【本編完結】『運命』の旦那様、本当の愛を教えてください!!

秋条かなん

文字の大きさ
2 / 65
1章

2

しおりを挟む
馬車に乗り込んだと思えばすぐに扉を閉められる。
(さすがに魔王は一緒に乗らないのね、そういえば、よく考えたら『運命』ってことは魔王と結婚するってこと?!)
馬車で1人になり急に冷静になる。
この先のことも何も考えずついてきてしまったグレンツェだが、確かにさっき『運命』だと言っていた。

(私、魔力何もないのに、、、)

エルフォルク家が『運命』を重要視していることは聞いたことがあった。だからこそ最強の魔王が産まれたのだ、と。でもそんなの作り話で結局は魔力の強いもの同士の結婚であるとみんなが思っていた。
(でもだとしたら私は不釣り合いすぎる。もしかして誰かと勘違いしてる?)

考え事をしていたら馬車が動き出す。しかし外を見渡しても誰もいない。馬にも誰も乗っていなければもちろんヴァイザーもいない。降りる訳にもいかず、そのまま乗り続けていれば心地よい揺れでグレンツェは思わずあくびが出る。
(孤児院の床で寝ているよりよっぽど寝心地がいい)

ふかふかのソファに体を預けいつの間にか眠っていた。





「おき、、、おきろ、寝すぎだ、起きろ」

「ん、、、あっ、申し訳ありませんっ、、」

目を覚ませば馬車は止まっていてヴァイザーに見下ろされていた。どうやら到着したようだ。素早く体を起こし無言で歩いていったヴァイザーの後をついていく。

大きな扉に大きな窓。何人が住んでいるのか想像もできないほど大きなお城だ。近づけば正面玄関の大きな扉が自動で開く。入れば大きな階段とたくさんの使用人達が迎えてくれる。
(すごいっ!!絵本に出てくるような世界みたい!)

さっきの馬車もこのお城も小さい頃によく絵本ででてきた王子様のものと一緒で久しぶりに心が踊る。

「何をぼーっとしている、早くついてこい」

「っ、申し訳ありません、」

目の前の大きな階段を登っていけば、まずは見た目からどうにかしろ、と言い捨て、たくさんの侍女さんたちに連れられお風呂やらマッサージやらメイクやら、、、いろいろしてもらう。
初めて着るふわふわのピンク色のドレスに身をまとい鏡を見れば誰かわからないほど変わり果てたグレンツェが映っていた。ボサボサだった髪は丁寧に結われハーフアップになっている。メイクも1度もしたことが無いがピンクのドレスに合わせてあるのか柔らかいピンクメイクだ。

「奥様っ!とってもお似合いです!」

「え?奥様??」

鏡の中の自分に見入っていたら急に侍女に奥様と呼ばれ一瞬時が止まった。

「当主様の『運命』なのですよね?!」

「たぶん違うと思います、、あの方はそうおっしゃっていましたが、」

「当主様がおっしゃったならきっと『運命』ですよ!奥様!自信もってください!」

敬語もやめてください!私のことは気軽にレイと呼んでください!と元気に話す侍女は興奮気味にグレンツェを奥様と呼ぶのであった。

「あの、じゃあレイ?ひとつ聞きたいことがあるんだけど」

「なんでしょうか!」

「『運命』ってほんとにあるの??」

「もちろんです!エルフォルク家は代々『運命』のふたりが結ばれてきたのです!」

「そう、」

「当主様に身なりを整えたら部屋にお連れするよう言われているので今から当主様に聞いてみてはいかがですか?『運命』については1番詳しいはずです!」

「答えてくれるのかな、、」

「当主様はとてもお優しい方ですよ!奥様にならきっと教えてくださるはずです。」

(会ってまだ1日も経っていないと言うのに私は本当にこの国で最強の魔力を持つ男と結婚するの?)
今までの会話では優しさも感じられなかった。本当に『運命』だとして魔力の全くないグレンツェが釣り合うわけもない。このままヴァイザーの勘違いでぽいっと捨てられるのがオチだ。グレンツェが魔力を何も持ってないことを知ったらきっとレイもこんなに優しくはしてくれないだろう。
(言いたくない、いずれはバレるけど少しの間だけでも人の優しさを感じたい、、、)

「奥様?」

「ううん、なんでもない。」

「、? では当主様のお部屋にご案内します!」



レイが一際大きな扉を叩く。

「当主様!奥様をお連れしました!」

「通せ。」

中に入ればたくさんの本が並び、少し暗い、落ち着いた雰囲気だ。奥に視線を移せば先ほどよりもゆったりとした服に身を包んだヴァイザーが座っている。レイはすぐに出て行ってしまいヴァイザーと二人きりになる。

