2 / 185
第一章「闇割鬼往来(やみをさくおにのゆきき)」
【魂魄・壱】『輝く夜に月を見た』1話「キザシとキジ」
しおりを挟む
いつもの布団の中で彼は目覚めた。寝起きは悪い。思考が定まらない。たまにこの夢を見る。
いつも同じ夢だ。柔らかで優しい場所から離されて暗闇を漂う。不安と恐怖の中で冷静さを取り戻して見つけたのは、温もりという名の勇気だった。
真っ白な髪をかきあげ寝ぼけた頭で周りを見回すと武人らしい質素な空間にいる。寝床と小さな机のほかは刀や弓矢などしかない。
他に遊興に更けこむような道具は一切なく、部屋は多くの武具で埋め尽くされていた。
――コンコン
寝室の扉を丁寧に叩く小さな二つの音。「あぁ……起きてるよ」と扉越しに声をかける。
素早く簡易な甲冑に身を包んで扉を開けると、そこに居たのは見知った女性。淡い金色の髪は長いが邪魔にならぬようキチリと団子型にまとめられている。
彼と同じような甲冑を白い衣服の上から装備しているが同様にまだ年端も行かないのは、控えめに胸部の布を押し上げた小ぶりな二つの膨らみで確認できる。
「若、朝食の用意ができております。それに……陛下がお呼びです」
「いつもありがとう。キジはもう食べたの?」
「お先に失礼致しました……またあの夢ですか」
「いつも同じ夢だ。いい加減に見飽きたよ」
「そうですか」
キジと呼ばれた女性は凛とした眼差しで彼――キザシに軽く会釈する。彼の甲冑よりも簡易な彼女のそれは片方の肩と胸部など最低限の部分しか覆っていない。
なぜなら答えは彼女の背中にあった。キザシにはない二つの造形物。衣服の隙間から伸びた美しい純白の翼がキジの背中に備わっていて、彼女がキザシとは異なる半人半獣である事を物語っていた。
翼を備えた武人キジが厳かに部屋の扉を開け彼を廊下へと誘う。そこには警護の者達が「おはようございます」と規律正しく整列していた。
彼らよりも明らかにキジの位が上なのは、身につけた衣服や態度から容易に推察できる。彼女は恭しくキザシに会釈すると「陛下」と呼ばれる高貴な人物との謁見の間へと誘導した。
――邪馬徒朝廷
それは日ノ本という、この島国の政権を握っている一大勢力だ。
二つ設置された軍部の一つ「使役所」の総長がキザシの肩書である。その機関は書いて字の如くキジのような半獣を使役する使役士達によって構成されている。
よく見てみるとヒトである彼らが体の一部分が獣や鳥である半獣を使役しているが、その使役士達は総長であるキザシに最大限の敬意を払うと共に、傍らでいつも有能に働くこの半獣女性にも同じ様に敬服の意を表していた。
キザシとキジ――二人の歩みが皇子の待つ謁見の間に到達すると、更に多くの衛士達が厳重に守る重厚な扉が開かれ、彼らは厳かに皇子の元へと進んでいく。
そこには豪華な衣服と多くの宝飾に身を包んだ若い男が、見るからに贅沢で絢爛な玉座に足を組み気怠そうに座っていた。
「陛下。お待たせして申し訳ございません」
「キザシ君、ダメじゃない。寝坊は武人として失格だよ」
「はい……返す言葉もございません」
「いいよ、キミはボクのお気に入りだから。いつもの夢かい?」
「はい」
キザシは軍部の最高位である総長にも関わらず朝に弱いが、若き皇子貴武は、この二人が十年前に朝廷の都に移り住んだ頃から目を瞑っていた。
遡る事およそ十年前――。
キザシはキジを含めた三人の半獣と共に農作物や家畜を荒らす怪物を「征伐」した。
当時キザシは六歳、キジ八歳。この子供らが大人も恐れる怪物を退治したという理解しがたい噂は、すぐに朝廷の貴武のもとにも届いた。
子供達は都に呼ばれ怪物の棲処から持ち帰った宝物と引き換えに貴武直属の衛士として召し抱えられた。
キザシの祖父母は身体が弱く生活も苦しかった事から、あばら家に住む老人の元で生涯を終えるより、都で立身出世する事を彼らが勧めたしキザシ自身も望んでいた。
当時からキザシを慕っているキジは当然ながら彼に付き従ったが、残り二人の半獣は朝廷に反感を抱いていた。
だから彼らは少年衛士という名の貴武の遊び相手を不服に思い、キザシ達と離れバラバラとなって現在に至る。
「それで……」
「はい」
