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第2章 エルフの秘宝
ギルドの判断
しおりを挟むやや強引になってしまったがエルフを領主の元から無事に救出することが出来た。
しかしその場にとどまっていると危険なので、トロイメア商会のマルク支店に移動した。
■■■
アヴラムに引っ付いて離れないエルフなのだが、まだ名前すら分からないので色々と質問をする。
「色々と聞きていことがあるんだけど、そろそろ離れてくれない?」
首を横に振り、拒否される。
「……ならそのままでいいんだけど、まずは名前を教えてくれるかな?」
「……私はユキノ」
「そうかユキノというんだね。俺はアヴラムでこっちはビートだよ。それで君はエルフで間違いないんだよね?」
エルフの特徴的である尖った耳をしているが、丸顔でジト目をしているなどエルフのイメージとは違っていて普通の人の子供に近いので確認をする。
「そう私はエルフ。だけどお爺ちゃんは人間だった」
「そうか、だから見た目が人に近いんだね。因みに歳はいくつなの?」
「恥ずかしいから言いたくないけど言わなきゃ駄目?」
「どうしても嫌なら別に言わなくてもいいけど、年上なら子供扱いしたら失礼かもしれないから聞いておきたいかな」
「……88」
「えっ? はちじゅ……」
エルフは長命であり、見た目は子供であっても人間の尺度で年齢を計れないという話なので確認をする。
「えっと、それは人間でいう所の何歳ぐらい?」
「だいたいエルフの寿命が人間の10倍だけど、私は四分の一は人間の血が混ざってるから10歳ぐらいかな?」
「そんなものなんだ……」
人間の年齢に換算すると年下になるのだが流石に遥かに年上なので応対に困る。
だがフォッシルによるとエルフの精神年齢は人間換算の年齢に近いみたいで、見た目通りらしいので子供として接して問題ないのだろう。
「話したくなかったら言わなくてもいいんだけど、どうしてユキノは捕まっていたのかな?」
人間との関わり合いを絶っているエルフがおいそれと人に近づくとは思えない。
「大婆様からお告げがあって、精霊に導かれし勇者を探すように言われて村を出てきたんだけど……魔物に襲われて……」
絞り出すようにゆっくりと話をしてくれたが、大婆様から『エルフの里に危機が迫っている。それを救ってくれる人間がいるから見つけてきてほしい』と告げられて里を出てきたそうだ。
なぜユキノが選ばれたのか聞くと血筋が関係していて、お爺さんはただの人ではなく過去に召喚された人間だったそうだ。なので強い運命の導きにより最善の出逢いが出来るからだそうだ。
そして村を出たは良いが右も左も分からず、魔物に襲われた所を冒険者らしき人に助けられ領主の所に保護されたのだが、ただの子供ではなくエルフだと気づくと下卑た笑みを浮かべ地下に閉じ込められてしまったそうだ。
「大変だったんだね……。でも俺が君を聖都市まで連れていってあげるよ」
聖都市に近づくのは嫌でも、困ってる女の子を助けない訳にはいかない。早く[エルフの涙]について調べたい所だが取り敢えずは聞かずに保留する。
「いやそれはいい。もう見つけたから」
「えっ? それはどういう……」
話の続きが気になるところなのだが、慌てた従業員が部屋に駆け込んでくる。
「アヴラムさん!」
遂にモルゴスが追いかけてきたみたいなので、まだユキノに話を聞きたいのだが対応しないわけにはいかないので向かうことにする。
「分かった、直ぐに行きます」
■■■
ユキノは来なくても良いと言ったのだが付いてくると言うので一緒に外に向かうと、柄の悪い連中が騒いでいる。
営業妨害も甚だしく、商会に迷惑を掛けてしまっているので早く解決しなくてはいけない。
「「おい! 出てこいや!」」
「分かったからもう少し静かにしてくれ」
アヴラム達が姿を現すと、取り巻きの後ろからモルゴスが姿を表す。
「ダイナ……。てめぇ姿が見えないと思ったらそういうことか。全くこれだから獣人は信用なら無いんだ。ワシに楯突いてどうなるか分かっているんだろうな!」
「俺は……でも後悔はじてない」
一触即発の雰囲気なのでモブレインが間にはいる。
「彼は既に我々の商会の一員ですから、手を出すということは我々と敵対すると考えていただきたい」
「うぐっ……」
個人的な恨みは強いが、領主としてこの町に溶け込んでいる商会と敵対することでの影響を考えて言葉に詰まったようだ。
「モルゴスさん、あんなやつは放っておいてエルフを!」
「ああそうだったな。おいそこのお前! 前に出てこい!」
周りが自分の事を見てくるので、アヴラムが前に出る。
「ああ、俺か」
ついつい他人事のように様子を見守っていたので気付くのが遅れた。
ユキノに後ろへ隠れているかと、聞くもここが一番安全だからと言って離れないので仕方なく一緒に前に出る。
「てめぇ、さっさとそいつを返しやがれ!」
流石に公衆の面前でエルフという言葉を使わないようだが、ここまで騒ぎになっておいて本当にバレないと思っているのだろうか。
「そこの貴方達、止めなさい!」
騒ぎを聞き付けたこの町のギルド職員そしてギルド長までもが駆け付けてきたようだ。もちろん商会に向かう前に先に連絡を入れて、そういう手筈を整えて貰っていたわけだが。
「おおこれはこれはギルドの皆さん。聞いて下さい、こいつらがワシが保護していた亜人の子を奪い取ったのです」
モルゴスはこの町の領主なので、この町のギルドにも顔が利くのだろう。さも当然のように味方されるものとしてギルド職員に近づいていく。
「話はあらかた伺っておりますが、双方から今一度説明をしていただけますか?」
ということで両方からの聞き取りを行われた。
■■■
ギルドからの判断が下されると、モルゴスが叫び声をあげる。
「そんなバカな話があるか! ワシが保護していたのだぞ!」
「これが我々の判断です。ギルド本部にも事前に確認を行っていますので決定が覆ることはありません」
「エルフは現在の法が成立する前から存在を確認されていませんので、保護対象外の規定にも無いのです。そして法の適応外の対象の扱いに関しては我々ギルドの判断に任されています」
「ならその判断基準はなんだ! ワシが先にそいつを保護していたんだから、そいつをどう扱うかはワシの権利だろう!」
「我々はエルフ本人の意志を尊重します。もし貴方の元に戻りたいと彼女が望むのであれば止めはしません。ですが結果は火を見るより明らかでしょう?」
「うぐぐ……」
「それに本来であれば真っ先に報告しなければいけない案件なのにそれを隠蔽し、さらにはエルフを捉えた経緯に関しても色々と報告が上がっていますからそちらに関してもお聞きしてよろしいですか?」
「そ、それは……はい」
モルゴスはギルド職員によって連行されていった。
後に聞いた話では、確たる証拠が有るわけではないので不問ということで落ち着いたようだが信用を失い失脚したそうだ。
モルゴスが連れていかれた後にこの町のギルド長が近づいてきて、更に説明をしてくれる。
本来であれば問題視されそうなアヴラム達の行動だが、ギルドから[エルフの涙]を確保する依頼が出ている以上、アヴラム達の行動をある程度容認する意向があるそうだ。
そして今回の事に関しては、ある程度ギルドで情報を手に入れていたがギルドとして直接動くことが出来ない中で、アヴラム達がエルフを解放してくれたことは渡りに船だったそうだ。
しかしこの一連の事が全て偶然に起こったとは思えない。ギルド本部の意向が働いていると考えるのが自然だ。
(ギルド本部は本当に味方してくれていると考えて良いのかな……)
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