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番外編 続・農家編
シュタイナー家の日常
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「ねぇ、やっぱりオリンピックくらい見に行ってもよかったんじゃない?」
ラジオの周波数や、新聞の一面記事がオリンピックとかいうスポーツの祭典を知らせていた。そんなものを楽しむのは、都会の裕福な人間だけの特権で、俺たちの人生には全く縁がないもの。興味を持つだけ無駄なのに、母のイザベラはなんにでも興味を示した。
母さんは新しいものが好きで、村の他にいる母親とは少し違った。おっとりしていて、若くて、おしゃれで、品があった。お母さん美人で羨ましい、友達にそんな風に言われるのも一度や二度じゃなかった。
「バカ言うな、あそこは差別主義者の集まりだぞ」
「ヴィッキーったら、またそういうこと言って~」
母さんはオーブンを覗き込みながらのんびりと答えて、退屈そうに瞬きをした。母さんは、父、ルートヴィヒのことをヴィッキーとおかしなあだ名で呼んでいる。父さんはそれを気に入っていない様子だったが、一度も文句を言っているところを見たことがない。
俺のことも、おかしなあだ名で呼ぶのをやめてくれないだろうか。村の人間はほとんど全員、俺のことをハイネと呼んでいた。今更母さんが呼び方を変えたところで、あまり意味をなさないだろう。思わずため息が出る。
「ベルリンには、てれび? っていう? 箱の中で人間が動く機械があるらしいの」
シュトーレンの甘い香りがキッチンから流れ込んできた。さっきからずっと手が止まっている、学校の宿題も、いよいよ諦めのフェーズに入ろうとしていた。
数字を割ったり、掛けたり、意味がわからない。挙句の果てには分数の計算ときた。こんな勉強、人生のいつどんな場面で必要になるっていうんだ。だいたいうちは農家だし――。
「くだらない」
「えー、そうかしら」
父さんは新聞を折りたたみながら、大きくため息をついた。キッチンからは、鼻歌交じりに皿洗いをする母さんの声が聞こえてくる。意を決してもう一度、手元の教科書に視線を落とす。分数の割り算――ブンスウノワリザン!? なんだこれ。
「それより街に野菜を売りに行かないと」
「はぁい。車ね車」
「軽トラな」
再び、さっきよりも大きなため息。こんなんじゃ、集中なんてできやしない。鉛筆を持つ手に力がこもって、気がついたらバキッと大きな音を立てて真っ二つに折れてしまった。今週で二本目。文房具をしょっちゅう購入する余裕なんて、うちにはないってのに。イライラして、つい奥歯を噛み締めた。
父さんは軽トラの鍵を持って裏口から出ていった。外の冷たい空気が部屋に侵入し、少し肌寒い。年の離れた憎たらしい弟のリドルは、もう四歳にもなるというのにオートミールを手でぐちゃぐちゃ掴んでは、せっせと口に運んでいた、
「私ベルリンにいた頃、外に出るときは必ずベンツに乗ってたの」
「あー、はいはい」
またいつもの虚言大会だ。母さんはたまに、そんなに面白くない冗談を言う。手元のノートに、リドルが汚く貪っているオートミールの粒が跳ねる。
「なぁ、母さん少し……頭が変だよな?」
「あ~、ハイネ信じてないでしょ!」
「うるさいなぁ」
小声でこっそり話したつもりだったのに、どうやら聞こえていたみたいだ……地獄耳。苛立ちが高まって、父さんと同じようなため息をついてしまった。ハイネ、なんてかわいいあだ名、俺には似合わない。
リドルはオートミールの入ったボウルに手を突っ込んだまま、俺をじっとりと見上げた。それからゆっくり視線をずらした。後ろのキッチンのほうへ意識を向けているのはわかった。
リドルは、村で知らない者がいないくらいの超能力の持ち主で、農家の仕事では引っ張りだこだった。朝は起きてこないし、食べ方は汚いし、オマケに女装癖まであって、どうしようもないやつなのに、みんなにチヤホヤされている。そりゃそうだ、ちょっとした魔法適性程度では扱えない力をリドルは持っていた。村でも学校でも、リドルほどの能力を持っている人間を、俺は見たことがない。
「あれ、嘘じゃないと思う」
「……」
いつになく真剣な、低い声で返事をした。両手をベタベタ、オートミールで汚していなければ少しはビビったかもしれない。コイツ、顔だけはかわいいし、だからみんな甘やかすんだ。
「てかハイネまた勉強~、勉強なんて必要ねーだろ」
「ただの学校の宿題だよ」
あーそうだ、これを今日中に終わらせなければ、また廊下に立たされる。新しい鉛筆を取り出し、学校でのブンスウのワリザンの授業を必死で思い返したが、数学教師が明らかなカツラであることしか印象にない。上下を入れ替えるんだっけ? あーいや、まずは数字を小さくするんだっけか? 数字って勝手に小さくなるんか??? あ~、意味わかんねぇ。
「ガッコウ? そんなの行く必要ねーし」
リドルがニヤッと笑って、ベタベタの人差し指を舐めた。それから中指、薬指、スプーンを使うという発想は持っていないようだ。目の前に置いてあるのに。
「お前の人生、ジャガイモを育てるだけで終わっていいのか」
残っている、数少ない鉛筆を折ってしまうわけにはいかなかった。ゆっくり深呼吸をして、落ち着きを取り戻す。リドルは机の下で足をぶらぶら揺らした。ときたま、足を伸ばして俺の膝に蹴りを入れてくる。ウザい。
「んー、いんじゃない? 街に行けば、新しい服を拾えるし」
「流行遅れの、しかも女物のな」
嫌味が止まらない。歳が離れていれば兄弟喧嘩は起こらない、って誰が言ったんだろう。リドルは心底楽しそうに笑顔をみせた。残念ながら、通じていないらしい。
「そうだ! ハイネ今度女装しろよ」
「絶ッ対に嫌だ」
「え~、お兄ちゃんつまんなーい」
痛ッ、いちいち足を蹴るなよ。オートミールの粒を飛ばすな。ギリギリ歯を食いしばることで、舌打ちをするのを我慢した。
「おーい、ハイネ。野菜を売りに行くぞ」
車を回してきた父さんが裏口から顔を出した。キーを人差し指に引っ掛けて、くるくる回している。目の前の宿題は、一行に終わる気配を見せない。
「えー、俺?」
なんで休みの日にわざわざ働きに行かなきゃならないんだ。街の連中は偉そうで、気取っていて、だからそんなに好きじゃない。リドルのように、古くてひらひらした女物の服なんかで上機嫌になれるほど、俺はお人好しじゃなかった。
「リドルでいいだろ」
「俺行きたい! お父さん服買って~」
ここのところいつも俺だし、リドルもこう言ってるんだからいいだろ。ブンスウのワリザンに関しては、こっそり母さんに聞けばいいとして……。
「オリンピックで外国人がわんさかいるんだ、リドルの“能力”を知られたら厄介だ。それにまだ小さい」
「お兄ちゃーん、頑張って」
「死ね」
まじで死ね。週末の計画が全てパーだ。リドルはスプーンを手に取って、空中に放り投げた。すかさず手のひらを翳すとスプーンは重力に逆らって、ふわふわ宙に浮いく。リドルがベタベタの指を少し曲げるだけで、異次元の力が加わって、たちまちスプーンの蝶蝶結びができあがった。
「えーん、お兄ちゃんひどーい」
足をばたつかせて、泣き真似をしてみせるが、下手で陳腐な演技そのものだった。俺にチラッと冷たい視線を寄越すのを忘れない――これは、演技じゃない。
「あらあら、帰ってきたらみんなでシュトーレンを食べましょ」
母さんがニコニコ笑いながらキッチンからリビングにやってきた。リドルがちゅぱちゅぱ指を舐めてから、大きく伸びをする。
あーあ、付き合ってらんねー。乱暴に教科書やノートを閉じて立ち上がった。さぁて、仕事仕事。
「えー、俺いま食べたーい」
「オートミールは食べたの?」
気持ち悪い会話がこれ以上聞かないために、さっさと裏口に向かった。父さんを押しのけて、扉をバタンと力任せに閉めた。
「お前、家が壊れるぞ」
「……うるさいなぁ」
早足で、うちの田んぼまで歩を進める。今日は野菜の日だからそんなに大変じゃない。肉の日は豚や牛を〆て、血抜きをして、ある程度加工を施す必要があって面倒で仕方ない。
軽く呪文を唱えて、準備されている軽トラに収穫した野菜を次々放り込む。リドルのように簡単にはいかない。集中力も魔力も、とんでもなく消費する。
最近の若者は約半数の割合で魔法適性を有していると言われているが、上の世代は違う。父さんや母さんに、この苦労は理解できないだろう。俺はリドルとは違う。あんなに簡単に超常的な力を行使できない。特別じゃないんだ。
「お前、親に向かってその口の効き方は――」
「父さんはさ、母さんのどこがいいわけ?」
「は、はぁ? なんだよ急に!」
父さんが急に大声を出したせいで、集中が切れてしまった。せっかく順調に進んでいたのに、トマトが一つ地面に落ちて潰れた。……もったいない。
「いやだってなんか変だろ、普通じゃないっていうかさ」
いいや。疲れたし、あとは手作業で。父さんのほうを振り返ったが、なんとも表現しがたい難しい顔をしていた。
「ベラはいいんだよ、あれで」
「あ、そ」
なんでちょっと照れてんだよ。きも!!! 親のそういうの興味ないから! 見せるな!!
いや、俺が悪いのか? でも冷静にあの虚言癖と結婚するとかちょっと不思議に思ったんだよ。毎回ベンツで移動してたとか、絶対嘘だろあれ。まぁたしかに、いつもニコニコしていて性格は悪くないからそれは良いんだけど。
「お前、魔法上手くなったな」
「そりゃヴィッキーよりはな~」
じゃがいもが詰まった袋を持ち上げながら、さりげなく褒めてくる。どう反応したらいいのかわからなくて、得意の嫌味が口から飛び出した。
父さんは苦々しげに唇を歪め、積荷の完了した荷台に、慣れた手つきでロープをひっかけた。ポケットから、じゃらじゃら鍵の束を取り出して、運転席に乗り込む。
「ほら、行くぞ」
「……」
無言で助手席に乗り込んだ。朝からこんなに魔法を使うなんて、毎度のことながら疲れる。シートベルトを装着するとすぐに眠気に襲われた。隣で、父さんがエンジンをかける音がする。
少しくらい、寝たって構わないよな。着いたらまた、積み下ろしの作業をしなくては。
ラジオの周波数や、新聞の一面記事がオリンピックとかいうスポーツの祭典を知らせていた。そんなものを楽しむのは、都会の裕福な人間だけの特権で、俺たちの人生には全く縁がないもの。興味を持つだけ無駄なのに、母のイザベラはなんにでも興味を示した。
母さんは新しいものが好きで、村の他にいる母親とは少し違った。おっとりしていて、若くて、おしゃれで、品があった。お母さん美人で羨ましい、友達にそんな風に言われるのも一度や二度じゃなかった。
「バカ言うな、あそこは差別主義者の集まりだぞ」
「ヴィッキーったら、またそういうこと言って~」
母さんはオーブンを覗き込みながらのんびりと答えて、退屈そうに瞬きをした。母さんは、父、ルートヴィヒのことをヴィッキーとおかしなあだ名で呼んでいる。父さんはそれを気に入っていない様子だったが、一度も文句を言っているところを見たことがない。
俺のことも、おかしなあだ名で呼ぶのをやめてくれないだろうか。村の人間はほとんど全員、俺のことをハイネと呼んでいた。今更母さんが呼び方を変えたところで、あまり意味をなさないだろう。思わずため息が出る。
「ベルリンには、てれび? っていう? 箱の中で人間が動く機械があるらしいの」
シュトーレンの甘い香りがキッチンから流れ込んできた。さっきからずっと手が止まっている、学校の宿題も、いよいよ諦めのフェーズに入ろうとしていた。
数字を割ったり、掛けたり、意味がわからない。挙句の果てには分数の計算ときた。こんな勉強、人生のいつどんな場面で必要になるっていうんだ。だいたいうちは農家だし――。
「くだらない」
「えー、そうかしら」
父さんは新聞を折りたたみながら、大きくため息をついた。キッチンからは、鼻歌交じりに皿洗いをする母さんの声が聞こえてくる。意を決してもう一度、手元の教科書に視線を落とす。分数の割り算――ブンスウノワリザン!? なんだこれ。
「それより街に野菜を売りに行かないと」
「はぁい。車ね車」
「軽トラな」
再び、さっきよりも大きなため息。こんなんじゃ、集中なんてできやしない。鉛筆を持つ手に力がこもって、気がついたらバキッと大きな音を立てて真っ二つに折れてしまった。今週で二本目。文房具をしょっちゅう購入する余裕なんて、うちにはないってのに。イライラして、つい奥歯を噛み締めた。
父さんは軽トラの鍵を持って裏口から出ていった。外の冷たい空気が部屋に侵入し、少し肌寒い。年の離れた憎たらしい弟のリドルは、もう四歳にもなるというのにオートミールを手でぐちゃぐちゃ掴んでは、せっせと口に運んでいた、
「私ベルリンにいた頃、外に出るときは必ずベンツに乗ってたの」
「あー、はいはい」
またいつもの虚言大会だ。母さんはたまに、そんなに面白くない冗談を言う。手元のノートに、リドルが汚く貪っているオートミールの粒が跳ねる。
「なぁ、母さん少し……頭が変だよな?」
「あ~、ハイネ信じてないでしょ!」
「うるさいなぁ」
小声でこっそり話したつもりだったのに、どうやら聞こえていたみたいだ……地獄耳。苛立ちが高まって、父さんと同じようなため息をついてしまった。ハイネ、なんてかわいいあだ名、俺には似合わない。
リドルはオートミールの入ったボウルに手を突っ込んだまま、俺をじっとりと見上げた。それからゆっくり視線をずらした。後ろのキッチンのほうへ意識を向けているのはわかった。
リドルは、村で知らない者がいないくらいの超能力の持ち主で、農家の仕事では引っ張りだこだった。朝は起きてこないし、食べ方は汚いし、オマケに女装癖まであって、どうしようもないやつなのに、みんなにチヤホヤされている。そりゃそうだ、ちょっとした魔法適性程度では扱えない力をリドルは持っていた。村でも学校でも、リドルほどの能力を持っている人間を、俺は見たことがない。
「あれ、嘘じゃないと思う」
「……」
いつになく真剣な、低い声で返事をした。両手をベタベタ、オートミールで汚していなければ少しはビビったかもしれない。コイツ、顔だけはかわいいし、だからみんな甘やかすんだ。
「てかハイネまた勉強~、勉強なんて必要ねーだろ」
「ただの学校の宿題だよ」
あーそうだ、これを今日中に終わらせなければ、また廊下に立たされる。新しい鉛筆を取り出し、学校でのブンスウのワリザンの授業を必死で思い返したが、数学教師が明らかなカツラであることしか印象にない。上下を入れ替えるんだっけ? あーいや、まずは数字を小さくするんだっけか? 数字って勝手に小さくなるんか??? あ~、意味わかんねぇ。
「ガッコウ? そんなの行く必要ねーし」
リドルがニヤッと笑って、ベタベタの人差し指を舐めた。それから中指、薬指、スプーンを使うという発想は持っていないようだ。目の前に置いてあるのに。
「お前の人生、ジャガイモを育てるだけで終わっていいのか」
残っている、数少ない鉛筆を折ってしまうわけにはいかなかった。ゆっくり深呼吸をして、落ち着きを取り戻す。リドルは机の下で足をぶらぶら揺らした。ときたま、足を伸ばして俺の膝に蹴りを入れてくる。ウザい。
「んー、いんじゃない? 街に行けば、新しい服を拾えるし」
「流行遅れの、しかも女物のな」
嫌味が止まらない。歳が離れていれば兄弟喧嘩は起こらない、って誰が言ったんだろう。リドルは心底楽しそうに笑顔をみせた。残念ながら、通じていないらしい。
「そうだ! ハイネ今度女装しろよ」
「絶ッ対に嫌だ」
「え~、お兄ちゃんつまんなーい」
痛ッ、いちいち足を蹴るなよ。オートミールの粒を飛ばすな。ギリギリ歯を食いしばることで、舌打ちをするのを我慢した。
「おーい、ハイネ。野菜を売りに行くぞ」
車を回してきた父さんが裏口から顔を出した。キーを人差し指に引っ掛けて、くるくる回している。目の前の宿題は、一行に終わる気配を見せない。
「えー、俺?」
なんで休みの日にわざわざ働きに行かなきゃならないんだ。街の連中は偉そうで、気取っていて、だからそんなに好きじゃない。リドルのように、古くてひらひらした女物の服なんかで上機嫌になれるほど、俺はお人好しじゃなかった。
「リドルでいいだろ」
「俺行きたい! お父さん服買って~」
ここのところいつも俺だし、リドルもこう言ってるんだからいいだろ。ブンスウのワリザンに関しては、こっそり母さんに聞けばいいとして……。
「オリンピックで外国人がわんさかいるんだ、リドルの“能力”を知られたら厄介だ。それにまだ小さい」
「お兄ちゃーん、頑張って」
「死ね」
まじで死ね。週末の計画が全てパーだ。リドルはスプーンを手に取って、空中に放り投げた。すかさず手のひらを翳すとスプーンは重力に逆らって、ふわふわ宙に浮いく。リドルがベタベタの指を少し曲げるだけで、異次元の力が加わって、たちまちスプーンの蝶蝶結びができあがった。
「えーん、お兄ちゃんひどーい」
足をばたつかせて、泣き真似をしてみせるが、下手で陳腐な演技そのものだった。俺にチラッと冷たい視線を寄越すのを忘れない――これは、演技じゃない。
「あらあら、帰ってきたらみんなでシュトーレンを食べましょ」
母さんがニコニコ笑いながらキッチンからリビングにやってきた。リドルがちゅぱちゅぱ指を舐めてから、大きく伸びをする。
あーあ、付き合ってらんねー。乱暴に教科書やノートを閉じて立ち上がった。さぁて、仕事仕事。
「えー、俺いま食べたーい」
「オートミールは食べたの?」
気持ち悪い会話がこれ以上聞かないために、さっさと裏口に向かった。父さんを押しのけて、扉をバタンと力任せに閉めた。
「お前、家が壊れるぞ」
「……うるさいなぁ」
早足で、うちの田んぼまで歩を進める。今日は野菜の日だからそんなに大変じゃない。肉の日は豚や牛を〆て、血抜きをして、ある程度加工を施す必要があって面倒で仕方ない。
軽く呪文を唱えて、準備されている軽トラに収穫した野菜を次々放り込む。リドルのように簡単にはいかない。集中力も魔力も、とんでもなく消費する。
最近の若者は約半数の割合で魔法適性を有していると言われているが、上の世代は違う。父さんや母さんに、この苦労は理解できないだろう。俺はリドルとは違う。あんなに簡単に超常的な力を行使できない。特別じゃないんだ。
「お前、親に向かってその口の効き方は――」
「父さんはさ、母さんのどこがいいわけ?」
「は、はぁ? なんだよ急に!」
父さんが急に大声を出したせいで、集中が切れてしまった。せっかく順調に進んでいたのに、トマトが一つ地面に落ちて潰れた。……もったいない。
「いやだってなんか変だろ、普通じゃないっていうかさ」
いいや。疲れたし、あとは手作業で。父さんのほうを振り返ったが、なんとも表現しがたい難しい顔をしていた。
「ベラはいいんだよ、あれで」
「あ、そ」
なんでちょっと照れてんだよ。きも!!! 親のそういうの興味ないから! 見せるな!!
いや、俺が悪いのか? でも冷静にあの虚言癖と結婚するとかちょっと不思議に思ったんだよ。毎回ベンツで移動してたとか、絶対嘘だろあれ。まぁたしかに、いつもニコニコしていて性格は悪くないからそれは良いんだけど。
「お前、魔法上手くなったな」
「そりゃヴィッキーよりはな~」
じゃがいもが詰まった袋を持ち上げながら、さりげなく褒めてくる。どう反応したらいいのかわからなくて、得意の嫌味が口から飛び出した。
父さんは苦々しげに唇を歪め、積荷の完了した荷台に、慣れた手つきでロープをひっかけた。ポケットから、じゃらじゃら鍵の束を取り出して、運転席に乗り込む。
「ほら、行くぞ」
「……」
無言で助手席に乗り込んだ。朝からこんなに魔法を使うなんて、毎度のことながら疲れる。シートベルトを装着するとすぐに眠気に襲われた。隣で、父さんがエンジンをかける音がする。
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