思いが重なるとき

やぼ

文字の大きさ
3 / 16

祖母の死

しおりを挟む
マヤが母に連れられ、祖母の家を
初めて訪ねたのは、3歳の頃。

その頃の記憶は、殆どないはずなのに
何故か覚えている祖父の恐ろしい形相。

母を罵った声。

祖母は、その修羅場をマヤに見せまいと
マヤを抱いて別の部屋に連れて行った。

それっきり、母の実家には
1度も行くことがなかったが
祖母は時々、マヤ達の住むアパートを
訪ねてくれた。

クリスマスにはマヤがサンタさんに
頼んでおいたゲ-ムソフトやおもちゃを
毎年、クリスマスケ-キと一緒に
持って来てくれた。

「メリークリスマス!マヤちゃん
今年もサンタさんに頼まれたから
持ってきましたよ。はい。プレゼント。」

「ありがとう!おばあちゃん!」

普段、おもちゃなど買って貰えない
マヤにとって、祖母は唯一甘えられる
人だった。

そんな昔のことを
母の運転する車の中で、
マヤは思い出していた。

母は、無言だった。

母との久しぶりのドライブが
悲しいものになった。

暗く、永遠に続きそうだった
高速道路を下りると

目の前に大きな屋敷が見えてきた。

母の実家だ。

大きな家だったことだけは
何となく覚えているマヤだった。

まるで公園のような広い庭に
母が車を停めた。

既に沢山の弔問客でいっぱいの
玄関。

マヤ達、母子が行くと
母はそこにいた弔問客達に
取り囲まれた。

「春菜ちゃん、何度も知らせたのに
遅かったわ。早くお母さんに会って
あげて。」

「まあ、春菜ちゃん、元気にしてたの。
この子はマヤちゃんね。おばあちゃん
綺麗な顔してるわよ。会ってあげてね」

親戚のおば様達だろうか。
好意的な人達が多いが、中には
頭を下げる母を露骨に無視する人もいた。

ここは、母には針のムシロだろうか。
誰とも口をきかない、初めて見る母の厳しい顔。

通された奥の和室に祖母が眠っていた。

死んでいる人には見えない
穏やかで、笑ってるようにさえ見える。

「母さん、」
母が祖母の側へ行き、泣き崩れた。

マヤも祖母に抱きつきたい衝動に駆られたが、母の慟哭を見て
それは出来なかった。

突然、部屋に入ってきた白髪の男が
「何しに帰ってきた。お前は帰れ!」と
母をなじった。

これが、祖父だと思った。

母と祖父の間に何があったのかは知らないが
今は、祖母との別れの時なのに
酷い男だと、マヤは怒りがこみ上げてきた。

「やめて、ママをいじめないで!
おばあちゃんに会いにきただけなのに。
ママをおばあちゃんとお別れさせて
あけでください!」

祖父は驚いた顔をして、自分を
怒鳴ったマヤを見た。

「そうよ、兄さん。春菜ちゃんをもういい加減、許してあげなさいよ
最後くらいゆっくり話しがしたかったね。
姉さん、春菜ちゃんが帰ってきたよ」

祖父の妹だろうか、母の叔母様かな。
恐らく連絡をくれた人だろうとマヤは思った。

「マヤちゃん、こっちにいらっしゃい」
今は、ママとおばあちゃんを二人にしてあげようね。」

その祖父の妹が優しく手招きした。

私と祖父は、無言のまま
部屋を出た。

「マヤか、いくつになった。」

さっきの鬼の形相とは違って
祖父がマヤに話しかけた。

「16歳です。高1です。」

「もうそんな年になるのか」

以外にも祖父のマヤを見る目は
優しかった。

そして、
そう言ったきり黙ってしまった。

「マヤちゃん、おばあちゃんとは時々、会ってたんでしょ?」

「はい。小さい頃から。おばあちゃん
アパートに食べ物とか私の洋服や
ランドセルも買ってきてくれました。」

「そうだったの。」

「はい。でもママにはあまり会えなくて
いつもママのいない時に来てたから
私が図書館にいると、おばあちゃんが
迎えに来てご飯作ってくれてました。」

「瑠璃子は、そんなことをしていたのか。」

祖父が呆れたように言った。

祖母が私に会いに来ることが、
何か悪いことなのだろうか?
そんな言い方だった。

すると、すっと、襖が開いた。

「マヤ、帰ろうか。」
母は落ち着いた声で、祖父を見ずに
小さな声で言った。

「春菜ちゃん、何を言ってるの
しばらくは居て貰わなきゃ困ります。
姉さんだって、悲しむわよ。」

「でも、私がいたら…」
「帰るのは私が許しません!兄さんにも
文句は言わせませんからね!」


この家を取り仕切っているのだろうか
この叔母の迫力にマヤは
圧倒された。

