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一章「四宝組編」
第十一話 満ちる月・後編
しおりを挟む話は真冬たちが吹き飛ばされるにさかのぼる。
ウルフは真冬たちの入ったビルを見ていた。
「豚ども、出てこないと、そのコンクリートの家を吹き飛ばすぞぉ!」
ウルフがニヤニヤと口角を上げて言った。
そして、空気をずいっと吸い込み始める。
腹の口も、きゅっと閉じて、吸い込んだ空気を逃がさないようにしている。
見る見るうちに、ウルフの胸が何倍にも膨れ上がる。
「があッ!」
ウルフは吸い込んだ空気を一気に吐き出した。
それは空気の大砲。ドガンという爆発音とともに廃ビルの一階部分が吹き飛んだ。一瞬の間を置いて、廃ビルは潰れるように倒壊していった。
「俺の空気砲で死んだか、瓦礫の下敷きになって死んだか」
瓦礫の一部が吹き飛ぶ。
暗緑色のオーラに包まれた拳が瓦礫を崩壊させて突き出されている。
「今度はなんだ、爆弾か? にしては火薬の匂いがしないな」
真冬が瓦礫から這い出しながら言った。『崩壊』のオーラで身を守ったのだ。
「俺の息だ」
岩以外に、空気も吐き出せるのか。
芸達者な奴だ、次に何をしてくるのかわからない、目を離すのは危険だ。
ロアが無事なら、そろそろ何かアクションを起こしてくれるはずだが。
真冬は見た。
爆発の瞬間に、凄まじい速さで廃ビルから飛び出していくロアの姿を。
あの動き、忘れやすいのを除けば、ロアは俺より強い。
ま、俺を連れ出す余裕はなかったみたいだがな。
でも、それもあえてそうしたんだろう。
俺の能力は説明してあるから、ビルの倒壊程度なら自力で何とかできると判断したんだろう。
逆にロアがあの場に残っていたら、俺はロアを守ろうとして、けがを負っていた可能性まである、そう考えると、あの一瞬でそこまで判断したロアは紛れもないプロだ。
戦いなれしている、それもチームプレイに長けている。
そりゃそうか、兄妹全員が能力者だもんな。
最終的に、兄妹でチームを結成したりするのかね。
「ぷっ!」
ウルフの吐き出した岩を、真冬はそんなことを考えながら、拳で叩き落とす。
「なんだ一発だけか、まさかとは思うが弾切れか?」
「グルル」
ウルフは喉を鳴らすだけで何も言わない。
ロアのことを気にしているのだろう。
俺が無事なら、ロアもどこかにいると。
ん? 待てよ、傷口が全て岩キャノンになるのなら、俺の崩壊が効かないのなら、でんと構えていればいいんじゃないのか?
最初に月を見るまで、狼の魔物に時間稼ぎをさせていたときも、あんな感じだった。
「考えすぎだ、拳を振れ!」
ロアがウルフの後方から現れる。そのままウルフ目掛け疾走する。
手には包丁が握られていた。
その包丁は主婦が使うポピュラーな物だ。
刃に柄がついていればいいと言っていたが、包丁でもよかったのかよ!
