42 / 46
番外編
5.閑話 事務官によると―1―
しおりを挟む
※コメディ色強め第三者視点です。
レオン・ヴァレンシュタインを名乗る人物といえば侯爵家の子息であり、この国の騎士団を統括するとんでもない人だ。その魔力や騎士としての実力はもちろんのこと、眉目秀麗、頭脳明晰、泰然自若……天は一人に二物も三物も与えたのである。なんと羨ましいことか。
厳しくも皆から慕われているには理由がある。容貌だけではなく手腕も秀でており、性格まで情が厚いとくれば誰だって彼の下に就きたいと願い出るだろう。
ちなみに婚姻も結ばれており、伴侶となられた方も大変素晴らしい騎士である。しかもお若い。
いや、何故一人の人間があれもこれも持ち得ることができるのだろう。謎だ。実はとんでもない性癖をお持ちだとか、他者に見せられない趣味がおありだとか……ないか。あの方に限ってはなさそうだ。
そのレオン・ヴァレンシュタイン統括団長の伴侶であるアルフォンス・ラトギプ(正式にはアルフォンス・ヴァレンシュタインとなるが便宜上騎士団内ではラトギプを名乗っている)となった魔法騎士も膨大な魔力を保有しており、騎士団の中では重要な役割を担っている。
さて、そのお二人は二年ほど前に出会われたらしい。情報収集に長けている事務官の話によると、統括団長がアルフォンスを見初めたことがきっかけとのことだ。それから紆余曲折あり、結ばれたとか。思い返してみるとその頃、何やら辺境領について調べておいてくれとか、あちらの管轄がとうのこうのと聞かれた記憶が……関係あるのか?
おれはさておき。
騎士団の事務官をしている俺は、アルフォンスと顔を合わせることもある。別に親しい間柄という訳ではなく、事務所の受付対応で会うというだけの話である。
アルフォンスが第二騎士団から第一騎士団へ異動となった詳細は国の重要案件であるため伏せられており、俺のような一般事務官には伝わってこない。しかし、国が保護しなくてはならない存在らしい。という噂。
本人はまったく自覚がないそうで、周りの団長や責任者たちがやきもきする事態が数回……一人で探索に行こうものなら、無事に戻るまで騎士団内には殺伐とした空気が漂う。我々のような一般事務官の精神が削がれるので、是非御身を大切になさっていただきたい。
怪我を負ったときどうなるか、おわかりいただけるだろう。診療所へ入れ代わり立ち代わり皆が様子を確かめに行くのだ。そりゃ治癒師のザムエル・ルーマンが怒鳴るはずだ。
『お前ら、仕事しろっ!!』と。
最近、思っていることがある。いや、以前より顕著になったことがあるので、お二人の間近で職務こなしている俺の話をちょいと聞いてはくれないか?
騎士たちには城内の宿直当番がある。一人一人に等級、要は魔力量の差があるため任務は数人の班単位で行なう。その班は等級が偏らないよう組まれており、班長以下の騎士は誰でもあたるわけだが。
城内を巡回をするにしても、警備に立つにしても、楽な時間帯がある一方、過ごしにくい季節だってある。騎士個人がそういったことに応じた策を取るべきなのだが、それはそれとして差し入れなどがあると大変嬉しいのものだ。例えば冷やした汗拭きの布だとか、温かいスープだとか。そういうちょっとしたものである。
事務官である俺には宿直などないが、間に合わせなければならない急ぎの書簡などがある場合、夜中まで事務所に残ることがある。そのときの出来事をひとつ思い出してみよう。
あれは空気が澄んでいる少し寒い夜中のことだ。なかなか提出物が揃わず、けっきょく夜の遅い時間になってしまった。眠気を散らすために手を突き上げ背を伸ばしてみたものの、それくらいではどうにも目が冴えない。仕方なくかじりついていた机から離れ、窓際まで歩いて身体を動かすことにしたのだ。
(ああ、今夜は月がきれいだな)
満月かそれに近い日なのか、外は存外明るかった。夜が深いというのに、警備をしている人物が誰なのかわかるくらいには明るさがあった。
(アルフォンスか、宿直とは珍しい……)
夜闇に紛れてしまいそうな黒髪。月明かりに照らされ肌の白さが余計に際立つ。
漆黒の剣とは彼のことをよく表している二つ名かもしれない。凛とした佇まいは孤高のようで近づきにくいが、大声で笑うようなことはなくても以前よりも表情が柔らかくなったように思う。それはやはり婚姻による影響なのだろう。
(ああほら、あんな風に笑……って、笑ってる!?)
