ドレスデンのドリルきゅん

つなかん

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舞城あやかの図書室

ポジティブオタク

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「おかえり! お仕事お疲れ様! お風呂にする? ご飯にする? それとも――」
「なんだよ要件だけ言え」

 ハイネは大きくため息をついて玄関から部屋に向かった。せっかく家電も存在しないお部屋のお掃除手伝ったのにそれはなくない? 疲れた顔のハイネも好き、びっぐらぶです。

 自室であろう扉の前で立ち止まって、ハイネは私をギロっと睨んだ。その青い瞳、何度もスクショしたアニメ第8話のCパートにそっくり! 2.5俳優の汚いカラコンとは訳が違うわ。

「……痛バ返して欲しくて」
「はぁ、あの凶器か」

 ハイネは面倒臭そうに肩を落としてドアノブを回した。ハイネの部屋! めちゃくちゃ気になります!
 気合を入れて足を踏み入れたのに、殺風景で面白味のない部屋だった。亡命したばかりで、私物が少ないのかもしれない。考察ブログが捗りますわ。エロ本はベッドの下かな? それとも本棚?

「もう振り回すなよ」
「うん、ありがと!」

 ハイネは戸棚の中から私の痛バを取り出して、渋々という感じで手渡した。暗所保管、助かります。流れるような動作で上着を脱いでハンガーにかける。

「お前さ、本当に俺のこと好きなの?」

 ズラっと並んだ缶バッジに、スマホに挟まった箔押しのパシャこれ。別に言い訳するつもりなんてないけど、ハイネが私を不審がっていることくらいわかった。
 今度は私がため息をつく番だ。私だってCGライブでハイネのこと拝みたかった。ここにはWiFiだってないし。

「『異世界トリップした』、って言ってもきっと信じてくれないよね」

 痛バを肩にかける。この重みは愛。オタク特有の誇大表現。ドアを閉めると部屋には静寂が訪れた。風の音も、この屋敷にひっきりなしにやってくる客の足音もしない。

「私ね、友達が一人もいないの」
「だからなんだよ」

 ハイネが眉をひそめた。『だからなんだよ』、その返事に安堵する。幸せな気持ちになる。解釈一致どころの騒ぎじゃない。そう言ってくれる人間がいるだけで、救われる魂があるんだ。

「ずっと気にしてた。私は性格が悪いから嫌われてる、かわいくてお金持ちだから嫉妬されてる」
「あ゛、何? 自慢?」

 女子高生なんて退屈そのものだ。見た目ほど輝いてなどいない。自分の周りの友達と家と、せいぜいバイト先だけが世界の全てで、自分がどう見られているかしか気にしない。
 容姿、成績、実家の太さ、全てを数値化して勝手に嫉妬する。私の人格なんて少ししか知らないくせに悪口を言う、否定する。

「でもハイネはさ、他人に嫌われても気にしないじゃん。だから好きなんだ~」

 自慢なんかじゃない。事実を述べているだけだ。勉強しなくても頭が良くて、化粧を頑張らなくても顔がかわいくて、運動神経も良くて、男にモテるるから。だから嫌われる。性格が悪いと言われる。
 でもそれでいいんだ。ハイネだってそうじゃん。私と同じだから推せる。ビジュだけは本当に天才だもん。

「変なやつ」

 なに、今ちょっと笑ったよね。顔良すぎ。本当にビジュだけはマジで完璧だと思う、キャラデザした人神だから口座番号教えて欲しい。あ~これ夢なのかな? 元の世界とか戻らなくて全然いいんですけど。
 私は他人にどう思われても気にしない。そういう人間になれたんだ。ハイネの腕に抱きついた。普段抱き枕にそうするようにぎゅっと強めに。

「ねね、今度デートしようよ!」
「お前やっぱり頭がおかしいよな」

 そうだ、このあとたしかギムナジウム編に入ってハイネはフローラにガチ恋してしまう。フローラは人気キャラすぎてアンチスレ盛り上がらなかったんだよね。
 今回は失敗するわけにはいかない、その事実を変えなくちゃ! 原作改変がトリップの醍醐味、だもんね!
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