【完結】運命なんかに勝てるわけがない

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一ノ瀬 side

10.運命なんかに勝てるわけがない


 べしょべしょに泣きながら二葉は顔を覆ってしまった。言葉を詰まらせ、でも、でもと、番になることを躊躇う理由を明かしてくれた。
 俺が自分のことばかり考えていたせいで、最も大切にしなければならない番を悲しませてしまうとは。

「俺じゃなくて、『運命』だから──噛もうとしてんじゃん」

 ああ、そうか。言葉なんかより、本能やフェロモンで雄弁に伝えていると思っていた。隠せないほどわかりやすくて、こんなにも互いを求めて惹かれ合って。しかも、二葉とは運命という離れようがない絆で結ばれている。心のどこかで高をくくっていたのかもしれない。

 ひと目で気づいた俺と違い、二葉は何も感じていないようでぼやっとしていた。近くにいればそのうちいつかと思いながら、自覚してくれるまで友達なんていう面倒くさいポジションに収まっていたが。酒に酔っぱらって抱けるチャンスが転がり込んできたらそりゃ抱くだろ。それで意識してくれるようになるかと思えばそんなことはなくて。気長に待っていたら、これだ。

 まさか薄っぺらいと思っていた『好きだ』の言葉が足りずに、運命だから欲しがっていると勘違いされるなんて。失態だろ。

 泣き顔を覆っている二葉の両手を外し、耳の横へ縫いつけた。涙でぐちゃぐちゃだ。それだって俺からしたらかわいいと思ってしまう。泣いて怒って、よく笑う。見上げてくる二葉の表情はとても愛らしい。

「バカだな」

 本当に、俺のほうが──

「好きだから待ったんだろ」

 俺がじっと見つめながら伝えると、二葉はふるりと震えた。

 先に聞いてみたかったんだ。二葉の声で『好き』と言われてみたくて。
 自分だけが二葉の存在に一喜一憂してかき乱されるなんて不公平じゃないか。一目惚れだろうがフェロモンに惹かれようが、意識するようになったきっかけは何だっていい。

 運命? それだって抗おうと思えばどうにだってなる。三鈴のようにアルファの象徴を捨てることもできるのだ。
 そうしなかったのは二葉と番になるため。うなじを噛んで番になりたかった。近くで見ているうちに、手に入れたいと思ってしまった。

 だから、運命なんて好都合だろ。

「二葉、これ外すからな?」

 首につけられているチョーカーに、指先で触れた。忌々しいものではあるが、俺の代わりに他のアルファから二葉を守ってくれたものでもある。役目。もういいだろう。
 これは暗証番号を入力するタイプだ。簡単には解錠できないよう二葉がこれを選んだわけだが。小さな操作画面を見てみると、四ケタの数字を入力する仕様。

(なるほど)

 迷いなく思い浮かんだ数字を指先で入力する。チョーカーはカチャリと音を鳴らして解錠した。自分の選んだ数字が合っていたこと、チョーカーを外せたことに笑みがもれる。

 本当に、二葉はかわいい番だ。

「⋯⋯なんで、知ってんの?」 

 驚いているというよりは不思議そうで、どこか恥ずかしげだ。それはそうだろう。なんたって、二葉が選んだ番号は俺の誕生日なんだから。わかりやすい。

 チョーカーがなくなりあらわになった二葉の首。耳元から舌を這わせ、強く吸った。うなじにもそっと指で触れ、舌先を伸ばす。

「あっ、ぁ、そこ⋯⋯っ」
「噛んでいい?」

 頷いて。
 これからはもっと言葉にしよう。二葉のことがどれだけ好きで大切で、運命だとか番だとかそういうこともすべて含めて、大事にしたいかということを。

 そばにいて。俺のことをもっと好きになって。

 みっともないくらい必死な俺を受け入れてくれたら、

「ん、⋯⋯いいよ」


 一生、俺の運命に勝てなくてもいい。



──────────
リクエストいただきました一ノ瀬視点はここまでとなります。ありがとうございました。
『その後の二人』はお時間をちょうだいし、マイペースで投稿していきたいと思います。
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