八咫烏 〜神になるか、人として戦うか〜

秀零

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第35話 冷たい夢、温かい現実

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気がつけば、病室の天井をぼんやりと見つめていた。

(……ここ……病室?)

瞼を閉じるたびに、あの赤い瞳が浮かぶ。
喉の奥がきゅっと締め付けられる。

──怖い。

視界の端で動く影に気づいて、ゆっくりと顔を向ける。

「……紫苑さん……」

ベッド脇の椅子に座っていた紫苑さんは、静かに目を細めた。

「……起きたか。」

その声を聞くだけで、心臓が落ち着いていく。
怖い夢を見た後の、幼い子供みたいに。

「……ごめんなさい……」

何がごめんなのか、自分でも分からない。
でも、言わずにはいられなかった。

紫苑さんは黙ったまま、私の頬に手を伸ばす。
冷たい指先が、優しく触れる。

(……あったかい……)

冷たいはずなのに、安心する。
涙がにじみそうになって、慌てて瞬きをした。

「……無理はするな。」

低く響く声が、胸の奥まで染み込んでいく。
その言葉だけで、少しだけ、呼吸が楽になった。

その手が離れないでほしいと、思ってしまった。
もし今ここで一人だったら──私はきっと、泣き崩れていた。

──その時。

「やっほー、天音ちゃん!」

元気な声とともに、病室の扉が勢いよく開いた。

「お、おい水輝!静かに入れって……」

続いて入ってきた一鉄さんが呆れた声を出す。

「だってよー、天音ちゃん起きてるって聞いたらさ!顔見に来ないわけないっしょ?」

水輝さんはニカッと笑い、私のベッド脇まで駆け寄る。

「調子はどう?痛いとこない?」

「……あ……大丈夫、です……」

思わず笑みが零れる。
水輝さんの明るさが、張り詰めていた空気をふわりと緩めた。
「全然、タメ口でいいよ!俺の事は水輝って呼んで!」
「うるさいわよ水輝、怪我の様子はどう?」

絢華さんがため息混じりに言いながらも、そっと私の頭を撫でる。

「でも……よかった。無事で……本当に……」

「……ありがとうございます……」

「ふふっ。元気そうでよかった。」

凛子さんも、ほっとしたように笑った。

「元気ならそれでいいわ。」

桔梗さんはそっぽを向きながらも、小さく呟く。

「ありがとう……ございます……」

胸の奥がじんわりと温かくなる。

(……みんな……)

この人たちがいるから、私はまだここにいられる。

怖い夢も、消えそうな自分も、全部……。

その時、紫苑さんの手が私の髪をそっと撫でた。

「……大丈夫だ。」

低く優しい声が響く。
その言葉に、胸の奥が少しだけ軽くなる⸺。

(……私……大丈夫……きっと……皆が居てくれるから……)

そう思えたのは、皆がいてくれるからだと、私は強く感じていた。
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