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番外編
6.閑話 事務官によると―2―
しおりを挟む「アル……寒くないかい?」
「芯から冷えるような気温ではありませんから、大丈夫」
「そうかい。でも、ほら……こんなに冷たくなって」
統括団長はそう言いながら、アルフォンスの頬へ唇で触れていた。その感触を確かめているのか、何度も何度も。そして触れる場所を変え、次は唇に……(さすがに遠慮して目を逸らしました)
「……どうしてここに?」
「宿直があるって聞いていたから、差し入れを。はい」
そして統括団長は何かを差し出した。反射的なのだろう、アルフォンスが受け取ろうと手の平を上に向けている。そこへちょこんと乗せたものは、何かの包みだった。
包みを開き、中を確認したらしく、それを見たアルフォンスが団長を見上げていた。
「チョコ……これは?」
「ブランデーが入っているから少しは温まるんじゃないかと思って」
「ありがとう……ブランデー、大丈夫かな?」
「これでも酔う?」
どうやらアルフォンス、酒に弱いらしい。この国では十八歳から飲酒ができる。とはいえ、酒に強いか弱いかという話なら個人差があるものだ。年齢というより体質だろう。
アルフォンスは心配な様子を浮かべながらも、指先で摘んだ一粒を口の中へ入れた。もごもご頬が動いているから、チョコの甘さを堪能しているようだ。
「んっ……香りが強いけど、大丈夫、かな」
口の中で噛み割ったらしく、ブランデーが広がったようだ。飲み下してからパチパチと瞬きをして、もう一粒を口の中へ入れた。
しかし先程とは違い、いつまでも口の中でコロコロ転がし続け、一向に噛み割ろうとはしない。
「……やっぱり、苦手かも」
「ははっ そこまで弱いと思わなかったよ。ごめんね、次は違うものを準備するよ。それは、俺がもらうから……」
そう言って俺からは見えない位置にアルフォンスを抱き込み、アルフォンスも団長の首へ腕を回していた、と思う。たぶん。
一瞬。ごく一瞬なのだが変な殺気みたいなブルッとくる魔力を感じた俺は、すぐさま自分の机へ戻ったから。
さて、残りの書簡を終わらせますか。
ちなみにこの日の宿直責任者は統括団長ではなかった。なんであそこにいたんだろう? と思いはしたが、アルフォンスがいたからだよな、という答えはすぐに浮かんだ。
別の日の話をしてみようと思う。
珍しく第二騎士団長のフェリクスさんとレオン統括団長の意見が割れていた。現場のことを把握している団長に対し、客観的意見として統括団長が助言することはままある話だ。
しかし今回に限っては日程が厳しいようで、フェリクス団長が渋っている。
「そこまで詰める必要はないだろう。余裕がないことで生まれる懸念だってあるんだぞ」
「そうは言っても、時間をかければいいわけではない。必要のない工程に時間を割くくらいなら、別のことに使える」
うーん。どちらが間違っているとか正しいではないから結論が出ない。互いに譲る気がないようで、この検討はずっと続いていた。二人とも声を荒げたりせず物々しさはない。
しかし圧が……漏れ出る苛ついた魔力の圧が二人分。我ら一般事務官からすると、肌がひりひりぞわぞわして堪らない。できることならこの場から逃げたいと思うくらいには酷い。早く誰か取り成してくださいよ。こんなんじゃ執務どころじゃないですって。
すると姿を見せたのは──
「フェリクス団長? レオンも」
この圧をものともせず、ひょいっと現れたのはアルフォンスだった。
「もうすぐ昼休みですからね、早くその相談まとめてください。皆が困ってますよ?」
ああ、なんと助けの言葉。我らにはどうすることもできない二人に対し、臆することも遠慮もなく俺たちの代弁をしてくれるなんて……漆黒のシュベルトだけに漆黒の 救世主と呼びたい。
「レオン、色々考えることがあなたの仕事です。けれど、客観的に比較して判断しなくてはいけません。余計な考えを含めてませんよね? まさか私情を挟んでいませんよね?」
「……もちろん」
「本当に? 俺の休み、取り消しますよ?」
「……考え直す」
「そうでしょう」
あの欠点なんてひとつもないようなレオン・ヴァレンシュタインが、アルフォンスの一言で意見を覆すなんて誰が思うだろう。誰も思わない。
あれだけ譲る気のなかった意見をあっさり変えた。一体どういうことなんだ?
フェリクス団長も呆れた目を向けていた。怒るわけではなく呆れている、だ。
情報収集に長けた事務官によると、アルフォンスの休息日に合わせて統括団長も久しぶりに休暇を申請するはずだった。ところが、魔獣による瘴気の影響が出ているため対処が必要で、討伐へ向かう日程を調整しようとしたらしい。
え、それって職権乱…っんっんー。幸いその対処は順調に進み、統括団長も休みを申請できたらしいが。
休息日明けのアルフォンスが統括団長と一日口をきかなかったらしいが、その理由は情報収集に長けている事務官から話が回ってくることだろう。
今回、俺の話を聞いてもらってわかったと思うのだ。眉目秀麗、頭脳明晰、泰然自若……そう思っていた我が騎士団の統括団長は、ただ伴侶を愛するのに忙しい人だということを。
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