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二章『パテ編』

第106話 めっちゃ焼いたヤツ

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「へい、お待ちどうさん。パンフライ街名物、めっちゃ焼いたヤツだよっ!」

 何を焼いたの!?

「わぁー、おいしそうなの! ちゃぐちゃぐちゃぐちゃぐ! おいしいの!」
「ダメですよスー、おなかすいてるからってちゃんと口を閉じて食べないと、もぐもぐ。おいしい!」

 いや、2人ともなんでそんな得体の知れないもの食えるの?
 見た目はいいけど、産地とか気にしないのか? ······否否、そんな考え方は現代だけでの事だ。郷に入っては郷に従え。異世界もまたしかり。

 どれを挟もうか。お、あのハンバーグ的なやつなんか挟みやすそうだな。

「アイナ、あれ取って」
「あれですね。はい、あーんしてください、あーん」

 ぐ、俺が早く挟みたいのをいいことに、普段してこない事を······。仕方あるまい。

「あ、あーん。あむ!」

 おお! やはり熱々なうちに挟むと幸福感が違うな! それでこれは何の肉だ? 解析してみよう。

 俺は脳内で念じる。この肉なぁに?

 『混合肉を確認。
 殺人兎(キラーラビット)、
 怪物蛙(モンスターフロッグ)、
 暴(レイジ)れ鹿(ディアー)から
 殺戮蹴(ジェノサイドキック)りを生成、1回使用可能』

 む、解析してしまったのか、って、なんだこれは! 混合肉? この肉、魔物の合い挽き肉だったのか! というかそれ以上にとんでもない事をいま言ってなかったか? 魔物の肉を混ぜて新しい魔法を生成······。俺は世紀の大発見をしてしまったのでは!?

「どうですか? おいしいですか? バーガー様?」

 考え込んでいる俺を、アイナがのぞき込んでくる。

「アイナ、聞いてくれ」
「は、はい!」
「この肉、合い挽き肉だ!」
「え、そうなんですね。今まで食べたことのない食感と味だったので、なるほど混ぜて焼いたんですね!」
「あ、いや、そうじゃなかった。どうやら魔物の肉を混ぜて焼くと、新たな魔法が使えるようになるみたいなんだ」
「それは凄いです! 世紀の大発見です! あ、でも······」

 喜んでいたのが一転して、アイナの表情は暗いものとなる。

「どうした?」
「私じゃ、焼くだけでも、あの黒ずんだ悪魔を作ってしまいます」

 そうか、アイナは食いしん坊属性に加えて、過度のメシマズ属性を有していたのだったな。

 料理を作ろうとしても、生命を冒涜することしかできない。

 アイナのメシマズっぷりは尋常じゃない、因果律を歪めて料理を失敗していると言ってもいいくらいに酷い。

「飯ならエリノアに······」
「およよ」

 俺を見つめるアイナの瞳から涙が零れる。ぐ、またしても涙を流させてしまうとは、俺もまだまだだ。アイナが料理のことでこれほど悩んでいたとは、これからは料理を禁止ワードにしよう。

「アイナには違うところで活躍してもらう。料理以外を極めてもらう。勇者パーティとして恥ずかしくないようにな!」
「ぐしっ······はい! 頑張ります!」

 涙声だがアイナはしっかりと返事をする。
 そして俺の隣ではスーがめっちゃ焼いたヤツを喉に詰まらせて死んでいた。

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