祷雨(とうう)の巫女はまだ決断できない~雨は祈りか、絶望か~

カノンみわ

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第3話 異世界へ行く覚悟

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「龍に抵抗ないですか?」



突然の突拍子のない質問に、私は思考が停止してしまった。

「龍…ですか?」

私の質問に、その女性は淡々と表情を変えずに言葉を続けた。

「はい。求人票にも、仕事は龍の世話と書いてあったはずですので、一応の確認です」

まるで「猫カフェで猫の世話をできますか?」と言われているかのような口調だった。

この女性は年齢は30代後半くらいに見える、クールな雰囲気の女性だった。

メガネをかけ、軽い癖のあるショートカットでパンツスーツをビシッと着こなしている。

そんないかにもやり手な感じの女性から、当たり前のように龍と言う言葉が出る違和感を感じつつも、私は一生懸命答えた。

「龍は、正直見たことがないので分からないです。動物は好きなので抵抗は少ないと思いますが、今はこれ以上は何とも言えません」

正直に答えると、女性は表情を変えないまま、少し考えたような間を取って話を続けた。

「そうでしょうね。徐々に慣れていっていただければと思います。率直に申し上げますと、恐らく早川さんは採用になると思います。
細かな契約は書面で取り交わすことになると思いますが、それに応じていただければ、私と異世界カーランティに行っていただくことになると思います」

やっぱり異世界へ行くんだ…!

「あなたも行かれるんですか?」

思わず聞き返すと、女性はうなずいた。

「はい、今回のプロジェクトは、日本の国益に大きく関わるものですので」

「国益?あの、あなたは一体…」

「申し遅れました。外務省・国際安全保障政策課、課長補佐をしております、斎藤さいとうと申します」

「外務省!?」

日本の国益だの外務省だの思わぬ言葉が出てきて、私は頭がついていけなくなっていた。

五菱は日本屈指の大企業だけど、今回の求人にまさか国まで絡んでたとは。

「あの、国益って何ですか。私は何をすればいいんでしょうか?」

不安になりながら尋ねると、斎藤さんは事も無げに言った。

「詳細はそのうちお分かりになると思います。ただ…」

感情の読めない目で見つめられる。

「国の重要なプロジェクトですので、口外は厳禁です」

それでは、と軽く会釈をされ、斎藤さんは部屋に戻っていった。


取り残された私は、またも思考が追い付かず呆然としていた。

国益とか外務省とか言われたけど、もしかしてこれはとんでもないことに関わろうとしてるんじゃないだろうか。

そう考えると、とても怖い。

でも今のままだとまた仕事も見つからず、不安で孤独な日々に戻るだけだ。

どんなに企業に履歴書を送ってもお祈りメールばかりが返ってくる、あのやりきれない日々。

今回の仕事は半年契約とはいえ、あの報酬は大きい。

少なくとも国が絡んでるなら犯罪などではないはずだし、身の安全も雇用条件も守られるはず。

逆にこれ以上、安心な仕事はないかもしれない。

そう思った私は翌日の採用の連絡を受け、改めて条件の再確認を行い契約書にサインをした。

そうして私は半年間、異世界カーランティで働くことが決まった。


────────────────────


異世界カーランティに行くことになり契約書を交わしたことで、私の覚悟も決まっていった。

異世界では住居と食事、身の安全は保証されるとのこと。
このあたりは国が絡んでいると、とても心強かった。

おまけにあまり考えが読めないけど、あの斎藤さんも同行してくれる。

あの人あまり悪い人じゃなさそうだし、いつか打ち解けられるかも。

そうやって自分を奮い立たせた。


カーランティへの出発は、1ヶ月後だと決まった。

ただひとつ気がかりだったことがあった。

ヒロミの親族顔合わせの食事会に、行けなくなることだ。

結婚は先を越されたけど、 私とヒロミは仲の良い姉妹だった。
おそらくヒロミも私に参加して欲しかったはずだ。
でもその時期に、私はカーランティに行くことになっている。

私はヒロミに時間をつくってもらい、食事会に参加できないことを謝った。

理由を聞かれたので、事前に斎藤さんたちと話を合わせていた通り、海外協力隊で某国で半年過ごすと伝えた。

電波状態が悪いので、多分連絡もできないとも。

ヒロミは大丈夫なのか不安そうだったけど、国が用意した契約書を見せると納得したようだった。

「お姉ちゃん、大変なお仕事だと思うけど頑張ってきて!待ってるから。来年のお式には参列してね」

ニコッと笑うヒロミの笑顔にホッとする。

私には、こうやって待っててくれる家族がいる。

この安心感のお陰で、私はここでようやく心のそこからカーランティに行くことを受け入れたのかもしれない。

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