八咫烏 〜神になるか、人として戦うか〜

秀零

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第69話 過去への扉

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目を開けた瞬間、胸の奥がずしりと重く沈んでいた。
夢だと分かっているのに、夢だとは思えない現実味。あの声の温度も、言葉の重みも、まだ消えない。

「……天禰さん……」

口の中で名前を転がしただけで、胸が熱くなる。天禰さんが語ってくれた。
神界の仕組み……語りかけて飲み込んだ言葉、その先を語ることなく、夢は途切れてしまった。

知りたい。もっと⸺。
一体何があったのか、どうして……命を落としたのか。それを知らなければ、知らなきゃいけない気がする。

布団の端を握りしめる。
その震えが、自分のものなのか、夢に引きずられた感情なのか、分からなかった。

(でも……聞いてしまったら……紫苑さん)

紫苑さんと天禰さんの間に何があったのか……。
知りたい……でも知りたくない。
胸の奥で、恐れと渇望がせめぎ合っていた。

そのとき、不意に部屋のドアがノックされた。
低く落ち着いた声が、私を現実へ引き戻す。

「天音、起きているか」

紫苑さんの声だった。

「あ、はい」
軽く身支度を整えてドアを開ける。

「どうしましたか? 何かありましたか?」
「いや、新たな任務だ……準備を整えたら会議室に来い」

それだけ言うと、紫苑さんは来た道を引き返して行った。
その背中を見送りながら、心臓が早鐘のように打つ。期待と不安が入り混じり、胸が締めつけられる。

支度を整え、急ぎ会議室へ向かった。

「……失礼します」
「遅いわよ」
「おはよう、天音ちゃん」
「……」

会議室に入ると、紫苑さんの他に桔梗さん、千歳さん、八雲さんが集まっていた。
紫苑さんの前に立ち、言葉を待つ。胸の奥がざわつき、落ち着かない。
けれど今は、そのざわめきが違う意味を持っていた。

「天音」

低く響くその声に、私は自然と背筋を正した。
八咫烏の頭領として、命令を告げるときの紫苑さんの声音。
その場の空気に、重みがみなぎっている。

「次の任務は――お前自身の過去に関わる」

「……え?」
思わず声が漏れた。過去? 私の?

「八咫の神の準備、ようやく整った。父親を救え。同行は桔梗、八雲、千歳だ」

言葉の意味を理解した瞬間、全身が震えた。
心臓が跳ね、頭の中で何度も反芻する。

――父を、救える?
――あの日を、やり直せる?

「……っ」
込み上げてくる熱を必死に堪え、拳を握りしめる。
八咫烏としての任務であるはずなのに、心の奥ではただの“娘”として叫びたかった。

やっと……やっとだ。
やっと、父を救える。
これまで何度も夢に見た願いが、現実のものになる。

桔梗さん、八雲さん、千歳さん――三人の顔が頭に浮かぶ。
冷静で頼れる桔梗、無口だけど頼もしい八雲、優しく未来を示してくれる千歳。
三人が一緒なら、心細くない。むしろ力強い。

「必ず――必ず、父を助けてみせます」

その誓いは、八咫烏としての覚悟であり、私自身の切なる祈りでもあった。
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