51 / 80
第2章 エルフの秘宝
エルフの試練
しおりを挟むレジーナの計らいのもと屋敷で一夜を過ごし翌日にエルフの試練を受けることになった。試練を受けるための手続きは前日にレジーナが済ませてくれたそうだ。
■■■
アヴラム、ビート、ユキノの3人はエルフの里の外れから試練の森に続く道があるので、そこにやって来ている。
「なぁユキノ、本当に付いてくるんだな?」
「うん」
「危険なこともあるだろうし、決して楽な生活が出来るとは思えない。今ならまだやめることが出来るよ」
アヴラムに付いていくということは人間と共に暮らすということだ。そしてそれは人の街でだ。
人からの偏見や忌避の目を向けられるかもしれないし、エルフの里で暮らす未来の方が確実に穏やかな生活を送れるだろう。
「大丈夫、私は何があっても負けない。それにアヴラムが守ってくれるでしょ?」
「……分かった、ユキノが望むなら俺も全力で君を守るよ。だからこれ以上は聞かない。ビートも大丈夫だよな?」
「うん、オレはモンダイはナい。アヴラムにツいていく」
「分かった、なら行くぞ」
それぞれの意思を確認出来たのでエルフの試練に臨むために森に入ろうとするのだが、その前に試験を監督するのであろうエルフに話しかけられる。
「お前たちが今日特別にこの試験を受けたいという者達か。レジーナ様の頼みだから認められたが、本来は試練を受ける前に神官と共に訓練を行わなければいけない。だが君達はその訓練を受けていない。門までたどり着けるとも思わないが、何があっても己を信じ、己の弱さも全て受け入れることだ」
「……そうですか、御忠告有り難うございます」
「あとは武器は全て置いていくように。森に有るものは何を使っても良いが、持ち込んだモノを使うのは駄目だからな」
武器の持ち込みは駄目だということで、持ち物全てを預ける。
「分かりました、それでは行ってきます」
こうして、エルフの試練が始まった。
■■■
試練の内容は確かに一筋縄にはいかないものだった。
最初に乗り越えなければいけない試練は複雑な地形で、木々の上を渡るなどしなければ乗り越えることが出来ない。自然を熟知したエルフであれば出来て当然ということなのだろう。
ビートは軽い身のこなしで問題ないがユキノは流石に遅れる事も多かった。それでも自力で突破したいということで何とか険しい行程を乗り越えた。
次に乗り越えなければいけない試練は、用意されていた弓矢を用いての魔物との戦いだった。
通り道に魔物が跋扈しておりどのように突破しようかと考えていると、近くに弓と矢が用意されていた。素手で無理に突破することも出来なくは無かったが、ここは試験なので素直に弓で戦った。
慣れない弓での戦いなのでアヴラムとビートは当てることも儘ならなかったが、ここはユキノが活躍した。幼い頃から狩りを行っているらしくレジーナに鍛えられているらしい。
アヴラムは遠くからでは矢を放っても当たらないので近付いて撃つことにしたのだが、これでは矢を使う意味がなく、やはり自分には剣が合ってると再認識した。
そうして幾つかの試練を乗り越えてたどり着いた先には、朱色に塗られた木で作られた小さな門のようなものがあった。
「ここを通れば神殿にたどり着けるのかな?」
「たぶんそう。もうそんなに遠くないはず」
「良し行こう」
門をくぐると直ぐに辺りが白い霧で包まれて回りを確認することすら出来なくなり、3人は離ればなれになってしまった。
■■■
「ビート! ユキノ!」
名前を呼ぶも返事が帰ってくることはない。
こんな短時間で声が届かないぐらいの距離ではぐれたとは考えられないので、ここは何か特別な仕掛けがしてあったのかもしれない。
魔物が出てくる気配は無く危険性は無いとは思うのだが、立ち止まっていても仕方がないのでとりあえずは前に進むことにした。
しばらくすると気配は全くしないのだが、突如話しかけられた。
「人の子よ、君は何のためにここにいる?」
回りを見渡すもどこを見ても真っ白で見つけることは出来ない。
「誰だ?」
「……」
こちらからの質問には答えてくれないのか返答が無い。黙っていても仕方がないので質問に答えていくことにする。
「何のと言われると、試練を乗り越えてエルフに認めて貰う為かな」
「なぜエルフに認めて貰う必要があると思うのだい? 君は人でエルフからの信用など必要無いのではないかな?」
どう考えても試練の一部で、誤魔化すことは得策では無さそうなので正直に答える。
「それは……エルフに認めて貰わなければ、エルフの涙を手に入れられない。それに助けを求められれば手を貸したい。でも貴方の言う通り俺は人だから、信用が必要なんです」
「君の欲望の為にエルフに取り入り、偽善をかざすのかな?」
「確かに自分の為でもあるが偽善じゃない! もうユキノは俺の仲間だ。その仲間が困っているんだから手を貸すのは当然でしょう?」
「本当にエルフが助けを必要としているのかな? 里に入ってからのエルフ達の目を見ただろう、あれが助けを求めるように見えるのかな? それに君が選ばれた人間だなんてどうやって証明するのだ?」
「それは確かに証明は出来ないし違うのかも知れない。それでも俺はユキノの言葉を信じるし手を貸す。それが間違いだというなら、それはその時に考えるさ。やらずに後悔するのはもう懲り懲りなんでね」
「ならなんで足手まといを仲間にする必要がある? 君一人で十分じゃないのか?」
「それはユキノの事か? 確かにそうかもしれないけど、それはエルフの問題でユキノの問題だからだ。本人が望むのであれば助けたい」
「それこそ偽善ではないのかな? 本人が望むからといって信じた結果として勇者はどうなった?」
「勇者は……あれは確かに失敗だったかもしれない。でもだからと言ってビートとユキノを信じない理由にはならない!」
「君が信じていても仲間に裏切られたというのに、それでもまだ信じるというのかい?」
「その時はその時さ。確かに裏切られて腹立たしさが無いわけでは無いけど、そこで人生が終わるわけじゃない。間違いはあるかもしれないけど、自分の気持ちを信じれないなら誰も信じれないでしょう?」
「そうか……君は本当に真っ直ぐだね。裏表が無くて素直な心をしている。だからこそ精霊にすかれるんだろうけどね」
「貴方は一体?」
認められたからか、こんどは質問に答えてくれる。
「私は私であり、今は君でもある。少し心の中を覗かせて貰ったが君は問題ないだろう。でも獣人の子は……」
「ビートがどうかしたんですか!?」
「彼には深い心の傷がある。その憎しみという闇に囚われている。彼はまだここに来るべきでは無かった」
「それはビートは大丈夫なんですか?」
「今は気を失っているが、じきにエルフが助けに来てくれるから大丈夫だ。そして君はエルフの加護を受けるに値する。だから先に進みなさい」
「……分かりました」
まだ気になることがあるので話を聞きたい思いもあるが、ビートの状態の方が気になるので足早に進む。
「君は君の信じる道を進めば良い。たとえ間違いだったとしても皆が助けてくれるさ君は……」
最後に何か声を掛けられたので振り向くも声は聞こえず、辺りの霧が晴れていった。
1
