立ち上がったから何事かと思うが、取り敢えずもう一度教える。

「だから[トロイメア]商会で、珍しく名刺もくれたので間違いないです」

 商会で流行しているという名刺をルインに渡す。
 その商会の紋章である、盾と剣をあしらった六芒星のマークだけが書かれているので、誰の名刺だったかまでは思い出せないが、トロイメアであることの証明にはなるだろう。
 ちなみに名刺は昔に召喚された勇者が持ち込んだもので、なんでもその勇者は[ガクセイキギョウカ]なる職業をしていたらしく、『俺は頭を働かすのが専門だから』と、魔物を倒すことをしなかったらしいが。
 商人が懇切丁寧に教えてくれるから、商会の名前もしっかりと流石に印象に残っているので間違えるはずがない。

「いや、落ち着け私。アヴラムさんは非常識だと思っていたじゃない。うん。よし!」

 聞こえてないつもりなのだろうか? なにやらぶつぶつと身の覚えのない事を言われている。
 ……誰が非常識だよ。

「あの、聞こえてますよ!」

「ひゃい! すみません……で、本当にトロイメア商会で買ったのですか?」

「だから何回もそう言ってるじゃないですか。トロイメアだと何か不味いのですか?」

「いえ問題ないというか何というか……」

 何とも歯切れの悪い受け答えをされる。
 直接見てきた印象では別に普通の商会だった。
 確かにゴブリンの角を売ってくれなかった他の商会よりは大きいところだったが、知ってる商会よりは小さい商会という印象でしかない。

「トロイメア商会はこの国で二番目に大きな商会です……」

 どうやら認識がおかしかったみたいだ。
 まさかのトロイメア商会はこの国で2番目に大きな商会で、教会の私営軍隊である聖騎士団のように自分達の軍隊を持つほど、かなり力を持っている商会だそうだ。
 そしてそれならば知り合いがいる商会が1番大きな商会なのだろう。
 ……まぁ聖騎士団と懇意にしている商会という時点で、そこが一番大きな商会だと認識しておくべきだったかも知れない。

「それでどうするのですか? 本当に間違えてお金を払ってたら、殺されるかも知れませんよ?」

「いや、流石にそれは……あるんですか?」

「ええ。噂ですけど、[トロイメア商会]はお金に関しては血も涙もない商会として有名ですから。もし間違いだったとしても、向こうはそうは思っていないかもしれないですから……」

 ……うっ、そんな事を言われると行きたく無くなるじゃないか。
 しかし見た目はお金をもっていなさそうであるはずなのに、俺を騙すメリットは何なのであろうか?

 考えても分からないので、とりあえず逃げ出そうとしているビートの首根っこを捕まえてから[トロイメア]商会に行くことにした。
しおりを挟む
感想 77

あなたにおすすめの小説

戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件

さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。 数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、 今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、 わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。 彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。 それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。 今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。   「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」 「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」 「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」 「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」   命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!? 順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場―― ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。   これは―― 【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と 【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、 “甘くて逃げ場のない生活”の物語。   ――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。 ※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。

収納魔法を極めた魔術師ですが、勇者パーティを追放されました。ところで俺の追放理由って “どれ” ですか?

木塚麻弥
ファンタジー
収納魔法を活かして勇者パーティーの荷物持ちをしていたケイトはある日、パーティーを追放されてしまった。 追放される理由はよく分からなかった。 彼はパーティーを追放されても文句の言えない理由を無数に抱えていたからだ。 結局どれが本当の追放理由なのかはよく分からなかったが、勇者から追放すると強く言われたのでケイトはそれに従う。 しかし彼は、追放されてもなお仲間たちのことが好きだった。 たった四人で強大な魔王軍に立ち向かおうとするかつての仲間たち。 ケイトは彼らを失いたくなかった。 勇者たちとまた一緒に食事がしたかった。 しばらくひとりで悩んでいたケイトは気づいてしまう。 「追放されたってことは、俺の行動を制限する奴もいないってことだよな?」 これは収納魔法しか使えない魔術師が、仲間のために陰で奮闘する物語。

防御力を下げる魔法しか使えなかった俺は勇者パーティから追放されたけど俺の魔法に強制脱衣の追加効果が発現したので世界中で畏怖の対象になりました

かにくくり
ファンタジー
 魔法使いクサナギは国王の命により勇者パーティの一員として魔獣討伐の任務を続けていた。  しかし相手の防御力を下げる魔法しか使う事ができないクサナギは仲間達からお荷物扱いをされてパーティから追放されてしまう。  しかし勇者達は今までクサナギの魔法で魔物の防御力が下がっていたおかげで楽に戦えていたという事実に全く気付いていなかった。  勇者パーティが没落していく中、クサナギは追放された地で彼の本当の力を知る新たな仲間を加えて一大勢力を築いていく。  そして防御力を下げるだけだったクサナギの魔法はいつしか次のステップに進化していた。  相手の身に着けている物を強制的に剥ぎ取るという究極の魔法を習得したクサナギの前に立ち向かえる者は誰ひとりいなかった。 ※小説家になろうにも掲載しています。

友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。

石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。 だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった 何故なら、彼は『転生者』だから… 今度は違う切り口からのアプローチ。 追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。 こうご期待。

勇者の隣に住んでいただけの村人の話。

カモミール
ファンタジー
とある村に住んでいた英雄にあこがれて勇者を目指すレオという少年がいた。 だが、勇者に選ばれたのはレオの幼馴染である少女ソフィだった。 その事実にレオは打ちのめされ、自堕落な生活を送ることになる。 だがそんなある日、勇者となったソフィが死んだという知らせが届き…? 才能のない村びとである少年が、幼馴染で、好きな人でもあった勇者の少女を救うために勇気を出す物語。

ゲームの悪役パパに転生したけど、勇者になる息子が親離れしないので完全に詰んでる

街風
ファンタジー
「お前を追放する!」 ゲームの悪役貴族に転生したルドルフは、シナリオ通りに息子のハイネ(後に世界を救う勇者)を追放した。 しかし、前世では子煩悩な父親だったルドルフのこれまでの人生は、ゲームのシナリオに大きく影響を与えていた。旅にでるはずだった勇者は旅に出ず、悪人になる人は善人になっていた。勇者でもないただの中年ルドルフは魔人から世界を救えるのか。

最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。

みこみこP
ファンタジー
高校2年の夏。 高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。 地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。 しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。

僕の秘密を知った自称勇者が聖剣を寄越せと言ってきたので渡してみた

黒木メイ
ファンタジー
世界に一人しかいないと言われている『勇者』。 その『勇者』は今、ワグナー王国にいるらしい。 曖昧なのには理由があった。 『勇者』だと思わしき少年、レンが頑なに「僕は勇者じゃない」と言っているからだ。 どんなに周りが勇者だと持て囃してもレンは認めようとしない。 ※小説家になろうにも随時転載中。 レンはただ、ある目的のついでに人々を助けただけだと言う。 それでも皆はレンが勇者だと思っていた。 突如日本という国から彼らが転移してくるまでは。 はたして、レンは本当に勇者ではないのか……。 ざまぁあり・友情あり・謎ありな作品です。 ※小説家になろう、カクヨム、ネオページにも掲載。

処理中です...