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二章
ビリオネア通り
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「ここです」
タクシーなんて初めて乗った。ドアが自動で開閉して、しかも運転手が荷物を持ってくれるなんて映画やテレビの中だけでの出来事だと思っていた。現実で、しかも自分が丁寧な扱いを受けるなんて気持ちが悪かった。
「すご、なにそのドア」
ダミアンはスーツケースを引っ張るオースティンのあとを追った。ギラギラ悪趣味に光るマンション。曇っていて最上階は確認できなかった。
セントラルパーク南側の57丁目。ビリオネア通りと呼ばれている場所だった。世界中の金持ちが集まっている。ダミアンのこれまでの人生で、決して交わることのなかった世界だった。
「あんまり騒がないでください。写真を撮られる」
「写真?」
そんなの撮ってなんになるんだ。ダミアンは不思議に思ったが口には出さなかった。黙ってオースティンに続く。
エレベーターの中で、初めてこのマンションが九十階建てであることを知った。恐ろしいほど静かで不気味だった。
オースティンは当然のように最上階のボタンを押す。本当にここに人が住んでいるのか。警備員に取り押さえられやしないかと、ダミアンは内心ひやひやしていた。
「おかえり~」
エレベーターを降り、重苦しい扉を開いた瞬間女の声がした。ダミアンは顔を歪めたが、オースティンは呆れたようにため息をつくのみだった。
「お嬢様」
「ゲッ、女」
咄嗟に目を逸らした。目を引く淡い、長いブロンドの髪。正統派美女、何度もテレビで見たことがある――女優のオリヴィアだ。
「こんにちは!」
ハリウッドで生活してるんじゃなかったのかよ。舌打ちだけは我慢することができた。オリヴィアは馴れ馴れしく、オースティンの手を引いて家の中へ招き入れる。
廊下を進むと、綺麗に整頓された無駄に広いリビングが広がっていた。大きな窓からはニューヨークの町が一望できる。高所恐怖症の人間には絶対住めないような景観だった。
「はじめまして。ダミアンです」
「オリヴィアです。オリーって呼んでね」
芸能人にはあるまじき、澄んだ青い瞳が光る。交通事故に遭ったという話なのに、傷ひとつない。長い髪を耳にかける様子すら映画のようだった。目を引く美しさを放っている。小さい顔に、長い手足。あまりにも当たり前のように存在しているものだから現実味がない。
ダミアンは我が物顔で黒い革張りのソファに腰を下ろした。こういうとき、慌ててはいけないことを経験から知っている。余裕ぶって足を組んだ。
「あなたは?」
オリヴィアはオースティンに向かって問いかけた。腰まで伸びた髪の毛先がくるくるウェーブを描いている。オースティンは深いため息をついた。
「やっぱり、記憶喪失って本当だったんですね」
軽く肩をすくめた。記憶喪失? ダミアンはソファに身体を沈めたまま、ちらちら二人のことを気にしていた。ただでさえ広くて落ち着かない。記憶喪失なんて、映画の中でしか聞いたことがなかった。
「そう。あなたは、はじめましてじゃないのね」
バーでしか見かけない高い椅子に腰掛ける。ブロンドの髪が、黒い家具にきらきら反射する。ダミアンは、だだっ広いキッチンがカウンター式であることに今更気がついた。
「カウンセラーのオースティンです」
「そう? よろしく」
ちらりともオースティンのほうを見ずに返事をした。他人のことなど興味がなさそうに、しきりにネイルを確認している。
太陽が落ちたせいで、窓の外はどんよりとした曇り空から暗闇に変化していった。すぐに建物からの灯りで照らされ、むしろ昼間よりも明るいくらいだった。
「ダミアンくん、は?」
「え……俺は、無職?」
いつの間にか、部屋には電気がついていた。自動でカーテンが閉まる。ダミアンは目を白黒させていたが、オリヴィアとオースティンは眉ひとつ動かさなかった。このハイテクで豪勢な部屋は、彼らにとって日常なのだ。
