勇者に付き合いきれなくなったので、パーティーを抜けて魔王を倒したい。

シグマ

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第3章 龍人族

ヴラド城 その1

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 国王の宣言によって、ユウト率いる勇者一行と子供騎士団のロプトと共にネームドを討伐することになったアヴラムとイヴリース。
 ビート、ユキノそしてフルグルにその旨を伝えると二人は待っていてくれる事になったが、フルグルは付いてくると聞かなかったので、フルグルを含めた三人でネームド討伐に向かう事になった。

 ラーカス商会のハヤトの協力を得て装備を揃えた三人は聖騎士団の本部に向かう。そこには既に出立の準備を揃えた、ユウト達とロプトそして神官が待っていた。

 ネームド討伐に向かうメンバーが揃ったので出立することになったが、前回の出立式のように華やかさはどこにもなく、聖騎士団の本部の通用門から誰にも見送られることなく出発する。
 前回の失敗があったので万が一、今回も失敗に終わった時のことを考えてということもあるが、注目を浴びたくないという意見に配慮してくれたのだ。
 ハヤトはどこか不服そうではあったが、前回に堂々と宣言したあげくこうして再び同じ相手を討伐に向かっているという負い目からか素直に受け入れてくれた。

 今回のネームド討伐で標的にするのは、ヴラド城にいる[ヴァンパイア・スカージレット]だ。前回の雪辱戦ということも有るが、一度攻略を進めた場所であるので魔物の絶対数が少なくなっており、また各拠点とすべき場所が分かっているので攻略を進めやすいからという理由からであり、今回参加した人数を考えると他に選択肢は取れない。
 しかし前回の討伐戦と今回も同様にネームドが複数いることも考えられる。

 前回の戦いの話を聞く限り、以前森で出会ったネームドと同一の者である可能性が高い。
 かつて突如として目の前に現れた謎の魔物は[レイ]と言うらしいが、名前と人型をしていることしか分からず、結局何の魔物かまでは特定する事が出来なかったそうだ。
 そして古龍はその姿を人型に変えることが出来るらしく、老紳士の姿をしていたそうで、その力の一端しか垣間見ることは出来ず底知れない強さを感じたそうである。

 もし今回の討伐で複数のネームドが確認された場合は、状況にもよるが退却することが取り決められた。力の全容が見えない状況で複数のネームドを相手取ることほど無謀なことはない。何も成果を残せず敗北を喫し、死者を出すことは絶対に避けなければいけない。初歩的なことであるが前回はそれすらも判断できないほど未熟な一団であったのだろう。

 こうしてスカージレット討伐に出立した一行は、移動の竜車の中、そして途中に立ち寄った宿屋で前回の話を改めて当事者であるイヴリース、ユウト、そして神官から聞いて情報を共有しつつ、遂にヴラド城にたどり着いた。

■■■

 ヴラド城を眼前に臨み、前回の討伐に参加した一員の顔色が険しくなる。

「大丈夫かイヴ?」

「ええ……でもちょっと緊張してるかも」

「まぁ前回は生死を彷徨う怪我を負ったわけだし仕方ないさ。しばらくは俺とフルグルで先導するから、落ち着くまで後ろから付いてくればいいよ」

「そうね、悪いけどそうさせてもらうわ」

 一行はアヴラムとフルグルを先頭にヴラド城に入っていく。
 折れた大聖剣に代わって新調された聖剣を携えたハヤトも率先しては戦闘に参加しようとはしない。前回の戦いで慎重になっているのか、はたまた単に弱い相手とは戦うつもりが無いだけなのか分からない。
 しばらくはフルグルと二人で戦うことになるかと思ったら、もう一人の仲間に話しかけられる。

「アヴラムさん、僕も手伝いますよ」

「ロプト……お前は緊張しないのか? これだけの大きな任務に就くのは初めてだろ?」

「まさか! 確かにネームドの拠点を攻めるなんて初めてですが、緊張なんてしませんよ。むしろ憧れのアヴラムさんと一緒に戦えると思うとワクワクしているぐらいです」

「それは頼もしいな。だがここにいる仲間のなかでロプトの実力だけは分からないから、まずは小手調べにこの通路を抜けた先にいるワイトを倒してみてくれ」

「気配だけで魔物の種類まで分かるのですか?」

「まぁどんな魔物がいるのか分かっているからな。特徴さえ分かってしまえば君でも判別出来るようになるよ」

「そうなんですね、勉強になります! それでは直ぐに倒してきますのでしっかりと見ていて下さいね」

 ロプトは意気揚々と掛けだしていきワイトと遭遇する。
 そして遭遇したワイトの攻撃を小気味よく交わし、翻弄していく。
 それはまるでダンスを踊っているかのようで、ワイトも翻弄されて操られたかのように手玉にとられている。
 ワイトとワイトがぶつかり合いバランスを崩したところへロプトが近寄り、頭を垂れたその頭蓋に剣が振るわれ、易々と切り落とされる。

