婚約破棄された俺の農業異世界生活

深山恐竜

文字の大きさ
1 / 32

第1話 かぼちゃ畑の真ん中で

しおりを挟む
 太陽は空高く南中する。夏の盛り、雲はもくもくと高く積み上がり、鳥たちのさえずりが耳に心地よい。

「ああ、すばらしい」

 見事なかぼちゃ畑の中心に座って、俺は今年の豊作を確信した。

「くぅ~!これなんか、ぜったいに甘いだろ!」

 俺が特に大ぶりの1つを抱き上げて頬ずりしていると、あきれたような声が上から降ってきた。


「畑が好きって、キフェンは変わってるよね」

 目の前に立つ少年に、俺は笑いかけた。

「楽しいぞ、畑は」
「僕は畑仕事なんて飽き飽きしてるよ」

 少年はうんざりといったふうに肩をすくめる。
 俺は立ち上がって尻の土を払った。

「お前も農業の素晴らしさを知るべきだ!」

 俺はそのまま目の前の少年ーータンゼルに抱きついて、そのままもっさりと茂ったかぼちゃの大きな葉のうえに転がった。
 間引いても間引いても伸びる生命力あふれる緑に包まれて、俺は空を見上げた。夏の空は最高に美しかった。

 俺はキターニャ村という山裾の村に住んでいる。ここは肥沃とはいえず、育つものといえばかぼちゃや芋などだけだ。必死に手入れしても、多湿な気候のせいで植物が蔓枯病になりやすく、若者はどんどん土地を捨てている。
 タンゼルもその1人だ。来月には皇都へ出稼ぎに行くことが決まっている。都市では機織りの工場が新しく作られ、常に働き手を探しているそうだ。

「タンゼル、皇都では気を付けろよ。あそこは魔窟だぞ」

 抱きしめたまま俺が言うと、16歳になったばかりの少年はフン、と鼻を鳴らした。

「おっさんの言うことなんて、聞かないよ」
「だ!誰がおっさんだ!俺はまだ!25歳だ!」

 このタンゼルという少年は、よそ者の俺を最初に受け入れてくれた村人だった。彼は6年前、山で行き倒れている俺を見つけて、この村へ連れてきてくれた。普段は生意気な子どもだが、意外と慈悲深いところもある。

 俺は変わった髪と瞳をしている。灰色の髪と、灰色の瞳だ。金色や茶色の髪が多いこの国では、俺の容姿はちょっと異質だ。だが、タンゼルはそれに畏れることなく接してくれた。彼に感化されて、村人たちもかなり打ち解けてくれた。

 俺は村長から持ち主のいなくなった畑を分け与えられ、それ以降、食うには困らない程度の生活を営めている。
 俺は別れを惜しんで、この少年の髪をがしがしと撫でた。この赤毛と茶色い瞳の少年にもうすぐ会えなくなると思うと、悲しかった。

 俺の生活は平穏そのものだった。畑を耕し、村の老人の手伝いをして、子どもたちと遊ぶ。近頃は村人を集めて酪農にも挑戦中だ。国境を渡ってきた商人が連れてきた乳牛は無事に成長した。そろそろ交配して乳を出させてもいいかもしれない。

 俺はこの平和を愛している。


*****


 その日も、俺は増えすぎたかぼちゃの蔓を切っていた。夏場は毎日この仕事をしなければならない。増えすぎた蔓が太陽を遮ると、根が枯れてしまうのだ。
 収穫の喜びは、このような日々の手入れの先にある。俺はもくもくと作業にいそしんでいた。

 昼になって、タンゼルがやってきた。

「キフェン、村長が呼んでるよ」
「何の用?」
「客だって」
「客?」

 タンゼルは肩をすくめる。彼は質素なシャツを着て、手袋をつけている。どうやら畑仕事中に呼び出しを頼まれたようだ。これはただ事ではないと思って、俺も作業の手を止めた。

 首をかしげながら、鍬を置く。村長の家は村の入り口にある。ちょうど村の最深部にある俺の畑からは一番遠くなるが、それほど大きな村ではないため、天気の様子やほかの畑の様子を横目に見ながらゆっくり歩いても、すぐに行くことができる。

 虫の知らせというやつだろうか、嫌な予感がした。
 その予感は俺の足取りを重くさせた。
 俺はほかの畑の様子を見るという口実でゆっくりゆっくり牛の歩みで村長の家に向かった。




 そうして到着すると、村長の家の前に知らない馬車がとまっているのが目に入った。
 馬車は何の紋も入っていないが、銀が象嵌され、この田舎の村にはおおよそ似つかわしくないほど精巧なつくりだ。
 おまけに、ここの村人たちの全財産を集めても買えないであろう立派な赤毛の馬がつながれている。それも4頭。