城内では見たことがないその顔に驚いて、彼が見詰めるその先を辿ってみれば、そこにいたのはあの人であった。そう、我らが騎士団の統括団長でありアルフォンスの伴侶でもあるレオン・ヴァレンシュタイン。
当たり前のようにお二人は引き寄せられ、そしてアルフォンスは団長の腕の中へその身を預けた……あ、うん。これは見ない方がいいやつだよな、と思いつつ俺は窓の縁に身を隠し、存在を消し、偶然を装って……あ、はい。
俺にはお構いなしに(それはそう)お二人は互いの存在を確かめるように抱擁なさっていた。
おそらく会話は小さな声だろうに、このときの俺には何故か聞き取れる能力が備わっていたらしい。聞こえるはずのない声が、すぐ近くで耳にしているかのようだった。
以下にその様子を示すのでどうか査収してほしい。
レオン・ヴァレンシュタインを名乗る人物といえば侯爵家の子息であり、この国の騎士団を統括するとんでもない人だ。その魔力や騎士としての実力はもちろんのこと、眉目秀麗、頭脳明晰、泰然自若……天は一人に二物も三物も与えたのである。なんと羨ましいことか。
厳しくも皆から慕われているには理由がある。容貌だけではなく手腕も秀でており、性格まで情が厚いとくれば誰だって彼の下に就きたいと願い出るだろう。
ちなみに婚姻も結ばれており、伴侶となられた方も大変素晴らしい騎士である。しかもお若い。
いや、何故一人の人間があれもこれも持ち得ることができるのだろう。謎だ。実はとんでもない性癖をお持ちだとか、他者に見せられない趣味がおありだとか……ないか。あの方に限ってはなさそうだ。
そのレオン・ヴァレンシュタイン統括団長の伴侶であるアルフォンス・ラトギプ(正式にはアルフォンス・ヴァレンシュタインとなるが便宜上騎士団内ではラトギプを名乗っている)となった魔法騎士も膨大な魔力を保有しており、騎士団の中では重要な役割を担っている。
さて、そのお二人は二年ほど前に出会われたらしい。情報収集に長けている事務官の話によると、統括団長がアルフォンスを見初めたことがきっかけとのことだ。それから紆余曲折あり、結ばれたとか。思い返してみるとその頃、何やら辺境領について調べておいてくれとか、あちらの管轄がとうのこうのと聞かれた記憶が……関係あるのか?
おれはさておき。
騎士団の事務官をしている俺は、アルフォンスと顔を合わせることもある。別に親しい間柄という訳ではなく、事務所の受付対応で会うというだけの話である。
アルフォンスが第二騎士団から第一騎士団へ異動となった詳細は国の重要案件であるため伏せられており、俺のような一般事務官には伝わってこない。しかし、国が保護しなくてはならない存在らしい。という噂。
本人はまったく自覚がないそうで、周りの団長や責任者たちがやきもきする事態が数回……一人で探索に行こうものなら、無事に戻るまで騎士団内には殺伐とした空気が漂う。我々のような一般事務官の精神が削がれるので、是非御身を大切になさっていただきたい。
怪我を負ったときどうなるか、おわかりいただけるだろう。診療所へ入れ代わり立ち代わり皆が様子を確かめに行くのだ。そりゃ治癒師のザムエル・ルーマンが怒鳴るはずだ。
『お前ら、仕事しろっ!!』と。
最近、思っていることがある。いや、以前より顕著になったことがあるので、お二人の間近で職務こなしている俺の話をちょいと聞いてはくれないか?
