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番外 未来の約束
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いつだったか、マスカード城にいたときにハンローレンが俺に「何か欲しいものはあるか」と尋ねた。
ハンローレンに尋ねたところ、まだ有効らしかった。
ということで、俺が彼にとある植物を強請った。
「ううーん」
俺はその植物を前に唸っていた。
場所は宮城で、俺に与えられた作業室の中である。
もちろん、農業についてあれこれするための部屋だ。
ハンローレンの即位以来、俺の仕事場所はもっぱらここになっていた。
俺の目の前には数種類の稲――と呼んでもいい外見をしている植物――が並べられている。
これは、ハンローレンが国中に使者を出して見つけ出してきてくれた、「米」になれる可能性があると思われる植物たちだ。
それぞれ、実が赤いもの、細長いもの、触れるだけで実がぽろぽろと落ちるもの……いろいろな特徴を持っている。
「どれが米になるのかなぁ……」
俺はまた唸った。
俺のもといた世界では、栽培されている稲は中国の南、ラオス、タイ、ビルマなどの熱帯地域原産の野生稲を原種としていた。
原種は穂が小さく、実も少ないらしい。
それを人類がより多くの実をつけるように改良していったのだ。
寒さに強いジャポニカ米、高湿度と高気温に強いインディカ米……米は世界中に広まった。
言い換えるなら、世界中で品種改良されたのが俺たちがよく見ていた稲という植物であって、自然界には存在しないのだ。
したがって、俺がハンローレンに探してもらったのは、稲そのものというよりも、稲になれる可能性のある原種である。
そうして、それらしい植物が多く集まった。
――問題は、どれが米にたどり着けるか、俺には見極められないことである。
「あなたにもわからないことがあるのですね」
ハンローレンは頭を抱える俺を物珍しそうに見ている。
彼はたまに仕事を抜けて俺の様子を見に来るのだ。
国はまだごたごたしているが、聖教者からの支持があつい彼は、民衆からの支持も高く、それなりになんとかまわっているらしい。
俺はその辺のことはわからないが、ハンローレンが大丈夫というので、それを信じることにしていた。
ハンローレンはさらに笑いながら言う。
「噂によると、あなたは空を飛ぶし、呪文を唱えればたちまち畑が緑になるという話ですが……」
彼の口から最近巷で噂になっている俺の尾ひれがつきまくった話が出たので、俺は頭を抱えた。
「もうその話はやめてくれ……」
ハンローレンが悪い笑顔をしているので、俺はさっさと話題を戻す。
「さすがに……俺は品種改良はしたことがないんだよ」
なんとなくやり方は知っているが、したことはないし、当然品種改良される前の米を推測できるような知識もない。
俺は手を叩いた。
「もうわかんないから、それっぽいのをいくつか選んで試してみよう」
そう言って、俺が選んだのは3つである。
ひとつはインドのパスマティに似ている粒が細長いもの。
ひとつは日本米に似ている形のもの。
そして最後は大粒で幅広の実のもの。
本命は最後だ。
なんとなく、形がジャバニカ米に似ているのだ。
ジャバニカ米とは、イタリアなどの地中海沿岸を中心に栽培された米である。
この四季があり、かつ乾燥しているこの国での栽培に向いている気がする。
ジャバニカ米なら、パエリアなどに向いており、米を単体で食べるよりもこの国の人に受け入れられそうである。
「パエリア……いいなぁ」
濃厚な魚介の香りを想像して、じゅわりと唾液が出た。
さて、想像をするのは簡単だが、いざ品種改良となると気合をいれなければいけない。
品種改良においてやるべきことは少ないが、根気がいるのだ。
栽培し、より望ましい形質を持った種子を集め、そしてまた栽培……こうして代を重ねるほかにない。
「どれくらいかかるのですか」
ハンローレンが尋ねるが、それは俺にもわからない。
「10年とか、30年とか?」
俺が答えると、ハンローレンは苦笑した。
「ずいぶんと気の遠くなる話ですね」
「まあ、そういうもんだ」
「10年後、食べさせていただけるんですか?」
「そりゃあ、できていればな」
俺が答えると、ハンローレンは笑った。
「楽しみにしていますね」
「じゃあ、ひとまず今は何をしようかな……」
今俺にできること。
米ができるのはきっともっと先になる。となれば今すべきこと、できることは何だろうか。
「そうだ。魚醤作るか」
「ギョショウ?」
ハンローレンが首をかしげる。
俺は得意げに説明する。
「米っていえば醤油なんだよ。チャーハンも焼きおにぎりも、卵かけごはんも食べられる」
「ショウユ?」
「うん。でも、さすがに醤油は手間かかるから、まずは魚醤から作ってみよう。魚からつくる醤油だよ」
作り方は簡単だ。
内臓を取り除いた生魚と塩を瓶に入れ、暗所で保管するだけだ。
勝手に発酵し「醤」になる。
「1年後のお楽しみだな。パエリアのアクセントにもいい」
俺が言うと、ハンローレンはまた笑った。
「次は1年ですか」
「1年くらい待てよ」
俺が言うと、彼は首を振った。
「ええ、待ちますとも。私――あなたと未来の約束ができることがうれしくて」
頬が火照るのがわかった。
こういうことを、さらっと言ってしまう彼が憎らしい。
俺はちょっとだけ意地悪な気持ちになって言った。
