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1:バースでの新生活
8:貴族学院にて
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「おい、来たぞ」
「よし、行くぞ!」
バタバタと少年たちが廊下の角から出てきてギルバートの前に立ち塞がる。
「やあ、ギルバート、今日も図書館通いか。2歳も年下と一緒にいれば、一番になるのも当然だろうに毎日勉強三昧、足が悪いと図書館に行くのも一苦労だな」
「ルイス、御機嫌よう。僕のように遅れて入学して来たものは頑張るしかないのでね。そこをどいてくれないか?」
ギルバートが3冊ほどの本を脇に抱え微笑みながら答える。髪の毛を貴族らしく前髪をあげ、セントアンドレア校の制服である、黒の整えられたフロックコートに、臙脂色のジレ、そして白いボウタイを着用している。
ジレは学年ごとに色が違い、臙脂色は5年生のものである。
ギルバートは背は高いが、ややほっそりとしており男性としては華奢な体型だ。ギルバートよりはわずかに小柄だが筋肉質で太めのルイスを始め、5人の少年が通路を通せんぼしている。
ここは、セントアンドレア校、貴族学院であり、貴族の令息もしくは成績優秀な平民しか入学できない。ギルバートを含め、6人は、いずれも貴族の子弟である。
「嫌だね、通さないと言ったら?」
ふうっとギルバートはため息をつく。入学してまだ間が無いが、こう言ったつまらない嫌がらせに遭遇することがある。
「そうだね、君達は、僕より2歳も幼い、11歳の子供が新参者に嫌がらせをするなんていうのはやはり小さな子供のよくやることだ。というわけで、11歳の子供たちのやることにいちいち目くじらを立てるのはやめよう、図書館は後にしようと思うだろうね」
「なんだと!俺たちが子供だって!」
「こうやって徒党を組んで、廊下を塞ぐことが子供っぽいとしか言いようがないんだが」
ギルバートが首を傾げる。
「こいつっ!」
一人が殴りかかって来る。それをすっと避けて、バランスの崩れた少年の頭の後ろを持ってた本で少し押す。少年は盛大に前のめりになって倒れてしまった。
「大丈夫かい?」
ギルバートが尋ねる。
「この!」
と残りの4人が殴りかかろうとした時、
「やめなさい!君達!ここをどこだと思っている!」
大人の声がする。
数学を教えているブライアン ベクトル先生だ。
「ギルバート ゼオン君、何事だね?」
「単なる子供同士の小競り合いです。お気になさらず」
「そういうわけにはいかん。全員職員室にきなさい。」
職員室で事情を聞いた後、ベクトル先生は、
「君達5人は、反省文を3枚書いて提出、それができるまで午後の授業には参加させん。参加できない分は、週末に家に帰らず補習となる。その場合当然親御さんにその理由について説明することにする。それが嫌なら早急に反省文を書きたまえ」
と5人に命ずる。
「そんな!」
「そもそもこいつが」
「貴族たるものが、貴族の子弟に対してこいつといって良いと思っているのかね」
と諭すが、
「私は伯爵家出身です。彼は、ケント子爵、汚れたあのゲルトランの親戚だ。こんな奴が貴族学院にいることがおかしいのです。」
「確かに、ゲルトランが恐れ多くも王太子ご夫妻の暗殺未遂事件や麻薬違反で処刑されたのは間違いない。しかし、彼は、逆にゲルトランに殺されそうになった被害者だぞ。そもそも、ゲルトラン自身とは血も繋がっていない。しかも、いまは、彼は子爵でなく侯爵家子息だ。君たちに誹りを受ける立場にはないぞ」
子供達もわかっている。単に新参者が新学期の試験でトップだったことが気に食わないのだ。
「先生、子どもに何を言っても、彼らは気にくわないと思えばいじめの対象にするのです。よろしければ、彼らの不満の対象にならないように、早めに私の学年を上げていただければ助かります」
「全く・・・君は大人だな。学院長には伝えておく」
「君たち、今は私が君たちの学年にいるのが不満なんだろう。しかし、覚えておくと良い。私が、この学年を出る時、それは君たちの先輩になるということを。貴族学院での先輩後輩の上下関係は非常に厳しいものだ。君達は、将来先輩になるだろう私に、喧嘩を売っているということをもう少し理解した方が良いのではないかな?」
5人は真っ青になる。来年から高学年とペアで研究や剣の実習をすることもある。先輩に気に入られなければ進級さえ危うくなるのだ。
これ以上、彼らを追い詰めても意味はない、負け犬の遠吠えと言っても意外とそれが後で何かの災いとなるかもしれないのだ。
「ベクトル先生、彼らも反省しているようです。ご配慮をお願いします」
と付け加えておく。
彼らが退室後にベクトル先生がこちらを振り返る。
「全く、君は。優しげな良い子の優等生に見えるというのに、本当は違うのかな」
と声をかけて来る。
「何のことでしょう?」
と貴族らしい微笑みをする。
「父上によく似ているということだ。私は同級でね。とても、善良な穏やかな副生徒会長だったが、売られた喧嘩は必ず買っていた。ただ、恐ろしいのは正面から力づくというのがなかったことかな」
とブライアンが足を組みながら頬杖をつく。
「さあ、亡くなった父と比べられても、私には父との思い出は7歳までしかありませんから・・」
と返事しつつ、