オリヴィアが顔を上げ、ふとダミアンに視線を向ける。にこっと、一瞬だけ笑いかける。まるで自分が特別な相手なのだと錯覚させるものだった。
「そーゆーことじゃなくてね」
「彼はえっと……相続人です」
気まずそうにオースティンが口を挟んだ。オリヴィアはスカートのポケットからメモ帳を取り出し、ぱらぱらと捲った。几帳面な走り書きの文字がびっしりと書かれている。
「それは聞いたわ。私たちの弟? なんでしょ」
ぱたん、とメモ帳を閉じた。なにも気にしていなさそうに見える。相続の額が減るとか、せせこましいことは考えていないらしい。ハリウッドの人気女優の給料なんてダミアンには想像もつかなかったが、相続人が一人増えたくらいでは感情を動かされることはないようだ。それとも、記憶喪失で状況をよく理解していないのだろうか。
「大丈夫、兄さんたちには話しておくわ。あの人たち、私よりも生活が不規則なんだから」
足を組んで、カウンターに頬杖をついた。青いスカートも、細身のジャケットも強烈な存在感を放っている。一度見たら、忘れられない世界の絶景のような……。オリヴィアの二人の兄たちの姿はない。彼女の口ぶりからして、この家に住んでいるんだろう。
「えぇ、それ大丈夫なんですか?」
「メモしてるから大丈夫よ」
ウィンクをされれば、言い返すことはできない。こういうとき、女はずるいと思う。美人であればなおさらだ。どうしたって、嫌いだった母親のことを思い出してしまう。
***
電子レンジで温めたピザという、金持ちの夕食にしてはあまりにも普通の食事をした。オリヴィアは「太るから」と、冷蔵庫からペットボトルを取り出して自室にこもってしまった。
このマンションには、他にどれだけ部屋があるのか見当もつかない。マンションなのに、部屋の中に階段が存在していたり、とてもじゃないが理解しがたい。勝手にうろついてドアを開けるわけにもいかなかった。
食事を終えるとオースティンに簡素なベッドのある小さな――小さいといってもダミアンが暮らしていたラスベガスのワンルームよりは広い――部屋に案内された。
持ってきたリュックサックを床に置く。私物なんてほとんどなかった。ダミアンは物に執着するタイプではなかったし、ギャンブルで稼いだ金も引越し費用で消えてしまったからだ。
物に執着するタイプではなくとも、ミニマリストのようななにもない部屋には心をかき乱された。ごちゃごちゃした、ネズミの出るようなワンルームが自分にはお似合い。そう痛感させられる。
「シャワーとトイレはそっちのドアです」
指し示された扉を開けると、不気味なほどに掃除の行き届いたバスルームが広がっていた。ダミアンはなんだか気分が悪くなって扉を閉めた。
「なんか、刑務所みたい」
「ホテルみたい、って他の人は表現します」
オースティンは不思議そうに眉をひそめた。彼は、クラウン家の人間のように、当たり前に贅沢を享受しているわけではない。しかし、少なくともダミアンよりはまともな環境で育っているんだろう。きっと、刑務所なんて縁のない生活を送ってきたに違いない。
「敬語とかやめよーよ。僕たち友達じゃん?」
「友達、ではないけど」
ベッドに座ってオースティンを見上げる。長い距離を移動して疲れた顔がこちらを見下ろしていた。ダミアンは首を傾けた。どの角度が盛れるか、自分がどう見られているかくらい理解している。
「じゃあなに? 恋人?」
「……友達でいいですよ」
嫌いじゃないって言ってたくせに。漏れ出るため息が、明らかに面倒臭そうでダミアンは不満を募らせた。いつだって、自分が空気を支配していないと気が済まなかった。そうでなければ、いてもいなくても変わらない存在に成り下がる気がした。
「てか、オリヴィアさん? あれ大丈夫なの?」
見た目はとにかく美しかったが、どうも様子がおかしい。芸能人独特のオーラ、とでも言おうか。有無を言わせない圧があった。守ってあげなければならないという弱さがあった。浮世離れした儚さがあった。見ていて、ちょっと気持ちが悪くなる。