「わあ、すっげー」

 タンゼルが感嘆する。少年が駆け寄ると、馬車の御者が帽子を上げて挨拶をした。
 その御者も、畑仕事ができなさそうな白いズボンに、磨かれた革の靴、金ボタンのジャケットを着ている。
 揃いの服装をした者が馬車のそばにさらに2人控えていて、その後ろには青灰色の鎧と刺繍の風よけを纏った護衛兵の姿が見えた。

 ここは金があるといわれている村人でも年老いた驢馬を買うので精一杯の村である。
 村のなかにおいて、煌びやかなこの一行は明らかに異質なものだった。
 村人たちは畑仕事の手を止め、何事かと遠巻きに様子をうかがっている。


 嫌な予感が当たっていたという確信とともに、俺はそのままくるりと背中を向けて立ち去ろうとした。
 だいたいこの手の予感は当たってしまうものだ。
 逃げるが勝ち。俺はこの平穏を失いたくない。抜き足、差し足で逃走だ。
 ところがそううまくいかないらしく、俺は後ろから呼び止められてしまった。

「ご無沙汰しております、キフェンダル様」

 誰もが背筋を伸ばしたくなる、そんな凛とした声が響いた。
 俺は顔をひきつらせて振り返った。
 そこには、もう会うこともないだろうと思っていた、麗人が立っていた。

「お迎えにあがりました」

 村長の家から出てきたその人は、スミレ色の瞳に白銀の髪をした、長身の男だ。

「ハンローレン……」

 俺は知らず、彼の名前を呼んだ。久方ぶりの再会で、ずいぶんと大人びて、精悍な顔になっているが、見間違えるはずがない。
 神への奉仕を表す灰色の衣。地まで届く長いマントに、神官の紋が刺繍されている。

 ーー彼は、俺の幼馴染で、この国の神官だ。



しおりを挟む
感想 24

あなたにおすすめの小説

目撃者、モブ

みけねこ
BL
平凡で生きてきた一般人主人公、ところがある日学園の催し物で事件が起き……⁈

涯(はて)の楽園

栗木 妙
BL
平民の自分が、この身一つで栄達を望むのであれば、軍に入るのが最も手っ取り早い方法だった。ようやく軍の最高峰である近衛騎士団への入団が叶った矢先に左遷させられてしまった俺の、飛ばされた先は、『軍人の墓場』と名高いカンザリア要塞島。そして、そこを治める総督は、男嫌いと有名な、とんでもない色男で―――。  [架空の世界を舞台にした物語。あくまで恋愛が主軸ですが、シリアス&ダークな要素も有。苦手な方はご注意ください。全体を通して一人称で語られますが、章ごとに視点が変わります。]   ※同一世界を舞台にした他関連作品もございます。  https://www.alphapolis.co.jp/novel/index?tag_id=17966   ※当作品は別サイトでも公開しております。 (以後、更新ある場合は↓こちら↓にてさせていただきます)   https://novel18.syosetu.com/n5766bg/

【完結】生まれ変わってもΩの俺は二度目の人生でキセキを起こす!

天白
BL
【あらすじ】バース性診断にてΩと判明した青年・田井中圭介は将来を悲観し、生きる意味を見出せずにいた。そんな圭介を憐れに思った曾祖父の陸郎が彼と家族を引き離すように命じ、圭介は父から紹介されたαの男・里中宗佑の下へ預けられることになる。 顔も見知らぬ男の下へ行くことをしぶしぶ承諾した圭介だったが、陸郎の危篤に何かが目覚めてしまったのか、前世の記憶が甦った。 「田井中圭介。十八歳。Ω。それから現当主である田井中陸郎の母であり、今日まで田井中家で語り継がれてきただろう、不幸で不憫でかわいそ~なΩこと田井中恵の生まれ変わりだ。改めてよろしくな!」 これは肝っ玉母ちゃん(♂)だった前世の記憶を持ちつつも獣人が苦手なΩの青年と、紳士で一途なスパダリ獣人αが小さなキセキを起こすまでのお話。 ※オメガバースもの。拙作「生まれ変わりΩはキセキを起こす」のリメイク作品です。登場人物の設定、文体、内容等が大きく変わっております。アルファポリス版としてお楽しみください。

