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第36話 2020年5月27日 赤三兵②
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「おはよう!
もう8時だよ。」
順子の声と部屋の明るさとで目が覚める。
「シャワー浴びてきたら?
タオルはそこね。」
エプロン姿の順子がタオルの場所を指差し、直ぐにキッチンに戻って行った。
俺はよろよろと立ち上がりタオルと昨晩脱いだ服を手に取って浴室に向かった。
シャワーを浴びた俺は、昨日と同じ衣服に身を包んで居間に戻った。
そこにはトーストとサラダ、ソーセージの炒め物、紅茶が用意されていた。
そして順子は俺の顔を見て言った。
「朝ごはん作ったから食べていって。
午前の仕事は今から移動しても間に合わないから、うちでテレワークしていきなよ。」
確かに順子の言った通り、今から家に戻ったのでは間に合うか微妙だった為、その言葉に従うことにした。
それに朝ごはんを作ってもらって食べずに移動するというのは、恩義ある順子に対してとても失礼に思えたということもあった。
「いただきます!」
二人一緒に両手を合わせ、朝食を食べ始める。
まるで新婚の夫婦のようだ。
違いといえば初夜を迎えていないことくらいだろう。
そんな不純なことを考えていると順子が話し始めた。
「春雄の今日の相場の見立ては?」
昨日の俺の醜態を見ていなかったように株の話題を俺に振る。
「……いや、下がるといいけど。
やっぱり上がるかな?
今日も。」
自信なさげに俺は答える。
そもそも自信があればこんな状況になる前に何とかしていたはずだから、当然と言えば当然だが。
「やっぱ上だよねー、今日も。
赤三兵出てるしね。」
順子はどちらとも取れる俺の意見をいいとこ取りして、自分の予想を上とした。
だが、赤三兵とは知らない単語だ。
素直に順子に聞いてみる。
「赤三兵って?」
「あー、ごめんごめん。
ちょっとマイナー、というか古典的なテクニカル分析の一つだね。
陽線が三つ続くことを言うの。
これが出ると、今後も上昇相場が続くことが多いの。
春雄には悪いけど。」
ちっとも悪いと思っていなさそうな口調で順子が教えてくれた。
「なんか、赤三兵っておっさん臭い響きだよな。」
自分の勝ち負けに関しては昨日で吹っ切れてしまったので言葉の印象についてのみ感想を述べる。
そうすると順子は少し興奮気味にこんなことを言い出した。
「そうなのよ!
江戸時代のテクニカル分析手法だからね。
ローソク足とか先物とか、昔の日本人って凄いよね!」
「そうなんだな。
俺、そこいらへんのこと何も知らないわ。」
俺はただ順子の知識量に感心する。
そんな俺の反応を見て、順子は頷きながら言った。
「今まではさ、アベノミクスで株をただ買っているだけでも儲かったけれどさ、これからはテクニカル分析ももっと勉強した方がいいと思うの。
今の投資やっている人ってPBRとかPERとかの指標を気にしている人が多いけど、それだけじゃ勝てないからね。
もしそれだけで勝てるのならコンピューターのアルゴリズム取引に人間は太刀打ちできないはずだから。
情報を早く仕入れて早く注文すればいいってことになるからね。」
順子はそこまで言って紅茶を飲み、更に続ける。
「そうじゃないのは人間が株価にいろんな想いを乗せてるからだと思うんだ。
理屈だけでは説明できない何かが株にはあるよ。
で、そういった人の想いをチャートから読み取るのがテクニカル分析って訳。」
俺は珍しく長々と語る順子の話をずっと聞いていた。
そこまで語ると順子も満足したのか、会社の話や趣味の話、疫病騒ぎが終わったら何をしたいかを朝食の間、語り合った。
いつ以来だろう?
こんな晴れやかな気持ちは。
いつ以来だろう?