っと、そんなこと考えてる場合じゃないか。真冬も一歩遅れて駆けだす。
「グルル」
ウルフは首だけを動かし、ロアを目の端に捉える。
ロアの手にした武器(包丁)を見るや、鼻で笑い、真冬に向き直った。
「そんなもので俺が殺せるものか」
「そうだな試してみよう」
閃光が駆ける。
「が、がるぁ!」
ウルフの首が横にズレていく。
本当にやりやがった。包丁で、ウルフの首を切断しやがった。
「真冬、いまだ!」
「おう!」
一歩遅れたのが逆に効果的だった。
真冬は走りの威力を上乗せした、いいパンチが繰り出せた。
真冬の拳は、ウルフの顔面を捉える。
首は切断されているので、踏ん張りもきかない、首はなすすべなく吹き飛んでいった。
ウルフの頭部は『崩壊』のオーラで、瞬く間に崩れ去った。
「よし、ナナを助けに行こう」
「待て、見てみろ」
倒れない。頭部を失い、仰け反ってはいるものの立っている。
「俺を、殺す、無理、だ」
ウルフの腹の口が、言葉を発した。
「こいつは跡形もなく始末したほうがいい」
ウルフの、切り株のようになった首の切断面が黒く染まる。
そして、ギョロンと大きな手のひらサイズの眼球が現れる。
「お前ら、死ぬ。ここで、死ね」
首から生え出た眼球は、レオンの作り出した幻覚の月を凝視する。
「しまった!」
ウルフは、首の目で真冬を捉えると襲いかかる。
______
「何もんだ、あの銀髪の男は。二人がかりとはいえ、あの状態のウルフと渡り合うとは」
レオンが先ほどの戦いを双眼鏡越しに見て言った。
「くッ! 何をしたか知らないけど、あの二人には、そう簡単には勝てないよ!」
ナナは、視力を奪われたが二本足で立ち上がっている。
「よし、俺も手伝うとしよう」
レオンはそう言うと、体のあちらこちらから、小さな黒い部品を取り出し、それらを慣れた手つきで組み立てていく。
組みあがったのは、一丁のスナイパーライフルだ。
「何をしている!?」
「なにって、そりゃあ、狙撃すんのさ」
「狙撃だと! 卑怯だぞ!」
レオンはナナの言葉を無視して、ガラスを叩き割った、窓枠に身を乗り出す。
そしてスナイパーライフルを構える。
「狙いは、あの銀髪だな。崩紫一人だけなら計画通り片付けられるんだからな」
レオンの指がトリガーにかかる。そして少しずつ力を加えていく。
「やめろ! うぐっ!」
ナナは、レオンの声のするほうに走り出しだが、つまずき、転んでしまう。
「いいから、そこでうずくまってろ、すぐに終わる」
レオンは発砲した。
______
「ん?」
ロアは包丁を使い銃弾を真っ二つに斬り裂いた。
______
「はぁ!? 冗談じゃねえ! 死角からの狙撃だぞ、雨も降っているんだ、気づかれるはずがねえ!」
レオンのその言葉を聞いて、ナナはニヤリと笑う。
「真冬殿もロアにぃも戦っているんだ、私も頑張らなきゃな!」
ナナは再び立ち上がり、そう言った。
______
「があ! がるああ!」
ウルフの鋭い爪の攻撃を、真冬は『崩壊』のオーラを纏った腕を使いいなす。
「ロア、大丈夫か!」
「狙撃されただけだ、真冬は、こいつに集中しろ」
狙撃されただけ、か。頼もしいことを言ってくれる。
包丁一本で、そこまでやるかよ、俺も負けてられない。
「フッ!」
真冬はウルフの両腕を掴む。そして間髪を入れず崩壊させる。
ウルフは頭部と両腕を失った。よく見ると腹の口もジリジリと崩壊が進んでいる。しかし、倒れない。
「さっさと倒れろ!」
真冬が繰り出したのは、ウルフの両足を狙った、抉るような超低空フックだ。
避ける動作もなく命中。両足も失い、ウルフの胴体はクルクルと宙を舞い仰向けに倒れる。
纒わりつく『崩壊』のオーラにより、消滅は時間の問題だろう。
「真冬」
「ああ、わかってる。次は胴体だ」
真冬が、肩を回し、ウルフに一歩近づいたそのとき。
「!?」
ウルフの腹の口から腕が飛び出した。
まるで井戸から出てくるかのように。ずるずるとそいつは這い出てきた。
それは狼の獣人、ウルフだ。
