祷雨(とうう)の巫女はまだ決断できない~雨は祈りか、絶望か~

カノンみわ

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第22話 祈りと引き換えの命

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祷雨とううの儀式は龍の命と引き換えですよ」

想定外のセイランさんの言葉に、頭の中がフリーズする。

龍の命?

固まってる私をよそに、セイランさんは高坂さんに話しかけた。

「日本にも龍に雨を祈る儀式があるんですよね。初めての会議でおっしゃってたので」

話しかけられて高坂さんは、はっと我に返ったようだった。

「ああ、確かに龍神に雨乞いはしますけど。でも日本に龍はいないので、形だけの儀式です。実際に雨が降ると信じてる人は今はいないかと……」

「そうなんですね。でも日本にも龍神信仰があるのは知りませんでした。興味深いです」

「日本にも……?」

セイランさんは力強く頷いた。

「カーランティにも古くから龍神信仰があるんです。まさに龍は神の化身、本当は人間の都合で龍を操って雨を降らせるなんてしてはいけないんです。昔は祷雨による異常気象は神の怒りだと恐れていた時代もありましたし」

セイランさんは手にした古文書に目を落とした。

「先人たちがこうやって書き残してくれているのに、人はみんな記憶から薄れるとその危機意識がなくなる。そして同じ過ちを繰り返す。
せっかく祷雨が禁忌だと130年前に判断されたのに、また始めるなんて愚かでしかない」

「その古文書について、リョウガさんたちはどう思ってるんですか?」

「迷信扱いですよ。そんな昔の文献に信憑性なんかないと言う判断です」

高坂さんがわずかに首を振った。

「言い伝えや伝承は事実がベースになってることがほとんどです。それを軽んじていいはずがない」

「正直私も、なぜこの時機で祷雨を行うのか疑問です。確かにハウエンでは干ばつが起きている。でもあれくらいの異常気象は最近は珍しくない。
なのに3年前に、あの斎藤さんって人が祷雨復活の話を持ち込んできた。あの人、何を企んでるんですか?」

まっすぐな目で見つめられ、私たちも言葉につまった。

「それは、私たちにも分かりません。ただ干ばつが起きている国を助けるために、祷雨を行うとしか聞いてないので……」

「アユミさんは最近龍たちと交流が深まってるようですね。その龍を死なせられますか?」

「それは……」

メイリンを死なせる?せっかくあんなに心を開いてくれてるメイリンを……。

頭の中でいろんな感情が渦巻く。息ができない。

「ご、ごめんなさい。ちょっと外の空気を吸いたいのでいったん出ます……」

居たたまれなくなって、私はその場を離れた。


─────────────────────


やっとの思いで階段を上がり、通路の壁に背中を預けてズルズルとしゃがみこんだ。

ダメだ、何も考えられない。

清潔な水を口にできず苦しむ人たち。
それを救う祷雨にはメイリンの命が犠牲になる。
でもその雨は洪水という災害をもたらすかもしれない……。

何が正解なの?

ダメだ、頭がパンクしそうだ。




「大丈夫か?」

見上げると、高坂さんが心配そうにこちらを見下ろしていた。

「嫌だ……」

思わず私はそう呟いていた。

「メイリンを死なせるなんて嫌だ。祷雨なんかしたくない。そんなこと私にはできないよ」

高坂さんは大きく頷いた。

「今すぐ決めなくていいよ。この判断は責任が重すぎる。……とりあえず立てるか?」

手を差し出され、すがり付くように立ち上がる。

嫌だ。嫌だ。もう何も考えたくない。

頭の中はもう限界だった。


─────────────────────


高坂さんに送ってもらって、なんとか部屋に戻ってきた。

頭がガンガン痛い。
呼吸がうまくできなくて、まるで空気が薄い場所にいるみたいだった。

自分の部屋にいるのに現実味が全くなかった。


祷雨が龍の命と引き換えって、みんな知ってたんだよね?

リョウガさんも斎藤さんもケイドさんも。

その事を黙ってたのは、恐らく私が龍と関係を築くのに支障があると判断したからだろう。

儀式で犠牲になる命と分かってれば、私もここまで向き合うことはなかっただろうから。

理屈では分かるけど、なんだか裏切られたような気持ちが消えなかった。

私が楽しそうにメイリンの話をしてるのを、みんなどう思って聞いてたんだろうか。

なんだか誰も信じられなくなりそうだった。

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