祷雨(とうう)の巫女はまだ決断できない~雨は祈りか、絶望か~

カノンみわ

文字の大きさ
40 / 52

第40話 未来をひらく者たち

しおりを挟む
「私の意見を言ってもいいかね」

張り詰めた会議室に響いたのは、カレイ博士の声だった。

「カレイ博士?」

ここでカレイ博士が発言するのが意外だったらしく、リョウガさんは少し戸惑いを見せながらも続きを促した。

「私は政治的な戦略については口を出せる立場ではない。でも気象の学者として、伝えておかねばならないことがあってね」

前回とは違うやや落ち着いた口調でそう言いながら、手持ちの鞄から何枚かの資料を取り出し私たちの真ん中に置いた。

「私がこの間、ベルデン湖で調査を行っていたのはご存じでしょう?」

「はい。結構時間をかけておられましたね」

「そこで興味深いことが分かりましてね」

言いながら資料の一部を指す。

専門的な用語や数値が並んでいてよく分からなかったので、カレイ博士の説明を待った。

「実は私はベルデン湖の湖底の地層の調査を行っていてね。通常は年に数ミリしか堆積しない湖底の泥が、ある年代の層だけ数十センチの厚さで発見されている。それが2000年前あたりです」

2000年前?

その言葉に、いつも会議中はうつむいてるセイランさんが顔を上げた。

「この地域で大規模な土砂流出があった痕跡です。通常の降雨ではあり得ない厚さでした」

みんなの注目を浴びながらも、カレイ博士はマイペースに話し続ける。

徐々に以前のように、少し口調が早口になっていった。

「私は他国で懇意にしてる、いくつかの研究施設にも調査を依頼していてね、その答えがちょうど出揃ったんですよ。
面白いことに、約2000年前にシオガ周辺では異常な長雨の痕跡が見つかった一方で、同時期には遠く離れたクリムナ地方では、記録的な高温と干ばつが発生していた形跡がありました。当時の湖底からは急激な水位低下を示す層、干上がった湖の底で生き延びた耐乾性植物の花粉、そして大規模な森林火災による炭化物質が検出されたんです。そのような結果が、世界各地で見つかっている」

そこまで早口で一気に喋って一息ついた後、カレイ博士は周りを見渡して、少し話すペースを落とした。

「要は何が言いたいかと言うと、約2000年前に世界的に異常気象が起きていたことが、科学的に証明されたわけです」

セイランさんは目を見開いて、カレイ博士を見つめている。

そんなセイランさんの視線を受け止めながら、カレイ博士はニコッと微笑んだ。

「そちらの青年が、2000年前の異常気象について指摘されていたのでね。気象学者としては、どうしても解明したくなってしまったんですよ」

言葉を失っているリョウガさん、そしてウラジオ国王にカレイ博士は語りかけた。

「先ほども言いましたが、政治的戦略については私は口は出せません。ただこういう結果を得た科学者としてはっきり申し上げますが、ーー祷雨とううは行うべきではありません」



─────────────────────


カレイ博士の言葉を受けて、黙り込むリョウガさん。

その場にいる誰も言葉を発しなかった。

祷雨の巫女の拒否、そして気象学者からの科学的見地、今回推し進めようとしていた二回目の祷雨が否定されることを、シオガは考えていなかったのかもしれない。



「……ウラジオ様、リョウガさん、私は前から思っとったんだが」

再びセイランさんに目をやりながら、カレイ博士はおもむろに続ける。



「彼のように優秀で見込みのある若者を身分で切り捨てる、……そんな国に、未来はあるのかね?」




長い沈黙の後、ずっと黙っていたウラジオ国王が口を開いた。

「……分かりました。二回目の祷雨は中止します」

「ウラジオ様、ですが……」

「リョウガ、おまえの言い分も分かる。でもアユミさんの意見、そしてカレイ博士の知見を私は無視できない。オルク国への対応は、また別の方法を考えよう。ーーそして」

ウラジオ国王は初めて、セイランさんに目をやった。


「他のことも、検討しないといけないかもしれませんな」



─────────────────────



そうして会議が終わり、ウラジオ国王の退室を見送った後、カレイ博士がセイランさんに話しかけていた。

「セイランさんと言ったかね?よかったら今度、私の勉強会に参加しないか?」

「え?」

突然の提案にセイランさんは、キョトンとしていた。

「私の勉強会は気象にとどまらず、いろんなことを学びたいと思ってる人たちが年齢、身分、性別関係なく集まっているんだよ。いろんな立場の人たちと意見を交わすのは、本当に楽しいぞ。君にとっても、いい刺激になると思うんだが」

「……いいんですか?私が参加しても」

「もちろん。是非参加してほしい。私は君のような食えない若者が大好きなんだよ」

「カレイ博士は私が古文書のことを言い出してから、ずっと研究してらしたんですか」

「そうなるね。調査途中の曖昧なことは言えないから、この私が黙ってるのは大変だったよ」

しばらく考えてから、セイランさんは今まで見たこともないような笑顔でフッと笑った。

「カレイ博士って、……相当タヌキですね」

それを聞いて、カレイ博士はニッコリと笑った。

「最高の褒め言葉だね」


しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

短編)どうぞ、勝手に滅んでください。

黑野羊
恋愛
二度も捨てられた聖女です。真実の愛を見つけたので、国は救いません。 あらすじ) 大陸中央にあるルオーゴ王国で、国を守る結界を維持してきた聖女ロザリア。 政略のため王太子と婚約していた彼女は、突如『真の聖女』が現れたとして婚約を破棄され、聖女の座を追われてしまう。さらに、代わりに婚姻しろと命じられた聖騎士からも拒絶され、実家にも見捨てられたロザリアは、『最果ての修道院』へと追放された。 けれど彼女はそこで、地位や栄光、贅沢などとはほど遠い、無条件に寄り添ってくれる『真実の愛』と穏やかな日々を手にいれる。 やがて聖女を失った王国は、崩壊へ向かっていき――。 ーーー ※カクヨム、なろうにも掲載しています

アロマおたくは銀鷹卿の羽根の中。~召喚されたらいきなり血みどろになったけど、知識を生かして楽しく暮らします!

