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第5話 異世界で始まる日々
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「つきましたよ、異世界に」
斎藤さんの言葉が、静かに響いた。
真っ暗なトンネルの中を走ってたので目が慣れるのにしばらくかかったけど、徐々に周りが見えるようになってきた。
最初に感じたのは、草木の匂いだった。
湿った土と青葉の香りが、窓の隙間から車内に流れ込んでくる。
見慣れた山のようでいて、何かが違う――そんな不思議な感覚があった。
その山道を、車は進んでいった。
ボーッと窓の外を見ていたが、高坂さんは少し興奮気味に山の景色を見ていた。
「この辺はコナラやクヌギが多いな…このあたりは自然林か。あの声はキビタキかな。でも日本のとは少し声が違う気が…」
熱心に見ながら、何かぶつぶつ言っている。
そういえば、高坂さんは動物が好きみたいなことを言っていたな。
「高坂さんは動植物に詳しいんですか?」
私の問いに、高坂さんははっとこっちを見た。
「すいません、うるさかったですよね」
「あ、いえ、そうじゃなくて。興味深そうに見てるなと思って」
ちょっと照れたように、高坂さんは目を泳がせた。
「単に好きなだけです。田舎育ちなので、山にもよく行ってたので」
そんな話をしているうちに車はどんどん山道を降り、田畑みたいなものが広がっていった。
ポツポツと民家も見えてきたけど、家の感じも日本と変わらないし、道行く人の顔立ちも日本人似てアジアっぽい顔をしている。
そして徐々に建物が増え、通りすぎる車の数も通行人も増えていった。
本当に日本にそっくりだった。
そっくりなんだけど、違和感を感じるといえば少しタイムスリップしたような、ちょっと懐かしい雰囲気があった。
車の形もちょっとレトロな感じがするし、建物の雰囲気も素朴だ。
街の匂いも少し埃っぽい感じがする。
そろそろ街の中心部に入ってきたように感じるけど、高層ビルなどはなく、人も多くて活気に満ちてるけど都会独特のギラギラさがない。
街とはいえ地方都市かな?と思っていると、車はある門の前で止まった。
門番らしき人がやって来て、斎藤さんと何らかのやり取りをしたあと、門がゆっくり開いて車は敷地内へ入っていった。
すごくものものしい雰囲気だったけど、中は広々としていて立派な建物が点在している。
通っていた大学を思い出すな…と思っていたら、車はある建物の前で止まった。
「着きましたよ」
斎藤さんの言葉で、車を降りる。
そこには数人の男性が立っていて、にこやかに出迎えてくれた。
「ようこそ、シオガ国へ」
─────────────────────
出迎えてくれた男性は三人、真ん中の男性は40過ぎくらい、両側の男性は少し若く見えた。
まず目に入ったのが、その服だ。
まるで着物のように前を合わせ、帯を締めて羽織のようなものを着ており、下は袴のような物をはいている。
と言っても和服とそっくりと言うわけではなく、動きやすいようにアレンジされてるようで、アジアのどこかの民族衣裳のようにも見えた。
おまけに、三人とも長髪だった。
それぞれがくくったり纏めたりはしていたけど、こだわりのアクセサリーをつけてるようだ。
それがおしゃれなのか、何らかの意味があるのかは分からなかったけれど。
「斎藤さん、今回もよろしくお願いいたします」
「こちらこそお願いいたします。紹介しますね。こちらの女性が早川アユミさん、男性が高坂タケルさんです。早川さん、高坂さん、こちらはシオガ国の総務庁監督官、リョウガさんです」
私と高坂さんは慌てて頭を下げ、挨拶をした。
このシオガ国の人たち、今のところ言葉も全く問題ないし、本当に日本に似ている…と思っていたところ、高坂さんが
「初めまして!高坂タケルです。こういうところは初めてなんですが、精一杯頑張ります。よろしくお願いします!」
と、リョウガさんたちに例の人懐こい満面の笑みを見せた。
相変わらずぐいぐい行く人だな…と思ったけど、リョウガさんはそれをスルーして
「あなたがアユミさんですか」
と私に声をかけてきた。
え?と思いながら見上げると、ジーッと私のことを見てくる。
その瞬間、リョウガさんの瞳がふっと色を変えたように見えた。
それまでのにこやかさが、ほんの一瞬だけ消えた気がして――
「あなたにはとても期待しています。是非ご活躍いただきたい」
「私が、ですか?」
心臓がドクンと鳴る。
「はい、あなたをずっと待っていました」