体を左右にぶるぶると震わせて水気を飛ばしている。
違うところといえば、大きさだ。明らかに大きくなっている。胴体のどこに、あの体が入っていたのだろうか。
「まさか奴が女だったとはな」
ロアは冗談めかして言うが、真冬は笑えなかった。
両手両足そして頭、欠損部が治っている、ダメージをまったく負っていないように見える。
戦う前のウルフがそこにいるのだ。もっと焦ってもいいと思うが。
「ロア」
真冬は、ロアの名前を呼ぶだけだ、意味合い的には「どうする?」といった意味が込められていた。しかしロアは、
「傷ついた肉体を捨て、新しくすることができるのか」
この状況でも、変わることがなかった、顎に手を当て何かを考えている。
表情もいつも通りのポーカーフェイスだ。
まさかとは思うが、危機感も忘れてしまったのか。
ロアが何を考えているのかわからない。
だが、この状況は芳しくないのは確かだ。
消耗戦、ウルフの体力も回復しているとしたら、本当に戦う前の状態に戻っているとしたら、俺とロアはウルフの『一人人海戦術』によって、押しつぶされて負ける。
「真冬、聞いているのか? マトリョシカみたいじゃないか? 大きくなっているから、そこは逆だが」
ロアの奴、どうでもいいことで悩んでいた、だんだんイライラしてきた。
「あのな、状況わかってんのか?」
「ああ、一つ思い出したんだ」
ロアは包丁を後ろへ投げ捨てて両腕を広げた。
「あ?」
次にふざけたことを言ったら、まずロアから殴ろう、と。真冬は誓った。
「剣はあった」
その言葉と同時にウルフがロアに飛びかかる。
「抜刀」
ロアのその言葉を待っていたかのように。
雨雲から一本の剣が降ってきた。
その剣は、とてつもない速さで落下し、ウルフの頭部へと直撃する。
雨が降っていなかったら、辺り一面に砂煙に満たされたことだろう。
ウルフのいる所には若干クレーターができていた。
「なんだ今の? 剣が降ってきたのか?」
「ああ、この剣の名は······そう、確か『天雲の剣』だったと思う、たぶん。うん。あの雲を鞘代わりにしている」
俺の名前はともかく、自分の武器の名前くらいはしっかり覚えといてやれよ!
存在すら忘れやがって。
「あのなぁ、メモくらい残しておけよ」
「メモを残すということを忘れていた······もしくはメモはしたが無くした。どちらだと思う?」
ロアはそう言いつつ、ウルフに近寄り、剣を引き抜いた。
立派な剣だ。あの高さから落ちて、刃こぼれ一つしていない。
「知ったことかよ、俺が覚えといてやる。ナナにも教えといてやれよな」
「ああ」
ウルフはというと、車に轢かれた蛙のようになっていた。
______
「こうなったら崩紫を狙う」
レオンがスコープを除きながら言う。
「······」
「なんだ? やけに静かだな」
レオンが振り返ると、床一面を赤い髪が覆い尽くしていた。
「なんだこりゃあ!?」
「むむ! その声は気づいたか!」
「髪を伸ばす能力か? なんの真似だ?」
「喰らえばわかる!」
ナナの髪がレオンの足首に巻きつく。
「うおお!」
レオンは髪に引っ張られ、逆さ吊りにされる。
レオンはとっさにスナイパーライフルで、触手のような髪を撃ち抜く。足に巻きついていた髪は力なく解けた。
「······ッ。私を撃てばいいものを!」
「お前を殺したら、俺が殺されちまう」
「どこにいる?」
ナナは髪をうねらせて周囲を探る。
奪われた視界の代わりに髪を駆使する。
今のナナの髪には神経が通っており、手で触れたような感覚で辺りを探ることができる。
「油断したが、今ので仕留めきれなかったのが、お前の敗因だ」
ナナの頭上から声がする。
「上か!」
「ベロっ!」
ナナの首に、レオンの舌が巻きつく。
「うぐっ!」
「このまま絞め落としてやる」
レオンは舌を出したまま器用にそう言うと。舌に込める力を強くする。
「ぐううぅ······!」
あと数秒で意識が落ちる、その時。
ばちゅん。
肉の爆ぜる音がした。
「ぎゃあああ!」
