新世界VS異世界

黒木シロウ

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一章「四宝組編」

第十七話 風の用心棒

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「裏口から侵入だと?」

 玄道は、無線にて侵入者、及びブレイド撃破の報を受けた。

「むぅ、あのブレイドを退けるとは」

 眉をひそめる玄道だが、それでも動かない、すでに清十郎が動いているというのもあるが、やはりこの正門を死守することこそが玄道にとっての最優先事項なのだ。

「む」

 玄道の前に立つ影が一つ。崩紫真冬だ。

「ついに来たか」
「そこを通してもらう」

 真冬は知っている、玄道の答えを。

「ここを通りたくばッ! 俺を倒してからにしろッ!」

 玄道は背中に下げていた自身よりも大きい銀の大盾を構える。

「ああッ!」

 真冬は鉄砲玉の如く弾かれるように駆け出した。




______




 四宝組本部、魔法陣部屋。

「ナナ、ここにいたのか」
「ひぐ······どうして」
「泣くな、助けに来た」

 ナナの安否を目で確認したロアは、視線を清十郎に戻し『天雲の剣』を構える。

「お前は風間清十郎か?」
「そうだ」
「十二幹部か、奥にいるのは同じく幹部の鮫島水葵。それに大幹部の永鳥朱欄か」

 ロアは指折り数える、さながら賞金稼ぎのようだ。

「清十郎!」

 空間を裂いて一花が現れた。

「なんだ」
「彼は『刃王』の能力者です」
「それがどうした」
「ブレイドさんを退かせた実力者です」
「それがどうした」
「一応、心配してみたり?」
「弱い」
「ですよねー」

 一花は空間の隙間に消えていった。彼女なりの気遣いのようだったが、清十郎が気に留める様子はない。

「俺が弱いか、久しぶりに言われたな」
「邪魔するぜ、ソードマン」

 水葵がロアの隣に立っていた。

「最初の相手はお前か『最速』」
「はは、あんたとやるのも面白そうだが······げほっ······今はそれどころじゃないな」
「ひどい傷だな、ナナにやられたわけでもないだろう。まさか裏切ったのか? 崩紫のように」
「げほっ······へへ。ああ、そうなるかね。はは、面白いことになったもんだぜ」

