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第100話 始まりの記憶
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部屋に戻ると、さっきまでの温もりが嘘のように静まり返っていた。
扉を閉めると、世界から音が消える。
胸の奥にぽっかりと穴があいたような感覚だけが残る。
(……紫苑さん……)
頭から離れない。
あの、寂しそうな瞳。
強がるように背を向けた広い背中。
(話さなきゃいけないのに……私は全てを知らない……こんな中途半端な私じゃ、紫苑さんの隣に立てない……)
頬に残る体温を両手で押さえ、ベッドに腰を下ろす。
呼吸がうまくできない。
心臓がうるさいほどに高鳴る。
「……私、どうしたらいいの……」
かすかな声は、誰にも届かず闇に溶けた。
深く息を吐き、ベッドに身を投げる。
天井を見上げながら、指先をぎゅっと握りしめた。
(私は、ただみんなを守りたいだけ……でも……この気持ちは何? 紫苑さんのことを考えると……怖いくらい胸が熱くなる……)
――やがて、瞼が重くなる。
眠気に抗えず、意識が沈んでいく。
……そして、夢の中。
目を開けると、そこはあの白い世界だった。
風も、音も、何もない。
けれど、なぜか心が落ち着く――懐かしい匂いのする場所。
「……天禰さん!」
駆け寄ると、彼女は穏やかな笑みで迎えた。
けれど、その瞳にはいつもより深い影が宿っている。
『また会えたね、天音』
「天禰さん……お願いです。教えてください。
私の前世……あなたが何をして、どうして追放されたのか……私が、何者なのか……全部知りたい」
必死に言葉を重ねると、天禰は静かに目を伏せる。
その横顔に、ためらいと痛みが交錯している。
『本当はね、少しずつ話していこうと思っていたの。
あなたの心が折れないように、ゆっくりと……』
小さく吐息をもらし、天禰は私をまっすぐ見つめる。
その瞳には、もう迷いはなかった。
『でも……最高神代理の動きがこれほど早いのなら、もう猶予はない。天音、あなたには知る権利がある。
そして……選ばなくてはならない時が来る』
選ぶ――その言葉が胸に重くのしかかる。
呼吸が止まりそうになるほど、鼓動が速くなる。
「……選ぶ……?」
『そう。前世の私が犯した“罪”を知れば、あなたは必ず迷う。
けれど――それでも立ち向かわなければならない。あなたは、この世界を揺るがす存在だから』
足元から、柔らかな光がじわじわと広がる。
光が肌を包み込み、心臓が早鐘のように打ち始める。
「……はい。聞かせてください。全部……!
私が何者なのか……自分で選べるようになるために!」
天禰はわずかに目を細め、微笑んだ。
『――なら、始めよう。あの日、私が神界で犯した“罪”の物語を』
光が一気に強まり、世界が白に塗りつぶされていく。
次の瞬間、視界がひらける。
黄金の光に満ちた都――天界。
そこに立つのは、今よりも少し大人びた私自身。
豪奢な衣をまとい、玉座の前に立つ姿。
(……これが……私の、前世……)
胸が震える。
物語が、始まる。
――続く。
扉を閉めると、世界から音が消える。
胸の奥にぽっかりと穴があいたような感覚だけが残る。
(……紫苑さん……)
頭から離れない。
あの、寂しそうな瞳。
強がるように背を向けた広い背中。
(話さなきゃいけないのに……私は全てを知らない……こんな中途半端な私じゃ、紫苑さんの隣に立てない……)
頬に残る体温を両手で押さえ、ベッドに腰を下ろす。
呼吸がうまくできない。
心臓がうるさいほどに高鳴る。
「……私、どうしたらいいの……」
かすかな声は、誰にも届かず闇に溶けた。
深く息を吐き、ベッドに身を投げる。
天井を見上げながら、指先をぎゅっと握りしめた。
(私は、ただみんなを守りたいだけ……でも……この気持ちは何? 紫苑さんのことを考えると……怖いくらい胸が熱くなる……)
――やがて、瞼が重くなる。
眠気に抗えず、意識が沈んでいく。
……そして、夢の中。
目を開けると、そこはあの白い世界だった。
風も、音も、何もない。
けれど、なぜか心が落ち着く――懐かしい匂いのする場所。
「……天禰さん!」
駆け寄ると、彼女は穏やかな笑みで迎えた。
けれど、その瞳にはいつもより深い影が宿っている。
『また会えたね、天音』
「天禰さん……お願いです。教えてください。
私の前世……あなたが何をして、どうして追放されたのか……私が、何者なのか……全部知りたい」
必死に言葉を重ねると、天禰は静かに目を伏せる。
その横顔に、ためらいと痛みが交錯している。
『本当はね、少しずつ話していこうと思っていたの。
あなたの心が折れないように、ゆっくりと……』
小さく吐息をもらし、天禰は私をまっすぐ見つめる。
その瞳には、もう迷いはなかった。
『でも……最高神代理の動きがこれほど早いのなら、もう猶予はない。天音、あなたには知る権利がある。
そして……選ばなくてはならない時が来る』
選ぶ――その言葉が胸に重くのしかかる。
呼吸が止まりそうになるほど、鼓動が速くなる。
「……選ぶ……?」
『そう。前世の私が犯した“罪”を知れば、あなたは必ず迷う。
けれど――それでも立ち向かわなければならない。あなたは、この世界を揺るがす存在だから』
足元から、柔らかな光がじわじわと広がる。
光が肌を包み込み、心臓が早鐘のように打ち始める。
「……はい。聞かせてください。全部……!
私が何者なのか……自分で選べるようになるために!」
天禰はわずかに目を細め、微笑んだ。
『――なら、始めよう。あの日、私が神界で犯した“罪”の物語を』
光が一気に強まり、世界が白に塗りつぶされていく。
次の瞬間、視界がひらける。
黄金の光に満ちた都――天界。
そこに立つのは、今よりも少し大人びた私自身。
豪奢な衣をまとい、玉座の前に立つ姿。
(……これが……私の、前世……)
胸が震える。
物語が、始まる。
――続く。
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