八咫烏 〜神になるか、人として戦うか〜

秀零

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第73話 覚悟の一歩

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鋼がぶつかり合う甲高い音が、耳をつんざいた。
私は必死に刀を振るい、迫りくる敵の斬撃を受け止める。けれど、重すぎる。足が押し返され、地面を削りながら後退してしまった。

「くッ……!」
隣で八雲さんの息が荒くなる。
どれだけ切り結んでも、相手は揺るがない。まるで闇そのものが私たちを押し潰してくるみたいだ。

背後では、桔梗さんと千歳さんが援護してくれていた。
けど、それも一瞬で崩れた。

鋭い斬撃が千歳さんの胸を深く裂いた。

「千歳さんッ!」

血があふれ、彼女の身体が崩れ落ちる。桔梗さんが結界を張りながら必死に抱き上げた。

「……っ、息はある。だけど、このままじゃ……!」
「私が連れていく! ここじゃ応急処置すらできない!」

私と八雲さんが必死に敵を押し返し、道を作る。
桔梗さんは振り返らず、千歳さんを抱えて駆けていった。

「必ず戻る……それまで持たせなさいよ!」

戦場に残ったのは、私と八雲さん。二人だけ。

「……二人か」
八雲さんの双剣が再び構えられる。けど、次の瞬間――。

「ぐっ……!」

敵の斬撃が八雲さんの左腕を深く切り裂いた。鮮血が飛び散り、彼は膝をつきかける。
私は慌てて彼の体を支えた。

「八雲さん!」

必死に刀で攻撃を受け流しながら、八雲さんを影に隠す。
彼の声は冷静だけど、苦しさを隠せていなかった。

「……撤退だ。今は勝ち目がない」

撤退……?
そんなことをしたら、全員やられてしまう。

「ダメです。このままじゃ、逃げることすらできません!」

八雲さんの視線が、鋭く私を射抜いた。
「天音……何をする気だ」

私は刀を握り直す。震える指を、強く押さえつけた。
恐怖よりも胸を満たしているのは、ただひとつ。

(……パパを、救うんだ……!)

「私が抑えます。その間に、態勢を整えてください」

まっすぐに八雲さんを見返した。
その瞳がわずかに揺れるのがわかった。

私は一歩、前に踏み出す。
刀の刃が月明かりを受け、光を帯びたように見えた――。
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