「オリヴィアは一度読んだ本を完璧に覚えることができる。現場に台本を一度も持ち込んだことがないって有名です」
「でも、記憶喪失なんだろ」
「……俺は医者じゃないので。わかりません」
よく言うわ。記憶喪失とか、カウンセラーの得意分野だろ。思ってはいたが口には出さなかった。
オースティンは疲れた様子でダミアンの隣に腰を下ろした。他に座る場所がなかったからだということは明らかだったが、ダミアンは満足げに微笑んだ。
「演技がすごい上手いって記事を見た」
「そうみたいですね」
――本当に記憶喪失なのか。それを装うことは、きっとオリヴィアにとって難しい仕事ではないはずだ。ただ、なんのために。
「精神的には昔から不安定でした。だからチェスターは俺なんかを雇った」
オースティンの言葉を聞き流しながら、ダミアンはパーカーのポケットからiPhoneを取り出した。女優、オリヴィアについての記事を開いてサッと目を通す。
「かつては美少女コンテストの常連で、七歳の頃に子役に抜擢、って書いてある」
慣れた手つきで画面をスクロールさせる。今どき、どんな貧困家庭でもiPhoneくらいは子供の頃から持っている。二十三歳のハリウッド女優の、画面に映っている華々しい経歴――眩しくて画面を消した。自分とは正反対だった。
「彼女、学校もろくに行ってないから、演技しか取り柄がないんですよ」
学校なんて嫌いだ。それだけは共通点。見つけたって虚しくなるだけだった。ダミアンは苛立ちを抑えるため、にっこり微笑んだ。
「ふーん。ま、他の女の話とかどうでもいい」
「え?」
手を伸ばす。ギャンブルのイカサマ行為と同じくらい簡単だった。ましてや、自分に好意を抱いている相手であればなおさらだった。オースティンの耳元でそっと囁く。
「俺のがいいだろ」
午前中の、飛行機のシートで手を繋いだあれは子供のお遊びだ。より大胆に、指を絡ませる。年齢のわりに大人びた、慣れた手つきだった。誰でもよかった。一人きりの夜を回避できるなら、それで。
タクシーなんて初めて乗った。ドアが自動で開閉して、しかも運転手が荷物を持ってくれるなんて映画やテレビの中だけでの出来事だと思っていた。現実で、しかも自分が丁寧な扱いを受けるなんて気持ちが悪かった。
「すご、なにそのドア」
ダミアンはスーツケースを引っ張るオースティンのあとを追った。ギラギラ悪趣味に光るマンション。曇っていて最上階は確認できなかった。
セントラルパーク南側の57丁目。ビリオネア通りと呼ばれている場所だった。世界中の金持ちが集まっている。ダミアンのこれまでの人生で、決して交わることのなかった世界だった。
「あんまり騒がないでください。写真を撮られる」
「写真?」
そんなの撮ってなんになるんだ。ダミアンは不思議に思ったが口には出さなかった。黙ってオースティンに続く。
エレベーターの中で、初めてこのマンションが九十階建てであることを知った。恐ろしいほど静かで不気味だった。
オースティンは当然のように最上階のボタンを押す。本当にここに人が住んでいるのか。警備員に取り押さえられやしないかと、ダミアンは内心ひやひやしていた。
「おかえり~」
エレベーターを降り、重苦しい扉を開いた瞬間女の声がした。ダミアンは顔を歪めたが、オースティンは呆れたようにため息をつくのみだった。
「お嬢様」
「ゲッ、女」
咄嗟に目を逸らした。目を引く淡い、長いブロンドの髪。正統派美女、何度もテレビで見たことがある――女優のオリヴィアだ。
「こんにちは!」
ハリウッドで生活してるんじゃなかったのかよ。舌打ちだけは我慢することができた。オリヴィアは馴れ馴れしく、オースティンの手を引いて家の中へ招き入れる。
廊下を進むと、綺麗に整頓された無駄に広いリビングが広がっていた。大きな窓からはニューヨークの町が一望できる。高所恐怖症の人間には絶対住めないような景観だった。
「はじめまして。ダミアンです」
