上 下
227 / 1,167
三章『ギア編』

第227話 法を作るのはいつだって人間

しおりを挟む


 あのあと普通に施設内を案内した(九大天王の2人がついていくと言ったが、魔王が拒んだためまた2人っきりだ)。ただめし食らいのイズクンゾに水を刺されたが、魔王も案内の内容に納得してくれたようだ。

 そして最後、工場の屋上にて、

「ギアよ」
「あ(な)んだよ」

 魔王は地平線の彼方を見て言った。

「次は何を成すつもりだ?」
「計画通りだと兵器を作る」
「兵器か、どんなものだ」
「勇者を殺せる兵器だ」
「そうか」
「ここから開発だ、かなりの時間を使う」
「勇者は殺せるか?」
「殺れるか、じゃねぇ、やるんだよ」
「ふっ、これでやっと終わるのだな」
「なにがだ」
「この星の創世時から続く、人、魔、龍、その三つ巴の戦いが、だ」
「そんなになげぇ間、戦ってんのかよ」
「ああ、この世界の歴史は戦いの歴史だ。1万年前に定められた『神の制約』それがなければこの世界は滅んでいた」
「さっきも言ってた『神の制約』ってのはどんなルールなんだ?」
「神々に対する決まり事だ。『神は力を悪用してはならない』」
「ガバガバなルールだな、悪つったってそれぞれの考え方で千差万別だしよ」
「長年に渡る戦いで神々も辟易していたのだ。そのちょっとした決まりを提案した『人間』の話はまたたく間に広がった」
「法(ルール)を作るのはいつだって人間か」
「うむ、無秩序こそ秩序だと信じていた我らにとって、その話はとても新鮮だった、ならばそれを守ろうとするのも世界の流れだったのだ」
「それが『神の制約』」
「それだけではないがな、神クラスの者が悪さをすれば、それを他の神々が総出で滅ぼす、暗黙のルールもできあがった」

 核の抑止力みてぇな話だな。

「それでも小さな戦いは終わらなかったが、その時の『人間』は『今はこれが精一杯』と困った顔で笑っていたものだ」

 魔王の目はどこか遠くを見ている(ちゃんと人の目を見て話せ)。

「この長き戦いも我らが勝って世界を統べれば終止符を打つことができる。龍である我が魔に力を貸し、この拮抗したパワーバランスを崩すのだ」

 なるほど2対1で人をボコるわけか。

「ん? 魔王は龍族なのか」
「そうだ」
「とてもそうは見えねぇな、ただの角の生えた魔族にしか見えねぇ」
「ここで変身を解くのは部下たちの不安を煽るからな、軽率にはできぬ」

 人に変身しているのか。ホントなんでもありだな。

「不安にさせる見た目って、どんだけ怖いんだよ」
「大きいからな、しばらく変身を解いていなかったから真の姿を知っているものも少ない」


しおりを挟む

処理中です...