 水葵は時折、咳き込み口から血を吐き出す。

「崩紫のように、か、あんな正義感が狂ったのと一緒にされて、悪い気がしないのはなんでかね」
「さぁな、嫌いじゃないんだろう」
「はっ、大っ嫌いさ」
「来るぞ」

 ガラぁん。

 高下駄を鳴らし、清十郎が二人の前に立つ。

「俺はもう死体みたいなもんだ『刃王』、あんたがメインでやってくれるかい?」
「俺の名前は、ロア・フルレインだ。行くぞ、鮫川」
「鮫島さ! フルレイン!」

 水葵が消える、この部屋の中を見えないほどの速さで移動しているのだ。
 それを意に介さず清十郎はロアに鋭い視線を送る。

 ロアは『天雲の剣』を腰にさし直す。そしてーー


「抜刀」


 『天雲の剣』の柄を持ち、正式な型で居合い切りを放つ。
 切っ先は吸い込まれるように清十郎の喉元へと向かう。

「!?」
「不意もつかず、相手の体勢を崩したりもしない、そんな技が通用するとでも思っていたのか」

 清十郎は右手の人差し指と中指の間に天雲の剣の切っ先を挟んでいた。ビクともしない。

「俺のギターーッ!!」

 背後から現れた水葵の延髄蹴りだ。脛に生やした鋭利な鰭も相まって、鉄骨すらも両断することができる。

「その傷では、技に重みを出すことも叶わない」

 清十郎は水葵の足を掴むと、真上に放り投げる。
 水葵は空気を蹴り落下する前に真横に飛んだ。

「はぁ!」

 『天雲の剣』を手放したロアは清十郎の右手に組み付いた。関節技を決めるつもりだ。

「無駄だ、お前の筋肉全てを総動員しても俺の腕一本破壊することはできない」
「くっ」

 清十郎は残った左腕で、ロアの頭を無造作に鷲掴みにする。そして壁に向かって叩きつけた。

 ドゴンッ! という音が部屋全体に響く、特別性の強固な壁が凹む。

「ロアにぃ!」

 駆け出そうとするナナを朱欄が腕を掴み止める。

「は、離せ!」
「屋上で待機している哭龍さんをこれ以上待たせるわけにもいかないので、戦いは続いていますが、さきに貴女を絞めてしまいましょう」

 瞳に殺意の炎を宿すと、朱欄はナナの首を両手で掴んだ。

「ぐぅ······ッ! や、めろ」

 ナナは朱欄の腕を掴み能力を発動させる。
 『変身』の能力で腕を鋼鉄化させる。朱欄の腕をひねりあげようとする。

「あ、熱い!」

 掴んだ部分が炎となり、熱さに耐えかねたナナは手を離す。

「私も能力者に決まっているでしょう」

 朱欄の能力は『幻獣人(不死鳥)』だ。
 炎の体を持った不死の鳥となれる能力だ。

「血を燃やしてしまうわけにはいかないから、首を折ってから切り取ってあげるわ」
「ら、楽にいかせてくれるんじゃなかったのか!」
「そのつもりだったけど、もう猶予がないの」
「そん······な!」

 鳥類の掴む力は強い、細身の朱欄ですら首を締め切るくらいはできるのだ。

「ぶっ!?」

 突如、朱欄の頭、右半分が吹き飛ぶ。

「まだメインには早いんじゃないかい? フェニックスレディ?」
「水葵殿!」

 水葵だ、ナナの歓声にウィンクで答えると、脛に生えた鋭利な鰭で朱欄の腕を切り落とした。

「鮫島!」
「おっと」

 頭のかけた部分と、腕の切断面から炎が吹き出す、みるみるうちに再生した。これが『幻獣人(不死鳥)』の能力の一つ『自己再生』だ。

「そう怒るなよ。そうやってまた生えてくるんだろ? 俺のギターのようにな」
「ギィ!」

 恨めしそうに睨む朱欄を尻目に水葵はナナの目を見て言う。

「逃げな」
「で、でも、二人が」
「お嬢ちゃんを逃がしたあと、俺があの剣士を逃がしてやる、だから早く行きな」

 それを聞いた朱欄が大声をあげる。

「風間さん! 二人を早く片付けてください!」

 清十郎は奪った『天雲の剣』を右手に構える。

「うおっ!?」

 地面をダンと蹴り、一瞬にして水葵に肉薄する。
 水葵は『最速』を発動させて、それを回避する。

「へっ! 誰よりも速いから『最速』なんだぜ!」

 暴風のような斬撃の嵐を、水葵は紙一重でかわす。
 すると清十郎は左手をあげた。

「ぐっうぅ!? この重みは!」

 水葵の周りの重力が強まる。地面に吸い寄せられるように地に伏せた。

「こ、これが、あんたの能力かい?」

 清十郎は『天雲の剣』を、水葵の首に振り下ろす。


「納刀」


 斬撃の軌道が僅かにずれる。水葵の首の横を切っ先が通過する。
 冷や汗をかいて青い顔をさらに青ざめさせた水葵は、重力から開放されたのに気づいたのか『最速』で立ち上がり、バックステップで距離をとった。

「剣を支配する能力だったか」
「違う、友達になる能力だ」

 頭から血を吹き出しながらロアはそう言った。

 ロアも水葵も、もう長くは動けない。
 それに突破口が見えないでいた、単純に火力が足りないのだ。

 敗北が濃厚となったそのとき。朱蘭が声を上げる。

「なんですか、この振動は?」

 四宝組本部ビルそのものがグラグラと揺れている。
 それに加え、階下から聞こえる音がどんどん近づいてくる。

「ぐああーーッ!」

 魔法陣の中心を打ち抜いて玄道が勢いよく飛び出した。その勢いは留まらず天井に激突した。
 銀の大盾は暗緑色のオーラに包まれてボロボロになっている、体のあちこちも崩れ始めている。

「ぅオラあぁぁああ!」

 穴から飛び出た真冬は、天井にぶつかり落ちてきた玄道に渾身の一撃を放つ。

 『崩壊』の拳を受けて、玄道は再び天井に激突、天井を打ち破り階上へと消えていった。その後も突き破る音が続き、数秒して花火のような爆発音が聞こえた。断末魔は聞こえない。