「キミを呼んだのは他でもない。あの怪物が再びボクの支配する土地を荒らしているらしい。十年前キミは本当にアレを退治したのかい?」
「はい……本当にあの怪物でしょうか。他の者である可能性はありませんか」
「そこでキミに調べてきて欲しい。キジも連れて行っていいよ」
「やはり場所は例の島でしょうか」
「それを調べるのがキミ達の仕事じゃないか。近くの村にも聞き込むといい」
「かしこまりました」
貴武はうんざりした表情を浮かべると面倒くさそうに言い放った。
人差し指でその波打った黒い長髪をクルクルと弄っているのは、今日の髪型が気に入らない証拠である。
二人は貴武に敬礼すると謁見の間を後にした。再び各々の部屋に戻り数日分の旅支度を整えてから城門前で落ち合い都を出る。
関所を抜けて周囲に誰もいなくなると、訝しそうに眉間にシワを寄せたキジが前方を歩くキザシに声をかけた。
「若、十年前のあの件、陛下はどこまでお気付きでしょうか」
「分からない……だけど彼に会うしかないよ。『鬼』と呼ばれた男に……」
「……まさか、彼はあの島に戻ったというのでしょうか。せっかく我々が」
「ああ。何はともあれ付近の村人から情報を得てから島に向かおう。彼の仕業でなかったら、それなりの準備をしなくてはならないし」
「そうですね……それにしても」
「……うん?」
「若との久しぶりの旅、なんだか嬉しいです」
「そうだね。都にいると気の休まる暇がないから外に出るとホッとする」
「ふふ……それにこうして歩いていると若の前名を思い出します」
都を出て表情のこわばりが緩んだキジは、穏やかな眼差しでキザシを見つめる。彼もまた使役所で采配を振るういつもの様子ではなく、少年の頃に戻ったようにキジに微笑みかけた。
「ハハッ懐かしいな。『朝廷の衛士として召し抱えられる以上、それなりの名前を名乗れ』と陛下に頂いたこの名前……ヘンかな、僕は気に入っているけど」
「『木に成るただの果実ではなく、朝廷を繁栄させる兆となれ』と陛下は仰いましたが、私は以前の方が好きでした。可愛らしくて」
「可愛らし……もうっ……僕は十六だよ。いつまでも姉目線で……二人きりの時はいいけど都では勘弁してくれよ。部下の目があるし……」
「ふふ……失礼しました」
納得いかない様子で未だ寝癖の残る白髪をかきながら顔を赤らめて先を行ってしまうキザシ。そんな彼を愛しい弟を見るような優しい眼差しで見送るキジは呟いた。
「優しくて可愛い……桃太郎さま」
そう言うと「あ、待って」と真っ白な翼を羽ばたかせて先を行く彼を追う。キジはキザシと初めて出会った頃に思いを馳せた――。
いつも同じ夢だ。柔らかで優しい場所から離されて暗闇を漂う。不安と恐怖の中で冷静さを取り戻して見つけたのは、温もりという名の勇気だった。
真っ白な髪をかきあげ寝ぼけた頭で周りを見回すと武人らしい質素な空間にいる。寝床と小さな机のほかは刀や弓矢などしかない。
他に遊興に更けこむような道具は一切なく、部屋は多くの武具で埋め尽くされていた。
――コンコン
寝室の扉を丁寧に叩く小さな二つの音。「あぁ……起きてるよ」と扉越しに声をかける。
素早く簡易な甲冑に身を包んで扉を開けると、そこに居たのは見知った女性。淡い金色の髪は長いが邪魔にならぬようキチリと団子型にまとめられている。
彼と同じような甲冑を白い衣服の上から装備しているが同様にまだ年端も行かないのは、控えめに胸部の布を押し上げた小ぶりな二つの膨らみで確認できる。
「若、朝食の用意ができております。それに……陛下がお呼びです」
「いつもありがとう。キジはもう食べたの?」
「お先に失礼致しました……またあの夢ですか」
「いつも同じ夢だ。いい加減に見飽きたよ」
「そうですか」
キジと呼ばれた女性は凛とした眼差しで彼――キザシに軽く会釈する。彼の甲冑よりも簡易な彼女のそれは片方の肩と胸部など最低限の部分しか覆っていない。
なぜなら答えは彼女の背中にあった。キザシにはない二つの造形物。衣服の隙間から伸びた美しい純白の翼がキジの背中に備わっていて、彼女がキザシとは異なる半人半獣である事を物語っていた。
翼を備えた武人キジが厳かに部屋の扉を開け彼を廊下へと誘う。そこには警護の者達が「おはようございます」と規律正しく整列していた。