古森真朝
ファンタジー
大学生の理咲(りさ)はある日、同期生・星蘭(せいら)の巻き添えで異世界に転移させられる。その際の着地にミスって頭を打ち、いきなり流血沙汰という散々な目に遭った……が、その場に居合わせた騎士・ノルベルトに助けられ、どうにか事なきを得る。 怪我をした理咲の行動にいたく感心したという彼は、若くして近衛騎士隊を任される通称『銀鷹卿』。長身でガタイが良い上に銀髪蒼眼、整った容姿ながらやたらと威圧感のある彼だが、実は仲間想いで少々不器用、ついでに万年肩凝り頭痛持ちという、微笑ましい一面も持っていた。 世話になったお礼に、理咲の持ち込んだ趣味グッズでアロマテラピーをしたところ、何故か立ちどころに不調が癒えてしまう。その後に試したノルベルトの部下たちも同様で、ここに来て『じゃない方』の召喚者と思われた理咲の特技が判明することに。 『この世界、アロマテラピーがめっっっっちゃ効くんだけど!?!』 趣味で極めた一芸は、異世界での活路を切り開けるのか。ついでに何かと手を貸してくれつつ、そこそこ付き合いの長い知人たちもびっくりの溺愛を見せるノルベルトの想いは伝わるのか。その背景で渦巻く、王宮を巻き込んだ陰謀の行方は?

サレ妻の娘なので、母の敵にざまぁします

二階堂まりい
大衆娯楽
大衆娯楽部門最高記録1位! ※この物語はフィクションです 流行のサレ妻ものを眺めていて、私ならどうする? と思ったので、短編でしたためてみました。 当方未婚なので、妻目線ではなく娘目線で失礼します。

宮廷画家令嬢は契約結婚より肖像画にご執心です!~次期伯爵公の溺愛戦略~

白妙スイ@1/9新刊発売
恋愛
男爵令嬢、アマリア・エヴァーレは絵を描くのが趣味の16歳。 あるとき次期伯爵公、フレイディ・レノスブルの飼い犬、レオンに大事なアトリエを荒らされてしまった。 平謝りしたフレイディにより、お詫びにレノスブル家に招かれたアマリアはそこで、フレイディが肖像画を求めていると知る。 フレイディはアマリアに肖像画を描いてくれないかと打診してきて、アマリアはそれを請けることに。 だが絵を描く利便性から、肖像画のために契約結婚をしようとフレイディが提案してきて……。 ●アマリア・エヴァーレ 男爵令嬢、16歳 絵画が趣味の、少々ドライな性格 ●フレイディ・レノスブル 次期伯爵公、25歳 穏やかで丁寧な性格……だが、時々大胆な思考を垣間見せることがある 年頃なのに、なぜか浮いた噂もないようで……? ●レオン フレイディの飼い犬 白い毛並みの大型犬

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

遺産は一円も渡さない 〜強欲な夫と義実家に捨てられた私、真の相続人と手を組み全てを奪い返す~ (全10話)

スカッと文庫
恋愛
「お前の価値なんて、その遺産くらいしかないんだよ」 唯一の肉親だった祖父を亡くした夜、夫の健一と義母から放たれたのは、あまりにも無慈悲な言葉だった。 四十九日も待たず、祖父が遺した1億2000万円の遺産をアテに贅沢三昧を目論む夫。だが、彼には隠し通している「裏切り」があった――。 絶望の淵に立たされた由美の前に現れたのは、亡き祖父が差し向けた若き凄腕弁護士・蓮。 「おじい様は、すべてお見通しでしたよ」 明かされる衝撃の遺言内容。そして、強欲な夫たちを地獄へ叩き落とすための「相続条件」とは? 虐げられてきた妻による、一発逆転の遺産争奪&復讐劇がいま幕を開ける!

令嬢失格な私なので

あんど もあ
ファンタジー
貴族の令息令嬢が学ぶ王都学園。 そこのカースト最下位と思われている寮生の中でも、最も令嬢らしからぬディアナ。 しかしその正体は……。

聖女は聞いてしまった

夕景あき
ファンタジー
「道具に心は不要だ」 父である国王に、そう言われて育った聖女。 彼女の周囲には、彼女を心を持つ人間として扱う人は、ほとんどいなくなっていた。 聖女自身も、自分の心の動きを無視して、聖女という治癒道具になりきり何も考えず、言われた事をただやり、ただ生きているだけの日々を過ごしていた。 そんな日々が10年過ぎた後、勇者と賢者と魔法使いと共に聖女は魔王討伐の旅に出ることになる。 旅の中で心をとり戻し、勇者に恋をする聖女。 しかし、勇者の本音を聞いてしまった聖女は絶望するのだった·····。 ネガティブ思考系聖女の恋愛ストーリー! ※ハッピーエンドなので、安心してお読みください!

処理中です...