「少しはマシな姿になったようだな」

「侍女さんがやってくださって、」

「もう少し肉を付ける必要があるな、そんなんではこれからの修行もやっていけないぞ」

「修行、、なんの修行でしょうか?」

「花嫁修業のほかにあるか?」

「花嫁、、?」

「先ほどもお前は『運命』だといったはずだ。記憶力もないのか」

「ですが、私は、、、魔力がありませんっ、!」

「そんなこと知っている、会ったときからお前からは魔力が1ミリも感じられない」

「っ、それなのに『運命』なのですか、?」

「あぁ、もちろん最初は驚いたが、会ったと同時に『運命』であると分かった」

「私には『運命』を感じることができません、、」

「当たり前だ、今『運命』を感じることができるのはエルフォルク家だけだからな、昔はほとんどが『運命』で結ばれていたが時代と共に変わり今では『運命』を感じることができるほどの魔力を持つのはエルフォルク家だけだ」

つまり、本当にエルフォルク家は代々『運命』で結ばれているのだ。そして、この国の歴史上一番最強の魔力を持つエルフォルク・ヴァイザーの『運命』は魔力が全くないグランツェであるということだ。

「だからお前には私の妻としてこの城に住んでもらう。もちろん公務の際にも出てもらうがあまり機会はないだろう。だが、いつでも表に出られるよう花嫁修業はしておけ。」

「ですが、魔力のない私を認めてくれる方などいるのでしょうか、」

魔力だけの問題ではない、容姿や家柄全てが不釣り合いだ。グレンツェには何もない。

「認めるも何も私に逆らえる者などいない。私の妻として役目を果たしてくれるのであればお前には不自由ない生活を保障してやる。いい話だと思うが?」

確かに今までの生活を考えたら良すぎる話である。そもそもここで「いいえ」と言ったところで聞いてもらえるはずもない。愛のある結婚ではない。グレンツェはただ『運命』であるという理由で選ばれた。『運命』のふたりが結ばれても魔力の高い子が産まれるだけ。今の時代の『運命』に愛はないのだ。グレンツェはこの提案にうなずくことしかできなかった。





しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

身代わり令嬢、恋した公爵に真実を伝えて去ろうとしたら、絡めとられる(ごめんなさぁぁぁぁい!あなたの本当の婚約者は、私の姉です)

柳葉うら
恋愛
(ごめんなさぁぁぁぁい!) 辺境伯令嬢のウィルマは心の中で土下座した。 結婚が嫌で家出した姉の身代わりをして、誰もが羨むような素敵な公爵様の婚約者として会ったのだが、公爵あまりにも良い人すぎて、申し訳なくて仕方がないのだ。 正直者で面食いな身代わり令嬢と、そんな令嬢のことが実は昔から好きだった策士なヒーローがドタバタとするお話です。 さくっと読んでいただけるかと思います。

「お前を愛するつもりはない」な仮面の騎士様と結婚しました~でも白い結婚のはずなのに溺愛してきます!~

卯月ミント
恋愛
「お前を愛するつもりはない」 絵を描くのが趣味の侯爵令嬢ソールーナは、仮面の英雄騎士リュクレスと結婚した。 だが初夜で「お前を愛するつもりはない」なんて言われてしまい……。 ソールーナだって好きでもないのにした結婚である。二人はお互いカタチだけの夫婦となろう、とその夜は取り決めたのだが。 なのに「キスしないと出られない部屋」に閉じ込められて!? 「目を閉じてくれるか?」「えっ?」「仮面とるから……」 書き溜めがある内は、1日1~話更新します それ以降の更新は、ある程度書き溜めてからの投稿となります *仮面の俺様ナルシスト騎士×絵描き熱中令嬢の溺愛ラブコメです。 *ゆるふわ異世界ファンタジー設定です。 *コメディ強めです。 *hotランキング14位行きました!お読みいただき&お気に入り登録していただきまして、本当にありがとうございます!

白い結婚のはずが、旦那様の溺愛が止まりません!――冷徹領主と政略令嬢の甘すぎる夫婦生活

しおしお
恋愛
政略結婚の末、侯爵家から「価値がない」と切り捨てられた令嬢リオラ。 新しい夫となったのは、噂で“冷徹”と囁かれる辺境領主ラディス。 二人は互いの自由のため――**干渉しない“白い結婚”**を結ぶことに。 ところが。 ◆市場に行けばついてくる ◆荷物は全部持ちたがる ◆雨の日は仕事を早退して帰ってくる ◆ちょっと笑うだけで顔が真っ赤になる ……どう見ても、干渉しまくり。 「旦那様、これは白い結婚のはずでは……?」 「……君のことを、放っておけない」 距離はゆっくり縮まり、 優しすぎる態度にリオラの心も揺れ始める。 そんな時、彼女を利用しようと実家が再び手を伸ばす。 “冷徹”と呼ばれた旦那様の怒りが静かに燃え―― 「二度と妻を侮辱するな」 守られ、支え合い、やがて惹かれ合う二人の想いは、 いつしか“形だけの夫婦”を超えていく。