騎士たちには城内の宿直当番がある。一人一人に等級、要は魔力量の差があるため任務は数人の班単位で行なう。その班は等級が偏らないよう組まれており、班長以下の騎士は誰でもあたるわけだが。
城内を巡回をするにしても、警備に立つにしても、楽な時間帯がある一方、過ごしにくい季節だってある。騎士個人がそういったことに応じた策を取るべきなのだが、それはそれとして差し入れなどがあると大変嬉しいのものだ。例えば冷やした汗拭きの布だとか、温かいスープだとか。そういうちょっとしたものである。
事務官である俺には宿直などないが、間に合わせなければならない急ぎの書簡などがある場合、夜中まで事務所に残ることがある。そのときの出来事をひとつ思い出してみよう。
あれは空気が澄んでいる少し寒い夜中のことだ。なかなか提出物が揃わず、けっきょく夜の遅い時間になってしまった。眠気を散らすために手を突き上げ背を伸ばしてみたものの、それくらいではどうにも目が冴えない。仕方なくかじりついていた机から離れ、窓際まで歩いて身体を動かすことにしたのだ。
(ああ、今夜は月がきれいだな)
満月かそれに近い日なのか、外は存外明るかった。夜が深いというのに、警備をしている人物が誰なのかわかるくらいには明るさがあった。
(アルフォンスか、宿直とは珍しい……)
夜闇に紛れてしまいそうな黒髪。月明かりに照らされ肌の白さが余計に際立つ。
漆黒の剣とは彼のことをよく表している二つ名かもしれない。凛とした佇まいは孤高のようで近づきにくいが、大声で笑うようなことはなくても以前よりも表情が柔らかくなったように思う。それはやはり婚姻による影響なのだろう。
(ああほら、あんな風に笑……って、笑ってる!?)
城内では見たことがないその顔に驚いて、彼が見詰めるその先を辿ってみれば、そこにいたのはあの人であった。そう、我らが騎士団の統括団長でありアルフォンスの伴侶でもあるレオン・ヴァレンシュタイン。
当たり前のようにお二人は引き寄せられ、そしてアルフォンスは団長の腕の中へその身を預けた……あ、うん。これは見ない方がいいやつだよな、と思いつつ俺は窓の縁に身を隠し、存在を消し、偶然を装って……あ、はい。
俺にはお構いなしに(それはそう)お二人は互いの存在を確かめるように抱擁なさっていた。
おそらく会話は小さな声だろうに、このときの俺には何故か聞き取れる能力が備わっていたらしい。聞こえるはずのない声が、すぐ近くで耳にしているかのようだった。
以下にその様子を示すのでどうか査収してほしい。
440
あなたにおすすめの小説
愛してやまなかった婚約者は俺に興味がない
了承
BL
卒業パーティー。
皇子は婚約者に破棄を告げ、左腕には新しい恋人を抱いていた。
青年はただ微笑み、一枚の紙を手渡す。
皇子が目を向けた、その瞬間——。
「この瞬間だと思った。」
すべてを愛で終わらせた、沈黙の恋の物語。
IFストーリーあり
誤字あれば報告お願いします!
