【完結】騎士団でいつの間にか外堀埋められ陥落した話+その後の話

文字の大きさ
44 / 46
番外編

7.閑話 侍女によると―1―

しおりを挟む

 私はヴァレンシュタイン侯爵家の遠縁にあたるヘレナ・バルサンと申します。遠縁といっても分家の分家の……というほぼ血縁の繋がりはない子爵家の娘。大きな声で『ヴァレンシュタイン家の親戚筋』などと申せません。
 数ある分家のひとつではありますが、堅実な両親は本家からの信頼が厚かったのです。まず本家から認識されていることにも驚きましたが、お父様に領地管理の才があることを知って更に驚いたものです。

 さて、仲が良く穏やかな両親を私は尊敬しております。身近な両親が手本だったからこそ、私も心身ともに健やかに育ったのだと感謝しておりました。積極的に誰とでも関わることができる性格は、きっと両親に似たのでしょう。
 おこがましいようですが、見目だって決して悪くはございませんのよ? 着飾れば子爵令嬢に見えるくらいの仕上がりにはなるのです。

 そのように淑女として邁進していた私ですが幼馴染と結婚の約束をしており、両親を手伝いながら婚姻の日を心待ちにしておりました。そんなある日のことです……

 騎士団統括団長であるレオン様のご高名は、もちろん存じ上げておりました。討伐でのご活躍、また、高魔力保持や騎士としての実力はこの国に敵う者がいないとすら言われております。
 逸話は武勇伝だけではございません。見目麗しいお姿であることや、秋波を送られた話など、お噂は様々。分家だからという理由で存じているわけではございません。私のような分家の分家の末席……お姿を拝見できる機会すらありませんから。
 ではどこからその話を、となります── 女性たちの情報伝達能力は正確かつ速さが重要で、独自の入手経路を侮ってはいけません。ということです。ふふっ。

 その本家次男でいらっしゃいますレオン様が、信頼の置ける使用人をお探しとのことで、我が家にお声が掛かったのです。

「私……ですか?」
「そうだよ、ヘレナ」

 これは大変名誉なことであり、滅多に得られない本家との御縁。父も間違いではないかと確認したそうですが、間違いなく私だったのです。
 本家は侯爵家ですから、身元がはっきりした血縁の子息子女を使用人として雇うことが多いのです。私も礼儀作法を学んでいますから、珍しいことではありません。
 しかし、うちのような分家の分家ではなくとも、近い分家にも作法を学んだ子女はおりますのに。何故……

 候補のどなたかが急病になられたのかしら。そもそも騎士団の統括団長というお立場ですから、確か、レオン様は王都に邸をお持ちではなかったはずですけれども。

 私の疑問は話を聞き進めていくと、解決しました。しかし、驚きの事実が判明したのです。
 まだ内密の話だそうで他言無用、極秘事項ですが、なんと、レオン様が! 婚姻を! 結ばれる!! そうなのです!!

 まあ! なんておめでたいお話でしょう。

 伴侶となられるご令嬢の侍女としてお仕えする、と。そのように解釈してよろしいですわね?

「いや、違うんだ。よくお聞き」

 え? そうではない?
 では私は何のためにお仕えするのですか。あのレオン様の伴侶となられるお方でしょう? 隣に並ばれるんですよ? きっと美しいご令嬢に違いありません。
 でしたら、身の回りをお世話する侍女は帯同させるのかもしれませんね。慣れない生活は心身共に疲弊するでしょうから、生家から連れた侍女が近くにおりますと安心でしょう。レオン様はお優しい方でしょうから侍女の帯同をお許しになられるはずです。

 それでは私は部屋係チェンバーメイド? いえ、不満などとんでもございません。レオン様や奥様のお姿を拝見できる機会が激減してしまうだなんて、お部屋を整えるばかりではほぼお会いできないなんて、それは嫌だなんて、美男美女の栄養を目から入れられないなんて、嘆いてません。
 レオン様の婚姻に合わせてお仕えできる名誉ですもの。どのようなお役目であろうと喜んでお仕えいたしますわ。ええ、喜んで……

「落ち着きなさい……ヘレナ、泣くことはあるまい」

 お父様、溜息をくと幸運が逃げてしまいますわよ。え、お前がそうさせる? いやですわね、娘のせいにしないでくださいませ。涙は拭きますわ、ちょっとお待ち下さいませ……。

「いいから、少し黙りなさい」

 私ったら……心で呟いているつもりでしたのに、すべて声となっていたというの? まあ! なんということでしょう。

 ちょっと反省して、口をつぐみますわね……

 そして、お父様からレオン様のお相手についてお話がありました。もちろんここだけの内密な話です。幾度いくたびも『他言しないこと』と念を押されました。娘を信用できないなんていけませんわね、お父様。これでも口が固いんですのよ。

 侍女の選定条件として、信用のある家であること。その家の子女で結婚している、もしくは婚約中で近々結婚予定がある。できることなら長く仕えてほしいので、その心積もりができる者。性格は明るく相手を配慮できること。という条件だそうです。
 ……光栄なことに、我が家に当てはまりますわね。

 さあ、よろしいでしょうか。ここからが大切なお相手についてのお話です。極秘です。内緒です。よーくお聞き下さい。そしてこの話はお心に留めてくださいませね。

『お相手は、ラトギプ伯爵家三男のアルフォンス様だ』

 ……はい? 私、とても大切なことなのに聞き間違えてしまったかしら。『三男』『アルフォンス様』と聞こえたような気がしたわ。

 レオン様は大変な美丈夫で、女性からのお誘いも多いと耳に……ごほん。人望もおありで魅力的な方だと聞き及んでおります。

「聞き間違いではない。ラトギプ伯爵家のアルフォンス様でいらっしゃる」

 ……レオン様のお相手はアルフォンス様……いえ、決して驚いてなどおりません。どのようなお相手であろうと、誠心誠意しっかりお仕えいたします。します。

 けれども、どのようなご縁があったのか気になるところではあります。確かにヴァレンシュタイン家では後継者となるご子息がお生まれになられた。ですからレオン様はスペアとしての役目はほぼなくなり、自由の身。侯爵位となれば跡目争いを避けるため、同性との婚姻を結ぶことは珍しくありません。

(こういうときこそ、私の情報網を使うべきだわ)

 少し時間がかかるかもしれませんが、後ほど情報収集してみることにいたしましょう。詳細が知りたいわ。きっとお父様のお話にはない情報があるはずですもの。

 ラトギプ家のアルフォンス様。
 存じ上げない方……またまだ甘いわね、私。

 はしたなく詮索しているわけではございません。これからお仕えするにあたり事前に把握しておくべきことがあるかもしれない、配慮しなくてはならない事柄があるかもしれない。決して好奇心などではございません。ええ、決して──

「いいかい、ヘレナ。失礼がないようしっかり準備しておくように」
「はい、承知いたしました。アルフォンス様に信頼してお任せいただけるよう(事前情報を掴んで)誠心誠意務めますわ」

 力強く宣言いたしましたのに、お父様……溜息をつかないで。

 私はこのとき、レオン様が跡目争いとならないよう配慮した婚姻だとばかり思っていたのです。
 ですから、ラトギプ家の三男であるアルフォンス様を存じ上げておりませんでしたし、形ばかりの婚姻なのだろうと、間違った認識をしておりました。
しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

愛してやまなかった婚約者は俺に興味がない

了承
BL
卒業パーティー。 皇子は婚約者に破棄を告げ、左腕には新しい恋人を抱いていた。 青年はただ微笑み、一枚の紙を手渡す。 皇子が目を向けた、その瞬間——。 「この瞬間だと思った。」 すべてを愛で終わらせた、沈黙の恋の物語。   IFストーリーあり 誤字あれば報告お願いします!

白い結婚を夢見る伯爵令息の、眠れない初夜

西沢きさと
BL
天使と謳われるほど美しく可憐な伯爵令息モーリスは、見た目の印象を裏切らないよう中身のがさつさを隠して生きていた。 だが、その美貌のせいで身の安全が脅かされることも多く、いつしか自分に執着や欲を持たない相手との政略結婚を望むようになっていく。 そんなとき、騎士の仕事一筋と名高い王弟殿下から求婚され──。 ◆ 白い結婚を手に入れたと喜んでいた伯爵令息が、初夜、結婚相手にぺろりと食べられてしまう話です。 氷の騎士と呼ばれている王弟×可憐な容姿に反した性格の伯爵令息。 サブCPの軽い匂わせがあります。 ゆるゆるなーろっぱ設定ですので、細かいところにはあまりつっこまず、気軽に読んでもらえると助かります。 ◆ 2025.9.13 別のところでおまけとして書いていた掌編を追加しました。モーリスの兄視点の短い話です。