続いてレオンの絶叫。
ナナは腕を鋼鉄に『変身』させて、万力のように舌を握り潰したのだ。
「ふん!」
ナナは舌を引っ張り、天井にへばりついているレオンを引きずり下ろす。
と、同時に、ナナの髪が元の長さに戻る。長時間、髪を『変身』させることはできないのだ。しばらくはツインテールにすることもできないだろう。
腕の鋼鉄化にも時間制限はある。数分が限度だ。
「ちくしょう!」
「とあ!」
ナナはレオンの舌を再び引っ張る。
そして、文字通りの鉄拳が放たれる。
目が見えずとも、舌を引っ張れば、次に顔がくるのだ。
その位置に、ナナは鉄拳を打ち込む。
レオンは慌てて腕をクロスしてガードした。
ボキンッと嫌な音を立てる。
「ぐああッ! こ、こいつ、喧嘩慣れしてやがる!」
ナナは、よく兄妹喧嘩をしていた。
そこで戦闘センスを磨いていたのだ。
「意識を失えば能力も解ける! 寝てもらうぞ!」
ナナは三度、舌を引っ張る。
今の突きで、レオンは両腕を骨折していた。
ナナの鉄拳を防ぐ術はない。
レオンは鼻っ柱を殴られ仰向けに倒れる、すかさずナナは馬乗りになる。
「能力を解け! そうすれば殴らない!」
「やなこった、ぐぼあ!」
ナナがレオンの顔面を殴りつける。
「解け!」
「殺せ、ぐぎゃッ!」
もう一発殴る。
「ほ、本当に死んじゃうぞ!」
「やれよ、ウルフを裏切るわけにはいかない。がぼあっ!」
ナナは涙目になりながら殴り続ける。
______
「グル······ル」
「ゾンビを相手にしている気分だ」
ロアが剣を構える先に、ウルフが立っている。
ギャグ漫画の表現で、潰されてペラペラになるというのがある。
いま目の前に立っているウルフは、まさにその姿なのだ。
頭上から剣で貫かれたにもかかわらず、そうなっている。
ウルフは空気を吸い込んだ、体が元の太さに戻る。
「そろそろ、能力名くらい教えてくれてもいいもんだがな」
「『幻獣人・童話狼』」
ロアの質問に素直に答えるウルフ。
幻獣人? 聞いたことのない能力だ。
「ああ、伝説の生物になれたりするというあれか」
どうやらロアは知っているようだ。
「そうだ、俺は童話にでる狼の能力者だ」
「なるほど」
ロアは合点のいったように頷いた。
しかし、真冬は疑問に思ったことを口にする。
「ベラベラ喋る意味があるのか? なめてるのか?」
「レオンが言っていた。能力を説明すると、強化される気がするとな」
「······聞いたことがない」
が、気の持ちようってのはあるのかもしれない。
思い込みで強くなる。ウルフみたいなデタラメな能力ならばなおさら。
「クソ羊が腹に入れた岩弾。クソ豚の巣を吹き飛ばす空気砲。この二つを耐えられると、俺の知っている童話の狼では対処できない」
「なんだ、負けを認めて大人しく殴られてくれるのか?」
「限界を超える、あのレオンの作り出した月なら、それも可能だ」
ウルフのその言葉を皮切りに地鳴りがしはじめる。
なんかヤバイ! 真冬が構えを攻撃から防御に移した瞬間。
「『幻獣人・神話狼』!!」
どす黒いオーラがウルフから放射状に放たれる。
無差別に打ちつけられるオーラに、真冬は防御の姿勢を崩せない。しゃがみ、両腕を盾にして受ける。
ロアはというと、どす黒いオーラを一刀にて両断。
斬れてしまうのだ。斬ってしまった。
「ぐるああああああああ!」
ロアの隙とはいえない動作の流れ。
どす黒いオーラと一体になったウルフは、切り口を巨大な口に変え、飲み込もうとロアに襲いかかる。
ロアの背丈よりも大きく開かれた口。剣を振っていなければ、回避できたかもしれない。
声をかける暇もないその刹那。
ロアはオーラ体ウルフの口の中へと消える。
ロアの右腕だけが、ぼとりと地に落ち、落ちた腕もオーラ体ウルフが拾い、ごくりと飲み込む。
「てめぇ!」
丸飲みか? それならまだ腹を裂けば助かる。
真冬は、オーラ体となったウルフに殴りかかる。
「ぐるあああああああ!」
ウルフの咆哮。再び、どす黒いオーラが全体に叩きつけられる。