 天井に空いた穴から雨が降る。
 申し分のない高火力の登場である。

「ナナ! 無事か!」
「うん! 私は大丈夫!」

 真冬がナナに近づくと、朱欄は慌てて距離をとった。

「心紅は? 一緒じゃないのか?」
「別のところに連れていかれちゃった!」

 真冬はここで初めて部屋を見渡す。状況を理解した。

「なるほどな、ロア、まずは鮫島のキザ野郎から片付けよう」
「待て真冬、どうやら味方のようだぞ」
「なぁにぃ〜?」

 ギロリと睨みつける真冬に対し、水葵は片目を瞑りニヒルに笑う。

「よぉ、崩紫じゃないか、相変わらず遅いな」
「お前が速すぎるんだよ!」

 真冬は今度こそ状況を正しく理解した。
 やれやれ、と、いった感じで、男三人は清十郎を囲む。

 ぶっちゃけ、これでも勝てる気が全くしないんだけどな。と、真冬は心の中で本音を語る。
 気にかかるのは心紅のこと、それにこの異様な空間。四分割されたモニターにはそれぞれ死体が映っている。

「永鳥さん、もしかして、ナナを殺そうとしてたのか?」
「はい」
「それはどうしても必要なことなのか?」
「はい」
「そっか」

 真冬は、ふぅ、と一息つく。そして。

「暴れるぞ!」

 怒気を含んだ声と同時に、男三人はそれぞれ清十郎に攻撃を仕掛ける。

「オラァ!」

 真冬の『崩壊』の拳に対し、清十郎は『天雲の剣』を構える。

 あれはロアの剣! 真冬は躊躇した。

「構うな!」

 ロアの声に真冬は覚悟を決める。

「ぐえっ!」

 その一瞬の迷いが拳を鈍らせた、清十郎の前蹴りが腹を捉える。真冬は後方に吹き飛んだ。

「返してもらおう」

 ロアが『天雲の剣』に手を向けると『天雲の剣』は吸い寄せられる。
 清十郎は即座に『天雲の剣』を叩き折る。砕かれた『天雲の剣』の破片がロアに何本も突き刺さる。

「へっ!」

 水葵は清十郎を袋叩きにする。人を叩く音とは思えない硬質な金属音が鳴り響く。
 清十郎が両手を広げると、周りが円状に凹む。
 近くにいた水葵は、またしても強力な重力に囚われた。

「ま、た、これか、よぉ、ぐぎぎ」

 それでも魔物の筋肉で無理やり立ち上がると、水葵にしてはノロノロとした動きで、ビッと清十郎に右手の人差し指を向ける。

「これは痛いぜ!」

 水葵の指先から、超高圧水流が発射された。
 しかし、清十郎には届かなかった、触れる直前に掻き消えたのだ。

「なん、だと、なにを、ああッ!?」

 さらに強くなった重力が水葵を潰す。真冬が開けた穴の影響で脆くなった床が、そこだけ抜け落ちる。

「へ、すまない、お嬢さん」

 水葵は勢いよく階下に落ちていった。

「はぁッ!」

 ロアは自身に突き刺さった『天雲の剣』の破片を掴み、それを短剣のように扱い果敢に攻める。
 対する清十郎が放ったのは剛拳だ。
 ロアは、それを正面からは受けない、切っ先を斜めに向けて受け流す。
 人間の肉体とは思えない金属同士が擦れたような火花を散らす、拳の軌道を僅かにずらした。
 拳を戻すよりも早く、ロアは清十郎に肉薄する。