「見てくれましたかアヴラムさん? 結構やるもんでしょ!」

「ああ、そうだな……」

 自分も似た境遇で育ち同じ様な事をやっていたのかも知れないが、年端もいかぬ子供が魔物を斬り伏せ喜々として報告しにくることには違和感がある。
 だがロプトの実力は間違いなく高いが、その底はこれだけでは図りかねる。

「まぁ確かに、教会に推薦されることだけはあるみたいだし、その調子で一緒に魔物を倒していこうか」

「はい!」

 一見すると素直で良い子供なのだがどうしても違和感がする気がする。どこか本音を隠されているような。

 しかし特に問題になるようなことは何もないのでアヴラムは気に留めることをしなかった。

 ヴラド城の攻略は順調に進み、いよいよ前回の討伐で[レイ]と[ミオール・ガルナ]と遭遇した大広間にたどり着いた。
 大広間は円形に広がっており、入ってきた所とは反対側にもう一つの扉がある。そしてここにはいくつか柱があるのみで魔物が隠れられる場所は見あたらないのっで、周囲を見渡すことで敵の有無は一目瞭然である。

「……どうやら例のネームドはいないようだな」

 ネームドのランクになると隠蔽能力も高く、気配を察知できないことも多々あるので、実際にその目で確認することで安堵が広がる。

「安心してよいのか? どうせ倒さなくてはいけないんだから、いた方が良かっただろう? 俺ならここでそんな奴らブッ倒してみせるぜ!」

 ここまで順調に進んだからかフルグルが調子に乗っているも、後ろから付いてくる一行は真剣そのものの表情なので誰も反応しない。

「さぁ、先に進むぞ」

「ええ、そうね」

 いつもの調子に戻ったイヴリースもフルグルの扱いをよく分かっている。反応してしまうと余計に面倒くさいことになることは龍人の里で経験済みなのだ。それに事前の話をすっかりと忘れたことを指摘することすら面倒臭い。

 しかし先に進もうとするも大広間の中央まで歩を進めた所で、前方の扉が突如開く。そしてその扉から一体の魔物が入ってくる。

「デュラハンだ!!」

 首を手に持ち逆の手に大剣を携えたデュラハンを見て、後方から勇者一行のアーチャーであるトランファスが叫ぶ。そしてその声につられてか、これまで後方でおとなしくしていたユウト達が前に出てくる。

「おそらくあいつはこのヴラド城の中ボスだ! ここは勇者である俺らが倒してやるから、おまえ達はここで待ってな!!」

「ああ、わかった……」

 一見すると独善的な行動のように見えるが、これは事前に打ち合わせした通りの立派な作戦だ。
 幾ら実力があるもの達が集まったとしても寄せ集めに過ぎず、いきなり連携が深まる訳ではない。お互いがお互いを邪魔していまうぐらいであれば、それぞれが順々に戦った方が都合がよいのだ。
 体力的に厳しくなれば後ろに下がり、ポーションで回復している間にもう一方の一団で魔物を刈るだけではあるが、何も決めずに戦いに臨むより遙かに戦いが安定する。
 ロプトはどちらの一団とも連携があるわけでは無いので基本的には遊軍として、両方で上手く立ち回ることになった。はじめはどちらか一方に加わる予定だったが、ここまでの戦方を見てそれができると判断したからだ。
 普通は初見で他の人の戦い方に合わせることは難しいのだが、フルグルとも、そして今、勇者一行とも全く違和感なく溶け込んでしまっている。

「厳しくなったら声を掛けてくれ! 直ぐに交代してやるからな」

「誰がお前なんか頼るかよ! このまま俺たちだけで倒しきってやるよ!!」

「そうかよ……だが危なくなったら勝手に手を出すからな」

 こうしてヴラド城攻略は、勇者一行とデュラハンとの戦いで激しさを増していくのであった。
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