「オリヴィアです。オリーって呼んでね」
芸能人にはあるまじき、澄んだ青い瞳が光る。交通事故に遭ったという話なのに、傷ひとつない。長い髪を耳にかける様子すら映画のようだった。目を引く美しさを放っている。小さい顔に、長い手足。あまりにも当たり前のように存在しているものだから現実味がない。
ダミアンは我が物顔で黒い革張りのソファに腰を下ろした。こういうとき、慌ててはいけないことを経験から知っている。余裕ぶって足を組んだ。
「あなたは?」
オリヴィアはオースティンに向かって問いかけた。腰まで伸びた髪の毛先がくるくるウェーブを描いている。オースティンは深いため息をついた。
「やっぱり、記憶喪失って本当だったんですね」
軽く肩をすくめた。記憶喪失? ダミアンはソファに身体を沈めたまま、ちらちら二人のことを気にしていた。ただでさえ広くて落ち着かない。記憶喪失なんて、映画の中でしか聞いたことがなかった。
「そう。あなたは、はじめましてじゃないのね」
バーでしか見かけない高い椅子に腰掛ける。ブロンドの髪が、黒い家具にきらきら反射する。ダミアンは、だだっ広いキッチンがカウンター式であることに今更気がついた。
「カウンセラーのオースティンです」
「そう? よろしく」
ちらりともオースティンのほうを見ずに返事をした。他人のことなど興味がなさそうに、しきりにネイルを確認している。
太陽が落ちたせいで、窓の外はどんよりとした曇り空から暗闇に変化していった。すぐに建物からの灯りで照らされ、むしろ昼間よりも明るいくらいだった。
「ダミアンくん、は?」
「え……俺は、無職?」
いつの間にか、部屋には電気がついていた。自動でカーテンが閉まる。ダミアンは目を白黒させていたが、オリヴィアとオースティンは眉ひとつ動かさなかった。このハイテクで豪勢な部屋は、彼らにとって日常なのだ。
オリヴィアが顔を上げ、ふとダミアンに視線を向ける。にこっと、一瞬だけ笑いかける。まるで自分が特別な相手なのだと錯覚させるものだった。
「そーゆーことじゃなくてね」
「彼はえっと……相続人です」
気まずそうにオースティンが口を挟んだ。オリヴィアはスカートのポケットからメモ帳を取り出し、ぱらぱらと捲った。几帳面な走り書きの文字がびっしりと書かれている。
「それは聞いたわ。私たちの弟? なんでしょ」
ぱたん、とメモ帳を閉じた。なにも気にしていなさそうに見える。相続の額が減るとか、せせこましいことは考えていないらしい。ハリウッドの人気女優の給料なんてダミアンには想像もつかなかったが、相続人が一人増えたくらいでは感情を動かされることはないようだ。それとも、記憶喪失で状況をよく理解していないのだろうか。
「大丈夫、兄さんたちには話しておくわ。あの人たち、私よりも生活が不規則なんだから」
足を組んで、カウンターに頬杖をついた。青いスカートも、細身のジャケットも強烈な存在感を放っている。一度見たら、忘れられない世界の絶景のような……。オリヴィアの二人の兄たちの姿はない。彼女の口ぶりからして、この家に住んでいるんだろう。
「えぇ、それ大丈夫なんですか?」
「メモしてるから大丈夫よ」
ウィンクをされれば、言い返すことはできない。こういうとき、女はずるいと思う。美人であればなおさらだ。どうしたって、嫌いだった母親のことを思い出してしまう。
***
電子レンジで温めたピザという、金持ちの夕食にしてはあまりにも普通の食事をした。オリヴィアは「太るから」と、冷蔵庫からペットボトルを取り出して自室にこもってしまった。
このマンションには、他にどれだけ部屋があるのか見当もつかない。マンションなのに、部屋の中に階段が存在していたり、とてもじゃないが理解しがたい。勝手にうろついてドアを開けるわけにもいかなかった。
食事を終えるとオースティンに簡素なベッドのある小さな――小さいといってもダミアンが暮らしていたラスベガスのワンルームよりは広い――部屋に案内された。
