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第5話 病のぶどう
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皇都に入る前、ハンローレンが俺に見せたいものがあるという。
馬車は街道を逸れて、田園風景の中を進んだ。
そうして見えてきたのは、ぶどう畑だった。
俺はそのぶどう畑の様子に言葉を失った。
「なんだ、これ」
「……今年は神の心がよろしくないようで」
見渡す限りぶどう農園であるそこは、いつもならばこの季節に青々とした葉が空を目指しているはずだった。
ーーいま目に入るのは、しおれて、くすんだ緑の葉ばかり。
「このままだと、秋の収穫が……」
夏に元気になるはずの植物がしおれている。緊急事態だ。
「対策はしておりますが、なかなか……」
ハンローレンは暗い面持ちだ。
「ちょっと馬車降りて、見てってもいいか?」
返事を聞くより早く、俺は地面に飛び降りた。
夏の日差しは熱く、特に平野が広がっている首都近くは熱がこもっているようだった。
ぶどう畑の中に入ると、果樹の異様さが際立たった。俺もハンローレンも言葉を失った。
ぶどうの葉が、白い。
よく見ると、小さな埃のようなものが固まって、葉を覆っているのだ。それが、この辺一帯の葉すべてに広がっている。
地面は乾燥している。風もぬるく、畑全体が熱をもっているみたいに暑い。それに、今年は雨が少なかった。
「うどんこ病だな」
「……うどん、こ?」
「ほら、うどんの粉みたいだろ?」
葉をちぎって叩くと、白い粉が舞った。
「うどんっていうのは、小麦粉からつくる食べ物のこと」
「あなたはよくわからない話をしますね」
ハンローレンは、慣れっこだというように、肩をすくめて見せた。
「ヨーロッパ系の品種はこれに弱いからな。この国もヨーロッパに近い気候だし、このままだと壊滅するぞ」
「なんとかできますか?」
「うーん」
うどんこ病は、重症化すると専用の農薬でも対処が間に合わないことがある。
葉の様子をみると、下の方の葉に感染が広がっているが、上の方の葉はまだ健康だ。まだ農薬がなくても食い止められる。
必要なものをあれこれ考えていると、畑の外に人影が現れた。
「……キフェンダル様を乗せた馬車はこちらですか?」
突然、その人影に声をかけられて、俺は畑の外を振り仰いだ。
「だれ……?」
逆光に目を細める。
「まっすぐに宮城へ、という命令であったはずですが? ハンローレン大神官」
人影が次々と現れて、俺たちが乗ってきた馬車を取り囲む。
「宮城へ。殿下がお待ちです」
光が当たって青銅色が鈍く反射する。
それは久々に見る、皇族直属の騎士の鎧だった。
*****
俺はそのまま宮城へ連れていかれそうになった。
しかし、ハンローレンが阻止してくれた。
「キフェンダル様は神殿が預かることになっています。誰であろうと、手出しは許しません」
彼の広い背にみっともなく隠れて、俺は久しぶりに皇都へと入った。
今、俺の身分は神殿預かりになっているらしく、馬車の周りとぐるりと取り囲んで首都に入った騎士たちは、神殿の門兵に追い払われた。
「皇子はあなたの髪色についての報告を受けて、大変気をよくされたらしいですよ。あなたがまだその髪色でいるのは、皇子への愛が残っているからだとか」
あてがわれた部屋でようやく一息ついていたら、ハンローレンがやってきて恐ろしいことを言う。
俺は自分の灰色の髪を乱暴に掻き上げた。
「勘弁してくれ」
俺たちは卓を挟んでソファに座った。ひさびさのソファは柔らかく、尻が沈み込んだ。
俺の髪と目は、配偶者になるための準備で変色した。儀式が完了すれば黒髪黒目になるそうだが、俺は灰色でとまっている。それは愛情によるものでは決してない。
「皇子は本気ですよ。神の眷属を伴侶にしなくては、彼は皇位に就けません」
「俺には関係ないさ。頑張って眷属になってくれる配偶者を探せよ」
吐き捨ててから、ふと気になった。
「もし、結婚相手がいなかったら、次の皇帝は誰になるんだ?」
「第二皇子がいますよ」
「へえー。そっちは婚約者いるのか?」
「……ええ」
