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【第三十三話】三州の太守
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幕府は滅亡した。
周到な準備があったとはいえ、あっけない最期であった。
北条得宗家の一族は、それぞれの場所でそのほとんどが処刑された。
幕府討伐に功績のあった人間に対して、論功行賞が行われた。論功行賞は当然のごとく、尊治主導で行われた。
尊治は、元弘の乱の際隠岐島に流され、皇位をはく奪されていたが、それを無効とし、即位していた今上帝を追いやり、自らの退位はなかったこととする立場を貫いた。
最も功績があったと評価されたのは足利高氏であり、尊治から諱の一字をもらい、「尊氏」と名乗りを変えた。
尊治は、天皇を中心とする政権を築くため、武家は自らの下に置き、源頼朝のような立場の人間を置かなかった。
そのため、足利尊氏は、鎮守府将軍兼参議の地位を与えられた。
征夷大将軍には自らの皇子である護良親王を任命した。
鎌倉を攻め滅ぼした功績として、新田義貞は武者所を任された。
また、側近の北畠親房の息子・北畠顕家は、陸奥将軍府を任された。
足利尊氏の弟直義は鎌倉将軍府を任された。
島津貞久は、日向守護職に新たに任命された。そして、翌年には、正式に大隅守護職にも任命され、ここに晴れて130年ぶりに島津家が三州の太守となったのであった。
島津貞久は、悲願のかなった嬉しさは当然あったが、この先の苦難の道のりを考えると、暗澹たる気分にならざるを得なかった。
すでに、日向国南部から大隅国中・南部にかけて新政権樹立に対する謀反が北条氏の残党を中心に勃発しており、日々その鎮圧に頭を痛めていた。
島津家の完全支配が及ぶまではまだ時間がかかりそうではあるが、形だけでも薩摩国・大隅国・日向国の守護職に任じられたことはめでたいことであった。
「殿、初代忠久公からの悲願がついにかなおいもしたな」
国老の本田親保は涙を流して喜んでいた。
「父上、長い長い130年間でございました。本当におめでとうございます」
川上頼久は本当に頼りになる息子で島津家をよく支えてくれている。
「殿、我らも骨を折ってここまでがんばってきたかいがあったちゅうもとな。本当におめでとうござおいもす」
酒匂久景も泣きじゃくりながら言葉にならない言葉を発している。
「殿、まことにおめでとうございます。梅も嬉しゅうございます」
お梅も涙を浮かべている。
頼久・久景が育てた島津兵は本当に強さを発揮している。
それは、今後のまだまだ戦いが続く日々においても十分に力を発揮してくれることだろう。
貞久自身、もう自分がいつ死んでも悔いがないと思えた。
ただ一つだけ、貞久はやり残していると感じていることがあった。
薩摩・大隅・日向の三か国を統べるのであれば、現在の拠点である山門院の木牟礼城は少し西の端に位置しすぎている。
新たな拠点造りの必要性を感じていた。
足利尊氏は、息をひそめていた。
やはり帝は、自ら政を行う体制を整えてきていた。
それは、尊氏にとってあまり都合のいいこととは言えなかった。
しかし、帝のやり方に背くということは、この国では朝敵になるということ。尊氏はそれだけはどうしても避けたかった。しかし、朝敵にならずにどうやって帝と対峙すればよいのか。正当性をいかに確保しながら進めるか。
もし朝敵になってしまえば、余計な敵を増やすことを覚悟しなければならない。
帝の側近はともかくとして、一族衆からも反発をくらう可能性もあることを覚悟しなければならないと考えていた。
いかに自分に都合のよいタイミングで自分の意思を表明するのがよいのか、確実に自分の味方になってくれるのは誰なのか、その見極めだけは間違えてはならないと思っていた。
帝も、倒幕計画を立てた際に側近の確か吉田何某とかいう人間に裏切られているはずであった。側近中の側近でも信用ができるかわからないということだ。
師直は大丈夫であろうが、今川は、大高重成は、ついてきてくれるであろうか。
正当性の確保、それが今の尊氏に課せられた最大の課題であった。
高師直を呼び出した。
「師直、来てもらったのは少し相談したいことがあってな」
「はっ、いかがなされましたか」
「いつかも話したかもしれないが、帝のことじゃ」
「はい」
「わしの理想は、足利が武家の棟梁として立ち日の本中の御家人たちを統率しなおすことじゃ」
「はい、それは承知いたしております」
「すでに、帝の新政に対して各地で反乱が相次いでいるとの報告も受けておる」
「左様でございますな」
「わしは、いずれかよき時期を狙って、帝に対し反旗を翻さなければならないと考えておる。しかし、朝敵になるのは困る。いかに正当性を確保するかじゃ」
「…」
「それと、誰がわしの味方として付いてきてくれるか、現段階では見極めがつかぬ。味方が少なければ自滅するしかないからの」
「…難しい問題ですな」
「おぬしにも重責を担わせることになるが、探れるだけ探ってほしい」
