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二章『パテ編』
第129話 キラーキラー23
しおりを挟む深い谷を見下ろす俺たちを見て、ジゼルが口を開いた。
「この谷の名前は『怪物の口』」
「底が見えないほど深いからかな」
「それもある。それ以外にも、落ちて生還した者はいないと言言い伝えられている」
「いや、ちょっと待て、普通の谷でも落ちたら死ぬだろ」
「武闘派なら耐える者もいる」
「マジか」
俺はエリノアに視線を向ける。
「武闘家と聞いてミーを見るんじゃにゃい。お金もらわないとやらないよ」
「金払えばやるのかよ!」
たく、変に緊張せず、いつもの調子なのはいいことかもしれないが、これから小龍(ワイバーン)の群れを相手にするかもしれない状況なんだぞ。
「このパーティは肝が据わってる連中ばかりだな。頼もしい限りだよ、まったく」
そんな会話の中でも真面目に小龍(ワイバーン)たちを監視していたアイナが口を開く。
「バーガー様、小龍(ワイバーン)たちに動きが」
「なに!」
俺が慌てて空に視線を戻すと、崖際にいるサガオを狙って小龍(ワイバーン)たちが降下しているところだった。
サガオはそれを確認して、大音量で叫ぶ。
「バーガー下がっていろ! ここが俺の死に場所だ!」
む、 俺たちがあとをつけていたことに気づいていたか、別に隠れていたわけではないが、
どうすれば説得できる、そもそもサガオも死にたくてやっているんじゃない、それしか方法がないからやってるだけなんだ。
小龍(ワイバーン)が何頭もサガオに体当たりをしている。火炎(ファイヤー)の吐息(ブレス)を吐かないのは、たぶんキラーキラーのボディには魔法が効かないからだろう。
どうやら体当たりで崖から突き落とそうとしているらしい。
サガオの機体が体当たりを受ける度に下がっていく。さすがにキラーキラーの機体は重く一度ではあまり動かないが、ああも連続で喰らえば、突き落とされるのも時間の問題だろう。
「バーガー後は頼んだ! いちよ勇者パーティの永久欠番に俺を入れておいてもらえると光栄だ!」
「分かった! 勇者パーティの一席はサガオのために取っておく!」
「かたじけない!」
「だが今は死ぬな! 妹がお兄ちゃんを助けてと俺に頼んできたんだ! 死ぬんじゃない!」
「俺のお願いばかり聞いてもらって申し訳ないが、それは無理な相談だ! 俺はもう限界だ! 妹にこんな姿を見せるわけにはいかないのだ! わかってくれ!」
クソ! もう説得は不可能なのか? ああ、落ちてしまう、あと少しで、あと一度、体当たりを受ければサガオは怪物の口の中へと落ちてしまう。
誰もが諦めかけた、その時。
「お兄ちゃん!」
「ヒマリ!」
サガオの前にヒマリが現れた。
一体いつの間に? サガオと、見事な連携をする小龍(ワイバーン)たちにばかり集中していたので気づかなかった。
「この声、やっぱり、お兄ちゃんだ!」
「こんなところで何をしている! ここは危険だ! 早く離れなさい!」
「やだ! あの大きいのがお兄ちゃんをいじめてるんでしょ! ヒマリはお兄ちゃんを助ける!」
「ひ、ヒマリぃ······」
「お兄ちゃんをいじめるな! 私が相手だ!」
突然の小さな勇者の登場に小龍(ワイバーン)たちは少しの間、攻撃を止めていたが、状況を理解したのか、再び体当たりを開始しようとする。
無力な少女が、震える体で、兄を救おうと、そのか細い腕を、大きく広げている。
それに比べ俺は何をやっていた? 救うと決めたはずなのに俺はとんだ馬鹿野郎だよ。
「『魂(マテリア)の実体化(ライズソウル)』」
ハンバーガーの魔人が体当たりをしようと急降下してくる小龍(ワイバーン)の横顔を思いっきり殴り抜ぬく。
ハンバーガーの魔人の怒号が響き渡る。さぁ開戦だ。
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