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2:ロバートとアデリーナ

奪還

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アデリーナを乗せた馬車は、バースの街を怪しまれない程度のスピードで走る。ゲルトランが手配した多少後ろめたい事情がある貴族の仕事を請け負う御者が馬車を走らせている。

「ジェイド様、なんてこと。これは犯罪ですわよ。公爵令息ともあろう方がなんてことを。すぐに私を解放してください。」
アデリーナが頼む。

「嫌です。そうすればあなたはロバートのものになるかスコールに帰ってしまう。わたしは、7歳の時からずっとあなたをお慕いしていたのです。あなたはわたしのものになるべきなのだ」


無理やり口づけしてくる。胸をどんどん叩いて離れようとするが男の力には勝てない。好きでもない男に口付けされて気持ちが悪くなる。しかも、このままでは、屋敷に連れ込まれると思うとゾッとする。

「ロバート様、助けて」
涙を流しながら心の中で祈る。

御者が、
「旦那、後ろから馬が追いかけてきやすぜ」
と声をかけてくる。

「何だと!」

馬車の後ろを振り返るとロバートだ。ロバートが追いかけてくる。

「チッ、急げ、急ぐんだ」

「へい、しかしそうは言っても馬の方がどうしても速いってもんでさ」

そうこうしている間に距離はだんだん縮まる。
アデリーナは、ジェイドから逃げるようにして窓を開ける。

「ロバート様!」

「アデリーナ!ジェイドなのか!おい、すぐに馬車を止めろ!恥ずかしくないのか!」
窓から二人を見たロバートが大声を出す。

そうやって、御者に命令しようとした時、馬車の轍が小石にハマってバランスを崩し横転する。
「きゃあ」「うわあ」

馬車が横転し、御者が放り出される。
横向けになった馬車に、慌ててロバートが、
「アデリーナ!」
と駆けつける。ドアを開けてアデリーナを助ける。ジェイドがとっさにアデリーナが怪我をしないように守ったのだろう。アデリーナは無傷のようだ。

周囲には、平民たちが多くやってくる。ジェイドは意識は朦朧として、やや怪我をしているようだが、息はしており脳震盪を起こしたようだ。周囲の人だかりが増えてきて、近くの騎士団がやってくる。

これはまずいとロバートは思う。ジェイドはともかく、アデリーナにも醜聞になる。
「アデリーナ、歩けますか?」
「は、はい。大丈夫です。」
「わたしの陰にいてください」

「一体、何事だ!誰か分かるものはいないのか!」
騎士が大声で声かける。

「失礼、わたしは、ロバート ケント、ケント子爵の嫡男だ。あの馬車の中にいるのはジェイド、デンツ公爵の子息であられる。どうも、最近、彼は憂さ晴らしに馬車を早く走らせるようなことをやっていたようで、たまたまスピードを出しすぎて馬車が横転したようだ。公爵家に連絡して迎えにきてもらった方がよかろう。頼めるかね?」

騎士団は、貴族同士何かあったのかもしれないと思ったが、いずれにせよ理由を知っている男と御者は確保できている。大ごとにはしない方がよさそうだと判断し、ジェイドを近くの貴族向けの医師のところに連れて行くように部下に指示する。

ホッとしたロバートは、ゆっくりその場をアデリーナと離れる。そして、近くで町馬車を拾ったのだった。

********************************************


二人で馬車に乗り、女学院へ向かわせる。

これで安心だとロバートはふうっと一息つく。一方、アデリーナは震えて、涙を流している。ロバートが声をかけようとしたら、口をゴシゴシ拭き始める。

「アデリーナ、おやめなさい。唇が傷ついてしまう」
アデリーナの手をそっと握る。

「う、う、ロバート様、ジェイド様が無理やり・・」

ロバートは何があったか想像がついた。ジェイドのやつと怒りに手が震えるが、それよりも大切なのは傷ついたアデリーナである。

アデリーナの肩を抱き、
「辛かったね。もっと早く助けられなくてすまなかった。だが、安心してくれ。もう二度とジェイドの、いや他の男の手に触れさせたりはしない。私は、君以外はもういらないんだ、君だけを愛している。」

「ロバート様、良いの?私。ジェイドに唇を・・」
涙を流しながらアデリーナが尋ねようとする。

「それ以上言ってはいけないよ。」
アデリーナの唇に指をあてる。

アデリーナは涙を流しながら、まっすぐにロバートを見る。

「お願い・・忘れさせて、あなたと・・」

その言葉で、ロバートはぎゅっとアデリーナを抱きしめた後、アデリーナに優しく口付けする。抱きしめながら、何度もなんども角度をかえて口付けを繰り返す。

「ああ、ロバート様」
アデリーナは、幸せな気持ちになる。

「様はいらない、アデリーナ、あなたを愛している。」

「私も。初めてあったときから愛しているわ」

「アデリーナ、結婚してほしい。一生、あなただけだ。大切にする。」

「嬉しい。私も一生あなただけです。」

二人は見つめ合い、もう一度口づけを交わす。しばらく抱きしめあいお互いの体温を感じ合うのであった。

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