「がっはぁ!」

 ロアの顎に衝撃が走る。高下駄だ、清十郎が『足首の力だけで』真上に高下駄を飛ばしたのだ。それがまるで大砲の弾のようにロアの顎に当たったのだ。

 反り返って空中に浮いたロアに、次の攻撃を防ぐすべはない。

「······かッ!!」

 清十郎がロアを蹴り上げる。天井も真冬が大穴を開けていたので脆くなっており、天井を破りロアは階上へと消えた。

 あげた足に、落ちてきた高下駄がストンとハマる。
 高下駄以外にも落ちてくる瓦礫を、気にするそぶりは全くない。当たっても瓦礫の方が砕けるのだ。

 振り返る清十郎、凶暴な野獣のような殺気を放つ男がいる。真冬だ。
 真冬の両手から吹き出ているオーラが収束する。暗緑色に黒みが増す。

 地鳴り、発生源は真冬の両拳。バキバキと握り拳の隙間から空間にヒビが入っては直るを繰り返している。

 オーラの代わりに、暗緑色の籠手が生成される。
 その名も『崩壊の籠手』真冬の切り札である。

「どうなっても知らないからな」

 主に俺の体がな。と、真冬は心の中で呟く。
 清十郎は、ふぅ、と、一息付くと、ガラぁん、と不造作に歩を進める。

 真冬は普段、極限まで薄めて能力を使っている。
 なぜなら、この籠手は、真冬の『崩壊耐性』すらをも凌駕するからだ。

 固体化させたのはいつぶりだろうか、心紅を助けるときに戦った三匹の魔物以来か、俺の体はいつまで持つだろうか。

 ······こんなことを考えるようになるとはな、十代の頃の俺が見たらビックリするだろう。そうじゃないよな、もっと冴えさせろ! そうだ、昔のような、狂った犬のように! 十代の頃の! 誰にも負けない! どんなものでも壊せた! あの時の俺に! もう一度だけ戻してくれ!

 「ぅう!」

 もっとだ! もっと! もっと!

