【本編完結】『運命』の旦那様、本当の愛を教えてください!!

秋条かなん

文字の大きさ
8 / 65
1章

8

しおりを挟む


隣国の国境付近にヴァイザーはいた。
魔力消費の高い長距離の転移魔法を使ってしまったが思ったより魔物が多く疲労が溜まった。
この国は隣国との境に結界があり、それも全てエルフォルク家が管理している。どうやら今回はその結界の一部が壊れ、隣国の魔物がシュバルツ帝国に流れ出したらしい。隣国では城内のみを結界で守っているためそこら辺に魔物がいるが、この国では国全体を結界で守っているため魔物の出現は珍しい。

(今回は老朽化による破損だが、、)

早めに国境付近の兵士たちが気づいたため被害はなく無事に結界の修復もおこなった。現在結界の修復魔法を使えるのはヴァイザーのみだ。

「ヴァイザー様、帰りはどうなさいますか?」

そう声をかけてきたのはヴァイザーの側近エアイン・カイエルだ。ヴァイザーが当主になってからずっとヴァイザーの右腕として従事してきた。ヴァイザーの育て親の一人と言っても過言では無い。

「森を抜けるまで転移魔法を使う。そこからは馬でいく、手配しておけ」

「仰せのままに」

ヴァイザーは周りにいた数人の騎士たちを集め転移魔法を発動し森をぬけた。



馬に乗りながらヴァイザーは考えていた。昨日城に来たばかりの『運命』の相手のことだ。

「ヴァイザー様、馬にのりながら考え事ですか?」

カイエルはいつも鋭くヴァイザーの思考を当ててくる。きっと何を考えているのかもバレているのだろう。




(会った瞬間に『運命』なのだとわかった。これが気持ちなのだと)

魔力がないことにも驚いたがそれよりも自分の気持ちの変化に驚いたのだ。『運命』に出会うまでは城外の仕事も積極的に行い、『運命』を探していたのも事実だ。しかし、いざ目の前に現れればどうしていいのか分からなかった。
目の前にいたのはやせ細った体にボロボロの服を身にまとった少女だった。正直彼女とは比べ物にならないくらい着飾った女と接する機会も多かったはずなのになぜか彼女から目が離せなかった。ヴァイザーの心臓が彼女は『運命』だと告げていた。

そこからはどんな言葉をかけたのかあまり覚えていなかった。ただ気持ちに蓋をすることに必死だった。
『運命』に縋りすぎてはいけないとヴァイザーの脳は告げていた。

(まぁ、そのせいか冷たく当たってしまったのだが)

グレンツェを馬車に乗せ、転移魔法で城に戻れば城で事務作業をしていたカイエルに叱られた。

「馬車に1人乗せて置いてきた?!」

「転移魔法は無魔力の彼女にはキツイだろう」

「では一緒に馬車に乗ってくればよかったのでは?」

「私のことを酷く怖がっていた。そんなやつと一緒に馬車に乗るなんて地獄だろう」

「一体何をしたんですか?!」

カイエルはそこからもなにやらブツブツ言っていたが聞き流した。
あの馬車は自動的に城に帰ってくるように設定された物だしなんならあの馬は本物ではない。
しっかり保護魔法もかけてあるしそこまで怒ることでは無いとヴァイザーは思っていたのだがどうやら違ったらしい。

(グレンツェが着く前に侍女の配置も考えなければな、、)

「『運命』はエルフォルク家に必要不可欠なのですよ!?せめて子が産まれるまででも愛想つかされないようにお願いします」

つくづくカイエルも冷めている。『運命』は本物の愛からなるものではなく魔力の強い子が産まれる条件でしかないのだ。



その後、無事馬車は城に戻っており侍女にグレンツェを任せたら先程とは見違えるように綺麗になってヴァイザーの執務室にやってきた。

(まただ、だがさっきとは少し違う)

ヴァイザーはまだ自分の気持ちに整理がついていない。
(グレンツェとは確かに『運命』だが、ただエルフォルク家の繁栄に必要であるだけだ。魔力の強い子が産まれればそれだけでいい、優しく接して愛を求められるのはめんどくさいだけだ)

そう心に言い聞かせれば先程カイエルが言っていたことなど頭から抜けまた冷たく接してしまった。

(次はここでの生活がいかに良いか伝えることにしよう、どうやら孤児院でも良い生活はしていないようだし無魔力ではこの城から追い出されれば確実に生きていけない、それをグレンツェも分かっているはずだ)

無駄に優しくする必要は無い。この城の中に居てさえくれれば。






だけど誤算だった。
カイエルに夕食は一緒に食べるように言われたのだが、グレンツェはそれはそれは美味しそうにご飯を食べるのだ。
パンを食べただけであんなにも美味しそうにするからヴァイザーは肉や魚などいろいろ食べさせたくなった。

(こんなにも細い体で今までどうやって過ごしていたんだ?)