「魚醤は好き嫌いわかれるんだからな!」
「あなたが作るものならなんでも好きです」
俺は彼には勝てないと思う。
ハンローレンに尋ねたところ、まだ有効らしかった。
ということで、俺が彼にとある植物を強請った。
「ううーん」
俺はその植物を前に唸っていた。
場所は宮城で、俺に与えられた作業室の中である。
もちろん、農業についてあれこれするための部屋だ。
ハンローレンの即位以来、俺の仕事場所はもっぱらここになっていた。
俺の目の前には数種類の稲――と呼んでもいい外見をしている植物――が並べられている。
これは、ハンローレンが国中に使者を出して見つけ出してきてくれた、「米」になれる可能性があると思われる植物たちだ。
それぞれ、実が赤いもの、細長いもの、触れるだけで実がぽろぽろと落ちるもの……いろいろな特徴を持っている。
「どれが米になるのかなぁ……」
俺はまた唸った。
俺のもといた世界では、栽培されている稲は中国の南、ラオス、タイ、ビルマなどの熱帯地域原産の野生稲を原種としていた。
原種は穂が小さく、実も少ないらしい。
それを人類がより多くの実をつけるように改良していったのだ。
寒さに強いジャポニカ米、高湿度と高気温に強いインディカ米……米は世界中に広まった。
言い換えるなら、世界中で品種改良されたのが俺たちがよく見ていた稲という植物であって、自然界には存在しないのだ。
したがって、俺がハンローレンに探してもらったのは、稲そのものというよりも、稲になれる可能性のある原種である。
そうして、それらしい植物が多く集まった。
――問題は、どれが米にたどり着けるか、俺には見極められないことである。
「あなたにもわからないことがあるのですね」
ハンローレンは頭を抱える俺を物珍しそうに見ている。
彼はたまに仕事を抜けて俺の様子を見に来るのだ。
国はまだごたごたしているが、聖教者からの支持があつい彼は、民衆からの支持も高く、それなりになんとかまわっているらしい。
俺はその辺のことはわからないが、ハンローレンが大丈夫というので、それを信じることにしていた。
ハンローレンはさらに笑いながら言う。
「噂によると、あなたは空を飛ぶし、呪文を唱えればたちまち畑が緑になるという話ですが……」
彼の口から最近巷で噂になっている俺の尾ひれがつきまくった話が出たので、俺は頭を抱えた。
「もうその話はやめてくれ……」
ハンローレンが悪い笑顔をしているので、俺はさっさと話題を戻す。
「さすがに……俺は品種改良はしたことがないんだよ」
なんとなくやり方は知っているが、したことはないし、当然品種改良される前の米を推測できるような知識もない。
俺は手を叩いた。
「もうわかんないから、それっぽいのをいくつか選んで試してみよう」
そう言って、俺が選んだのは3つである。
ひとつはインドのパスマティに似ている粒が細長いもの。
ひとつは日本米に似ている形のもの。
そして最後は大粒で幅広の実のもの。
本命は最後だ。
なんとなく、形がジャバニカ米に似ているのだ。
ジャバニカ米とは、イタリアなどの地中海沿岸を中心に栽培された米である。
この四季があり、かつ乾燥しているこの国での栽培に向いている気がする。
ジャバニカ米なら、パエリアなどに向いており、米を単体で食べるよりもこの国の人に受け入れられそうである。
「パエリア……いいなぁ」
濃厚な魚介の香りを想像して、じゅわりと唾液が出た。
さて、想像をするのは簡単だが、いざ品種改良となると気合をいれなければいけない。
品種改良においてやるべきことは少ないが、根気がいるのだ。
栽培し、より望ましい形質を持った種子を集め、そしてまた栽培……こうして代を重ねるほかにない。
「どれくらいかかるのですか」
ハンローレンが尋ねるが、それは俺にもわからない。
「10年とか、30年とか?」
俺が答えると、ハンローレンは苦笑した。
「ずいぶんと気の遠くなる話ですね」
「まあ、そういうもんだ」
「10年後、食べさせていただけるんですか?」
「そりゃあ、できていればな」
俺が答えると、ハンローレンは笑った。
「楽しみにしていますね」
「じゃあ、ひとまず今は何をしようかな……」
今俺にできること。
米ができるのはきっともっと先になる。となれば今すべきこと、できることは何だろうか。
「そうだ。魚醤作るか」
「ギョショウ?」
ハンローレンが首をかしげる。
俺は得意げに説明する。
「米っていえば醤油なんだよ。チャーハンも焼きおにぎりも、卵かけごはんも食べられる」
「ショウユ?」
「うん。でも、さすがに醤油は手間かかるから、まずは魚醤から作ってみよう。魚からつくる醤油だよ」
作り方は簡単だ。
内臓を取り除いた生魚と塩を瓶に入れ、暗所で保管するだけだ。
勝手に発酵し「醤」になる。
「1年後のお楽しみだな。パエリアのアクセントにもいい」
俺が言うと、ハンローレンはまた笑った。
「次は1年ですか」
「1年くらい待てよ」
俺が言うと、彼は首を振った。
「ええ、待ちますとも。私――あなたと未来の約束ができることがうれしくて」
頬が火照るのがわかった。
こういうことを、さらっと言ってしまう彼が憎らしい。
俺はちょっとだけ意地悪な気持ちになって言った。
「魚醤は好き嫌いわかれるんだからな!」
「あなたが作るものならなんでも好きです」
俺は彼には勝てないと思う。
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