【完結】運命なんかに勝てるわけがない

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小話

翌朝


 パチリと目が覚めた。身体は重たいものがすべて削げ落ちたように軽く、気分がとてもいい。残業続きで遅い帰宅から解放され、思う存分、好きなだけ惰眠を貪った後みたいな。そんな爽快感だった。
 部屋の中の明るさからして、朝だろう。が、違和感があった。

(俺の部屋じゃ⋯⋯ないな?)

 どこだここ。
 頭の右側を下に寝ている。目の前は見たことのない部屋の様子だ。
 何したんだ俺。どういうことだ俺。
 やばいやばいやばい。人様にご迷惑をおかけしてるんじゃ⋯⋯と、何もわからない状況に不安と恐怖が押し寄せ、血圧が下がりかけた。
 しかし、焦る俺の鼻腔から知っている香りを得て落ち着きを取り戻す。

 瞬きを数回繰り返し記憶をたどろうとしたところで、大量に流れ込んできた昨夜の情報。思い出せてほっとしたのは束の間だ。それはそれで絶叫するはめになった。

「だーっ!!!!」
「っ⋯⋯うるさっ」

 ベッドの中で一人でじたばたしている俺の腰に回る腕。それが存在を主張するように、きゅっと力を入れてきた。引き寄せられ密着する肌。

(肌⋯⋯はだか)

 極近く。頭の後から声がする。それが誰なのかわかっているから、こうして絶叫が飛び出たわけだが。

「おはよ、二葉。調子悪く⋯⋯なさそうだな?」
「悪くなっ、⋯⋯ふぎゃっ!」

 背後へ振り向こうとしたら、うなじに舌を這わされた。ぢゅうっと吸われ、しつこく何度も舌先で肌をこねる。まるでそこに残した痕が消えていないか確かめているようだ。
 刺激を与えられると下腹がジンっと疼いた。オメガにとってうなじは弱点であり、番のアルファだとしても触れられると言い表せない感覚が走る。

「そこ、やっ」
「かわいい、二葉。そういう声、朝からたまんない」
「なにバカなこと言ってんだよっ」

 腰に回る腕をタップしたが緩む気配はないようで、強めに抓ってやった。存在を主張している一ノ瀬のナニが俺の腰に当たっていた。硬い。だから早く解放してほしい。元気だな、おい。

 ぐるりとベッドの中で身を回転し、背後、つまりは一ノ瀬のほうへ向いた。
 どんな顔をすればとか、何を言ったらとか、そういう躊躇いが頭を掠めはしたものの、目を向けた一ノ瀬が優しい顔をしていてからぜんぶ吹き飛んだ。

「二葉、好きだよ。番になってくれてありがとう」

 何も飾らない言葉だった。
 発情期中にも散々言われた気がする。むせ返るようなアルファのフェロモンであれだけ俺を溶かしたというのに、言葉までも重ねてきた。
 俺がごねごね泣いたことも断片的に覚えている。『好きだとか愛しているとか、そんなもんは信じられない』みたいなことも口走った。『オメガだからだろ。運命ってだけで』一ノ瀬にはどうすることもできないバース性のことを詰め寄って困らせた。

 やらかしたというか、情けないというか、弱い部分をさらけ出して恥ずかしいというか。
 それに加えて記憶がない時間は相当な手間をかけさせた。と思う。甘えまくったことは容易く想像できた。

「俺も、その、番になってくれてありがと」

 くぅー。照れの限界だ。
 一ノ瀬を見ていられなくて、すっと視線を下げた。が、顎をすくい取られキスされた。恥ずい。

「あの、っ だからっ」
「うん、何?」

 そのままちゅっちゅっと、頬や額に唇が触れてくる。一ノ瀬は楽しそうだ。

「あのさっ」

 俺だってめちゃくちゃ幸せで、一ノ瀬と一緒にいられることが嬉しくてしかたない。
 アルファとオメガだから俺たちは惹かれたんじゃないかとか、運命だから番になれたんじゃないかとか。そういう確定事項みたいなものを前提に始まったのだとしたら、いつか破綻するかもしれないっていう不安を抱える俺に、きっかけは何でもよくて好きだから番になるんだって伝えてくれた。

 そしたら、俺も言わなきゃじゃん。

「俺も一ノ瀬のこと、好き」

 ああ、大したことなかった。
 好きな人に好きって伝えたら、こんなに心がぎゅっとしてじわじわするんだ。

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