俺は首をひねった。社交界にいたのはもう7年も前のことだ。しかし、将来のために懸命に貴族の家系図を暗記したのだ。その記憶の中に、第二皇子はいなかった。
俺の疑問を察したように、ハンローレンが説明した。
「第一皇子以外は、神殿でお預かりするんです。神殿のことですから、当然、貴族たちが内情を知ることはできません」
「ほ~」
この世界において、神殿は不可侵の存在なのだ。神が存在して、その眷属になることもできる世界だ。神殿は皇族を無事に育てるのに申し分ない場所だろう。
「それで、ハンローレン?何をたくらんでるんだ?そろそろ説明してくれてもいいだろ?」
「あなたが儀式の続きができるかどうか、明日には宮城へ知らせが飛びますよ。答えは、もちろん否です」
「そうなのか?俺、何もしてないけど」
「判定を出すのは大神官である私ですから」
「出世したなぁ」
俺は安心してソファに横になった。下品だと咎められることはなかった。
俺はもう庶民だからな。
対して、あの頃俺の世話をしてくれていた男の子がこの国に6人しかいない大神官だ。
「あなたのために出世したのです」
恥ずかしげもなく、まっすぐな瞳でそういわれて、俺は思わず赤面してしまった。
俺たちの間に流れた妙な雰囲気を変えようと、俺はぶどう畑のことを尋ねた。
「ぶどう、大丈夫かな。収穫量落ちるだろうな~」
「救えますか?ワインはこの辺りの特産品です。このままでは、農民たちが飢えてしまいます。あなたは賢者と呼ばれていましたよね」
「村でそんな呼び方している奴はいなかったけどな」
いるのは、おっさん呼ばわりしてくる生意気な少年くらいだ。
「……まあ、ぶどう畑なら、手がある」
すぐにでも帰りたいくらいだが、ハンローレンの頼みだ。
「本当ですか?」
大神官は嬉しそうに顔をほころばせる。俺は頼もしく頷いて見せた。
神殿に、「キフェンダルはもう儀式の続きができません」と一筆もらうことができれば安泰なのだ。
ここで大神官の不興を買うわけにもいかない。
うどんこ病は結局、カビのことだ。乾燥と高温でカビが発生し、それが葉を覆って腐らせてしまうのだ。その昔、ヨーロッパではこの病気が猛威を振るったと聞くが、実は対処は簡単だ。
俺は翌日からぶどいう畑の改革に着手することになった。
馬車は街道を逸れて、田園風景の中を進んだ。
そうして見えてきたのは、ぶどう畑だった。
俺はそのぶどう畑の様子に言葉を失った。
「なんだ、これ」
「……今年は神の心がよろしくないようで」
見渡す限りぶどう農園であるそこは、いつもならばこの季節に青々とした葉が空を目指しているはずだった。
ーーいま目に入るのは、しおれて、くすんだ緑の葉ばかり。
「このままだと、秋の収穫が……」
夏に元気になるはずの植物がしおれている。緊急事態だ。
「対策はしておりますが、なかなか……」
ハンローレンは暗い面持ちだ。
「ちょっと馬車降りて、見てってもいいか?」
返事を聞くより早く、俺は地面に飛び降りた。
夏の日差しは熱く、特に平野が広がっている首都近くは熱がこもっているようだった。
ぶどう畑の中に入ると、果樹の異様さが際立たった。俺もハンローレンも言葉を失った。
ぶどうの葉が、白い。
よく見ると、小さな埃のようなものが固まって、葉を覆っているのだ。それが、この辺一帯の葉すべてに広がっている。
地面は乾燥している。風もぬるく、畑全体が熱をもっているみたいに暑い。それに、今年は雨が少なかった。
「うどんこ病だな」
「……うどん、こ?」
「ほら、うどんの粉みたいだろ?」
葉をちぎって叩くと、白い粉が舞った。
「うどんっていうのは、小麦粉からつくる食べ物のこと」
「あなたはよくわからない話をしますね」
ハンローレンは、慣れっこだというように、肩をすくめて見せた。
「ヨーロッパ系の品種はこれに弱いからな。この国もヨーロッパに近い気候だし、このままだと壊滅するぞ」
「なんとかできますか?」
「うーん」
うどんこ病は、重症化すると専用の農薬でも対処が間に合わないことがある。
葉の様子をみると、下の方の葉に感染が広がっているが、上の方の葉はまだ健康だ。まだ農薬がなくても食い止められる。
必要なものをあれこれ考えていると、畑の外に人影が現れた。