「殿、かしこまりましてございます。某も動きますが、適任のものがおりますぞ」
「ほう、それは誰じゃ」
足利尊氏の計画は動きだした。
周到な準備があったとはいえ、あっけない最期であった。
北条得宗家の一族は、それぞれの場所でそのほとんどが処刑された。
幕府討伐に功績のあった人間に対して、論功行賞が行われた。論功行賞は当然のごとく、尊治主導で行われた。
尊治は、元弘の乱の際隠岐島に流され、皇位をはく奪されていたが、それを無効とし、即位していた今上帝を追いやり、自らの退位はなかったこととする立場を貫いた。
最も功績があったと評価されたのは足利高氏であり、尊治から諱の一字をもらい、「尊氏」と名乗りを変えた。
尊治は、天皇を中心とする政権を築くため、武家は自らの下に置き、源頼朝のような立場の人間を置かなかった。
そのため、足利尊氏は、鎮守府将軍兼参議の地位を与えられた。
征夷大将軍には自らの皇子である護良親王を任命した。
鎌倉を攻め滅ぼした功績として、新田義貞は武者所を任された。
また、側近の北畠親房の息子・北畠顕家は、陸奥将軍府を任された。
足利尊氏の弟直義は鎌倉将軍府を任された。
島津貞久は、日向守護職に新たに任命された。そして、翌年には、正式に大隅守護職にも任命され、ここに晴れて130年ぶりに島津家が三州の太守となったのであった。
島津貞久は、悲願のかなった嬉しさは当然あったが、この先の苦難の道のりを考えると、暗澹たる気分にならざるを得なかった。
すでに、日向国南部から大隅国中・南部にかけて新政権樹立に対する謀反が北条氏の残党を中心に勃発しており、日々その鎮圧に頭を痛めていた。
島津家の完全支配が及ぶまではまだ時間がかかりそうではあるが、形だけでも薩摩国・大隅国・日向国の守護職に任じられたことはめでたいことであった。
「殿、初代忠久公からの悲願がついにかなおいもしたな」
国老の本田親保は涙を流して喜んでいた。
「父上、長い長い130年間でございました。本当におめでとうございます」
川上頼久は本当に頼りになる息子で島津家をよく支えてくれている。
「殿、我らも骨を折ってここまでがんばってきたかいがあったちゅうもとな。本当におめでとうござおいもす」
酒匂久景も泣きじゃくりながら言葉にならない言葉を発している。
「殿、まことにおめでとうございます。梅も嬉しゅうございます」
お梅も涙を浮かべている。
頼久・久景が育てた島津兵は本当に強さを発揮している。
それは、今後のまだまだ戦いが続く日々においても十分に力を発揮してくれることだろう。
貞久自身、もう自分がいつ死んでも悔いがないと思えた。
ただ一つだけ、貞久はやり残していると感じていることがあった。
薩摩・大隅・日向の三か国を統べるのであれば、現在の拠点である山門院の木牟礼城は少し西の端に位置しすぎている。
新たな拠点造りの必要性を感じていた。
足利尊氏は、息をひそめていた。
やはり帝は、自ら政を行う体制を整えてきていた。
それは、尊氏にとってあまり都合のいいこととは言えなかった。
しかし、帝のやり方に背くということは、この国では朝敵になるということ。尊氏はそれだけはどうしても避けたかった。しかし、朝敵にならずにどうやって帝と対峙すればよいのか。正当性をいかに確保しながら進めるか。
もし朝敵になってしまえば、余計な敵を増やすことを覚悟しなければならない。
帝の側近はともかくとして、一族衆からも反発をくらう可能性もあることを覚悟しなければならないと考えていた。
いかに自分に都合のよいタイミングで自分の意思を表明するのがよいのか、確実に自分の味方になってくれるのは誰なのか、その見極めだけは間違えてはならないと思っていた。
帝も、倒幕計画を立てた際に側近の確か吉田何某とかいう人間に裏切られているはずであった。側近中の側近でも信用ができるかわからないということだ。
師直は大丈夫であろうが、今川は、大高重成は、ついてきてくれるであろうか。
正当性の確保、それが今の尊氏に課せられた最大の課題であった。
高師直を呼び出した。
「師直、来てもらったのは少し相談したいことがあってな」
「はっ、いかがなされましたか」
「いつかも話したかもしれないが、帝のことじゃ」
「はい」
「わしの理想は、足利が武家の棟梁として立ち日の本中の御家人たちを統率しなおすことじゃ」
「はい、それは承知いたしております」
「すでに、帝の新政に対して各地で反乱が相次いでいるとの報告も受けておる」
「左様でございますな」
「わしは、いずれかよき時期を狙って、帝に対し反旗を翻さなければならないと考えておる。しかし、朝敵になるのは困る。いかに正当性を確保するかじゃ」
「…」
「それと、誰がわしの味方として付いてきてくれるか、現段階では見極めがつかぬ。味方が少なければ自滅するしかないからの」
「…難しい問題ですな」
「おぬしにも重責を担わせることになるが、探れるだけ探ってほしい」
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