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51~最終話
火急の報せ《視点変更あり》【上】
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――《???視点》――
時間がない。
常であれば王城関係者の弱味を握り、こちらを辿れぬよう何人もの人間を介したうえで指示を実行させるものを。
素人では確実性に欠けるものの、みだりに裏稼業の人間など引き入れて城内の治安が脅かされるよりはマシだと考えていた。
それに何もせずとも、ネラウェル第二王子が十歳の向天*を迎えた時点で第一王子は『条件非達成』として廃太子され、ネラウェル第二王子が新たな王太子となることが決定している。
『結婚相手を見つける』という条件。
あのマリエラ=クィンコットですら魔力酔いを起こしたのだ。
以降生まれた貴族令嬢のなかに彼女を超える魔力量を持つ者はおらず、元より魔力の乏しい平民などは問題外。
もう条件の達成は絶望的だと、そう高を括っていた。
――それはあまりにも突然の報せだった。
どこから現れたとも知れぬ、存在さえ不確かな相手との婚約。
私が目を光らせるなかどんな手段を使ったのか、国王との面通りまで終えているという。
今ある手駒では力不足。新たな根回しには時間が足りず、手段を選ぶ余地もない。
残された僅か二週間足らずのあいだに、完璧に成し遂げなければならないのだ。
王太子暗殺。
手始めに捨て駒を使い、婚約者を狙ってみせる。
うまく婚約者が消えれば『条件未達成』となり話は早かったのだが、案の定毒殺は失敗に終わった。
――しかし、目論見通り王太子の警戒をそちらに引き付けることには成功した。
自身の警護には関心の薄い王太子も婚約者の身は大切とみえ、自身が重用していた者を含む多くの護衛を婚約者にあてがった。
それでいい、計画は恙無く運んでいる。
平時の堅固な警備を掻い潜り城内に侵入するのは容易ではない。
しかし戴冠式ともなれば、来賓も裏方も数えきれないほど多くの人間が絶えず門をくぐる。
そこへ鼠の一、二匹紛れ込ませるのは、そう難しいことではなかった。
ごみ溜めで生きてきたような穢らわしい鼠を神聖な城内に引き入れるのは甚だ不本意ではあるが、今回ばかりは致し方ない。
計画に必要な箇所以外すべて塗り潰した城の見取り図を渡し、警備の人数、見回り時刻、王太子の護衛が一定時間以上側に侍れはしないことも伝え、万全の手筈を整えた。
あとは吉報を待つばかり。
にわかに部屋の外が騒がしくなったのを感じ、手にした来賓名簿を置くと同時に、使用人の一人が慌てた様子で駆け込んできた。
「きっ、緊急事態です! クローヴェル王太子殿下が宵の間の前室にて何者かに襲われました!」
「なにっ! 殿下は無事なのだろうな!?」
「申し訳ありません、なにぶん現場は混乱していて詳しいことまでは……」
「こうしてはおれぬ。急ぎ確認に向かう」
逸る心を抑え、努めて神妙な面持ちで渦中へと足を向けた。
時間がない。
常であれば王城関係者の弱味を握り、こちらを辿れぬよう何人もの人間を介したうえで指示を実行させるものを。
素人では確実性に欠けるものの、みだりに裏稼業の人間など引き入れて城内の治安が脅かされるよりはマシだと考えていた。
それに何もせずとも、ネラウェル第二王子が十歳の向天*を迎えた時点で第一王子は『条件非達成』として廃太子され、ネラウェル第二王子が新たな王太子となることが決定している。
『結婚相手を見つける』という条件。
あのマリエラ=クィンコットですら魔力酔いを起こしたのだ。
以降生まれた貴族令嬢のなかに彼女を超える魔力量を持つ者はおらず、元より魔力の乏しい平民などは問題外。
もう条件の達成は絶望的だと、そう高を括っていた。
――それはあまりにも突然の報せだった。
どこから現れたとも知れぬ、存在さえ不確かな相手との婚約。
私が目を光らせるなかどんな手段を使ったのか、国王との面通りまで終えているという。
今ある手駒では力不足。新たな根回しには時間が足りず、手段を選ぶ余地もない。
残された僅か二週間足らずのあいだに、完璧に成し遂げなければならないのだ。
王太子暗殺。
手始めに捨て駒を使い、婚約者を狙ってみせる。
うまく婚約者が消えれば『条件未達成』となり話は早かったのだが、案の定毒殺は失敗に終わった。
――しかし、目論見通り王太子の警戒をそちらに引き付けることには成功した。
自身の警護には関心の薄い王太子も婚約者の身は大切とみえ、自身が重用していた者を含む多くの護衛を婚約者にあてがった。
それでいい、計画は恙無く運んでいる。
平時の堅固な警備を掻い潜り城内に侵入するのは容易ではない。
しかし戴冠式ともなれば、来賓も裏方も数えきれないほど多くの人間が絶えず門をくぐる。
そこへ鼠の一、二匹紛れ込ませるのは、そう難しいことではなかった。
ごみ溜めで生きてきたような穢らわしい鼠を神聖な城内に引き入れるのは甚だ不本意ではあるが、今回ばかりは致し方ない。
計画に必要な箇所以外すべて塗り潰した城の見取り図を渡し、警備の人数、見回り時刻、王太子の護衛が一定時間以上側に侍れはしないことも伝え、万全の手筈を整えた。
あとは吉報を待つばかり。
にわかに部屋の外が騒がしくなったのを感じ、手にした来賓名簿を置くと同時に、使用人の一人が慌てた様子で駆け込んできた。
「きっ、緊急事態です! クローヴェル王太子殿下が宵の間の前室にて何者かに襲われました!」
「なにっ! 殿下は無事なのだろうな!?」
「申し訳ありません、なにぶん現場は混乱していて詳しいことまでは……」
「こうしてはおれぬ。急ぎ確認に向かう」
逸る心を抑え、努めて神妙な面持ちで渦中へと足を向けた。
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