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恋色模様
後編
しおりを挟む「悪いな、毎度」
「そう思うならさっさと言えよ」
「……わかってる」
頭の中で声がする。これ、好きな、声。そうなんだよ、青山の声が好きだったわけ。低くてしっかりしてるのに沁みて、優しくて。名前を呼んでもらえたらいいな、って思ってた。
「ほら、そろそろ帰るぞ」
「うぇ、え…?」
揺さぶられると少しだけ意識が浮上する。でも視界がぐらぐらだ。夢みたい。夢の中のちょっとざらざらした感じと、やたら思考が鈍ってるところが似ている。
「あなたさんは、どなた、さん?」
「青山だけど」
「ふぅん? 青山さんですか。青山に似てるね。青山に似てる青山さん、あのぉ、」
とりあえず手を伸ばして首に抱きついた。動くのが面倒くさい。青山に似てる青山さんに連れて行ってもらおうかな。
「抱っこして」
断られるかなと思ったけどそんなことはなくて、しっかり抱えてくれた。ああ、もういいや。この青山に似てる青山さんにおうちまでお願いしよう。
『…やべえな』
『いつもより酷い』
『だから飲むなって言ってんのに』
もにょもにょ煩いなぁ。眠いんだよね、すぐお布団行きたいくらい眠い。目がさ、ひりひりすんの。失恋して泣いちゃったから。それで余計に眠い。
「野白、これで払っといて」
「はいはい、じゃあな」
『行くぞ』って促された俺は、浮いてるんだか動かしてるんだかわからない足で歩き出した。
ふわふわして、俺まだ酔っ払ってるのかなぁ。変な音が聞こえるし、猫みたいな鳴き声するし、身体が熱くて何かおかしい。ぼんやりして意識が彷徨って考えようとしているのに、全然できない。
「あっ、あっ、やぁ…っ」
「いやじゃないよ、まだイける」
ぐちゅんぐちゅん、音がする。それと、身体がゆさゆさ揺れていた。何回も何回も同じことをされていて、胸の中とかお腹の中とか、熱い気がした。でも何か違う。お腹じゃないな、ちょっと違う場所がすりすりされてる。
「あ、あっ、はっぁ…?あっ?」
何だろう。俺は何してるんだ?
「ほら、ココが好き?」
グリッと抉られたような衝動が走る。ココって言われたところから、尖ったような痺れるような、芯を抜ける感覚がした。あれだ、ほらあれ。気持ちいいんだ。
「ひぃあっ」
「……野白のこと、好きとか言ってたな……まあわかってるけど、面白くはないんだよなあ」
グリグリ押し付ける動きが強くなって、衝撃が連続する。待って、もうそんなにされたら俺がどうなっちゃうのかわからない。同じところばかりされたらこの感覚が続くわけだよ。
「待って、…もうっ、ムリ…っ」
「大丈夫、できる」
喉がひりひりする。おかしい。こんな声出したことないのに、自分から出ているのが信じられない。
しかもすぐ近くで青山の声もしていた。さっきの青山に似てる青山さんだったりするのかな。声も似ているなんて、偶然にしては珍しくないか。
ビクッと身体が震えた瞬間、何かが出ていった。これは、何だっけ。足の付根のところで、生暖かいものが垂れている感じ。
「イけたじゃん……かわいい、」
はっはっ、息が。吸ってるのにうまくできなくて苦しいのに、こっちのことはお構いなしに塞がれてしまった。目の前が全部よくわからない色で壁みたい。口の中をぬめぬめした何かが動いてて、ちゅうって吸われた。
「んん、っんぅんーっ…っふはぁ」
「夏月…」
息できない。酸素ください。
深く息を吸っていたら、青山の声で初めて名前を呼ばれた。気を抜いていたときの不意打ちは、びっくりしたのと嬉しいので、ぎゅうと身体に力が入った。そうしたら、身に覚えのない腰の下あたりが、ものすごい違和感に襲われたのだ。
「ッ、そんなに締めるな」
「う、あっ…ぁ、なに、コレ?」
混乱しながら目の前の人をよく見てみれば、青山みたいな顔があった。
「あ、れ? 青山…?」
「そうだけど。誰に抱かれてると思ったわけ?」
「抱かれ、っ?」
え、なんだって。ダカレル。抱かれる?そっかー、このおかしな違和感はそれだったのか。俺は今何故だか青山に抱かれてるんだって。そっか、そっか……って、そんなことあるか!!