「ぅうオぉらあッ!」
真冬は、それを右ストレートで迎え打つ。
激しい爆発、黒煙が立ち込める。
「ラぁッ!」
爆発にも臆することなく放つ真冬の二発目。
左ストレート。二度目の爆発。
「ぐるああ!」
『崩壊』のオーラが、オーラ体ウルフに纒わりつき、侵食する。
「ぐぎゃああああ!」
一歩身を引いたオーラ体ウルフは、身をぶるぶると震わせ、『崩壊』のオーラが纏わりついた部分を飛び散らせる。
「待てや! コラァ!」
真冬は追撃しようと、一歩前に出る。
しかし、踏み出した瞬間、地面からどす黒いオーラが吹き出す。
人の背丈ほどある鋭い爪や牙となって真冬目がけて襲いかかる。
「くッ!」
真冬は両手をフルに使い叩き弾く。
その隙に、オーラ体ウルフは、空気を吸い込み始める。
先ほどの空気砲のときよりも、チャージが早いうえに胸の膨らみも大きい。
「させるか!」
真冬は右腕を振りかぶる、『崩壊』のオーラを集中させる。
オーラ体ウルフも空気砲のチャージが完了する。
特大空気砲と、崩壊の一撃がぶつかり合う。
地形が変わるほどの大爆発。
どす黒いオーラが建物を切り刻み、崩壊のオーラがボロボロに崩れさせていく。
「······ッ」
真冬のいる、半径二メートルだけが形を保っている。
「やりすぎた」
ロアのことを考える余裕なんてなかった。
「グルル」
オーラ体ウルフは生きていた。体からどす黒いオーラが溢れ出し、元の形に戻っていく。
幻覚の月と、篠突く雨。
クレーターの中心で真冬は、オーラ体ウルフを睨みつける。
「諦めて俺に食われるんだな」
「······」
これは使いたくなかった······。
真冬が、切り札を出そうとした、そのとき。
「ぐ? ぐるるぁ!?」
オーラ体ウルフが苦しみ出した。頭を抑えふらふらと後ずさる。
「月が消えた!」
幻覚の月がどんどん薄くなり消滅した。
「ぐぅ、レオン! 何をやっている! 早く月を出せ! あと少しで崩紫を始末できるんだぞ!」
「······誰を始末するって? ええ?」
真冬はギラついた笑みを浮かべウルフの眼前に立つ。
「ち、ちくしょう!」
「逃がすか!」
真冬の拳は逃げようとするウルフの後頭部を捉え殴り抜けた。
悲鳴を上げる暇もなく、頭を失ったウルフは死んだ。
「ロア······忘れっぽかったけど、いいやつだったな」
「勝手に殺すな」
「え?」
ウルフの腹を切り裂いてロアが現れる。
口には千切れた右腕がくわえられている。
「ロア! 生きていたのか!」
「ああ」
ロアは素っ気なく言うと、遠くを見る。
「幻覚の月が消えたということは。能力者が能力を解除したか、意識を失ったか、それともーー」
「ナナの所に急ぐぞ!」
______
ナナは非常階段の踊り場のすみで膝を抱えてうずくまっている。
「ナナ! 無事か!」
「······真冬殿」
ナナは元気なく顔を上げる。その目には涙が溜まっている。
踊り場の中央にはレオンの死体があった。
「お前が殺したのか?」
「うん······、殴って脅したけど、ダメで、それで首を絞めて失神させようとしたんだけど、全然落ちなくて、それで、それで真冬殿たちがいるほうから爆発音が聞こえて······二人が死ぬのが怖くて。殴って、殺した」
ナナは目を見開き、血がべっとりとついた自身の拳を見つめる。
そんなナナをロアは引き起こす。
「そうか、お前が人を殺めたか、心が弱い失敗作で、能力も不完全なお前が」
「ロア!」
ロアは真冬の静止も聞かずにこう続ける。
「辛かったな」
ナナはハッとした顔でロアを見る、そして左手に持つ千切れた右腕を見る。
「ロアにぃ、その右手!」
「お前が殺したから、俺は生きている」
「う······うぅ、うわあああああああ!」
ナナはロアの胸に飛び込む。
ロアは右腕を落として、左手でナナを抱き寄せる。
雨が三人を優しく包み込んだ。
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