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君の眼球を舐めたい
君の眼球を舐めたい(3)
しおりを挟む小さな日本家屋の一室が宮地の部屋だった。学用品でひどく散らかり、足の踏み場こそあるものの、片付けようとしたら相当の覚悟が必要なほどだ。
今はいない父親が暴れたときにできた壁のへこみすら、懐かしいものになっている。酒癖の悪い父であったが、いなくなってしまうと寂しいものである。
「……はい」
部屋をノックする音に、布団から起き上がり、返事をする。しばらくすると、ぎこちなく扉が開かれた。
「大丈夫? 骨折したって聞いたけど」
三木だった。学生服であるところを見ると、学校帰りに寄ったのだろう。しかし、まだ昼間だ。授業は、サボッたのだろうか。
「なんで来たんだよ、関係ないだろ」
「いいじゃないか、心配したんだぞ」
痛む足に顔をしかめ、三木から視線を逸らす。そんな宮地の様子を気に留める様子もなく、三木は勝手に手近な椅子に腰を降ろした。
「すぐに帰れよ、客が来ると、母さんがうるさいんだ」
以前のことがあってか、顔を合わせづらい、早く帰ってはくれないものだろうか。
「はいはい」
三木はこの前のことなどなかったかのように手をひらひらと振って見せた。そんな行動にすら、なにか裏がありそうで、宮地は警戒する。
「で、なんで来たんだよ」
しかめっ面のまま、訊ねる。彼がどんな目的でやってきたのか、まったく分からなかった。
「え……歩き、だけど」
椅子の上で足を組み、若干微笑みを浮かべながら答える。
「ちげーよ、はぐらかすな!」
語気を荒げ、三木のほうを向く。鋭く睨むと、ため息を吐かれた。
「まぁ、そうだ。君の言うとおりさ、あいつらに志忌くんをいじめるように言ったのは僕だ」一息ついて、言葉を続ける。「気を引けると思ったんだ。ごめん」
しゅんと下を向いて、そう答える。
「なんでそこまですんだよ、似てるだけなんだろ?」
「僕は君のためならなんでもするよ、人殺しでも、なんでも――」
そう言う三木は、どこか悲しげな目をしていた。そんな様子に宮地は睨んでいた視線を逸らす。
「違うだろ! お前は俺が好きじゃないんだ。だったら、モウほっといてくれ」
「それは――」
「モウいい!」
三木の言葉を遮って、布団に横たわる。
「よくないよ!」強い口調が聞こえ、さらにそれは続く。「僕は君が好きだ」
「嘘つけ、モウ俺には関わるな変態が!」
強い反駁の言葉を発する。しかし三木は臆することなく言葉を続けた。
「よく、考えたんだ。僕は弟に欲情したりしない」
神妙な顔つきで、宮地に近付いく。
「俺は同性愛嗜好者じゃない」
「それは追々なんとかなるさ」
さらりと受け流し、笑みを浮かべる。
「……じゃあ俺に、お前の眼球舐めさせろ」
「え?」
宮地の言葉に、三木は驚きの声をあげる。
「お前ばっかり、ずるいだろ。俺にも、目ン玉舐めさせろ」
「なんだい、味が知りたいのかい。言ってくれればいつでもやらせてあげたのに。とても甘いんだ」 そう言って、宮地に顏を近付ける。
「もっと、近付けよ」
ドキドキと心臓が高鳴った。緊張で手に汗をかく。おそるおそる舌を出し、ぎこちなく眼球に触れた。
「しょっぱいじゃねーか、アホ」
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