「では、助けていただいてありがとうございました。あのままでは大事となったかもしれません。感謝いたします」
退室したのだった。
「よし、行くぞ!」
バタバタと少年たちが廊下の角から出てきてギルバートの前に立ち塞がる。
「やあ、ギルバート、今日も図書館通いか。2歳も年下と一緒にいれば、一番になるのも当然だろうに毎日勉強三昧、足が悪いと図書館に行くのも一苦労だな」
「ルイス、御機嫌よう。僕のように遅れて入学して来たものは頑張るしかないのでね。そこをどいてくれないか?」
ギルバートが3冊ほどの本を脇に抱え微笑みながら答える。髪の毛を貴族らしく前髪をあげ、セントアンドレア校の制服である、黒の整えられたフロックコートに、臙脂色のジレ、そして白いボウタイを着用している。
ジレは学年ごとに色が違い、臙脂色は5年生のものである。
ギルバートは背は高いが、ややほっそりとしており男性としては華奢な体型だ。ギルバートよりはわずかに小柄だが筋肉質で太めのルイスを始め、5人の少年が通路を通せんぼしている。
ここは、セントアンドレア校、貴族学院であり、貴族の令息もしくは成績優秀な平民しか入学できない。ギルバートを含め、6人は、いずれも貴族の子弟である。
「嫌だね、通さないと言ったら?」
ふうっとギルバートはため息をつく。入学してまだ間が無いが、こう言ったつまらない嫌がらせに遭遇することがある。
「そうだね、君達は、僕より2歳も幼い、11歳の子供が新参者に嫌がらせをするなんていうのはやはり小さな子供のよくやることだ。というわけで、11歳の子供たちのやることにいちいち目くじらを立てるのはやめよう、図書館は後にしようと思うだろうね」
「なんだと!俺たちが子供だって!」
「こうやって徒党を組んで、廊下を塞ぐことが子供っぽいとしか言いようがないんだが」
ギルバートが首を傾げる。
「こいつっ!」
一人が殴りかかって来る。それをすっと避けて、バランスの崩れた少年の頭の後ろを持ってた本で少し押す。少年は盛大に前のめりになって倒れてしまった。
「大丈夫かい?」
ギルバートが尋ねる。
「この!」
と残りの4人が殴りかかろうとした時、
「やめなさい!君達!ここをどこだと思っている!」
大人の声がする。
数学を教えているブライアン ベクトル先生だ。
「ギルバート ゼオン君、何事だね?」
「単なる子供同士の小競り合いです。お気になさらず」
「そういうわけにはいかん。全員職員室にきなさい。」
職員室で事情を聞いた後、ベクトル先生は、
「君達5人は、反省文を3枚書いて提出、それができるまで午後の授業には参加させん。参加できない分は、週末に家に帰らず補習となる。その場合当然親御さんにその理由について説明することにする。それが嫌なら早急に反省文を書きたまえ」
と5人に命ずる。
「そんな!」
「そもそもこいつが」
「貴族たるものが、貴族の子弟に対してこいつといって良いと思っているのかね」
と諭すが、
「私は伯爵家出身です。彼は、ケント子爵、汚れたあのゲルトランの親戚だ。こんな奴が貴族学院にいることがおかしいのです。」
「確かに、ゲルトランが恐れ多くも王太子ご夫妻の暗殺未遂事件や麻薬違反で処刑されたのは間違いない。しかし、彼は、逆にゲルトランに殺されそうになった被害者だぞ。そもそも、ゲルトラン自身とは血も繋がっていない。しかも、いまは、彼は子爵でなく侯爵家子息だ。君たちに誹りを受ける立場にはないぞ」
子供達もわかっている。単に新参者が新学期の試験でトップだったことが気に食わないのだ。
「先生、子どもに何を言っても、彼らは気にくわないと思えばいじめの対象にするのです。よろしければ、彼らの不満の対象にならないように、早めに私の学年を上げていただければ助かります」
「全く・・・君は大人だな。学院長には伝えておく」
「君たち、今は私が君たちの学年にいるのが不満なんだろう。しかし、覚えておくと良い。私が、この学年を出る時、それは君たちの先輩になるということを。貴族学院での先輩後輩の上下関係は非常に厳しいものだ。君達は、将来先輩になるだろう私に、喧嘩を売っているということをもう少し理解した方が良いのではないかな?」
5人は真っ青になる。来年から高学年とペアで研究や剣の実習をすることもある。先輩に気に入られなければ進級さえ危うくなるのだ。
これ以上、彼らを追い詰めても意味はない、負け犬の遠吠えと言っても意外とそれが後で何かの災いとなるかもしれないのだ。
「ベクトル先生、彼らも反省しているようです。ご配慮をお願いします」
と付け加えておく。
彼らが退室後にベクトル先生がこちらを振り返る。
「全く、君は。優しげな良い子の優等生に見えるというのに、本当は違うのかな」
と声をかけて来る。
「何のことでしょう?」
と貴族らしい微笑みをする。
「父上によく似ているということだ。私は同級でね。とても、善良な穏やかな副生徒会長だったが、売られた喧嘩は必ず買っていた。ただ、恐ろしいのは正面から力づくというのがなかったことかな」
とブライアンが足を組みながら頬杖をつく。
「さあ、亡くなった父と比べられても、私には父との思い出は7歳までしかありませんから・・」
と返事しつつ、
「では、助けていただいてありがとうございました。あのままでは大事となったかもしれません。感謝いたします」
退室したのだった。
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