リョウガさんの視線に、何か大きなものに巻き込まれる予感がした。
斎藤さんの言葉が、静かに響いた。
真っ暗なトンネルの中を走ってたので目が慣れるのにしばらくかかったけど、徐々に周りが見えるようになってきた。
最初に感じたのは、草木の匂いだった。
湿った土と青葉の香りが、窓の隙間から車内に流れ込んでくる。
見慣れた山のようでいて、何かが違う――そんな不思議な感覚があった。
その山道を、車は進んでいった。
ボーッと窓の外を見ていたが、高坂さんは少し興奮気味に山の景色を見ていた。
「この辺はコナラやクヌギが多いな…このあたりは自然林か。あの声はキビタキかな。でも日本のとは少し声が違う気が…」
熱心に見ながら、何かぶつぶつ言っている。
そういえば、高坂さんは動物が好きみたいなことを言っていたな。
「高坂さんは動植物に詳しいんですか?」
私の問いに、高坂さんははっとこっちを見た。
「すいません、うるさかったですよね」
「あ、いえ、そうじゃなくて。興味深そうに見てるなと思って」
ちょっと照れたように、高坂さんは目を泳がせた。
「単に好きなだけです。田舎育ちなので、山にもよく行ってたので」
そんな話をしているうちに車はどんどん山道を降り、田畑みたいなものが広がっていった。
ポツポツと民家も見えてきたけど、家の感じも日本と変わらないし、道行く人の顔立ちも日本人似てアジアっぽい顔をしている。
そして徐々に建物が増え、通りすぎる車の数も通行人も増えていった。
本当に日本にそっくりだった。
そっくりなんだけど、違和感を感じるといえば少しタイムスリップしたような、ちょっと懐かしい雰囲気があった。
車の形もちょっとレトロな感じがするし、建物の雰囲気も素朴だ。
街の匂いも少し埃っぽい感じがする。
そろそろ街の中心部に入ってきたように感じるけど、高層ビルなどはなく、人も多くて活気に満ちてるけど都会独特のギラギラさがない。
街とはいえ地方都市かな?と思っていると、車はある門の前で止まった。
門番らしき人がやって来て、斎藤さんと何らかのやり取りをしたあと、門がゆっくり開いて車は敷地内へ入っていった。
すごくものものしい雰囲気だったけど、中は広々としていて立派な建物が点在している。
通っていた大学を思い出すな…と思っていたら、車はある建物の前で止まった。
「着きましたよ」
斎藤さんの言葉で、車を降りる。
そこには数人の男性が立っていて、にこやかに出迎えてくれた。
「ようこそ、シオガ国へ」
─────────────────────
出迎えてくれた男性は三人、真ん中の男性は40過ぎくらい、両側の男性は少し若く見えた。
まず目に入ったのが、その服だ。
まるで着物のように前を合わせ、帯を締めて羽織のようなものを着ており、下は袴のような物をはいている。
と言っても和服とそっくりと言うわけではなく、動きやすいようにアレンジされてるようで、アジアのどこかの民族衣裳のようにも見えた。
おまけに、三人とも長髪だった。
それぞれがくくったり纏めたりはしていたけど、こだわりのアクセサリーをつけてるようだ。
それがおしゃれなのか、何らかの意味があるのかは分からなかったけれど。
「斎藤さん、今回もよろしくお願いいたします」
「こちらこそお願いいたします。紹介しますね。こちらの女性が早川アユミさん、男性が高坂タケルさんです。早川さん、高坂さん、こちらはシオガ国の総務庁監督官、リョウガさんです」
私と高坂さんは慌てて頭を下げ、挨拶をした。
このシオガ国の人たち、今のところ言葉も全く問題ないし、本当に日本に似ている…と思っていたところ、高坂さんが
「初めまして!高坂タケルです。こういうところは初めてなんですが、精一杯頑張ります。よろしくお願いします!」
と、リョウガさんたちに例の人懐こい満面の笑みを見せた。
相変わらずぐいぐい行く人だな…と思ったけど、リョウガさんはそれをスルーして
「あなたがアユミさんですか」
と私に声をかけてきた。
え?と思いながら見上げると、ジーッと私のことを見てくる。
その瞬間、リョウガさんの瞳がふっと色を変えたように見えた。
それまでのにこやかさが、ほんの一瞬だけ消えた気がして――
「あなたにはとても期待しています。是非ご活躍いただきたい」
「私が、ですか?」
心臓がドクンと鳴る。
「はい、あなたをずっと待っていました」
リョウガさんの視線に、何か大きなものに巻き込まれる予感がした。
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