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1~10話
迫り来るリアリティ【下】
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狭いトイレの内部。たった今出したはずの排泄物は跡形もなく、プルプルだけが変わらぬ姿でそこに……というか、心持ち微動しているような……まあ、さすがにそれは気のせいとして。
「どういうこと?? 夢の中だし、さすがに排泄物は登場しないとか……?」
それならば尿意ごとなくしてくれればいいものを……。
手を洗おうとしたけれどやっぱり水は出なかったので、もう一枚端切れを取って入念に手を拭いてから、ポケットに突っ込んでトイレを後にした。
寝泊まりした部屋に戻ると、ちゃんとカプセルがそこにあることを確認して胸を撫で下ろす。
くぅぅぅぅ
安心した途端、今度は腹の虫が騒ぎだした。
「うぅ……、やっぱり本当にお腹空いてた……」
これも気のせいだと思おうとしていたのに。
一階の厨房に何も食料がないことは、昨日の探索でわかっている。
食べたいと願ったものがポンと目の前に出現するのではとも思ったけれど、そんなことはなかった。
となれば、存在の確かな食料はただ一つ。
「フルーツ……!」
家主が摘まんでいた、フルーツの盛り合わせだ。
さすがにそんな危険を冒してまで……と、待ったをかける自分がいる。
恐ろしい人には見えなかったとはいえ、それでも家主に見つかってしまったら何をされるかわからない。あちらからすれば、私は不法侵入者なのだから。
私だって、単なる空腹感だけであれば一日くらい耐えられただろう。
しかし今、鳴き声を上げる空腹以上に喉の渇きが辛かった。
疲労感も空腹感もある夢だ。このまま水分を摂らずにいれば、脱水症状に陥る可能性だって十分にある。
そうなって動けなくなる前に、行動を起こすほうが賢明だと踏んだ。
なによりせっかくの夢、色々と楽しまなければ勿体ない!
当面は泊まった部屋を拠点にすることにして、荷物になってしまうカプセルは部屋に残したまま活動を開始する。
「……あれ? あのあとも来たのかな?」
二階の廊下から『外』を窺うと、ローテーブルの上にはフルーツの盛り合わせだけでなく、無造作に皿と果物ナイフが放置されていた。
寝ている間に家主が来ていたのだろうか。
気付かないほど熟睡していた自分に苦笑しつつ、フルーツがちゃんと残っていることに安堵する。
注意深く『部屋』を見渡して家主の不在を確認した私は、意を決して館を出た。
「うわっ、高ーい……」
ドールハウスの置かれた台の縁から下を覗けば、今の私にとってビルの四階分ほどの高さがあった。
床にはふかふかそうな絨毯が敷かれているけれど、さすがにこの高さから飛び降りるのは無理だろう。
何か突破口はないものかと下を窺いながら縁に沿って歩いていくと、横長な台の短辺側に巨大な椅子の背もたれが見えた。
椅子は台と並んで『部屋』の壁沿いに置かれ、椅子の右側面が台と接している。
台の上から椅子の座面までは、体感三メートルほどだろうか。
布張りの座面はふっくらと盛り上がってやわらかそうだし、椅子全体に施された装飾的なレリーフも手足をかけるのに丁度よさそうだ。
「うんうん。……よっし! 行きますか!」
帰路の算段をつけつつ頷くと、弾みをつけてぴょんと大冒険に繰り出した。
「どういうこと?? 夢の中だし、さすがに排泄物は登場しないとか……?」
それならば尿意ごとなくしてくれればいいものを……。
手を洗おうとしたけれどやっぱり水は出なかったので、もう一枚端切れを取って入念に手を拭いてから、ポケットに突っ込んでトイレを後にした。
寝泊まりした部屋に戻ると、ちゃんとカプセルがそこにあることを確認して胸を撫で下ろす。
くぅぅぅぅ
安心した途端、今度は腹の虫が騒ぎだした。
「うぅ……、やっぱり本当にお腹空いてた……」
これも気のせいだと思おうとしていたのに。
一階の厨房に何も食料がないことは、昨日の探索でわかっている。
食べたいと願ったものがポンと目の前に出現するのではとも思ったけれど、そんなことはなかった。
となれば、存在の確かな食料はただ一つ。
「フルーツ……!」
家主が摘まんでいた、フルーツの盛り合わせだ。
さすがにそんな危険を冒してまで……と、待ったをかける自分がいる。
恐ろしい人には見えなかったとはいえ、それでも家主に見つかってしまったら何をされるかわからない。あちらからすれば、私は不法侵入者なのだから。
私だって、単なる空腹感だけであれば一日くらい耐えられただろう。
しかし今、鳴き声を上げる空腹以上に喉の渇きが辛かった。
疲労感も空腹感もある夢だ。このまま水分を摂らずにいれば、脱水症状に陥る可能性だって十分にある。
そうなって動けなくなる前に、行動を起こすほうが賢明だと踏んだ。
なによりせっかくの夢、色々と楽しまなければ勿体ない!
当面は泊まった部屋を拠点にすることにして、荷物になってしまうカプセルは部屋に残したまま活動を開始する。
「……あれ? あのあとも来たのかな?」
二階の廊下から『外』を窺うと、ローテーブルの上にはフルーツの盛り合わせだけでなく、無造作に皿と果物ナイフが放置されていた。
寝ている間に家主が来ていたのだろうか。
気付かないほど熟睡していた自分に苦笑しつつ、フルーツがちゃんと残っていることに安堵する。
注意深く『部屋』を見渡して家主の不在を確認した私は、意を決して館を出た。
「うわっ、高ーい……」
ドールハウスの置かれた台の縁から下を覗けば、今の私にとってビルの四階分ほどの高さがあった。
床にはふかふかそうな絨毯が敷かれているけれど、さすがにこの高さから飛び降りるのは無理だろう。
何か突破口はないものかと下を窺いながら縁に沿って歩いていくと、横長な台の短辺側に巨大な椅子の背もたれが見えた。
椅子は台と並んで『部屋』の壁沿いに置かれ、椅子の右側面が台と接している。
台の上から椅子の座面までは、体感三メートルほどだろうか。
布張りの座面はふっくらと盛り上がってやわらかそうだし、椅子全体に施された装飾的なレリーフも手足をかけるのに丁度よさそうだ。
「うんうん。……よっし! 行きますか!」
帰路の算段をつけつつ頷くと、弾みをつけてぴょんと大冒険に繰り出した。
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