持ってきたリュックサックを床に置く。私物なんてほとんどなかった。ダミアンは物に執着するタイプではなかったし、ギャンブルで稼いだ金も引越し費用で消えてしまったからだ。
物に執着するタイプではなくとも、ミニマリストのようななにもない部屋には心をかき乱された。ごちゃごちゃした、ネズミの出るようなワンルームが自分にはお似合い。そう痛感させられる。
「シャワーとトイレはそっちのドアです」
指し示された扉を開けると、不気味なほどに掃除の行き届いたバスルームが広がっていた。ダミアンはなんだか気分が悪くなって扉を閉めた。
「なんか、刑務所みたい」
「ホテルみたい、って他の人は表現します」
オースティンは不思議そうに眉をひそめた。彼は、クラウン家の人間のように、当たり前に贅沢を享受しているわけではない。しかし、少なくともダミアンよりはまともな環境で育っているんだろう。きっと、刑務所なんて縁のない生活を送ってきたに違いない。
「敬語とかやめよーよ。僕たち友達じゃん?」
「友達、ではないけど」
ベッドに座ってオースティンを見上げる。長い距離を移動して疲れた顔がこちらを見下ろしていた。ダミアンは首を傾けた。どの角度が盛れるか、自分がどう見られているかくらい理解している。
「じゃあなに? 恋人?」
「……友達でいいですよ」
嫌いじゃないって言ってたくせに。漏れ出るため息が、明らかに面倒臭そうでダミアンは不満を募らせた。いつだって、自分が空気を支配していないと気が済まなかった。そうでなければ、いてもいなくても変わらない存在に成り下がる気がした。
「てか、オリヴィアさん? あれ大丈夫なの?」
見た目はとにかく美しかったが、どうも様子がおかしい。芸能人独特のオーラ、とでも言おうか。有無を言わせない圧があった。守ってあげなければならないという弱さがあった。浮世離れした儚さがあった。見ていて、ちょっと気持ちが悪くなる。
「オリヴィアは一度読んだ本を完璧に覚えることができる。現場に台本を一度も持ち込んだことがないって有名です」
「でも、記憶喪失なんだろ」
「……俺は医者じゃないので。わかりません」
よく言うわ。記憶喪失とか、カウンセラーの得意分野だろ。思ってはいたが口には出さなかった。
オースティンは疲れた様子でダミアンの隣に腰を下ろした。他に座る場所がなかったからだということは明らかだったが、ダミアンは満足げに微笑んだ。
「演技がすごい上手いって記事を見た」
「そうみたいですね」
――本当に記憶喪失なのか。それを装うことは、きっとオリヴィアにとって難しい仕事ではないはずだ。ただ、なんのために。
「精神的には昔から不安定でした。だからチェスターは俺なんかを雇った」
オースティンの言葉を聞き流しながら、ダミアンはパーカーのポケットからiPhoneを取り出した。女優、オリヴィアについての記事を開いてサッと目を通す。
「かつては美少女コンテストの常連で、七歳の頃に子役に抜擢、って書いてある」
慣れた手つきで画面をスクロールさせる。今どき、どんな貧困家庭でもiPhoneくらいは子供の頃から持っている。二十三歳のハリウッド女優の、画面に映っている華々しい経歴――眩しくて画面を消した。自分とは正反対だった。
「彼女、学校もろくに行ってないから、演技しか取り柄がないんですよ」
学校なんて嫌いだ。それだけは共通点。見つけたって虚しくなるだけだった。ダミアンは苛立ちを抑えるため、にっこり微笑んだ。
「ふーん。ま、他の女の話とかどうでもいい」
「え?」
手を伸ばす。ギャンブルのイカサマ行為と同じくらい簡単だった。ましてや、自分に好意を抱いている相手であればなおさらだった。オースティンの耳元でそっと囁く。
「俺のがいいだろ」
午前中の、飛行機のシートで手を繋いだあれは子供のお遊びだ。より大胆に、指を絡ませる。年齢のわりに大人びた、慣れた手つきだった。誰でもよかった。一人きりの夜を回避できるなら、それで。
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