祷雨(とうう)の巫女はまだ決断できない~雨は祈りか、絶望か~

カノンみわ

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第23話 逃げ場のない選択

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 次の日の天気は、曇り空だった。

雨が降ってるわけではないので龍合地へ行くのは問題ないんだけど、その日は改めて祷雨とううの関係者で会議をするとのことだった。
祷雨の予定日まで2週間を切っていたからだ。

龍合地へ行かなくていいと言うので少しホッとしていた。

今は、どんな気持ちでメイリンに向き合えばいいのか分からない。

でも、今日は祷雨を推進しようとしている人たちと集まらなければならない。

そっちは別の意味で気が重かった。


─────────────────────


例の会議室に集まる。

リョウガさんやケイドさんたち、そしてセイランさんも末席に控えていた。

こちらも斎藤さんと高坂さん、そして私、いつものメンバーだ。


リョウガさんが、話を始める。

「皆さん、お集まりいただきありがとうございます。祷雨の実行日まで、あと10日余りになりました。アユミさんは、メイリンとの関係が順調のようですね?」

突然話を振られ、ビクッと体が震える。

「は、はい。まあ、そこそこ……」

リョウガさんは、満足そうに頷いた。

「良かったです。そろそろ祷雨に向けて、メイリンにも準備を始めないといけないので」

そのまま話を続けようとしたリョウガさんに、私は思い切って声を上げた。

「あの」

その場にいた全員の視線が集まる。

「その、……祷雨を行う自信がありません」

シン……、と静まり返る室内。

ずっと下を向いていたセイランさんも、顔を上げてこっちを見ているのを感じた。

「……なぜですか?」

声をかけてきたのは、隣に座ってる斎藤さんだった。

恐る恐る斎藤さんの顔を見たが、相変わらず考えの読めない表情、でもその目はいつにもまして冷たさを感じた。

「その、……祷雨は洪水を起こしかねない危険があると聞きました。それに祷雨を行うのは、メイリンの命が引き換えになるんですよね? 私にはできません」

「だから、なぜですか?」

話の噛み合わなさに驚く。

「だって、命ですよ? 儀式のために命を犠牲にするなんて、私には無理です」

斎藤さんは軽くため息をつくと、少し目を細める。

「早川さん。この間、オイハルを食べましたよね?」

「……? …はい、食べましたけど……」

「オイハルは殺してもいいのに、龍はダメなんですか?」

「……!」

言葉につまる。

そんな私に、斎藤さんは畳み掛ける。

「そもそも人間は、他の生き物の命を犠牲にしないと生きていけないんですよ。オイハルと龍、命の線引きの基準はなんですか?」

頭が真っ白になり、思わず反対側の高坂さんを見る。

高坂さんも前を見たまま、眉根を寄せて無言だ。

室内は不気味なほどに静まり返った。


─────────────────────


オイハルと龍の命の線引き……

確かにどちらも同じ命だ。

あのとき私はオイハルをかわいいと思ったけど、その後に提供されたオイハルのタタキは完食した。

抵抗はないわけではなかったけど、ここで食べなかったらオイハルの命が無駄になると思ったからだ。

人間のために犠牲になるオイハル、そしてメイリン……

命の線引きの基準なんて、今まで突きつけられたこともなかった。

死なせたくないと思う命、死なせても仕方ないと思う命。

そこにどんな差があるんだろう。

私は頭がフリーズして、何も考えられなくなってしまった。





凍りついた室内のなか、突然扉が激しくノックされ、人が入ってくる。

「会議中失礼します。陛下がお見えです」

その言葉にリョウガさんやケイドさん、セイランさん、斎藤さんまでスッと起立した。

思わぬ展開に私と高坂さんが顔を見合わせていると、斎藤さんが鋭く「立ってください」と言った。

良く分からないまま立ち上がると、そこに数人の男性が次々と入ってきた。

その中を1人の60代くらいの男性が、ゆったりと入ってくる。

その隣にはもう1人、50代くらいの男性もいる。

60代の男性の方は、シオガの服であるアズミルを着ていた。

でも明らかに布の質も装飾も、私たちが着てるものとはけた違いに豪華だ。

その隣の男性もそれなりに着飾ってはいるけれど全体的に痩せており、なんだか疲れきってるように見える。

誰……? と思っていると、リョウガさんはスッと前に出て拝礼した。

「陛下、わざわざご足労いただき痛み入ります。ただいま黒龍祷雨こくりゅうとううについて最終調整を行っているところでございます」

すると陛下と呼ばれた60代の男性は、深く頷いた。

「リョウガ、頭を上げて良い。祷雨の巫女はおられるか?」

「はい、あちらに」

私の方を指し示す。

すると斎藤さんは、私たちに小声で言った。

「早川さん、あの方はシオガ国国王のウラジオ様です」

国王?

その男性は、こちらにゆっくりと近付いてきた。

回りのお着きの人たちもピリピリとしながらついてくる。

初対面だけど、ただならぬ威圧感とオーラを感じた。

これが、一国の主の存在感かもしれない。

慌てて頭を下げる。

「初めまして。シオガ国国王ウラジオです。この度は挨拶が遅れ、申し訳ありません。頭をお上げください」

おずおずと頭を上げる。

ウラジオ国王は、とても穏やかに微笑んでいた。

「あなたは祷雨の巫女として、かつてない可能性を秘めておられると聞いています。是非、祷雨を成功させてください」

「あ、あの……」

言葉につまっていると、ウラジオ国王は隣の50代くらいの男性を紹介した。

「こちらの方はハウエン国の国王、サーカップ様です。直々に祷雨のご依頼に来られました」

え?

予想外の展開に固まっていると、サーカップ国王は突然膝をついた。

深々と、ゆっくり頭を下げる。

ビックリしている私に、サーカップ国王は悲痛な声を上げた。

「祷雨の巫女様! このたびは、巫女様に直にお願いをする非礼をどうかお許しください。でも是非、祷雨を成功させてください。我が国はもう限界なんです」
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