白い結婚を夢見る伯爵令息の、眠れない初夜
西沢きさと
BL
天使と謳われるほど美しく可憐な伯爵令息モーリスは、見た目の印象を裏切らないよう中身のがさつさを隠して生きていた。
だが、その美貌のせいで身の安全が脅かされることも多く、いつしか自分に執着や欲を持たない相手との政略結婚を望むようになっていく。
そんなとき、騎士の仕事一筋と名高い王弟殿下から求婚され──。
◆
白い結婚を手に入れたと喜んでいた伯爵令息が、初夜、結婚相手にぺろりと食べられてしまう話です。
氷の騎士と呼ばれている王弟×可憐な容姿に反した性格の伯爵令息。
サブCPの軽い匂わせがあります。
ゆるゆるなーろっぱ設定ですので、細かいところにはあまりつっこまず、気軽に読んでもらえると助かります。
◆
2025.9.13
別のところでおまけとして書いていた掌編を追加しました。モーリスの兄視点の短い話です。
伝説のS級おじさん、俺の「匂い」がないと発狂して国を滅ぼすらしいい
マンスーン
BL
ギルドの事務職員・三上薫は、ある日、ギルドロビーで発作を起こしかけていた英雄ガルド・ベルンシュタインから抱きしめられ、首筋を猛烈に吸引。「見つけた……俺の酸素……!」と叫び、離れなくなってしまう。
最強おじさん(変態)×ギルドの事務職員(平凡)
世界観が現代日本、異世界ごちゃ混ぜ設定になっております。
あなたと過ごせた日々は幸せでした
蒸しケーキ
BL
結婚から五年後、幸せな日々を過ごしていたシューン・トアは、突然義父に「息子と別れてやってくれ」と冷酷に告げられる。そんな言葉にシューンは、何一つ言い返せず、飲み込むしかなかった。そして、夫であるアインス・キールに離婚を切り出すが、アインスがそう簡単にシューンを手離す訳もなく......。
逃げた弟のかわりに溺愛アルファに差し出されました。初夜で抱かれたら身代わりがばれてしまいます💦
雪代鞠絵/15分で萌えるBL小説
BL
逃げた弟の身代わりとなり、
隣国の国王である溺愛アルファに嫁いだオメガ。
しかし実は、我儘で結婚から逃げ出した双子の弟の身代わりなのです…
オメガだからと王宮で冷遇されていたので、身代わり結婚にも拒否権が
なかたのでした。
本当の花嫁じゃない。
だから何としても初夜は回避しなければと思うのですが、
だんだん王様に惹かれてしまい、苦しくなる…という
お話です。よろしくお願いします<(_ _)>
「がっかりです」——その一言で終わる夫婦が、王宮にはある
柴田はつみ
恋愛
妃の席を踏みにじったのは令嬢——けれど妃の心を折ったのは、夫のたった一言だった
王太子妃リディアの唯一の安らぎは、王太子アーヴィンと交わす午後の茶会。だが新しく王宮に出入りする伯爵令嬢ミレーユは、妃の席に先に座り、殿下を私的に呼び、距離感のない振る舞いを重ねる。
リディアは王宮の礼節としてその場で正す——正しいはずだった。けれど夫は「リディア、そこまで言わなくても……」と、妃を止めた。
「わかりました。あなたには、がっかりです」
微笑んで去ったその日から、夫婦の茶会は終わる。沈黙の王宮で、言葉を失った王太子は、初めて“追う”ことを選ぶが——遅すぎた。
身代わりにされた少年は、冷徹騎士に溺愛される
秋津むぎ
BL
第13回BL大賞奨励賞頂きました!
最終17位でした!応援ありがとうございます!
あらすじ
魔力がなく、義母達に疎まれながらも必死に生きる少年アシェ。
ある日、義兄が騎士団長ヴァルドの徽章を盗んだ罪をアシェに押し付け、身代わりにされてしまう。
死を覚悟した彼の姿を見て、冷徹な騎士ヴァルドは――?
傷ついた少年と騎士の、温かい溺愛物語。
愛人を選んだ夫を捨てたら、元婚約者の公爵に捕まりました
由香
恋愛
伯爵夫人リュシエンヌは、夫が公然と愛人を囲う結婚生活を送っていた。
尽くしても感謝されず、妻としての役割だけを求められる日々。
けれど彼女は、泣きわめくことも縋ることもなく、静かに離婚を選ぶ。
そうして“捨てられた妻”になったはずの彼女の前に現れたのは、かつて婚約していた元婚約者――冷静沈着で有能な公爵セドリックだった。
再会とともに始まるのは、彼女の価値を正しく理解し、決して手放さない男による溺愛の日々。
一方、彼女を失った元夫は、妻が担っていたすべてを失い、社会的にも転落していく。
“尽くすだけの妻”から、“選ばれ、守られる女性”へ。
静かに離婚しただけなのに、
なぜか元婚約者の公爵に捕まりました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる