ちっちゃくて可愛いものがお好きですか。そうですかそうですか。もう十分わかったので放してもらっていいですか。

南田 此仁

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51~最終話

差し伸べられた手《クロ視点》【下】

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 魔力の吸収を防ぐ練習と、より多く吸収する練習。
 相反するようでいて、両者は同一線上にある。

 元の大きさに戻っても魔力の吸収量に変化はないが、以前よりも感覚が掴みやすくなったという。
 ヒナいわく、動きの鈍い『口』を開閉するような感覚らしい。

 なにも意識しなければ口はぼんやりと半開きになっていて、そこから魔力が流れ込む。
 防ぎたいときは固く口を結ぶようにして、たくさん吸収したいときには大きく大きく口を開く。
 大きく開くより、固く結ぶほうが難しいのだそうだ。

「だからいつも、特訓中に口を開閉していたのか」

「えっ、口まで動いてましたか!?」

 微笑ましい事実を告げれば、恥ずかしそうに頬を染める。
 愛しさに絶えきれず、頬と唇に一つずつ口づけを落とした。

「そういえばっ! クロから吸収した魔力があれば、魔力のない私でも魔法を使えたりしますか……?」

 たった今思い付いた風を装って、その瞳に隠しきれない期待を輝かせながらヒナが問いかける。
 どうやらヒナは、元の世界には存在しないという『魔法』に強い憧れを抱いているらしいのだ。

 どんなに期待を叶えてやりたくとも、現実は変わらない。
 たった今俺から大量の魔力を吸収したばかりだというのに、ヒナからはいつも通り、微塵も魔力を感じないのだ。

「吸収された魔力はヒナの中に留まっていないようだ。おそらく、吸収と同時に中性魔素として空気中に放出しているのだろう」

 ヒナの魔力吸収は、『風穴』のようなものだと思う。
 風穴は空けた内部に溜まった空気を放出しこそすれ、穴自体に何かを蓄えることはない。
 俺の魔力そのものを放出しているわけではないので、フィルターを通すように成分の分解がなされているようではあるが。

 魔法のない世界から来たことと関係しているのではないだろうか。
 魔力干渉も受けないことから、体内に魔力を溜めおく器官自体がないと考えられる。
 推察を伝えれば、ヒナはしょんぼりと肩を落としてしまった。

「ヒナの能力は他の誰も持ち得ない貴重なものだ。魔法を使いたいときには、いつでも俺が手足となろう」

 衝動のまま抱きしめれば、抱きしめ返してくる小さな手に一層愛おしさが募る。
 俺のものだ。何ものにも傷つけさせはしない。

「箒で空が飛びたかった……」

「…………それは練習がいるな」

 ソファでもカーペットでもなく、なぜそんなに難易度の高いチョイスなのだろうか……。
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