「ウソ、何でぇ?!」
「本当。何でって、俺が夏月のこと好きだから。夏月も、俺のこと好きだし」
ね?って、言われても。
「うん。……ん?」
「じゃあそういうことで、俺まだイってないし」
「いや、えっ、え、待ってぇ……ぁっん」
いやダメだよ。俺いつ了承したの。聞きたいことは山程だ。言いたいことだってたくさんあるさ。
けれど一言の間も与えてもらえず、ぐちぐち中をかき混ぜられ、色々わからないまま俺はひたすら喘がされた。
いつも優しい青山が止めようとしても全然言うことを聞いてくれなくて、ものすごく意地悪なことをされ、無理だと制してもこういうときは手加減してくれないと身を持って知った。
次の日の朝。というか昼。そうなんだ、起きたらもう昼だった。
ちょっと頭がズキズキしているのは二日酔いなのだろう。俺にしては昨日少し飲み過ぎたんだと思う。記憶があんまりないけど。
野白と待ち合わせてちびちび飲んで、焼鳥を食べたような気がする。あとおいものサラダ。それは口が味を覚えていたから間違いない。ただその辺りからもう記憶がおぼろげだ。
それで、この見慣れぬ部屋は青山の寝室らしい。しかも俺はベッドの上にいた。おわかりだろうか。
意味がわからない。穴があったら、いや穴を掘って隠れたい。
覚えていないなら何で全部忘れてくれなかったのだろう俺の頭。所々、何故かどうでもいいことやむしろ忘れたいようなことほど、記憶が鮮明に残っている。
(あー、わー、どうしよう……)
顔を両手で覆い、熱くなった顔面をどうにか鎮めたい。でも鉛のように重たい身体とあらぬところが痛んで、これが現実であることを突きつけた。
「起きた? おはよ」
青山だ。青山の声でおはよって言った。しかも起きてすぐに聞けるなんて、羞恥の最中でも嬉しいものは嬉しかった。
「お、…はよっ」
指の隙間から見てみると本物の青山で、返そうと思って出した声はカスカスだった。『ごめん、無理させた』ってちっとも悪く思ってなんかいないごめんという謝罪だ。だって笑ってる。やわらかくて温かい目でこっちを見るから、どうにも居心地が悪い。
自分ではうまく動かせない体を起こしてくれた。うぐぐ。力が入らないし、あっちこっちが痛い。恥ずかしい。
羞恥を振り払うように渡してくれたマグカップの飲み物をコクリと飲み込む。すごい染み渡る。喉も体も潤った。温くて甘いこれは何だろうか。ホットレモネードみたいな感じがした。
「覚えてる? 昨夜のこと」
「……ちょっと、わかんなくてっ、覚えてるトコも、ある」
「そっか。じゃあ、俺の告白は?」
「え…?」
何だそれ。青山の告白だって?何か言われたのかな、全然覚えてない。いや、それすごい大切なことなんじゃないのか。何で覚えてないんだ俺。最悪だ。
記憶を辿っておろおろしている俺の様子でわかったのか、青山がしょうがないなーって感じでベッドに腰掛けた。
「夏月のこと、好きだよ。夏月は?」
「お、俺っ?!」
いやあの、あのですよ、好きって。名前、名前も呼ばれた!あー、あー、パニックです。脳内が混乱してます。
落ち着け、俺。情報処理しろ。
好き…俺のこと?本当に?それで、俺はどうかって聞かれてるんだよな。そりゃ、青山のこと好きだよ。入社したときから変わっていない。ずっと言えずにいたけど、好きだった。
それで一回言ってるのかもしれないけど、今それを聞かれてるんだよな。じゃあ言っていいんだ。伝えてもいいんだ。
「俺も、…好き」
「うん、ありがとう」
ベッドに腰掛けていた青山が、包むように腕の中へ入れてくれた。ああ、すごい嬉しい。ふわふわしてるのがこれこそ夢みたいで、体の中がパステルカラーになったみたいだ。
「抱くよって聞いたら、了解してくれたけどな。それも覚えてないんだろ?酒はほどほどにしてくれ」
「わかった、何か…ごめん」
ああ、せっかくの告白を俺は覚えてないなんて。でも青山はやり直してくれた。俺が覚えていられるように、二回目だとしても含めた気持は負けないくらいの本物だ。
「青山、あの…」
「宗士、って言ってみて」
「あっ、……宗士、」
「うん、何?」
声が。耳のそばでそんなに甘ったるく言われたら、俺の色々が耐えられない。だって青山に恋をしたきっかけが声なんだぞ。その声の威力を存分に発揮されたら、もう―――
「宗士、好き……っ」
言えなかった言葉を言わせて。
伝えられなかったことを聞いてほしい。
それから、あまり覚えていないから、もっとたくさん。
キスして。
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