ちっちゃくて可愛いものがお好きですか。そうですかそうですか。もう十分わかったので放してもらっていいですか。

南田 此仁

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1~10話

カプセルころりんすっとんとん【中】

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 高卒の自分がそこそこ名の知れた企業に内定して喜んでいたのもつかの間。
 いざ蓋を開けてみればそこは、シミ一つない見事な漆黒だった。

 きっと、「陸上部で鍛えた体力、持久力には自信があります」と言ったのが採用の決め手だったに違いない。

 それでも最初のうちは、社会人というのはこうも大変なものなのかと素直に信じていたし、「いつまでも学生気分でいるな!」との叱責に何度も頭を下げながら、ろくに休みも与えられないなかで懸命に働いた。

 もしやこれをブラック企業と呼ぶのでは? と気付いた頃にはもう遅い。
 洗脳じみたパワハラと慢性的な睡眠不足によって転職を考える気力さえも残ってはおらず、目の前に積み上げられた仕事をこなしているだけで一日が消えていく日々。

 ずっと親代わりだったおじいちゃんも去年鬼籍に入り、楽な暮らしをさせてあげるのだと頑張っていた目標も見失った。
 すべての感情に鈍くなり、辛いという感覚すら麻痺しはじめた頃。

 おじいちゃんの一周忌のためと懇願した有給申請書を目の前で破り捨てられたのを切っ掛けに、唐突にキレた。

 そこからは早かった。
 トイレにでも行く調子で、荷物片手にしれっとオフィスを出る。真っ直ぐ家に帰ってうるさいスマホの電源を切ると、退職届をしたためてからしっかりと睡眠をとって。
 ――――そして翌日、冒頭に至る。





 一刻も早く『会社の空気』を洗い流したくて、まだ昼間だというのにじっくりとお風呂に浸かり、お気に入りの部屋着に着替える。
 白地に淡いピンクのボーダーの入ったモコモコのパーカーと、揃いのショートパンツ。
 家の中ならば誰に遠慮することもない。

 こうなった以上、有給消化はおろか先月の給料だってちゃんと振り込まれるか怪しいものだ。けれど、あのまま人生を食い潰されることに比べれば些末なこと。
 労基への相談や転職活動など、考えなければいけないこともたくさんある。
 それでも今は、あの会社を辞めた自分を手放しで褒めてあげたかった。

 コンビニで買い込んだ食料をガサガサと和室のテーブルに広げ、手にした缶のプルタブを起こす。

 プシッ

 二缶開栓して、一つは仏壇に。もう一つは手に持って、コツンと乾杯した。

 んぐっ、んぐっ、んぐっ……

「――――っぷはぁぁぁ!」

 独特の苦味であまり美味しいとは思えないのだけれど、こういうものは雰囲気の問題なのだ。
 祝杯といえば金色のシュワシュワと、相場が決まっている。

「おじいちゃんも見てたでしょ? とうとう会社、辞めてきちゃった!」

 もう自分を縛るものは何もない。
 心身を擦り潰す環境から解放された。
 とうとう自由を手に入れたのだ!

 ――しかしそれは同時に、自分がこの世界のどこにも所属していないということをも意味していた。
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