彼らよりも明らかにキジの位が上なのは、身につけた衣服や態度から容易に推察できる。彼女は恭しくキザシに会釈すると「陛下」と呼ばれる高貴な人物との謁見の間へと誘導した。
――邪馬徒朝廷
それは日ノ本という、この島国の政権を握っている一大勢力だ。
二つ設置された軍部の一つ「使役所」の総長がキザシの肩書である。その機関は書いて字の如くキジのような半獣を使役する使役士達によって構成されている。
よく見てみるとヒトである彼らが体の一部分が獣や鳥である半獣を使役しているが、その使役士達は総長であるキザシに最大限の敬意を払うと共に、傍らでいつも有能に働くこの半獣女性にも同じ様に敬服の意を表していた。
キザシとキジ――二人の歩みが皇子の待つ謁見の間に到達すると、更に多くの衛士達が厳重に守る重厚な扉が開かれ、彼らは厳かに皇子の元へと進んでいく。
そこには豪華な衣服と多くの宝飾に身を包んだ若い男が、見るからに贅沢で絢爛な玉座に足を組み気怠そうに座っていた。
「陛下。お待たせして申し訳ございません」
「キザシ君、ダメじゃない。寝坊は武人として失格だよ」
「はい……返す言葉もございません」
「いいよ、キミはボクのお気に入りだから。いつもの夢かい?」
「はい」
キザシは軍部の最高位である総長にも関わらず朝に弱いが、若き皇子貴武は、この二人が十年前に朝廷の都に移り住んだ頃から目を瞑っていた。
遡る事およそ十年前――。
キザシはキジを含めた三人の半獣と共に農作物や家畜を荒らす怪物を「征伐」した。
当時キザシは六歳、キジ八歳。この子供らが大人も恐れる怪物を退治したという理解しがたい噂は、すぐに朝廷の貴武のもとにも届いた。
子供達は都に呼ばれ怪物の棲処から持ち帰った宝物と引き換えに貴武直属の衛士として召し抱えられた。
キザシの祖父母は身体が弱く生活も苦しかった事から、あばら家に住む老人の元で生涯を終えるより、都で立身出世する事を彼らが勧めたしキザシ自身も望んでいた。
当時からキザシを慕っているキジは当然ながら彼に付き従ったが、残り二人の半獣は朝廷に反感を抱いていた。
だから彼らは少年衛士という名の貴武の遊び相手を不服に思い、キザシ達と離れバラバラとなって現在に至る。
「それで……」
「はい」
「キミを呼んだのは他でもない。あの怪物が再びボクの支配する土地を荒らしているらしい。十年前キミは本当にアレを退治したのかい?」
「はい……本当にあの怪物でしょうか。他の者である可能性はありませんか」
「そこでキミに調べてきて欲しい。キジも連れて行っていいよ」
「やはり場所は例の島でしょうか」
「それを調べるのがキミ達の仕事じゃないか。近くの村にも聞き込むといい」
「かしこまりました」
貴武はうんざりした表情を浮かべると面倒くさそうに言い放った。
人差し指でその波打った黒い長髪をクルクルと弄っているのは、今日の髪型が気に入らない証拠である。
二人は貴武に敬礼すると謁見の間を後にした。再び各々の部屋に戻り数日分の旅支度を整えてから城門前で落ち合い都を出る。
関所を抜けて周囲に誰もいなくなると、訝しそうに眉間にシワを寄せたキジが前方を歩くキザシに声をかけた。
「若、十年前のあの件、陛下はどこまでお気付きでしょうか」
「分からない……だけど彼に会うしかないよ。『鬼』と呼ばれた男に……」
「……まさか、彼はあの島に戻ったというのでしょうか。せっかく我々が」
「ああ。何はともあれ付近の村人から情報を得てから島に向かおう。彼の仕業でなかったら、それなりの準備をしなくてはならないし」
「そうですね……それにしても」
「……うん?」
「若との久しぶりの旅、なんだか嬉しいです」
「そうだね。都にいると気の休まる暇がないから外に出るとホッとする」
「ふふ……それにこうして歩いていると若の前名を思い出します」
都を出て表情のこわばりが緩んだキジは、穏やかな眼差しでキザシを見つめる。彼もまた使役所で采配を振るういつもの様子ではなく、少年の頃に戻ったようにキジに微笑みかけた。
「ハハッ懐かしいな。『朝廷の衛士として召し抱えられる以上、それなりの名前を名乗れ』と陛下に頂いたこの名前……ヘンかな、僕は気に入っているけど」