 「ぅヴううぅうああぁああああああ!!」

 その間にも歩を進めた清十郎の剛拳が迫る。
 対する真冬は、腕での防御が間に合わないと判断。バキバキと空間を握り潰し、その亀裂をぶつける。

 互いの技がぶつかり合い、壁や床に亀裂が生じる。衝撃波が部屋全体を叩いて回る。

 無論、魔法陣も無事では済まなかった。すでに真冬が中心に大穴を開けているので今更かもしれないが。

「魔法陣が!」

 両腕を顔に当てて衝撃波に耐える朱欄が、悲鳴に似た声で叫んだ。

「うわあ!」

 衝撃波でナナは壁際まで飛ばされた。気絶している七人の幹部候補も同様だ。

「ぐ······、ここは? いつつ······」

 衝撃で鬼武健太が目を覚ます。全身を襲う痛みに苦悶の表情を浮かべるが、激しい戦闘音のする方に顔を向ける。

「崩紫さん!」

 目の前には、かつて尊敬していた真冬の姿があった。

「いや、崩紫! 俺が引導を渡してやる!」

 ふらふらと立ち上がると、右手を棍棒に『武器化』させて、背後から真冬を殴りつけた。

 ブチッ! っと、真冬の頭の中で何かが切れる音が、健太にもよく聞こえた。

「うっ!」

 その瞬間、全身に鳥肌が立った。

「ウぅらァ!!」

 怒りで髪を逆立てた真冬は、脳内に充満したアドレナリンによって痛みを感じていない。上半身をグルリと捻り、鬼の形相で健太に殴りかかった。

 健太は棍棒と化した右腕で防御した。
 『真冬の拳を防御した』のだ。

 バキン。という音と共に、健太の腕がバラバラに砕け散る。
 健太は絶叫をあげて尻餅をつく、真冬は、そんな健太の頭を鷲掴みにして無理やり立たせる。

「ぶゲッ!」

 真冬の頭突きだ。健太は横向きに二度回転して、ふらふらと歩き、焦点の合わない目で真冬を見る。

 その猛る姿は紛うことなき鬼神の姿であった。

「マジパネェ······」

 健太はその場に崩れ落ちた。
 真冬は倒れた健太を思いっきり蹴り飛ばすと、清十郎に向き直る。目にしたのは清十郎が正拳突きを繰り出す瞬間だった。

 防御することもでず、先ほど蹴られたところと同じ腹部を殴られる。
 腹を貫かれたような感覚に襲われる。背中から生気がドバっと放出したような、そんな感覚を味わう。

 吹き飛ぶのを崩壊の籠手で『空間を掴み』堪える。ガリガリと空間が削れる音が鳴る。
 そして四つん這いになりつつも体勢を立て直し、清十郎に掴みかかろうと突進する。

 清十郎は、直前まで待ってからバックステップで回避、真冬の両腕が胸の前でクロスし終えたところで、膝蹴りを顔面に叩き込む。ヒットアンドウェイだ。

 海老反りに滞空する、真冬は白目をむいた、だが一瞬で覚醒、ギュルンと清十郎を両目で捉えると、崩壊の籠手で空間を掴み体勢を無理やり立て直した。

「ぎ、ぐギぎィ」

 真冬の頬にヒビが入る。肉体の崩壊が進んでいるのだ。

「オラァああああ!」

 猛る狂犬を、清十郎は返り討ちにする。
 倒されては立ち上がるを繰り返す。
 真冬は知っているのだ、ここで倒れることを、真冬の敗北で全てが終わってしまうことを。

「そろそろ息の根を止めてください」

 清十郎は朱欄の言葉に一瞥するだけで応える。
 真冬は清十郎の纏う雰囲気が変わったのを、溢れ出る殺気で感じ取った。次の攻撃は確実に回避しなければならない、真冬は全神経を迫る死に向ける。

 水葵のような速さを見せる清十郎、真冬の顔を目掛けて剛拳が繰り出される。

 ーーそれを回避できたのは、たまたまだった。
 水葵の『最速』を体験していなかったら、あるいは成果こそ出なかったがクロジカの尻尾突きをかわす訓練をしていなかったら、いまごろ、真冬の頭には血の花が咲いていたことだろう。頭だけを横にずらして回避した。横を暴風が通る、頭を持っていかれそうになるが堪える。

 真冬の腕が触れる前に、清十郎は腕の射程外に移動し終わっていた。

「ハァ······ハァ」

 冷たい汗がドバっと溢れ出る。全力疾走した直後のような息遣いだ。次はない、次をかわす術はない。

 嵐ような剛拳が真冬の頭を潰す、そのとき。


「ピリリリリリリリ」


 清十郎の拳がピタリと止まる。おもむろに懐から携帯電話を取り出すと、ポチポチと何度か操作する。

「時間だ」

 それだけ言うと、清十郎は携帯電話をしまい、出口の方に歩を進め始めた。

「ま、待ってください! なんの時間が!?」
「契約終了だ」
「は? え?」

 慌てて朱欄は腕時計を確認する。そしてハッとして清十郎に向き直る。用心棒としての契約期間が今をもって終了したのだ。

「そんなあと少しなのに!」
「なら、延長しろ。料金は現金、そして前払いだ」

 朱欄はたじろぐ、清十郎と一花を雇ったときの領収書を伯龍が酒の席で見せてくれたことがあったのだ。そのときは伯龍のポケットマネーで払っていたが、今回はそうはいかない。

「こ、哭龍さんに確認しないと、すぐには······」
「そうか、一花」
「はい!」

 待っていたかのように、空間を裂いて一花が現れた。

「行くぞ、準備はできているか?」
「もちろんです!」

 裂けた空間を跨いで清十郎は姿を消した。

「待ってください、話がまだ!」
「永鳥さん、清十郎はもうその気がないようですし、後はどうとでもなるでしょう。私たちは十分に役目を果たしたと自負してます!」

 えっへんと胸をはる一花。唖然とする朱欄に一花は一瞥を送ると真冬に向き直る。

「崩紫さん、また生きていたら、どこかでお会いしましょう」
「心紅は······どこだ!」
「うーん、中立になったとはいえ、いきなり情報漏洩は信用問題ですから、答えかねます」
「答えろ!」
「ひー、本当は教えたくないですよ? でも命には変えられませんしね、脅されて仕方なくですよ?」
「早くしろ!」
「はいはい、生きていますよ、無事です。ご存命ですよやりましたね! 見張りの私がいなくなったので自力でここまで来るんじゃないですかね。あ、永鳥さん、ちゃんと見張りは引き継ぎましたよ! 彼らでは力不足ですが」