伝説のS級おじさん、俺の「匂い」がないと発狂して国を滅ぼすらしいい

マンスーン
BL
ギルドの事務職員・三上薫は、ある日、ギルドロビーで発作を起こしかけていた英雄ガルド・ベルンシュタインから抱きしめられ、首筋を猛烈に吸引。「見つけた……俺の酸素……!」と叫び、離れなくなってしまう。 最強おじさん(変態)×ギルドの事務職員(平凡) 世界観が現代日本、異世界ごちゃ混ぜ設定になっております。

あなたと過ごせた日々は幸せでした

蒸しケーキ
BL
結婚から五年後、幸せな日々を過ごしていたシューン・トアは、突然義父に「息子と別れてやってくれ」と冷酷に告げられる。そんな言葉にシューンは、何一つ言い返せず、飲み込むしかなかった。そして、夫であるアインス・キールに離婚を切り出すが、アインスがそう簡単にシューンを手離す訳もなく......。

逃げた弟のかわりに溺愛アルファに差し出されました。初夜で抱かれたら身代わりがばれてしまいます💦

雪代鞠絵/15分で萌えるBL小説
BL
逃げた弟の身代わりとなり、 隣国の国王である溺愛アルファに嫁いだオメガ。 しかし実は、我儘で結婚から逃げ出した双子の弟の身代わりなのです… オメガだからと王宮で冷遇されていたので、身代わり結婚にも拒否権が なかたのでした。 本当の花嫁じゃない。 だから何としても初夜は回避しなければと思うのですが、 だんだん王様に惹かれてしまい、苦しくなる…という お話です。よろしくお願いします<(_ _)>

「がっかりです」——その一言で終わる夫婦が、王宮にはある

柴田はつみ
恋愛
妃の席を踏みにじったのは令嬢——けれど妃の心を折ったのは、夫のたった一言だった 王太子妃リディアの唯一の安らぎは、王太子アーヴィンと交わす午後の茶会。だが新しく王宮に出入りする伯爵令嬢ミレーユは、妃の席に先に座り、殿下を私的に呼び、距離感のない振る舞いを重ねる。 リディアは王宮の礼節としてその場で正す——正しいはずだった。けれど夫は「リディア、そこまで言わなくても……」と、妃を止めた。 「わかりました。あなたには、がっかりです」 微笑んで去ったその日から、夫婦の茶会は終わる。沈黙の王宮で、言葉を失った王太子は、初めて“追う”ことを選ぶが——遅すぎた。

身代わりにされた少年は、冷徹騎士に溺愛される

秋津むぎ
BL
第13回BL大賞奨励賞頂きました! 最終17位でした!応援ありがとうございます! あらすじ 魔力がなく、義母達に疎まれながらも必死に生きる少年アシェ。 ある日、義兄が騎士団長ヴァルドの徽章を盗んだ罪をアシェに押し付け、身代わりにされてしまう。 死を覚悟した彼の姿を見て、冷徹な騎士ヴァルドは――? 傷ついた少年と騎士の、温かい溺愛物語。

愛人を選んだ夫を捨てたら、元婚約者の公爵に捕まりました

由香
恋愛
伯爵夫人リュシエンヌは、夫が公然と愛人を囲う結婚生活を送っていた。 尽くしても感謝されず、妻としての役割だけを求められる日々。 けれど彼女は、泣きわめくことも縋ることもなく、静かに離婚を選ぶ。 そうして“捨てられた妻”になったはずの彼女の前に現れたのは、かつて婚約していた元婚約者――冷静沈着で有能な公爵セドリックだった。 再会とともに始まるのは、彼女の価値を正しく理解し、決して手放さない男による溺愛の日々。 一方、彼女を失った元夫は、妻が担っていたすべてを失い、社会的にも転落していく。 “尽くすだけの妻”から、“選ばれ、守られる女性”へ。 静かに離婚しただけなのに、 なぜか元婚約者の公爵に捕まりました。

処理中です...