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第99話 言えない言葉、言うべき時
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夜の廊下は、昼間よりずっと長く感じた。
足音がやけに響いて、胸の奥がざわざわする。
さっきまで紫苑さんと同じ部屋にいたのに、もう会えないみたいで――寂しい。
(……言えなかった……また……)
あの時の紫苑さんの指先の温度、寂しそうに揺れた瞳。
思い出すたび、胸がぎゅっと痛む。
「私……何やってるんだろ……」
ぽつりと呟くと、涙がこぼれそうになった。
部屋には戻れず、気づけば中庭に出ていた。
夜風が冷たくて、頬を刺す感覚が心地よかった。
「……紫苑さん……」
名前を呟いた瞬間、胸が苦しくなる。
何度も呼びたいのに、呼べば呼ぶほど遠ざかってしまう気がした。
――その時。
『天音』
耳の奥で、あの声が響いた。
心臓が跳ねる。私は反射的に周囲を見回した。
「天禰さん……?」
『天音は、怖いんだね……真実を告げるのが』
その言葉に、心の奥の一番隠していた部分が暴かれた気がして、息が止まった。
「……怖いです……言ったら……紫苑さんはきっと、天禰さんのことを見る……
“私”じゃなく、“前世の私”を……」
声が震え、涙がにじむ。
口にした瞬間、自分がどれだけそのことを恐れていたのか思い知らされる。
『紫苑は今の天音を見てる。天禰としてではなく、天音として』
天禰の声は穏やかで、包み込むように優しかった。
母親のような、懐かしい温かさが胸に広がる。
『けれど、真実を隠したままでは……いずれ紫苑との繋がりが切れてしまうかもしれない』
胸の奥で何かが崩れた。
私は両手で顔を覆い、声を殺して泣いた。
(紫苑さんに嫌われたくない……でも、隠したままの私も嫌い……)
「……どうしたらいいの……」
『怖がってもいい。けれど、逃げないで。紫苑は、お前の言葉を待っている』
夜空を見上げると、星が一つ瞬いた。
それが合図のように、涙が止まる。
「天禰さん……教えてください。前世で何があったのか……全部」
決意を込めて唇を噛みしめる。
胸の奥の重りが少しだけ軽くなった気がした。
ふと、背後に気配を感じた。
振り向くと、廊下の奥に紫苑さんの影が立っている。
その視線が、静かに私を見つめていた。
「……紫苑さん……?」
一歩近づいた彼は、何も言わずに私の肩にそっと手を置いた。
指先から、じんわりと温かさが広がる。
「……休め。今夜は冷える」
低い声が、やさしかった。
その声音に、責める気配はなく、ただ私を案じる気持ちがにじんでいた。
返事もできず、私はただ頷いた。
紫苑さんが部屋へと歩いていく後ろ姿を見送りながら、胸の奥で決意がさらに強くなる。
『天音、貴方に全てを教える時がきたのかもしれない』
夜明けが近い。
私の心にも、ようやく光が差し始めた気がした。
足音がやけに響いて、胸の奥がざわざわする。
さっきまで紫苑さんと同じ部屋にいたのに、もう会えないみたいで――寂しい。
(……言えなかった……また……)
あの時の紫苑さんの指先の温度、寂しそうに揺れた瞳。
思い出すたび、胸がぎゅっと痛む。
「私……何やってるんだろ……」
ぽつりと呟くと、涙がこぼれそうになった。
部屋には戻れず、気づけば中庭に出ていた。
夜風が冷たくて、頬を刺す感覚が心地よかった。
「……紫苑さん……」
名前を呟いた瞬間、胸が苦しくなる。
何度も呼びたいのに、呼べば呼ぶほど遠ざかってしまう気がした。
――その時。
『天音』
耳の奥で、あの声が響いた。
心臓が跳ねる。私は反射的に周囲を見回した。
「天禰さん……?」
『天音は、怖いんだね……真実を告げるのが』
その言葉に、心の奥の一番隠していた部分が暴かれた気がして、息が止まった。
「……怖いです……言ったら……紫苑さんはきっと、天禰さんのことを見る……
“私”じゃなく、“前世の私”を……」
声が震え、涙がにじむ。
口にした瞬間、自分がどれだけそのことを恐れていたのか思い知らされる。
『紫苑は今の天音を見てる。天禰としてではなく、天音として』
天禰の声は穏やかで、包み込むように優しかった。
母親のような、懐かしい温かさが胸に広がる。
『けれど、真実を隠したままでは……いずれ紫苑との繋がりが切れてしまうかもしれない』
胸の奥で何かが崩れた。
私は両手で顔を覆い、声を殺して泣いた。
(紫苑さんに嫌われたくない……でも、隠したままの私も嫌い……)
「……どうしたらいいの……」
『怖がってもいい。けれど、逃げないで。紫苑は、お前の言葉を待っている』
夜空を見上げると、星が一つ瞬いた。
それが合図のように、涙が止まる。
「天禰さん……教えてください。前世で何があったのか……全部」
決意を込めて唇を噛みしめる。
胸の奥の重りが少しだけ軽くなった気がした。
ふと、背後に気配を感じた。
振り向くと、廊下の奥に紫苑さんの影が立っている。
その視線が、静かに私を見つめていた。
「……紫苑さん……?」
一歩近づいた彼は、何も言わずに私の肩にそっと手を置いた。
指先から、じんわりと温かさが広がる。
「……休め。今夜は冷える」
低い声が、やさしかった。
その声音に、責める気配はなく、ただ私を案じる気持ちがにじんでいた。
返事もできず、私はただ頷いた。
紫苑さんが部屋へと歩いていく後ろ姿を見送りながら、胸の奥で決意がさらに強くなる。
『天音、貴方に全てを教える時がきたのかもしれない』
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私の心にも、ようやく光が差し始めた気がした。
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