 そう言うと、一花は全体にペコリと頭を下げる。

「ではでは、これにて失礼します!」

 一花は裂けた空間へと消えた。

「後は永鳥さん、あんただけだな」
「くっ!」

 火の鳥に変身した朱欄は、玄道が吹き飛ばされた時にできた穴を抜けて階上へと消えた。

「ぐッ!」
「真冬殿!」

 能力を解除して膝をついた真冬を見て、ナナが駆け寄る。

「俺は大丈夫だ、まず心紅を助け出して、ロアと鮫島の治療を頼もう」
「うん!」

 二人が部屋から出ようと出口に向かうと、

「やっぱりいたのね」

 出口から心紅が現れた。

「心紅!」
「うるさかったから、すぐに場所がわかったわ」

 心紅は真冬に歩み寄ると傷口に手を当てる。瞬く間に傷が癒えていく。

「また無茶をしたのね」
「俺のことはいい、どうやって脱出した?」
「鎖蜘蛛チェーンスパイダーを召喚して戦わせたわ」

 心紅の背中に鎖蜘蛛がへばりついていた。そのボディには返り血がベットリと付着している。前足を器用に使い口周りを掃除している。

「そうか、こいつ強いんだな」
「ええ、こう見えて上級クラスの魔物だから」

 上級魔物。七年前に真冬が戦った三匹の魔物と同じクラスの強さだ。

「ありがとう」
「どういたしまして、これで好きになったかしら?」
「そういった感情に疎くてな、まだよく分からないんだ」

 俺のこの手では、心紅を傷つけてしまう。

「そう、そうよね、これから知っていけばいいわ」
「······このあとロアと水葵って奴も治療してやってほしい」
「水葵って、あの幹部の鮫島水葵?」
「ああ、借りができた、返しとかないと気分が悪い、頼めるか?」
「もちろんよ、真冬の言うことならなんでも聞いてあげるわ」

 その後、気を失っているロアを発見した。一方、水葵はどこにも見当たらなかった。
 構成員たちも、避難指示でも出ているのか、姿を現さなくなっていた。

 そして再び、安全が確保されている魔法陣部屋に戻りロアの治療を開始した。

「水葵殿はどこに行ってしまったのだ!」
「大丈夫だ、あいつは生きてる」

 そういう奴だ、誰の思惑通りにもならないキザ野郎だ。ほっといても大丈夫だろう。あいつも俺に助けられるなんて気分悪いだろうしな。

「真冬、さっき魔法の気配がしたわ」
「魔法の気配? ああ、この部屋の魔法陣のことかな?」
「違うわ、この魔法陣には、魔力が通ってないもの」
「じゃあ、どういうことだ?」
「さぁ、この場にいなかったからなんとも言えないわね」
「こっちの世界には魔力がないんだよな?」
「そうよ、でも、私やクロジカのように異世界から来た人なら、体内で魔力を作ることができるのよ」

 つまり、この建物に異世界から来た奴がいるってことか。

「私の知る限りでは、哭龍がそうよ」
「哭龍がか? 異世界から来たっていうのか、でも哭龍は伯龍の息子で」
「ナナから何も聞いてなかったのね、情報共有してあげるわ」

 心紅は、哭龍が赤子の頃に異世界から新世界へと転移してきたこと。それを知り元の世界に帰ろうとしていること。帰るために魔法陣を作り、ナナを生贄にしようとしていたこと。成功すればトウキョウ全域を転移させてしまうことを伝えた。

「それくらいしか、聞いてないわ」
「そっか、ありがとうな」
「それでこれからどうするの?」

 ロアに治癒魔法をかけながら心紅が聞く。

「この際だから哭龍と話をつけてくるよ」
「そう、なら私も行くわ」

 ここに残していくより、近くにいてくれた方が守りやすいか。

「わかった、二人とも一緒に来てくれ」
「うん!」
「わかったわ」

 三人の意志が固まったそのとき。

「久しぶりだな」

 天井の大穴から、羽根を羽ばたかせ漆黒の竜人が現れた。

「哭龍······ッ!!」

 四宝組二代目組長、哭龍が現れたのである。
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りゅう
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 異世界召喚。サラリーマンだって、そんな空想をする。  いや、さすがに大人なので空想する内容も大人だ。少年の心が残っていても、現実社会でもまれた人間はまた別の空想をするのだ。  その日の神岡龍二も、日々の生活から離れ異世界を想像して遊んでいるだけのハズだった。そこには何の問題もないハズだった。だが、そんなお気楽な日々は、この日が最後となってしまった。

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