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2:ロバートとアデリーナ

誘拐

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そのあとは大変だった。マーサは監督をしていたのかと兄と母から責められる。マーサはマーサで、外出されることはあっても、てっきり女学院の御学友とご一緒だと信じていたのに、お嬢様、どうしてこんな事をと嘆く。
エドガーからは、留学中に恋人を作るとは、なんてふしだらなんだと叱られ、母は、ローヌへの留学なんてするから、だから私は反対していたのですと涙を流しながら兄に訴えている。

その後、何度もロバート様は館に会いにきてくださるが、兄達は頑として会おうとしない。

そうこうしているうちに、卒業式を迎えてしまった。

卒業式の当日である。卒業式では最優秀賞を授与されたということで多くの友人から祝福された。そんな中で気がつけば、自分のバッグに中に手紙が入っている。おそらく式の途中で教室のカバンに誰かが入れたのだろう。それをこっそり読む。

「卒業おめでとう。できれば直接会ってお祝いを言いたい。それに、正直、これ以上は難しい。おそらく、卒業したらすぐに帰国させられるのではないかと思う。式が終わったら会おう。駆け落ちも考えている。裏門に14時にきて欲しい。R.K 」という手紙だった。R.K ・・ロバート様だわ。


そう、もうこれしかない。両親はとても許してくれるとは思えない。あとのことはロバート様と会って考えよう。14時、もうすぐだわ・・

アイリーンとこの後すぐに合流する約束をしていた。しかし、アデリーナは決心してそっと裏門に向かう。馬車や馬がいくつか止まっている。おそらく、本来の馬留めには止めきれなかったため仮の馬留めとして使用されているようだった。

周囲をキョロキョロと見回した後、
「ロバート様」
と声をかけるとざっと人が現れた。
はっと振り返ると、マントを被ったジェイドである。

「な、なん」
口を塞がれ、
「し、申し訳ないがアデリーナ、あなたを手にするためにはもうこれしかないのだ」

馬車に連れ込まれそうになる。

そこに約束していたアイリーンがアデリーナを探しにやってきて、馬車に乗り込むアデリーナを見かける。アイリーンは、ロバートに卒業式の後にアデリーナと会いたいからと橋渡しを頼まれていたのだった。

「アデリーナ様?どこに行かれるの!?その方は?ちょ、ちょっと待って。アデリーナ様!」

と声をかけるが返事はない。アデリーナが乗り込んだ馬車が裏門から出て行ってしまう。
「アデリーナ様! た、大変だわ。ロバート様にお伝えしなくては!」

急ぎ早足で約束していたロバートとの待ち合わせの場所にやってきて、アデリーナが馬車に乗り込んで連れていかれたことを伝える。

「ロバート様、大変です!裏門からアデリーナ様が誰かに馬車で連れていかれたようです」
「何だと!」
「勘違いかもしれないのですが、横顔がちらっと見えて。あれは、ジェイド デンツ様に見えましたわ。ど、どうしましょう・・」

「ジェイドのやつ・・わかりました。すぐに追いかけます。アイリーン様、これはアデリーナ様の名誉に関わる可能性がある。すぐに追いかけるので、ご家族に尋ねられたら、まずはどうもアデリーナ様が見当たらない、外出されたのかもしれないとお伝えください。」

「わ、わかりましたわ。ロバート様、必ずアデリーナ様を助けてください」

「勿論です!」

ロバートは急ぎ馬に乗り二人を追いかける。もしジェイドが彼女をどこかに連れて行くのであれば、本邸ではなく、ジェイドに祖父から贈られたという別邸に違いない。バースの外れにある。馬で追いかければ間に合うかもしれない。間違っていたら・・危険かもしれないが、それに賭けるしかない。
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