「『木に成るただの果実ではなく、朝廷を繁栄させる兆となれ』と陛下は仰いましたが、私は以前の方が好きでした。可愛らしくて」
「可愛らし……もうっ……僕は十六だよ。いつまでも姉目線で……二人きりの時はいいけど都では勘弁してくれよ。部下の目があるし……」
「ふふ……失礼しました」
納得いかない様子で未だ寝癖の残る白髪をかきながら顔を赤らめて先を行ってしまうキザシ。そんな彼を愛しい弟を見るような優しい眼差しで見送るキジは呟いた。
「優しくて可愛い……桃太郎さま」
そう言うと「あ、待って」と真っ白な翼を羽ばたかせて先を行く彼を追う。キジはキザシと初めて出会った頃に思いを馳せた――。
0
あなたにおすすめの小説
江戸の夕映え
大麦 ふみ
歴史・時代
江戸時代にはたくさんの随筆が書かれました。
「のどやかな気分が漲っていて、読んでいると、己れもその時代に生きているような気持ちになる」(森 銑三)
そういったものを選んで、小説としてお届けしたく思います。
同じ江戸時代を生きていても、その暮らしぶり、境遇、ライフコース、そして考え方には、たいへんな幅、違いがあったことでしょう。
しかし、夕焼けがみなにひとしく差し込んでくるような、そんな目線であの時代の人々を描ければと存じます。
【アラウコの叫び 】第1巻/16世紀の南米史
ヘロヘロデス
歴史・時代
【毎日07:20投稿】 1500年以降から300年に渡り繰り広げられた「アラウコ戦争」を題材にした物語です。
マプチェ族とスペイン勢力との激突だけでなく、
スペイン勢力内部での覇権争い、
そしてインカ帝国と複雑に様々な勢力が絡み合っていきます。
※ 現地の友人からの情報や様々な文献を元に史実に基づいて描かれている部分もあれば、
フィクションも混在しています。
また動画制作などを視野に入れてる為、脚本として使いやすい様に、基本は会話形式で書いています。
HPでは人物紹介や年表等、最新話を先行公開しています。
公式HP:アラウコの叫び
youtubeチャンネル名:ヘロヘロデス
insta:herohero_agency
tiktok:herohero_agency
熟女愛好家ユウスケの青春(熟女漁り)
MisakiNonagase
現代文学
高校まで勉強一筋で大学デビューをしたユウスケは家庭教師の教え子の母親と不倫交際するが、彼にとって彼女とが初の男女交際。そこでユウスケは自分が熟女好きだと自覚する。それからユウスケは戦略と実戦を重ねて、清潔感と聞き上手を武器にたくさんの熟女と付き合うことになるストーリーです。
【アラウコの叫び 】第3巻/16世紀の南米史
ヘロヘロデス
歴史・時代
【毎週月曜07:20投稿】
3巻からは戦争編になります。
戦物語に関心のある方は、ここから読み始めるのも良いかもしれません。
※1、2巻は序章的な物語、伝承、風土や生活等事を扱っています。
1500年以降から300年に渡り繰り広げられた「アラウコ戦争」を題材にした物語です。
マプチェ族とスペイン勢力との激突だけでなく、
スペイン勢力内部での覇権争い、
そしてインカ帝国と複雑に様々な勢力が絡み合っていきます。
※ 現地の友人からの情報や様々な文献を元に史実に基づいて描かれている部分もあれば、
フィクションも混在しています。
動画制作などを視野に入れてる為、脚本として使いやすい様に、基本は会話形式で書いています。
HPでは人物紹介や年表等、最新話を先行公開しています。
公式HP:アラウコの叫び
youtubeチャンネル名:ヘロヘロデス
insta:herohero_agency
tiktok:herohero_agency
甲斐ノ副将、八幡原ニテ散……ラズ
朽縄咲良
歴史・時代
【第8回歴史時代小説大賞奨励賞受賞作品】
戦国の雄武田信玄の次弟にして、“稀代の副将”として、同時代の戦国武将たちはもちろん、後代の歴史家の間でも評価の高い武将、武田典厩信繁。
永禄四年、武田信玄と強敵上杉輝虎とが雌雄を決する“第四次川中島合戦”に於いて討ち死にするはずだった彼は、家臣の必死の奮闘により、その命を拾う。
