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ご飯がけ卵

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拝啓 
残暑が続く今日この頃、お変わり無くお過ごしでしょうか。



少し日が登った暑い夏の朝、私は変わらずバスに乗る。

特に代わり映えのない日常が流れている、同じバスに長く乗っていると乗客の顔ぶれ、渋滞する道、朝早くまだ眠そうな人たちの中で軽快に響く停止ボタンの音。


全てが変わらない日常に慣れ始めた今日この頃。


ただそんな日常の中で、ふと窓の外を見る時がある。
深い意味がある訳では無いが、ただ理由をつけるとするならば、その日は窓から入る日差しがいつもより心做しか眩しかったからという事にしておこう。


日差しが背の高い木々の間から差し込み青々と生い茂る雑草を照らしていた、日陰に停められた車にも心ばかしか日が差している、光とは不思議なもので、場所、人、時間全てで見え方が違う。

私は日陰から眺める日向が好きだ。

夏の暑い日差しが照らすアスファルトと日陰の境目を見ていると吸い込まれるように感じらる、眺めている時間は暑いとか、寒いとか感じることはなくただ眩しい日差しに目を奪われる。

私はずっと日陰から眺める眩しい日差しを愛してやまないのだ。

別に日向が嫌いと言う訳ではない、太陽が照らす中でブランコを漕いでいるとその時間だけは少し特別な風が流れ込んでくる。

物理的な風もあるが心の内を抜けるような、なんとも形容しがたい風が吹き抜ける、ミントを食べた時のような涼しさを感じてならない。

その瞬間は、全てのしがらみから解放されたように思える、鳥の気持ちとはこんなものなのだろうかと考えたりする。

その後の日焼けが痛む瞬間もまた一興である、誰かが太陽からの贈り物だからサンキッスだとか言っていた気がする。


そんな事をボーッと考えている時間は10秒にも満たないのだが、ゆっくりと流れに乗って走るバスのせいなのかもっと長く感じられる。


雲が風に流され太陽を隠す、先程まで陽の光を浴びて輝く草花は落ち着いた雰囲気を纏っている、太陽は雲のヴェールに隠されてしまったのだろう。


照らされたり、陰ってしまったりコロコロと変わる天気を眺めていると太陽とはスポットライトなのではないかと思い始める、常に自らを照らし続けることは出来ないけれどその光が当たった時今まで隠れていた輝きが解き放たれるのだ。


私は太陽によって主役になれる。


誰も私を見ていないが、スポットライトが当たっているのは紛れもない私自身であり、主役の証明である。

それは生きていても、生きていなくても全てが主役である。


ただ視点が変わると言うだけのことなのだ、朝は貴方が最高の存在になれる自分自身を鼓舞するための言葉に私は救われるのだ。


信号が変わり景色の流れが早くなる、先程バスを追い抜いた自転車を横目に既に興味を失った景色からスマホへ視線を移す、感傷に浸る時間は短い方がいい。


涼しいバスの車内とは対称的な外の空気を少し憂鬱に感じてしまい瞳を閉じる。



ふとスマホが揺れ、1件の通知が届いていた。


頼んでいた荷物が届いたという通知だろうかと少し心が踊る。



だが予想とは悪い方に外れるのだ、学校からの一斉配信メールだった。


内容を要約すると今日はこれから天気が悪くなり、電車がお昼で止まってしまうため今日は休校になるというものだった。


確かに曇り始めたとは思っていたが電車が止まるとまでは思っていなかった。ただ、今から停車ボタンを押して立ち寄ったことの無いバス停で降りるのも、暑い中いつ来るかも分からないバスを待つのも遠慮したいと言うのが本音である。


定期券があるのでお金は心配ないが、なにぶん面倒である。私が暮らす街は田舎であるが故にバスも電車も数時間に1本と殆ど走っていない、冬なら許せるかもしれないが夏は厳しいものがある。

そう考えていたら友人から学校に着いてからメッセージを確認したと、嘆くメールが送られてきて私ももうすぐ着きそうだと返信する。


電車に乗る人たちはきっと乗る前に確認した事だろう羨ましい限りである。


バスは早めの時間に乗らなければ次の便は遅刻してしまう。


自転車よりは便利でありながら時間の面ではかなり不便である、しかし友人がいるなら今から学校へ向かうのも悪くない、ちょっとした笑い話にはなるだろう。


次が降りるバス停であることがアナウンスで告げられボタンを押そうとして指を止める、保育園くらいの小さな女の子とお母さんが座っているのを思い出したからだ。


この親子は1ヶ月に数回乗っている、女の子がボタンを押そうとして背伸びしていて、お母さんが笑顔で見守っているなんとも微笑ましい光景と言える。


1度親子が降りるとは思わずいつも通りボタンを押してしまい申し訳ない気持ちになったのは秘密である。


バスの定期をセンサーにかざすともうすぐ期限が切れそうなことに気づく、そろそろ行かなければならないと思いつつもうすぐ夏休みなのが悩み所である、運転手に軽く挨拶をして外へ出るとじっとりとする雨が降る前の嫌な天気に気分が下がる今からでももう一度バスの中に戻りたいところである。


雨が降りそうになると土の匂いがする、鳥が低く飛んでいるのも自然がこれから雨が降ることを教えてくれているようで感慨深いものである、低気圧による頭痛がなければ面白いことを見つける旅に出るのにと、考えてみる。


いつも立ち寄るコンビニには寄らないで足早に友人が待つ学校へと向かう、雨に降られたくないと思っていたのかもしれない今となっては些細なことで記憶にないがきっとそうだったはずである。


学校への扉をくぐると涼しい風が体にしみ渡る、このまま寝てしまえればきっとよく眠れるだろう人間の三大欲求に含まれる睡眠欲は絶対なのだ抗うことの方が愚かである。


辺りを見渡すと備え付けの椅子に友人がぼんやり座っているのが見える、朝から今日の一日の予定が無くなるというのも逆にすることが無く困るというものだ、少し大きめの声で友人の名前を呼ぶと天井を眺めていた2つの瞳がこちらをゆっくりと見据え弧を描いた。


おはよう、2人の声が重なった。


お互い驚いた顔をしていたであろう、少しして笑い声が響く長年付き合っていると考えていることが似るのだと笑い合う。


これからすることもないがこのまま帰るのは癪であると伝えると友人も同じ気持ちだと答えてくれる、ならこのまま電車に乗って海へ行かないかと誘う。


雨が降るのに海へ行くなんてと笑う友人は楽しそうに見えた、今考えれば本当に何を考ていたのか私でも私が分からない。


少し友人と話したあとどちらともなく立ち上がる、海へ向かうバスが丁度走っている上あと少しで到着となっていたからである。


余りにも都合が良すぎて始めたからそうなると分かっていたようだと神妙な顔で話す友人がおかしくて笑えてしまった。


先程まで揺られていたバスへとまた戻るのはデジャブのようなものを感じるが友人がいると全く違う時間に感じられた。


先程よりも長い時間乗っていたはずなのに先程よりうんと短く感じられて物足りないくらいでした、私にとって尊い時間であると歳を重ねてあらためて思わされるのである。



私は海が好きでした、青とも緑とも取れる波打つ海に反射した太陽の光が目に刺さるほど眩しくて手に入らない宝石のような輝きが目に焼き付いたまま、私の横で眩しいと笑う友人の瞳が忘れられず心の内にしまっているのです。


きっと私は友人と共にすごしたこの時間が心に残っていたのでしょう、海だとか日差しだとかいくら並べ立てても一人で見た時には心が動かされることなんてありませんでした。


友人という太陽が周りを照らしていたあの時間が丸ごと忘れられなかった、私はその事実に気づくまで何度夏を迎えたか覚えておりません。


ただ心地よい風が私を包む春でも少ししんみりとした秋でも真っ白な化粧で全てを覆い尽くす冬でもなく、真っ黒な瞳が1番輝く夏が私の人生にとって大きなものであるのは口にせずとも分かりきっていました。


堤防の上、足を揺らしながら海に背を向け並んで座っていると友人はぽつりと言っていました。


私はやりたい事が沢山あるのだと、その中の一つが海へ私と毎年来ることだと。


私は心臓が握られたような締め付けられる苦しさで喉がしまったように感じた、きっとあの時の私はこの胸の内の思いに気づけていなかったのです。


私はきっと死ぬまで友人が語った夢を忘れられずにいることを確信していました、とても小さなことではありましたが一生かかってやっと達成できそうな膨大な量の夢やほぼ不可能に近い願いを2人して馬鹿騒ぎしながら叶えようと試行錯誤した日々全てが友人にとっての夢であれば良いと願うのです。


私は友人が夢を語る姿が眩しくて自分自身の夢はそっちのけで話を聞くばかりでした、でもそんな日々が私にとって1番眩しい時間で幸せを噛み締めていたのです、眩しいものの傍で目を瞑ることが精一杯だったのです。


友人の口癖は、アンタはアンタ、私は私だから好きなことをすればいいでした、そんな事当たり前だと頭では分かっていましたが私は友人と一緒にいる時間は自分の時間より大切なのは伝えられないまま時間はすぎていくのです。


友人に名前を呼ばれ我に帰ると何か悩みでもあるのかと聞かれ、海で泳ぎたくなったと嘘をつく、何故か友人には相談しずらいと感じていた、いつも心配そうな顔を見ると何も言えないまま小さな嘘を積み重ねてしまう、何度も何度も心の内にしまい込む度にこの気持ちを蔑ろにしてしまう自分の情けなさに泣きたくなる。


友人は少し不服そうな顔をした後立ち上がる、もう帰るのかと立ち上がった友人の顔へ目線を移そうと曲がった腰を起こそうとした時友人が走り出した、視界から急に消えた友人を探すため勢いよく立ち上がると友人は既に砂浜の上を歩いており、私に向かって手招きをしていた。


突拍子も無いことをするのは友人の悪い癖だ。


どうしてそんなに元気なのかその秘訣を知りたいくらいである、私は思い足を引きずって階段を降り友人の元へ歩いてゆく。


何故か足取りが重い、こちらを見据える友人の顔が見れない。


私はここへ来たのは初めてでは無い。


サクサクと音を立てて少し歩きずらい場所、日が少し落ち始めオレンジ色に染っている場所、忘れられない思い出をくれた友人と最後にすごした場所。


1歩、また1歩と踏み出す歩幅が小さくなり足が上がらなくなる。


友人は何も言わない。

ただただこちらを夕日に照らされ輝く瞳を優しく細めて私が近くのを待ってくれている。


急かすことも、ゆっくりでいいと言うこともなく私のペースに合わせてくれる友人が段々とぼやけ始め、足が止まってしまう。


私はどうして忘れていたのだろうか、あんなにずっとそばに居たのにいつもどこか物足りない日々に気づかないふりをして、そんな酷い私でも友人は許すと言わんばかりの優しい顔はあの頃から何一つ変わっていなかった。


丁度四十九日前、友人は死んだ。


トラックの前に飛び出した子供を庇って即死だったそうだ。


漫画みたいな終わり方で、でも友人らしい呆気なさと優しさの別れに友人の行動力が良すぎるのは悪い癖だと綺麗な花に囲まれ眠っているとしか思えない友人へ最後の挨拶をした。


その日から私は友人の事を覚えてはいたが名前も声も顔も思い出せずにいた、ただ大切な思い出と心の奥にしまっていた大切な記憶だけが断片的に思い出され私は無意識にここへと来てしまったのだろう。


きっと目の前の友人も私が作り出した幻想なのだと自覚する。


私は友人の姿も景色も歪んで、上手く前を見ることが出来ない、ぼろぼろと頬を伝う暖かい涙はあの日見せなかった友人への思いだと自覚する、もっと話したいことも、伝えたいこともあったはずなのに友人を前にして何も言えなかった、後悔が今になって溢れ出す。


やっと友人の側へたどり着く、俯いたまま前が見れなかった、見てしまえば全てが消えてしまいそうで、いっその事このまま消えてしまいたいとさえ思える。



「 最後くらい泣かないでよ死んだみたいじゃん。」

笑い混じりのふざけた冗談を言っていた友人の声。
驚いて涙が止まる、たしかに友人の声でした。



あの日以来私は毎年この海を訪れる、同じバスに乗って。
でもあの日の私のような憂鬱な思いはもうありませんでした。


夕日が照らした砂浜で、友人と本当に別れたあの日が過ぎても、私は波の音に彼女の声を探すのです。


猛暑厳しき折、そちらでもご自愛ください。
敬具

|《》
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