あなたにおすすめの小説
戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件
さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。
数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、
今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、
わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。
彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。
それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。
今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。
「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」
「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」
「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」
「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」
命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!?
順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場――
ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。
これは――
【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と
【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、
“甘くて逃げ場のない生活”の物語。
――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。
※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。
友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。
石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。
だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった
何故なら、彼は『転生者』だから…
今度は違う切り口からのアプローチ。
追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。
こうご期待。
防御力を下げる魔法しか使えなかった俺は勇者パーティから追放されたけど俺の魔法に強制脱衣の追加効果が発現したので世界中で畏怖の対象になりました
かにくくり
ファンタジー
魔法使いクサナギは国王の命により勇者パーティの一員として魔獣討伐の任務を続けていた。
しかし相手の防御力を下げる魔法しか使う事ができないクサナギは仲間達からお荷物扱いをされてパーティから追放されてしまう。
しかし勇者達は今までクサナギの魔法で魔物の防御力が下がっていたおかげで楽に戦えていたという事実に全く気付いていなかった。
勇者パーティが没落していく中、クサナギは追放された地で彼の本当の力を知る新たな仲間を加えて一大勢力を築いていく。
そして防御力を下げるだけだったクサナギの魔法はいつしか次のステップに進化していた。
相手の身に着けている物を強制的に剥ぎ取るという究極の魔法を習得したクサナギの前に立ち向かえる者は誰ひとりいなかった。
※小説家になろうにも掲載しています。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
収納魔法を極めた魔術師ですが、勇者パーティを追放されました。ところで俺の追放理由って “どれ” ですか?
木塚麻弥
ファンタジー
収納魔法を活かして勇者パーティーの荷物持ちをしていたケイトはある日、パーティーを追放されてしまった。
追放される理由はよく分からなかった。
彼はパーティーを追放されても文句の言えない理由を無数に抱えていたからだ。
結局どれが本当の追放理由なのかはよく分からなかったが、勇者から追放すると強く言われたのでケイトはそれに従う。
しかし彼は、追放されてもなお仲間たちのことが好きだった。
たった四人で強大な魔王軍に立ち向かおうとするかつての仲間たち。
ケイトは彼らを失いたくなかった。
勇者たちとまた一緒に食事がしたかった。
しばらくひとりで悩んでいたケイトは気づいてしまう。
「追放されたってことは、俺の行動を制限する奴もいないってことだよな?」
これは収納魔法しか使えない魔術師が、仲間のために陰で奮闘する物語。
勇者の隣に住んでいただけの村人の話。
カモミール
ファンタジー
とある村に住んでいた英雄にあこがれて勇者を目指すレオという少年がいた。
だが、勇者に選ばれたのはレオの幼馴染である少女ソフィだった。
その事実にレオは打ちのめされ、自堕落な生活を送ることになる。
だがそんなある日、勇者となったソフィが死んだという知らせが届き…?
才能のない村びとである少年が、幼馴染で、好きな人でもあった勇者の少女を救うために勇気を出す物語。
最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。
みこみこP
ファンタジー
高校2年の夏。
高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。
地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。
しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。
ゲームの悪役パパに転生したけど、勇者になる息子が親離れしないので完全に詰んでる
街風
ファンタジー
「お前を追放する!」
ゲームの悪役貴族に転生したルドルフは、シナリオ通りに息子のハイネ(後に世界を救う勇者)を追放した。
しかし、前世では子煩悩な父親だったルドルフのこれまでの人生は、ゲームのシナリオに大きく影響を与えていた。旅にでるはずだった勇者は旅に出ず、悪人になる人は善人になっていた。勇者でもないただの中年ルドルフは魔人から世界を救えるのか。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる