ドレスデンのドリルきゅん

つなかん

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二章 農家編

まだ農家だった頃

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 ジリジリ、授業が終わるチャイムが鳴った。次の瞬間、教室中にため息や、板書が遅い生徒が必死に走り書きをする鉛筆の音が響き渡った。ハインリヒは面倒くさそうに欠伸をして、数学の教科書を閉じた。
 勉強なんて嫌いだ。座りっぱなしで肩がこる。大きく伸びをして、窓の外に視線をやった。外の景色は、石炭工場からもくもく吹き出る灰色の煙でどんよりしていた。ここ数年、戦争が始まってからというものずっとこの調子だ。

「なぁなぁ!!」

 隣の席から声が聞こえる。次の授業はなんだっけ。たしか、『ゲルマニア帝国の歴史』――この授業はたいてい、現政党が推し進めている反〇〇〇人政策を称賛するものだった。
 ハインリヒはこの授業が嫌いではなかったが、授業の終わりに提出するリアクションペーパーを書くのは憂鬱だった。正直、自分は頭の良いほうではない。十五歳にもなれば、客観的に自分を見ることができる。

「ぜーったい、あいつヅラだよな」
「あぁ……」
「おーい! 聞いてる? リヒたーん」

 授業が終わったばかりだというのに、どうしてそんなに元気でいられるのかわからない。
 名前を覚える気もない、ただ隣の席というだけで話しかけてくるクラスメイトを気にしている余裕なんて、ハインリヒにはなかった。
 肩を叩かれて初めて、名前を呼ばれていたことに気づく。地元の人間はみんなハインリヒを「ハイネ」と呼んだ。

「え、なんか言った?」
「最近ずーっと上の空だな」
「そうかな?」

 そばかすだらけの笑顔をハインリヒに向ける。コイツはもう少し、真面目に将来を考えたほうがいい。石炭工場からゴウゴウ、機械が動く音がした。
 基幹学校を卒業したらどうするか、そろそろ真剣に考える必要があった。といっても、あまり選択肢はない。父親のように徴兵されるか、それとも――。
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