祷雨(とうう)の巫女はまだ決断できない~雨は祈りか、絶望か~

カノンみわ

文字の大きさ
24 / 52

第24話 選んだ先に待つもの

しおりを挟む
「我が国はもう限界なんです」

突然現れたハウエン国のサーカップ国王は土下座し、悲痛な声を上げた。

慌てて私も膝をつき、サーカップ国王の目線まで頭を下げる。

「頭をお上げください。お話をお聞かせ願えませんか?」

32年生きてきて、こんなにも年上で、それも一国の王に頭を下げられるなんて、想像もしなかった。

どう振る舞えばいいのか分からなかったけど、精一杯向き合わなければならないと思った。

顔を上げこちらを見たサーカップ国王は、肌は渇ききり目の下にクマもできて、かなり憔悴してるように見えた。

それがハウエン国の現状を表してるようだった。

「巫女様、本当に突然申し訳ありません。我が国は元々肥沃で温暖な国でした。でも10年以上前から干ばつが深刻化し、もう3年以上1滴も雨が降っていません。田畑ももう荒れ果ててしまっているし、子供も高齢者も生きているのがギリギリです。このままでは我が国は……」

サーカップ国王は言葉につまり、また深々と頭を下げる。

そのサーカップ国王の、わずかに震えてる後頭部を見つめていた。



私は……


私は、どうしたらいいのか。



「……分かりました」



静かに呟いたつもりだったけど、その声は思いのほか部屋中に響いた。



「……祷雨とううを行います」



─────────────────────


私の言葉にバッと顔を上げたサーカップ国王は、疲れきった顔からようやく目に光が宿ったみたいだった。

少し泣いているようにも見える。

「ありがとうございます!」

「……でも、大丈夫なんでしょうか。祷雨は洪水を起こす危険性もあるそうですが」

「今は、その起こるか分からない災害より1滴の水が必要なんです。雨さえ降れば、国民は生きていけます」

ありがとうございます、とまた深々とサーカップ国王は頭を下げた。

どこか冷静になった私は、このサーカップ国王は国民に愛されてる国王なんだろうなと思った。

国民のためとはいえ、ただの民間人に頭を下げられる国のトップなんて、どれだけいるだろう。


それを見ていたウラジオ国王がサーカップ国王の肩を抱き、立ち上がらせた。

「ご存じのとおり、祷雨の成功率は高くありません。でもシオガは全力で貴国を助けます。一緒に頑張りましょう」

サーカップ国王は小さく「はい……」と呟いた。

そのまま二人の国王と、お着きの人たちは静かに退室していった。


残された私たちに、リョウガさんが静かに言った。

「アユミさん、本当に祷雨を行いますか?」


私はグッと歯を食いしばったあと、はい、と答えた。


「私はハウエン国を助けます」


─────────────────────


私の言葉を受け、祷雨までの具体的なスケジュールが組まれていった。

まずは、メイリンに祷雨の龍として巫女である私と契約を交わすこと。

ハウエン国は飛行機で8時間はかかる距離にあるそうだが、メイリンには自力でハウエンまで飛んでいってもらう。

龍はそんなに早く長く飛べないらしいので、祷雨実行日の5日前にはメイリンにハウエンへ移動を開始してもらうことになった。

会議の最後に、リョウガさんが穏やかに付け加えた。

「祷雨による局地的な洪水の危険性は、現地の治水技術でほぼ問題ないと、我が国の気象学者の大家、カレイ博士も仰ってます。アユミさんは祷雨を成功させることだけ考えてくだされば、問題ないです」



大体のこれからの動きが決まり、会議が解散になって会議室を出ると、通路でセイランさんと目があった。

セイランさんはいつになく険しい顔をして、私を睨んでくる。
まるで「あなたは本当にそれでいいの?」と問いかけてくるような目だった。


その視線に、私は居たたまれなくなって顔を背けた。

私だってメイリンを死なせたくない。

でも斎藤さんの言うとおり、人間の生活は他の生き物の命を犠牲にして成り立っている。

何が正解かは分からない。

でも私は、あんなに苦しんでいるハウエンの人たちを、そしてサーカップ国王を切り捨てることなんてできなかった。


────────────────────


宿泊舎へ足取りも重く帰っていく。

すると無言で隣を歩いていた高坂さんが、静かに口を開いた。

「俺は、早川さんの判断を支持する」

ゆっくり顔を上げて高坂さんを見ると、高坂さんはいつもの人懐こい笑顔を見せた。
いや、いつもよりは少し元気がなさそうにも見えたけど。

「ハウエンの人たちの命、メイリンの命、どっちが尊いかなんて誰にも分からない。でも早川さんは覚悟をもって決めたんだろ?どっちが正しいかなんて誰にも分かんないよ。でも、自分で決めて引き受けたなら、それはすごく強いことだと思う」

高坂さんの言葉は温かかった。


でも私の心は、重く沈んだままだった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

短編)どうぞ、勝手に滅んでください。

黑野羊
恋愛
二度も捨てられた聖女です。真実の愛を見つけたので、国は救いません。 あらすじ) 大陸中央にあるルオーゴ王国で、国を守る結界を維持してきた聖女ロザリア。 政略のため王太子と婚約していた彼女は、突如『真の聖女』が現れたとして婚約を破棄され、聖女の座を追われてしまう。さらに、代わりに婚姻しろと命じられた聖騎士からも拒絶され、実家にも見捨てられたロザリアは、『最果ての修道院』へと追放された。 けれど彼女はそこで、地位や栄光、贅沢などとはほど遠い、無条件に寄り添ってくれる『真実の愛』と穏やかな日々を手にいれる。 やがて聖女を失った王国は、崩壊へ向かっていき――。 ーーー ※カクヨム、なろうにも掲載しています