こんな何気ないことに幸せを感じるのは。
俺はこの数ヶ月忘れていた小さな幸せを再発見した。
もう8時だよ。」
順子の声と部屋の明るさとで目が覚める。
「シャワー浴びてきたら?
タオルはそこね。」
エプロン姿の順子がタオルの場所を指差し、直ぐにキッチンに戻って行った。
俺はよろよろと立ち上がりタオルと昨晩脱いだ服を手に取って浴室に向かった。
シャワーを浴びた俺は、昨日と同じ衣服に身を包んで居間に戻った。
そこにはトーストとサラダ、ソーセージの炒め物、紅茶が用意されていた。
そして順子は俺の顔を見て言った。
「朝ごはん作ったから食べていって。
午前の仕事は今から移動しても間に合わないから、うちでテレワークしていきなよ。」
確かに順子の言った通り、今から家に戻ったのでは間に合うか微妙だった為、その言葉に従うことにした。
それに朝ごはんを作ってもらって食べずに移動するというのは、恩義ある順子に対してとても失礼に思えたということもあった。
「いただきます!」
二人一緒に両手を合わせ、朝食を食べ始める。
まるで新婚の夫婦のようだ。
違いといえば初夜を迎えていないことくらいだろう。
そんな不純なことを考えていると順子が話し始めた。
「春雄の今日の相場の見立ては?」
昨日の俺の醜態を見ていなかったように株の話題を俺に振る。
「……いや、下がるといいけど。
やっぱり上がるかな?
今日も。」
自信なさげに俺は答える。
そもそも自信があればこんな状況になる前に何とかしていたはずだから、当然と言えば当然だが。
「やっぱ上だよねー、今日も。
赤三兵出てるしね。」
順子はどちらとも取れる俺の意見をいいとこ取りして、自分の予想を上とした。
だが、赤三兵とは知らない単語だ。
素直に順子に聞いてみる。
「赤三兵って?」
「あー、ごめんごめん。
ちょっとマイナー、というか古典的なテクニカル分析の一つだね。
陽線が三つ続くことを言うの。
これが出ると、今後も上昇相場が続くことが多いの。
春雄には悪いけど。」
ちっとも悪いと思っていなさそうな口調で順子が教えてくれた。
「なんか、赤三兵っておっさん臭い響きだよな。」
自分の勝ち負けに関しては昨日で吹っ切れてしまったので言葉の印象についてのみ感想を述べる。
そうすると順子は少し興奮気味にこんなことを言い出した。
「そうなのよ!
江戸時代のテクニカル分析手法だからね。
ローソク足とか先物とか、昔の日本人って凄いよね!」
「そうなんだな。
俺、そこいらへんのこと何も知らないわ。」
俺はただ順子の知識量に感心する。
そんな俺の反応を見て、順子は頷きながら言った。
「今まではさ、アベノミクスで株をただ買っているだけでも儲かったけれどさ、これからはテクニカル分析ももっと勉強した方がいいと思うの。
今の投資やっている人ってPBRとかPERとかの指標を気にしている人が多いけど、それだけじゃ勝てないからね。
もしそれだけで勝てるのならコンピューターのアルゴリズム取引に人間は太刀打ちできないはずだから。
情報を早く仕入れて早く注文すればいいってことになるからね。」
順子はそこまで言って紅茶を飲み、更に続ける。
「そうじゃないのは人間が株価にいろんな想いを乗せてるからだと思うんだ。
理屈だけでは説明できない何かが株にはあるよ。
で、そういった人の想いをチャートから読み取るのがテクニカル分析って訳。」
俺は珍しく長々と語る順子の話をずっと聞いていた。
そこまで語ると順子も満足したのか、会社の話や趣味の話、疫病騒ぎが終わったら何をしたいかを朝食の間、語り合った。
いつ以来だろう?
こんな晴れやかな気持ちは。
いつ以来だろう?
こんな何気ないことに幸せを感じるのは。
俺はこの数ヶ月忘れていた小さな幸せを再発見した。
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