その晩、おばあちゃんの眠る和室の
隣の部屋に母と泊まることになった。

蝋燭の火を絶やさないように
祖母の姉妹と母、祖父の妹弟がいて
一晩中、お線香をあげていた。
 
マヤにとっては初めて知る、
人の死を
弔う儀式だった。

それまで誰とも話そうとしなかった
母がマヤを気遣うように話しはじめた。






しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

〈完結〉遅効性の毒

ごろごろみかん。
ファンタジー
「結婚されても、私は傍にいます。彼が、望むなら」 悲恋に酔う彼女に私は笑った。 そんなに私の立場が欲しいなら譲ってあげる。

離婚する両親のどちらと暮らすか……娘が選んだのは夫の方だった。

しゃーりん
恋愛
夫の愛人に子供ができた。夫は私と離婚して愛人と再婚したいという。 私たち夫婦には娘が1人。 愛人との再婚に娘は邪魔になるかもしれないと思い、自分と一緒に連れ出すつもりだった。 だけど娘が選んだのは夫の方だった。 失意のまま実家に戻り、再婚した私が数年後に耳にしたのは、娘が冷遇されているのではないかという話。 事実ならば娘を引き取りたいと思い、元夫の家を訪れた。 再び娘が選ぶのは父か母か?というお話です。

彼女が望むなら

mios
恋愛
公爵令嬢と王太子殿下の婚約は円満に解消された。揉めるかと思っていた男爵令嬢リリスは、拍子抜けした。男爵令嬢という身分でも、王妃になれるなんて、予定とは違うが高位貴族は皆好意的だし、王太子殿下の元婚約者も応援してくれている。 リリスは王太子妃教育を受ける為、王妃と会い、そこで常に身につけるようにと、ある首飾りを渡される。

✿ 私は彼のことが好きなのに、彼は私なんかよりずっと若くてきれいでスタイルの良い女が好きらしい 

設楽理沙
ライト文芸
累計ポイント110万ポイント超えました。皆さま、ありがとうございます。❀ 結婚後、2か月足らずで夫の心変わりを知ることに。 結婚前から他の女性と付き合っていたんだって。 それならそうと、ちゃんと話してくれていれば、結婚なんて しなかった。 呆れた私はすぐに家を出て自立の道を探すことにした。 それなのに、私と別れたくないなんて信じられない 世迷言を言ってくる夫。 だめだめ、信用できないからね~。 さようなら。 *******.✿..✿.******* ◇|日比野滉星《ひびのこうせい》32才   会社員 ◇ 日比野ひまり 32才 ◇ 石田唯    29才          滉星の同僚 ◇新堂冬也    25才 ひまりの転職先の先輩(鉄道会社) 2025.4.11 完結 25649字 

靴屋の娘と三人のお兄様

こじまき
恋愛
靴屋の看板娘だったデイジーは、母親の再婚によってホークボロー伯爵令嬢になった。ホークボロー伯爵家の三兄弟、長男でいかにも堅物な軍人のアレン、次男でほとんど喋らない魔法使いのイーライ、三男でチャラい画家のカラバスはいずれ劣らぬキラッキラのイケメン揃い。平民出身のにわか伯爵令嬢とお兄様たちとのひとつ屋根の下生活。何も起こらないはずがない!? ※小説家になろうにも投稿しています。

さようならの定型文~身勝手なあなたへ

宵森みなと
恋愛
「好きな女がいる。君とは“白い結婚”を——」 ――それは、夢にまで見た結婚式の初夜。 額に誓いのキスを受けた“その夜”、彼はそう言った。 涙すら出なかった。 なぜなら私は、その直前に“前世の記憶”を思い出したから。 ……よりによって、元・男の人生を。 夫には白い結婚宣言、恋も砕け、初夜で絶望と救済で、目覚めたのは皮肉にも、“現実”と“前世”の自分だった。 「さようなら」 だって、もう誰かに振り回されるなんて嫌。 慰謝料もらって悠々自適なシングルライフ。 別居、自立して、左団扇の人生送ってみせますわ。 だけど元・夫も、従兄も、世間も――私を放ってはくれないみたい? 「……何それ、私の人生、まだ波乱あるの?」 はい、あります。盛りだくさんで。 元・男、今・女。 “白い結婚からの離縁”から始まる、人生劇場ここに開幕。 -----『白い結婚の行方』シリーズ ----- 『白い結婚の行方』の物語が始まる、前のお話です。

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

10年前に戻れたら…

かのん
恋愛
10年前にあなたから大切な人を奪った

処理中です...