勇者に付き合いきれなくなったので、パーティーを抜けて魔王を倒したい。

シグマ

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第2章 エルフの秘宝

エルフの試練

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 レジーナの計らいのもと屋敷で一夜を過ごし翌日にエルフの試練を受けることになった。試練を受けるための手続きは前日にレジーナが済ませてくれたそうだ。

■■■

 アヴラム、ビート、ユキノの3人はエルフの里の外れから試練の森に続く道があるので、そこにやって来ている。

「なぁユキノ、本当に付いてくるんだな?」

「うん」

「危険なこともあるだろうし、決して楽な生活が出来るとは思えない。今ならまだやめることが出来るよ」

 アヴラムに付いていくということは人間と共に暮らすということだ。そしてそれは人の街でだ。
 人からの偏見や忌避の目を向けられるかもしれないし、エルフの里で暮らす未来の方が確実に穏やかな生活を送れるだろう。

「大丈夫、私は何があっても負けない。それにアヴラムが守ってくれるでしょ?」

「……分かった、ユキノが望むなら俺も全力で君を守るよ。だからこれ以上は聞かない。ビートも大丈夫だよな?」

「うん、オレはモンダイはナい。アヴラムにツいていく」

「分かった、なら行くぞ」

 それぞれの意思を確認出来たのでエルフの試練に臨むために森に入ろうとするのだが、その前に試験を監督するのであろうエルフに話しかけられる。

「お前たちが今日特別にこの試験を受けたいという者達か。レジーナ様の頼みだから認められたが、本来は試練を受ける前に神官と共に訓練を行わなければいけない。だが君達はその訓練を受けていない。門までたどり着けるとも思わないが、何があっても己を信じ、己の弱さも全て受け入れることだ」

「……そうですか、御忠告有り難うございます」

「あとは武器は全て置いていくように。森に有るものは何を使っても良いが、持ち込んだモノを使うのは駄目だからな」

 武器の持ち込みは駄目だということで、持ち物全てを預ける。

「分かりました、それでは行ってきます」

 こうして、エルフの試練が始まった。

■■■

 試練の内容は確かに一筋縄にはいかないものだった。

 最初に乗り越えなければいけない試練は複雑な地形で、木々の上を渡るなどしなければ乗り越えることが出来ない。自然を熟知したエルフであれば出来て当然ということなのだろう。
 ビートは軽い身のこなしで問題ないがユキノは流石に遅れる事も多かった。それでも自力で突破したいということで何とか険しい行程を乗り越えた。

 次に乗り越えなければいけない試練は、用意されていた弓矢を用いての魔物との戦いだった。
 通り道に魔物が跋扈しておりどのように突破しようかと考えていると、近くに弓と矢が用意されていた。素手で無理に突破することも出来なくは無かったが、ここは試験なので素直に弓で戦った。
 慣れない弓での戦いなのでアヴラムとビートは当てることも儘ならなかったが、ここはユキノが活躍した。幼い頃から狩りを行っているらしくレジーナに鍛えられているらしい。
 アヴラムは遠くからでは矢を放っても当たらないので近付いて撃つことにしたのだが、これでは矢を使う意味がなく、やはり自分には剣が合ってると再認識した。

 そうして幾つかの試練を乗り越えてたどり着いた先には、朱色に塗られた木で作られた小さな門のようなものがあった。

「ここを通れば神殿にたどり着けるのかな?」

「たぶんそう。もうそんなに遠くないはず」

「良し行こう」

 門をくぐると直ぐに辺りが白い霧で包まれて回りを確認することすら出来なくなり、3人は離ればなれになってしまった。

■■■

「ビート! ユキノ!」

 名前を呼ぶも返事が帰ってくることはない。
 こんな短時間で声が届かないぐらいの距離ではぐれたとは考えられないので、ここは何か特別な仕掛けがしてあったのかもしれない。

 魔物が出てくる気配は無く危険性は無いとは思うのだが、立ち止まっていても仕方がないのでとりあえずは前に進むことにした。
 しばらくすると気配は全くしないのだが、突如話しかけられた。

「人の子よ、君は何のためにここにいる?」

 回りを見渡すもどこを見ても真っ白で見つけることは出来ない。

「誰だ?」

「……」

 こちらからの質問には答えてくれないのか返答が無い。黙っていても仕方がないので質問に答えていくことにする。

「何のと言われると、試練を乗り越えてエルフに認めて貰う為かな」

「なぜエルフに認めて貰う必要があると思うのだい? 君は人でエルフからの信用など必要無いのではないかな?」

 どう考えても試練の一部で、誤魔化すことは得策では無さそうなので正直に答える。

「それは……エルフに認めて貰わなければ、エルフの涙を手に入れられない。それに助けを求められれば手を貸したい。でも貴方の言う通り俺は人だから、信用が必要なんです」

「君の欲望の為にエルフに取り入り、偽善をかざすのかな?」

「確かに自分の為でもあるが偽善じゃない! もうユキノは俺の仲間だ。その仲間が困っているんだから手を貸すのは当然でしょう?」

「本当にエルフが助けを必要としているのかな? 里に入ってからのエルフ達の目を見ただろう、あれが助けを求めるように見えるのかな? それに君が選ばれた人間だなんてどうやって証明するのだ?」

「それは確かに証明は出来ないし違うのかも知れない。それでも俺はユキノの言葉を信じるし手を貸す。それが間違いだというなら、それはその時に考えるさ。やらずに後悔するのはもう懲り懲りなんでね」

「ならなんで足手まといを仲間にする必要がある? 君一人で十分じゃないのか?」

「それはユキノの事か? 確かにそうかもしれないけど、それはエルフの問題でユキノの問題だからだ。本人が望むのであれば助けたい」

「それこそ偽善ではないのかな? 本人が望むからといって信じた結果として勇者はどうなった?」

「勇者は……あれは確かに失敗だったかもしれない。でもだからと言ってビートとユキノを信じない理由にはならない!」

「君が信じていても仲間に裏切られたというのに、それでもまだ信じるというのかい?」

「その時はその時さ。確かに裏切られて腹立たしさが無いわけでは無いけど、そこで人生が終わるわけじゃない。間違いはあるかもしれないけど、自分の気持ちを信じれないなら誰も信じれないでしょう?」

「そうか……君は本当に真っ直ぐだね。裏表が無くて素直な心をしている。だからこそ精霊にすかれるんだろうけどね」

「貴方は一体?」

 認められたからか、こんどは質問に答えてくれる。

「私は私であり、今は君でもある。少し心の中を覗かせて貰ったが君は問題ないだろう。でも獣人の子は……」

「ビートがどうかしたんですか!?」

「彼には深い心の傷がある。その憎しみという闇に囚われている。彼はまだここに来るべきでは無かった」

「それはビートは大丈夫なんですか?」

「今は気を失っているが、じきにエルフが助けに来てくれるから大丈夫だ。そして君はエルフの加護を受けるに値する。だから先に進みなさい」

「……分かりました」

 まだ気になることがあるので話を聞きたい思いもあるが、ビートの状態の方が気になるので足早に進む。

「君は君の信じる道を進めば良い。たとえ間違いだったとしても皆が助けてくれるさ君は……」

 最後に何か声を掛けられたので振り向くも声は聞こえず、辺りの霧が晴れていった。
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