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1:バースでの新生活

20:相思相愛

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「驚いたわ。両親が駆け落ちのように結婚したなんて想像もしてなかったから。」

アーサーに侯爵家に送ってもらう馬車の中である。

「そうだね。私が聞いていたのは逆に、アデリーナ様は美しくて何人もの求婚者がいてその中でロバート様がその戦いに勝ったっていうことだったんだがね。」

「え?それも初耳よ。そうだったの?」

少し、うろたえながら、
「あ、ああ、特にもう一人求婚者がいて熱心だったそうだ。結局アデリーナ様はロバート様と結婚され、結果もう一人の求婚者は傷心のあまり国を離れたらしい。」

以前人から聞いた話を伝える。


「まあ、そんなことが。」

シャーロットは、心の中で、前世で読んだ小説みたい、婚約破棄とか?まあ、婚約はしてなかったみたいだけどと思う。

なんとなく、穏やかで優しい両親にそんな情熱的な過去があって、いろんな人を傷つけながらお互いを選んだときいて複雑な気分になってしまう。

「シャーロット?」
心配そうなアーサーである。

「あのね、駆け落ちって情熱的で素敵かもって気持ちもあるのだけど。でも、その分、両親は、他の人を傷つけてもこの人を諦められないって強い気持ちがあったんだなあと思って。」
若い頃の両親のことを想像する。

「私もそうだよ。どんな時も君を諦められなかった。君が亡くなったと聞いた後だって諦められなかった。もし、仮に平民となった君が僕をあきらめて、他の男と結婚していたとしてもきっと独身でいたと思うよ。」

その頃を思い出したのか、辛そうだ。


「アーサー」
シャーロットは泣きそうだ。

「シャーロット、僕は君が生きていてくれただけで嬉しかったんだ。」
そういって、シャーロットを抱きしめる。そうして、口づけを交わす。

「アーサー、ありがとう。私を忘れないでいてくれて。私も、心の中でアーサーの幸せをずっと祈っていた」
シャーロットがこちらをまっすぐ見つめる。

「シャーロット・・・生きていてくれて本当にありがとう。そして、君が私のことを諦めないでいてくれて本当によかった」

もう一度口づけした後、2人がしばらく抱きしめあった後、そのまま少し照れ笑いをしながら、アーサーが
「でも、普通の人達よりしつこいと思われるかもね」
と話す。

シャーロットも笑う

「ふふ、お互いね」

私たちは相思相愛だったからよかったとシャーロットは思う。

もし好きでもない人からずっと諦められないと言われたら、それって前世だとストーカーでは?とか思うかも。
そうだとしたらお母様の求婚者、どこかで諦めてくれた?

「お母様の求婚者だった人って今はどうしているのかな?幸せだと良いけど」

「そうだね。でも、もしかすると自分と同じで忘れずに独身でいたりするかもしれないな。まあ、人の気持ちはなんともね。多くの人は次の人をみつけるとは思うけど。まあ、別に忘れられなくても、本当にその人が好きなら、その人が他の人と幸せになるのも祝福できると思うよ」

アーサーは思う。ついこの間まで絶対に忘れられない、一生独身で過ごすと思っていた自分の言うセリフではないなと。だが、失恋した多くの人はそうやって切り替えるはずだ。自分だって、もしシャーロットが他の男と幸せに暮らしていたら邪魔はしなかったに違いないと確信している。

「アーサー、ありがとう。私を忘れないでいてくれて。私達相思相愛でよかった。」
アーサーの肩に寄りかかる。アーサーは、そっと、シャーロットの肩をだき、手を握る。二人でほのぼのとしながら侯爵家までの馬車での短い時間過ごしたのだった。

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