サレ妻の娘なので、母の敵にざまぁします

二階堂まりい
大衆娯楽
大衆娯楽部門最高記録1位! ※この物語はフィクションです 流行のサレ妻ものを眺めていて、私ならどうする? と思ったので、短編でしたためてみました。 当方未婚なので、妻目線ではなく娘目線で失礼します。

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

アロマおたくは銀鷹卿の羽根の中。~召喚されたらいきなり血みどろになったけど、知識を生かして楽しく暮らします!

古森真朝
ファンタジー
大学生の理咲(りさ)はある日、同期生・星蘭(せいら)の巻き添えで異世界に転移させられる。その際の着地にミスって頭を打ち、いきなり流血沙汰という散々な目に遭った……が、その場に居合わせた騎士・ノルベルトに助けられ、どうにか事なきを得る。 怪我をした理咲の行動にいたく感心したという彼は、若くして近衛騎士隊を任される通称『銀鷹卿』。長身でガタイが良い上に銀髪蒼眼、整った容姿ながらやたらと威圧感のある彼だが、実は仲間想いで少々不器用、ついでに万年肩凝り頭痛持ちという、微笑ましい一面も持っていた。 世話になったお礼に、理咲の持ち込んだ趣味グッズでアロマテラピーをしたところ、何故か立ちどころに不調が癒えてしまう。その後に試したノルベルトの部下たちも同様で、ここに来て『じゃない方』の召喚者と思われた理咲の特技が判明することに。 『この世界、アロマテラピーがめっっっっちゃ効くんだけど!?!』 趣味で極めた一芸は、異世界での活路を切り開けるのか。ついでに何かと手を貸してくれつつ、そこそこ付き合いの長い知人たちもびっくりの溺愛を見せるノルベルトの想いは伝わるのか。その背景で渦巻く、王宮を巻き込んだ陰謀の行方は?

「貧相な小娘」と罵った第一王子へ。番(つがい)は貴方ではなく、国王陛下(お父様)でした

しえろ あい
恋愛
「お父様、わたくし、あの方と目が合った瞬間、分かってしまったのです」 十六歳のデビュタントの夜、ルーセント侯爵令嬢フェリシアを待っていたのは、残酷な罵倒だった。第一王子カシウスは、可憐な白いドレスを纏った彼女を「貧相な小娘」と呼び、己の番(つがい)であることを真っ向から否定する。 会場に響く冷笑と、愛用の刺繍に込めた自信さえ打ち砕くような屈辱。しかし、絶望の淵に立たされた彼女を見つめていたのは、王子ではなく、圧倒的な威厳を放つ「ある男」だった。 魂を焦がすような熱い視線が重なり、静まり返る謁見の間。この出会いが、王室を揺るがす大事件の幕開けになるとは、まだ誰も知らない。自身の価値を否定された少女が、真実の愛によって世界で最も幸福な王妃へと駆け上がる、逆転溺愛ストーリー。 ※小説家になろう様にも投稿しています※

遺産は一円も渡さない 〜強欲な夫と義実家に捨てられた私、真の相続人と手を組み全てを奪い返す~ (全10話)

スカッと文庫
恋愛
「お前の価値なんて、その遺産くらいしかないんだよ」 唯一の肉親だった祖父を亡くした夜、夫の健一と義母から放たれたのは、あまりにも無慈悲な言葉だった。 四十九日も待たず、祖父が遺した1億2000万円の遺産をアテに贅沢三昧を目論む夫。だが、彼には隠し通している「裏切り」があった――。 絶望の淵に立たされた由美の前に現れたのは、亡き祖父が差し向けた若き凄腕弁護士・蓮。 「おじい様は、すべてお見通しでしたよ」 明かされる衝撃の遺言内容。そして、強欲な夫たちを地獄へ叩き落とすための「相続条件」とは? 虐げられてきた妻による、一発逆転の遺産争奪&復讐劇がいま幕を開ける!

断罪の果てに、ふたり

希臘楽園
ファンタジー
二大公爵家に揺れる王国。王太子は均衡のため、愛する令嬢を断罪する。時は流れ、祖国は統合され―春の光の下、二人は再会する。ーAIに書かせてみた第5弾。今回はラブロマンス寄り。

聖女は聞いてしまった

夕景あき
ファンタジー
「道具に心は不要だ」 父である国王に、そう言われて育った聖女。 彼女の周囲には、彼女を心を持つ人間として扱う人は、ほとんどいなくなっていた。 聖女自身も、自分の心の動きを無視して、聖女という治癒道具になりきり何も考えず、言われた事をただやり、ただ生きているだけの日々を過ごしていた。 そんな日々が10年過ぎた後、勇者と賢者と魔法使いと共に聖女は魔王討伐の旅に出ることになる。 旅の中で心をとり戻し、勇者に恋をする聖女。 しかし、勇者の本音を聞いてしまった聖女は絶望するのだった·····。 ネガティブ思考系聖女の恋愛ストーリー! ※ハッピーエンドなので、安心してお読みください!

処理中です...