「……キフェンダル様を乗せた馬車はこちらですか?」
突然、その人影に声をかけられて、俺は畑の外を振り仰いだ。
「だれ……?」
逆光に目を細める。
「まっすぐに宮城へ、という命令であったはずですが? ハンローレン大神官」
人影が次々と現れて、俺たちが乗ってきた馬車を取り囲む。
「宮城へ。殿下がお待ちです」
光が当たって青銅色が鈍く反射する。
それは久々に見る、皇族直属の騎士の鎧だった。
*****
俺はそのまま宮城へ連れていかれそうになった。
しかし、ハンローレンが阻止してくれた。
「キフェンダル様は神殿が預かることになっています。誰であろうと、手出しは許しません」
彼の広い背にみっともなく隠れて、俺は久しぶりに皇都へと入った。
今、俺の身分は神殿預かりになっているらしく、馬車の周りとぐるりと取り囲んで首都に入った騎士たちは、神殿の門兵に追い払われた。
「皇子はあなたの髪色についての報告を受けて、大変気をよくされたらしいですよ。あなたがまだその髪色でいるのは、皇子への愛が残っているからだとか」
あてがわれた部屋でようやく一息ついていたら、ハンローレンがやってきて恐ろしいことを言う。
俺は自分の灰色の髪を乱暴に掻き上げた。
「勘弁してくれ」
俺たちは卓を挟んでソファに座った。ひさびさのソファは柔らかく、尻が沈み込んだ。
俺の髪と目は、配偶者になるための準備で変色した。儀式が完了すれば黒髪黒目になるそうだが、俺は灰色でとまっている。それは愛情によるものでは決してない。
「皇子は本気ですよ。神の眷属を伴侶にしなくては、彼は皇位に就けません」
「俺には関係ないさ。頑張って眷属になってくれる配偶者を探せよ」
吐き捨ててから、ふと気になった。
「もし、結婚相手がいなかったら、次の皇帝は誰になるんだ?」
「第二皇子がいますよ」
「へえー。そっちは婚約者いるのか?」
「……ええ」
俺は首をひねった。社交界にいたのはもう7年も前のことだ。しかし、将来のために懸命に貴族の家系図を暗記したのだ。その記憶の中に、第二皇子はいなかった。
俺の疑問を察したように、ハンローレンが説明した。
「第一皇子以外は、神殿でお預かりするんです。神殿のことですから、当然、貴族たちが内情を知ることはできません」
「ほ~」
この世界において、神殿は不可侵の存在なのだ。神が存在して、その眷属になることもできる世界だ。神殿は皇族を無事に育てるのに申し分ない場所だろう。
「それで、ハンローレン?何をたくらんでるんだ?そろそろ説明してくれてもいいだろ?」
「あなたが儀式の続きができるかどうか、明日には宮城へ知らせが飛びますよ。答えは、もちろん否です」
「そうなのか?俺、何もしてないけど」
「判定を出すのは大神官である私ですから」
「出世したなぁ」
俺は安心してソファに横になった。下品だと咎められることはなかった。
俺はもう庶民だからな。
対して、あの頃俺の世話をしてくれていた男の子がこの国に6人しかいない大神官だ。
「あなたのために出世したのです」
恥ずかしげもなく、まっすぐな瞳でそういわれて、俺は思わず赤面してしまった。
俺たちの間に流れた妙な雰囲気を変えようと、俺はぶどう畑のことを尋ねた。
「ぶどう、大丈夫かな。収穫量落ちるだろうな~」
「救えますか?ワインはこの辺りの特産品です。このままでは、農民たちが飢えてしまいます。あなたは賢者と呼ばれていましたよね」
「村でそんな呼び方している奴はいなかったけどな」
いるのは、おっさん呼ばわりしてくる生意気な少年くらいだ。
「……まあ、ぶどう畑なら、手がある」
すぐにでも帰りたいくらいだが、ハンローレンの頼みだ。
「本当ですか?」
大神官は嬉しそうに顔をほころばせる。俺は頼もしく頷いて見せた。
神殿に、「キフェンダルはもう儀式の続きができません」と一筆もらうことができれば安泰なのだ。
ここで大神官の不興を買うわけにもいかない。
うどんこ病は結局、カビのことだ。乾燥と高温でカビが発生し、それが葉を覆って腐らせてしまうのだ。その昔、ヨーロッパではこの病気が猛威を振るったと聞くが、実は対処は簡単だ。
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