りんご成金のご令息

けい
BL
 ノアには前世の記憶はあったがあまり役には立っていなかった。そもそもあまりにもあいまい過ぎた。魔力も身体能力も平凡で何か才能があるわけでもない。幸いにも裕福な商家の末っ子に生まれた彼は、真面目に学んで身を立てようとコツコツと勉強する。おかげで王都の学園で教育を受けられるようになったが、在学中に両親と兄が死に、店も乗っ取られ、残された姉と彼女の息子を育てるために学園を出て冒険者として生きていくことになる。  それから二年がたち、冒険者としていろいろあった後、ノアは学園の寮で同室だった同級生、ロイと再会する。彼が手を貸してくれたおかげで、生活に余裕が出て、目標に向けて頑張る時間もとれて、このまま姉と甥っ子と静かに暮らしていければいいと思っていたところ、姉が再婚して家を出て、ノアは一人になってしまう。新しい住処を探そうとするノアに、ロイは同居を持ち掛ける。ロイ×ノア。ふんわりした異世界転生もの。 他サイトにも投稿しています。

【本編完結】転生先で断罪された僕は冷酷な騎士団長に囚われる

ゆうきぼし/優輝星
BL
断罪された直後に前世の記憶がよみがえった主人公が、世界を無双するお話。 ・冤罪で断罪された元侯爵子息のルーン・ヴァルトゼーレは、処刑直前に、前世が日本のゲームプログラマーだった相沢唯人(あいざわゆいと)だったことを思い出す。ルーンは魔力を持たない「ノンコード」として家族や貴族社会から虐げられてきた。実は彼の魔力は覚醒前の「コードゼロ」で、世界を書き換えるほどの潜在能力を持つが、転生前の記憶が封印されていたため発現してなかったのだ。 ・間一髪のところで魔力を発動させ騎士団長に救い出される。実は騎士団長は呪われた第三王子だった。ルーンは冤罪を晴らし、騎士団長の呪いを解くために奮闘することを決める。 ・惹かれあう二人。互いの魔力の相性が良いことがわかり、抱き合う事で魔力が循環し活性化されることがわかるが……。

【完結】火を吐く土の国の王子は、塔から来た調査官に灼熱の愛をそそぐ

月田朋
BL
「トウヤ様、長旅お疲れのことでしょう。首尾よくなによりでございます。――とはいえ油断なされるな。決してお声を発してはなりませんぞ!」」 塔からはるばる火吐国(ひはきこく)にやってきた銀髪の美貌の調査官トウヤは、副官のザミドからの小言を背に王宮をさまよう。 塔の加護のせいで無言を貫くトウヤが王宮の浴場に案内され出会ったのは、美しくも対照的な二人の王子だった。 太陽に称される金の髪をもつニト、月に称される漆黒の髪をもつヨミであった。 トウヤは、やがて王家の秘密へと足を踏み入れる。 灼熱の王子に愛され焦がされるのは、理性か欲か。 【ぶっきらぼう王子×銀髪美人調査官】

無自覚人たらしマシュマロ令嬢、王宮で崇拝される ――見た目はぽっちゃり、中身は只者じゃない !

恋せよ恋
ファンタジー
 富豪にして美食家、オラニエ侯爵家の長女ステファニー。  もっちり体型から「マシュマロ令嬢」と陰口を叩かれる彼女だが、  本人は今日もご機嫌に美味しいものを食べている。  ――ただし、この令嬢、人のオーラが色で見える。  その力をひけらかすこともなく、ただ「気になるから」と忠告した結果、  不正商会が摘発され、運気が上がり、気づけば周囲には信奉者が増えていく。  十五歳で王妃に乞われ、王宮へ『なんでも顧問』として迎えられたステファニー。  美食を愛し、人を疑わず、誰にでも礼を尽くすその姿勢は、  いつの間にか貴族たちの心を掴み、王子たちまで惹きつけていく。  これは、  見た目はぽっちゃり、されど中身は只者ではないマシュマロ令嬢が、  無自覚のまま王宮を掌握していく、もっちり系・人たらし王宮譚。 🔶登場人物・設定は筆者の創作によるものです。 🔶不快に感じられる表現がありましたらお詫び申し上げます。 🔶誤字脱字・文の調整は、投稿後にも随時行います。 🔶今後もこの世界観で物語を続けてまいります。 🔶 エール📣いいね❤️励みになります!

【完結】顔だけと言われた騎士は大成を誓う

凪瀬夜霧
BL
「顔だけだ」と笑われても、俺は本気で騎士になりたかった。 傷だらけの努力の末にたどり着いた第三騎士団。 そこで出会った団長・ルークは、初めて“顔以外の俺”を見てくれた人だった。 不器用に愛を拒む騎士と、そんな彼を優しく包む団長。 甘くてまっすぐな、異世界騎士BLファンタジー。

処理中です...