切ってあげた肉を頬張るグレンツェを見ながら考える。

(このまま一生好きなものだけ食べて私の隣で笑っていればいい)

こんな考えになっている時点でヴァイザーは既に『運命』に蝕まれていた。気づいたら『運命』について教えてやる、なんて柄にもないことを言っていた。
この気持ちは『運命』によるもので自分の気持ちでは無い。


そう言い聞かせる一方で馬を走らせ城に帰っている今もヴァイザーが考えるのは『運命』であるグレンツェのことだけだ。











しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

「お前を愛するつもりはない」な仮面の騎士様と結婚しました~でも白い結婚のはずなのに溺愛してきます!~

卯月ミント
恋愛
「お前を愛するつもりはない」 絵を描くのが趣味の侯爵令嬢ソールーナは、仮面の英雄騎士リュクレスと結婚した。 だが初夜で「お前を愛するつもりはない」なんて言われてしまい……。 ソールーナだって好きでもないのにした結婚である。二人はお互いカタチだけの夫婦となろう、とその夜は取り決めたのだが。 なのに「キスしないと出られない部屋」に閉じ込められて!? 「目を閉じてくれるか?」「えっ?」「仮面とるから……」 書き溜めがある内は、1日1~話更新します それ以降の更新は、ある程度書き溜めてからの投稿となります *仮面の俺様ナルシスト騎士×絵描き熱中令嬢の溺愛ラブコメです。 *ゆるふわ異世界ファンタジー設定です。 *コメディ強めです。 *hotランキング14位行きました!お読みいただき&お気に入り登録していただきまして、本当にありがとうございます!

転生したので推し活をしていたら、推しに溺愛されました。

ラム猫
恋愛
 異世界に転生した|天音《あまね》ことアメリーは、ある日、この世界が前世で熱狂的に遊んでいた乙女ゲームの世界であることに気が付く。  『煌めく騎士と甘い夜』の攻略対象の一人、騎士団長シオン・アルカス。アメリーは、彼の大ファンだった。彼女は喜びで飛び上がり、推し活と称してこっそりと彼に贈り物をするようになる。  しかしその行為は推しの目につき、彼に興味と執着を抱かれるようになったのだった。正体がばれてからは、あろうことか美しい彼の側でお世話係のような役割を担うことになる。  彼女は推しのためならばと奮闘するが、なぜか彼は彼女に甘い言葉を囁いてくるようになり……。 ※この作品は、『小説家になろう』様『カクヨム』様にも投稿しています。

身代わり令嬢、恋した公爵に真実を伝えて去ろうとしたら、絡めとられる(ごめんなさぁぁぁぁい!あなたの本当の婚約者は、私の姉です)

柳葉うら
恋愛
(ごめんなさぁぁぁぁい!) 辺境伯令嬢のウィルマは心の中で土下座した。 結婚が嫌で家出した姉の身代わりをして、誰もが羨むような素敵な公爵様の婚約者として会ったのだが、公爵あまりにも良い人すぎて、申し訳なくて仕方がないのだ。 正直者で面食いな身代わり令嬢と、そんな令嬢のことが実は昔から好きだった策士なヒーローがドタバタとするお話です。 さくっと読んでいただけるかと思います。

これで、私も自由になれます

たくわん
恋愛
社交界で「地味で会話がつまらない」と評判のエリザベート・フォン・リヒテンシュタイン。婚約者である公爵家の長男アレクサンダーから、舞踏会の場で突然婚約破棄を告げられる。理由は「華やかで魅力的な」子爵令嬢ソフィアとの恋。エリザベートは静かに受け入れ、社交界の噂話の的になる。

見た目は子供、頭脳は大人。 公爵令嬢セリカ

しおしお
恋愛
四歳で婚約破棄された“天才幼女”―― 今や、彼女を妻にしたいと王子が三人。 そして隣国の国王まで参戦!? 史上最大の婿取り争奪戦が始まる。 リュミエール王国の公爵令嬢セリカ・ディオールは、幼い頃に王家から婚約破棄された。 理由はただひとつ。 > 「幼すぎて才能がない」 ――だが、それは歴史に残る大失策となる。 成長したセリカは、領地を空前の繁栄へ導いた“天才”として王国中から称賛される存在に。 灌漑改革、交易路の再建、魔物被害の根絶…… 彼女の功績は、王族すら遠く及ばないほど。 その名声を聞きつけ、王家はざわついた。 「セリカに婿を取らせる」 父であるディオール公爵がそう発表した瞬間―― なんと、三人の王子が同時に立候補。 ・冷静沈着な第一王子アコード ・誠実温和な第二王子セドリック ・策略家で負けず嫌いの第三王子シビック 王宮は“セリカ争奪戦”の様相を呈し、 王子たちは互いの足を引っ張り合う始末。 しかし、混乱は国内だけでは終わらなかった。 セリカの名声は国境を越え、 ついには隣国の―― 国王まで本人と結婚したいと求婚してくる。 「天才で可愛くて領地ごと嫁げる?  そんな逸材、逃す手はない!」 国家の威信を賭けた婿争奪戦は、ついに“国VS国”の大騒動へ。 当の本人であるセリカはというと―― 「わたし、お嫁に行くより……お昼寝のほうが好きなんですの」 王家が焦り、隣国がざわめき、世界が動く。 しかしセリカだけはマイペースにスイーツを作り、お昼寝し、領地を救い続ける。 これは―― 婚約破棄された天才令嬢が、 王国どころか国家間の争奪戦を巻き起こしながら 自由奔放に世界を変えてしまう物語。

溺愛王子の甘すぎる花嫁~悪役令嬢を追放したら、毎日が新婚初夜になりました~

紅葉山参
恋愛
侯爵令嬢リーシャは、婚約者である第一王子ビヨンド様との結婚を心から待ち望んでいた。けれど、その幸福な未来を妬む者もいた。それが、リーシャの控えめな立場を馬鹿にし、王子を我が物にしようと画策した悪役令嬢ユーリーだった。 ある夜会で、ユーリーはビヨンド様の気を引こうと、リーシャを罠にかける。しかし、あなたの王子は、そんなつまらない小細工に騙されるほど愚かではなかった。愛するリーシャを信じ、王子はユーリーを即座に糾弾し、国外追放という厳しい処分を下す。 邪魔者が消え去った後、リーシャとビヨンド様の甘美な新婚生活が始まる。彼は、人前では厳格な王子として振る舞うけれど、私と二人きりになると、とろけるような甘さでリーシャを愛し尽くしてくれるの。 「私の可愛い妻よ、きみなしの人生なんて考えられない」 そう囁くビヨンド様に、私リーシャもまた、心も身体も預けてしまう。これは、障害が取り除かれたことで、むしろ加速度的に深まる、世界一甘くて幸せな夫婦の溺愛物語。新婚の王子妃として、私は彼の、そして王国の「最愛」として、毎日を幸福に満たされて生きていきます。

好きすぎます!※殿下ではなく、殿下の騎獣が

和島逆
恋愛
「ずっと……お慕い申し上げておりました」 エヴェリーナは伯爵令嬢でありながら、飛空騎士団の騎獣世話係を目指す。たとえ思いが叶わずとも、大好きな相手の側にいるために。 けれど騎士団長であり王弟でもあるジェラルドは、自他ともに認める女嫌い。エヴェリーナの告白を冷たく切り捨てる。 「エヴェリーナ嬢。あいにくだが」 「心よりお慕いしております。大好きなのです。殿下の騎獣──……ライオネル様のことが!」 ──エヴェリーナのお目当ては、ジェラルドではなく獅子の騎獣ライオネルだったのだ。

美人同僚のおまけとして異世界召喚された私、無能扱いされ王城から追い出される。私の才能を見出してくれた魔王様と一緒に田舎でのんびりスローライフ

さら
恋愛
 美人な同僚・麗奈と一緒に異世界へ召喚された私――佐伯由香。  麗奈は「光の聖女」として王に称えられるけれど、私は“おまけ”扱い。  鑑定の結果は《才能なし》、そしてあっという間に王城を追い出されました。  行くあてもなく途方に暮れていたその時、声をかけてくれたのは――  人間に紛れて暮らす、黒髪の青年。  後に“元・魔王”と知ることになる彼、ルゼルでした。  彼に連れられて辿り着いたのは、魔王領の片田舎・フィリア村。  湖と森に囲まれた小さな村で、私は彼の「家政婦」として働き始めます。  掃除、洗濯、料理……ただの庶民スキルばかりなのに、村の人たちは驚くほど喜んでくれて。  「無能」なんて言われたけれど、ここでは“必要とされている”――  その事実が、私の心をゆっくりと満たしていきました。  やがて、村の危機をきっかけに、私の“看板の文字”が人々を守る力を発揮しはじめます。  争わずに、傷つけずに、人をつなぐ“言葉の魔法”。  そんな小さな力を信じてくれるルゼルとともに、私はこの村で生きていくことを決めました。

処理中です...