見た目は子供、頭脳は大人。 公爵令嬢セリカ

しおしお
恋愛
四歳で婚約破棄された“天才幼女”―― 今や、彼女を妻にしたいと王子が三人。 そして隣国の国王まで参戦!? 史上最大の婿取り争奪戦が始まる。 リュミエール王国の公爵令嬢セリカ・ディオールは、幼い頃に王家から婚約破棄された。 理由はただひとつ。 > 「幼すぎて才能がない」 ――だが、それは歴史に残る大失策となる。 成長したセリカは、領地を空前の繁栄へ導いた“天才”として王国中から称賛される存在に。 灌漑改革、交易路の再建、魔物被害の根絶…… 彼女の功績は、王族すら遠く及ばないほど。 その名声を聞きつけ、王家はざわついた。 「セリカに婿を取らせる」 父であるディオール公爵がそう発表した瞬間―― なんと、三人の王子が同時に立候補。 ・冷静沈着な第一王子アコード ・誠実温和な第二王子セドリック ・策略家で負けず嫌いの第三王子シビック 王宮は“セリカ争奪戦”の様相を呈し、 王子たちは互いの足を引っ張り合う始末。 しかし、混乱は国内だけでは終わらなかった。 セリカの名声は国境を越え、 ついには隣国の―― 国王まで本人と結婚したいと求婚してくる。 「天才で可愛くて領地ごと嫁げる?  そんな逸材、逃す手はない!」 国家の威信を賭けた婿争奪戦は、ついに“国VS国”の大騒動へ。 当の本人であるセリカはというと―― 「わたし、お嫁に行くより……お昼寝のほうが好きなんですの」 王家が焦り、隣国がざわめき、世界が動く。 しかしセリカだけはマイペースにスイーツを作り、お昼寝し、領地を救い続ける。 これは―― 婚約破棄された天才令嬢が、 王国どころか国家間の争奪戦を巻き起こしながら 自由奔放に世界を変えてしまう物語。

転生したので推し活をしていたら、推しに溺愛されました。

ラム猫
恋愛
 異世界に転生した|天音《あまね》ことアメリーは、ある日、この世界が前世で熱狂的に遊んでいた乙女ゲームの世界であることに気が付く。  『煌めく騎士と甘い夜』の攻略対象の一人、騎士団長シオン・アルカス。アメリーは、彼の大ファンだった。彼女は喜びで飛び上がり、推し活と称してこっそりと彼に贈り物をするようになる。  しかしその行為は推しの目につき、彼に興味と執着を抱かれるようになったのだった。正体がばれてからは、あろうことか美しい彼の側でお世話係のような役割を担うことになる。  彼女は推しのためならばと奮闘するが、なぜか彼は彼女に甘い言葉を囁いてくるようになり……。 ※この作品は、『小説家になろう』様『カクヨム』様にも投稿しています。

これで、私も自由になれます

たくわん
恋愛
社交界で「地味で会話がつまらない」と評判のエリザベート・フォン・リヒテンシュタイン。婚約者である公爵家の長男アレクサンダーから、舞踏会の場で突然婚約破棄を告げられる。理由は「華やかで魅力的な」子爵令嬢ソフィアとの恋。エリザベートは静かに受け入れ、社交界の噂話の的になる。

好きすぎます!※殿下ではなく、殿下の騎獣が

和島逆
恋愛
「ずっと……お慕い申し上げておりました」 エヴェリーナは伯爵令嬢でありながら、飛空騎士団の騎獣世話係を目指す。たとえ思いが叶わずとも、大好きな相手の側にいるために。 けれど騎士団長であり王弟でもあるジェラルドは、自他ともに認める女嫌い。エヴェリーナの告白を冷たく切り捨てる。 「エヴェリーナ嬢。あいにくだが」 「心よりお慕いしております。大好きなのです。殿下の騎獣──……ライオネル様のことが!」 ──エヴェリーナのお目当ては、ジェラルドではなく獅子の騎獣ライオネルだったのだ。

婚約破棄された際もらった慰謝料で田舎の土地を買い農家になった元貴族令嬢、野菜を買いにきたベジタリアン第三王子に求婚される

さら
恋愛
婚約破棄された元伯爵令嬢クラリス。 慰謝料代わりに受け取った金で田舎の小さな土地を買い、農業を始めることに。泥にまみれて種を撒き、水をやり、必死に生きる日々。貴族の煌びやかな日々は失ったけれど、土と共に過ごす穏やかな時間が、彼女に新しい幸せをくれる――はずだった。 だがある日、畑に現れたのは野菜好きで有名な第三王子レオニール。 「この野菜は……他とは違う。僕は、あなたが欲しい」 そう言って真剣な瞳で求婚してきて!? 王妃も兄王子たちも立ちはだかる。 「身分違いの恋」なんて笑われても、二人の気持ちは揺るがない。荒れ地を畑に変えるように、愛もまた努力で実を結ぶのか――。

処理中です...