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1~10話
『可愛い』は正義ですか罪ですか【下】
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「他にも欲しいものがあれば言ってくれ。――ところで、どこか体調の優れないところはないか?」
「えっ? 体調ですか?」
「ああ。眩暈や息苦しさ、馬車酔いに似た症状だとか」
「いえ……別に何もありませんけど…………」
なんでそんなことを聞くのだろう。
――はっ! まさかあのプレゼントに毒が――!?
両手でバッと口を押さえると、私の心を読んだかのように家主が補足した。
「プレゼントには何も混ざっていないから安心してほしい」
真っ直ぐに向けられた真摯な瞳を見て、ほっと腕を下ろす。
「問題は『俺』のほうだ。すべての人間は大なり小なり魔力を保有しているものなのだが、俺の保有する魔力量はあまりにも膨大でな……。どんなに抑え込もうとも、周囲に干渉して魔力酔いを引き起こしてしまうんだ」
「へぇー、魔力酔い……」
魔法のある世界にも、なにかしら不便な事情はあるらしい。
理解半分にふんふんと聞いていると、家主は確信めいて言い放った。
「君からは一切の魔力を感じないうえ、こうして俺の側でも平然としている。人の理から逸脱した存在――君は妖精だな?」
「はい?」
「やはりな。あまりにも可愛すぎると思ったんだ」
突拍子もない解釈に洩れた声を勝手に肯定と受け取った家主は、すべて合点がいったとばかりに深く頷いている。
自分では単に小さくなっただけだと思っていたけれど、まあ『妖精』という設定である可能性もなきにしもあらず?
空も飛べなければ魔法も使えない、妖精…………いや、たぶん違うな。
「俺の名はクローヴェル=ヘシュラウ=フィド=ラストア」
「クロー……え?」
なんて?
ちょっともう一度言ってほしい。
いきなりのことだったので、右耳から入った文字列がほとんど左耳から零れた。
「君の名を聞いてもいいだろうか?」
「え、あっ、はい。白崎日菜です。えっと、日菜が名前です」
「っ、名前まで可愛いなど――ん゛ん゛っ。ヒナと呼んでも?」
「はい……別に構いませんけど」
先ほどからちょいちょい会話に挟まってくる『可愛い』が気になる。口癖だろうか。
「ヒナ、感謝する。俺のことも好きに呼んでくれて構わない」
そうは言われても……。
「えーと……じゃあ、『クロ』とか?」
なんだか犬の名前のようで申し訳ないけれど、唯一覚えているのがそこだけなので一択である。
「ああ、クロでいい」
そう言って家主、改めクロは、その険しい表情を僅かに緩めた。
「えっ? 体調ですか?」
「ああ。眩暈や息苦しさ、馬車酔いに似た症状だとか」
「いえ……別に何もありませんけど…………」
なんでそんなことを聞くのだろう。
――はっ! まさかあのプレゼントに毒が――!?
両手でバッと口を押さえると、私の心を読んだかのように家主が補足した。
「プレゼントには何も混ざっていないから安心してほしい」
真っ直ぐに向けられた真摯な瞳を見て、ほっと腕を下ろす。
「問題は『俺』のほうだ。すべての人間は大なり小なり魔力を保有しているものなのだが、俺の保有する魔力量はあまりにも膨大でな……。どんなに抑え込もうとも、周囲に干渉して魔力酔いを引き起こしてしまうんだ」
「へぇー、魔力酔い……」
魔法のある世界にも、なにかしら不便な事情はあるらしい。
理解半分にふんふんと聞いていると、家主は確信めいて言い放った。
「君からは一切の魔力を感じないうえ、こうして俺の側でも平然としている。人の理から逸脱した存在――君は妖精だな?」
「はい?」
「やはりな。あまりにも可愛すぎると思ったんだ」
突拍子もない解釈に洩れた声を勝手に肯定と受け取った家主は、すべて合点がいったとばかりに深く頷いている。
自分では単に小さくなっただけだと思っていたけれど、まあ『妖精』という設定である可能性もなきにしもあらず?
空も飛べなければ魔法も使えない、妖精…………いや、たぶん違うな。
「俺の名はクローヴェル=ヘシュラウ=フィド=ラストア」
「クロー……え?」
なんて?
ちょっともう一度言ってほしい。
いきなりのことだったので、右耳から入った文字列がほとんど左耳から零れた。
「君の名を聞いてもいいだろうか?」
「え、あっ、はい。白崎日菜です。えっと、日菜が名前です」
「っ、名前まで可愛いなど――ん゛ん゛っ。ヒナと呼んでも?」
「はい……別に構いませんけど」
先ほどからちょいちょい会話に挟まってくる『可愛い』が気になる。口癖だろうか。
「ヒナ、感謝する。俺のことも好きに呼んでくれて構わない」
そうは言われても……。
「えーと……じゃあ、『クロ』とか?」
なんだか犬の名前のようで申し訳ないけれど、唯一覚えているのがそこだけなので一択である。
「ああ、クロでいい」
そう言って家主、改めクロは、その険しい表情を僅かに緩めた。
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