信繁の生存によって、甲斐武田家と日本が辿るべき歴史の流れは徐々にずれてゆく――。
この作品は、武田信繁というひとりの武将の生存によって、史実とは異なっていく戦国時代を書いた、大河if戦記である。
*ノベルアッププラス・小説家になろうにも、同内容の作品を掲載しております(一部差異あり)。
【アラウコの叫び 】第2巻/16世紀の南米史
ヘロヘロデス
歴史・時代
【毎日07:20投稿】 動画制作などを視野に入れてる為、脚本として使いやすい様に、基本は会話形式で書いています。
1500年以降から300年に渡り繰り広げられた「アラウコ戦争」を題材にした物語です。
マプチェ族とスペイン勢力との激突だけでなく、
スペイン勢力内部での覇権争い、
そしてインカ帝国と複雑に様々な勢力が絡み合っていきます。
※ 現地の友人からの情報や様々な文献を元に史実に基づいて描かれている部分もあれば、
フィクションも混在しています。
HPでは人物紹介や年表等、最新話を先行公開しています。
公式HP:アラウコの叫び
youtubeチャンネル名:ヘロヘロデス
insta:herohero_agency
tiktok:herohero_agency
織田信長 -尾州払暁-
藪から犬
歴史・時代
織田信長は、戦国の世における天下統一の先駆者として一般に強くイメージされますが、当然ながら、生まれついてそうであるわけはありません。
守護代・織田大和守家の家来(傍流)である弾正忠家の家督を継承してから、およそ14年間を尾張(現・愛知県西部)の平定に費やしています。そして、そのほとんどが一族間での骨肉の争いであり、一歩踏み外せば死に直結するような、四面楚歌の道のりでした。
織田信長という人間を考えるとき、この彼の青春時代というのは非常に色濃く映ります。
そこで、本作では、天文16年(1547年)~永禄3年(1560年)までの13年間の織田信長の足跡を小説としてじっくりとなぞってみようと思いたった次第です。
毎週の月曜日00:00に次話公開を目指しています。
スローペースの拙稿ではありますが、お付き合いいただければ嬉しいです。
(2022.04.04)
※信長公記を下地としていますが諸出来事の年次比定を含め随所に著者の創作および定説ではない解釈等がありますのでご承知置きください。
※アルファポリスの仕様上、「HOTランキング用ジャンル選択」欄を「男性向け」に設定していますが、区別する意図はとくにありません。
無用庵隠居清左衛門
蔵屋
歴史・時代
前老中田沼意次から引き継いで老中となった松平定信は、厳しい倹約令として|寛政の改革《かんせいのかいかく》を実施した。
第8代将軍徳川吉宗によって実施された|享保の改革《きょうほうのかいかく》、|天保の改革《てんぽうのかいかく》と合わせて幕政改革の三大改革という。
松平定信は厳しい倹約令を実施したのだった。江戸幕府は町人たちを中心とした貨幣経済の発達に伴い|逼迫《ひっぱく》した幕府の財政で苦しんでいた。
幕府の財政再建を目的とした改革を実施する事は江戸幕府にとって緊急の課題であった。
この時期、各地方の諸藩に於いても藩政改革が行われていたのであった。
そんな中、徳川家直参旗本であった緒方清左衛門は、己の出世の事しか考えない同僚に嫌気がさしていた。
清左衛門は無欲の徳川家直参旗本であった。
俸禄も入らず、出世欲もなく、ただひたすら、女房の千歳と娘の弥生と、三人仲睦まじく暮らす平穏な日々であればよかったのである。
清左衛門は『あらゆる欲を捨て去り、何もこだわらぬ無の境地になって千歳と弥生の幸せだけを願い、最後は無欲で死にたい』と思っていたのだ。
ある日、清左衛門に理不尽な言いがかりが同僚立花右近からあったのだ。
清左衛門は右近の言いがかりを相手にせず、
無視したのであった。
そして、松平定信に対して、隠居願いを提出したのであった。
「おぬし、本当にそれで良いのだな」
「拙者、一向に構いません」
「分かった。好きにするがよい」
こうして、清左衛門は隠居生活に入ったのである。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる